fuzzy knot|原点を見つめ直し、わがままに作り上げたセルフタイトル作

“ザ・ブルース”に挑み、展開を多用する

──「愛と執着とシアノス」はブルース色の強いサウンドですね。

Shinji 田澤さんと飲んでいるときに、「ブルースみたいな曲もやるよ」と事前に聞いていて。せっかくなら“ザ・ブルース”と言える曲をやりたいと思ったんですよ。最初の入り口でボーカルが半音下から入ってくるので、外れていると言えば外れているんですけど。そういうアウトしたところから歌詞に入っていくカッコよさが肝になってます。この曲ってAメロからサビに行くので、あまりJ-POPっぽくない構造なんです。出だしからボーカルの力が試される曲ですね。

田澤 確かに、ボーカルに関して言えばキャラの作り方が難しかったですけど、キー感も気持ちいいですし、歌っていて楽しかったですね。歌詞に関しては、例えば何か失敗したとして、そのことを悔やんでもそうじゃなかったほうの答えって見えないじゃないですか。

──人生って二者択一を迫られる場面が多いですからね。

田澤 うん。にもかかわらず、なぜか悔やんでいる理由を噛み砕いて、なんて自分は愚かだったんだとだんだん沈んでいく。僕がそういう傾向にあるので、その経験をそのまま書きましたね。好きで好きでたまらなくて、それが愛なのか執着しているだけなのかどっちなのか? その心の境界線を引こうよ、という歌詞になっています。

──「トリックスター・シンドローム」はいろんな音楽の要素が詰まっているうえに展開も多くて、お二人のスキルが遺憾無く発揮されていますね。

Shinji この曲はミクスチャーというか、ファンクとかロックとかパンクの要素も入ってるし、一番いろんなジャンルが入っていますよね。おっしゃる通り、展開を多くしたいと思って作りました。アレンジでは空間を楽しみつつ、サビでちょっとした転調をして、そこから戻るのが面白いんですよ。転調っていろんな展開の仕方があって、ときには激しく無理矢理に近いのもあるんですけど、今回はいい感じに戻れたなと思います。

田澤 16分のリズムで言葉も詰まっているので、これも英語の歌詞にしたくなりがちなんですが、そこをあえて日本語で世界観を伝えられるように、リズム感のあるキレのいい言葉を選ぶように心がけましたね。

──「正解探して 集る 闇の中 勝ち誇る 板の間稼ぎ」のように、単語を繋ぎ合わせて意味を形成する歌詞が印象的でした。

田澤 心境としては怒っているときに作詞したので「世の中、騙し合いやな」みたいな気持ちで書きました。ただ、そう思って生きている自分もどこかではそう思われているかもしれないし、自分が騙し合いをする側に回る危険性もあるわけで。最後の「無情な輩の 手に掛かるな」というのは、自分への忠告でもありましたね。

太陽って悲しくないですか?

──6曲目の「Sunny Days」は、今作の中でも一番ポップ色が強いのかなって。

Shinji 僕はUKロックも聴くので、そういうちょっと気だるさの中にも希望のある曲調を作りたいなと思って作曲をしました。ポップ色が強いと言っていただきましたけど、個人的には大人っぽい雰囲気になったかなと思いますね。

──「トリックスター・シンドローム」とは対照的に、温かみのある歌詞も魅力的でした。

田澤 この曲に関しては歌詞の「オレンジ」がキーになっています。「Sunny Days」は「晴れの日」という意味なんですが、この「晴れ」は天気のことでもあるし、心が晴れやかという意味でもある。なんかね、すごく明るくがんばっている人、前向きな人、強い人っていうのは実は寂しいんじゃないのか?と思ったことがあって。例えば、太陽って悲しくないですか?

──え? どうしてですか?

田澤 常に、みんなへ命とかパワーを与えている存在じゃないですか。でも、熱すぎるから誰も近寄れないんですよ。オレンジという色には、癒しの効果もあるんですけど、それがあるばっかりにヘルプを求められる色でもあって。レスキュー隊がオレンジの制服を着ているでしょ? 「輝かしく元気にがんばっているから、あの人は大丈夫だ」と思われているその人が、一番寂しいんじゃないかって。そこに気付いた自分がいつまでもその人の側にいて支えたい、というニュアンスで作詞しました。

ジャンルは“俺”

──「Joker & Joker」はどのようにできたのでしょうか?

Shinji この曲は一番サクサク作れたかもしれないですね。ワンコーラスを作るのに15分くらいでできた気がします。イメージがポンと降ってきて、バーッと曲を完成させられることが稀にあるんですよ。

──ジャンルはスカになるんですかね?

Shinji(G)

Shinji ジャンルは……俺ですね。

田澤 アハハハ! 今のカッコいいなあ!

Shinji スカでもあるしファンクの要素も含みつつ、メロディはわりと和風なので。

田澤 それも含めて……。

Shinji田澤 俺!(笑)

Shinji これでメロディラインがもうちょっと洋楽的だったら、ほかにもやってる人がいそうなんですけど。和風のメロディを加えることで、自分たちらしさが出ている感じがしますね。

田澤 分解しようとすると、そういう複雑さがわかるね。パッと聴いたらスカとファンクっぽい感じに捉えがちやけど、落とし込もうとすればするほど「俺」という表現がしっくりくる。

──「電光石火のフォーリンラヴ」という歌い出しが、すごく心躍りましたね。どこからワードが浮かんでくるんだろうと思いますよ。

Shinji これって仮歌詞のときからあった?

田澤 「電光石火のフォーリンラヴ」はないな。歌詞はね、「騙し合いとかこの世は綺麗事でしょ」という考えから、誰もが持っている裏の顔の「Joker」と切り札という意味の「Joker」という意味合いを込めて「JokerとJokerの戦い」を表しているんです。戦いを描いていった中で、それがどう始まったのかがないなと思った。そこで出てきたのが「電光石火のフォーリンラヴ」。この1文だけで一目惚れしたんやなってわかるじゃないですか。思い浮かんだときは、やった感がありましたね。

──この曲のMVは、学生の方と一緒に制作されたんですよね。

田澤 そうです。白ホリで2人が演奏している様子を前面に見せたい、という軸が最初に決まっていて。じゃあ、歌の内容とどうリンクさせるのかと考えた結果、ピエロを出して1本の作品にまとめましたね。

──意図しないことだったら失礼になってしまうんですけど、白ホリに2人という画がCOMPLEXの「BE MY BABY」と重なりまして。

Shinji よくおわかりで(笑)。その影響はかなり強くて、白ホリでカット割がほぼないMVは昔からの夢でもあったんですよ。何なら白ホリが似合う曲はなんだろう、と考えて「Joker & Joker」をMVに選んだのはありますね。

田澤 やっぱり2人白ホリは「BE MY BABY」があるから、あえて避けると思うんですよ。ただ、俺らは避けがちなところをあえて行くっていう(笑)。だから今の指摘はやっぱりね、という思いです。

Shinji むしろ、いじってもらえたほうがいいよね。

田澤 そうやね。