fuzzy knot|原点を見つめ直し、わがままに作り上げたセルフタイトル作

煩悩でもいいから前を向こう

──続いて「#109」はアルバムの中でも、特にハードな雰囲気の楽曲ですね。

Shinji サビの構想が最初に浮かんで、AメロBメロはあとから付けたような感じですね。そこまですごい転調をしている感じではないんですけど、サビでガーッとメロディアスなロックになる。とにかくやりたいことをやりました。

──サビでShinjiさんの激しい演奏が始まったとき、テンションがグワッと上がりました。

Shinji こういうハードロックなギターって、今どきなかなか弾けないんですよ。それを堂々とやりたかった。あと、サビの入り口のキーの感じは「このへんで田澤さんの突き抜けるようなボーカルが入ってくるといいな」とイメージしながら作りました。あれが2音下で入ってくるとパンチ力が全然違うと思うので、キーの高さはすごく考えましたね。

田澤 歌詞については、コロナによって自分たちが思うように表現できない状況について書きました。なので2番の「金字塔 解体 ハイ、ご破算です。」は「コレまで築き上げた金字塔がバラバラになってしまった」ということを指しているんです。とはいえ、そんなことを言っても、何か新しい心構えを自分たちで見つけていって動き出さなきゃしょうがねえじゃんっていう。現状に打ちひしがれるだけじゃなくて、ちゃんと前を向いている歌詞になっていますね。

──タイトルの「109」というのは?

田澤 煩悩の数である108の次を表しています。煩悩って諸説ありますけど、いわゆる雑念とかよくないことだけが煩悩じゃないんですよ。何かをやりたい気持ちが煩悩というなら、それは前向きな気持ちじゃないですか。だから「109個目の煩悩」となってもいいから、自分が率先して心を動かして何かを作っていこう、というメッセージを込めています。

自分の根本を呼び戻してもらえた

──アルバムのラストを飾るのは、今作唯一のバラード曲「キミに降る雨」です。

Shinji  fuzzy knotの音楽は90年代が1つのキーワードになっていますけど、これこそ90年代のテイストが一番入ってますね。

──前回取材したときに、田澤さんが「90年代を意識した歌詞が1曲ある」と話していましたけど、それが「キミに降る雨」なのかなと思いまして。

田澤 あ! うんうん、これがそうですよ。言葉感とか語呂感も90年代のニュアンスを踏まえました。

──90年代特有の歌詞って何が特徴なんでしょう?

田澤 あんまり言いすぎてない感じがしてるんですよね。やっぱり昔の曲って、頭から「どういう歌詞なんだろう」と探りながら楽曲を聴くよりも、結局聴いてどうなのかだと思っていて。僕なんかは、中学時代にLUNA SEAの「Déjàvu」を聴いて「今日もがんばろう!」と思っていましたけど、歌詞はそんなこと言ってないじゃないですか(笑)。音楽って本来はそういうものでよくて。あまり言いすぎず、聞き手のイメージを連れていきやすいところで留めると言いますか。それって、高い技術が必要だと思うんですよ。思っていることを言うほうが簡単だと思うので。

──余韻の美しさですよね。

田澤 そうそう! 特に、バラードは余韻が如実に求められる気がするんです。例えばT-BOLANの「Bye For Now」って「素敵な別れさ」から始まりますよね? 別れ自体は素敵じゃないはずなのに、それを「素敵な別れ」と言えるのはどういうことやろうって。つまり聴き手に考える余地を与えるのが、90年代の歌詞の特徴やと思います。

Shinji 僕が気に入ってるポイントはメロディの佳境に、ちゃんとタイトルが乗っているところ。ここに、まさしく90年代の輝きを感じて。

fuzzy knot

田澤 歌詞を送ったときにすぐLINEをくれたもんね。

Shinji ウチの母ちゃん並みにグッドマークを押しましたね(笑)。

田澤 ハハハ、それは僕も意識して作詞したからうれしかった。

──改めて、アルバムが完成したお気持ちはいかがですか?

田澤 自分の根本を呼び戻してもらえたというか。作詞にしても歌にしても、自分がどういうものが好きで、それに対してどういう練習をしてきて、何が欲しかったのかをいろいろと思い出せた気がします。だから新しい価値観をもらったと言うよりは、「fuzzy knot」を作ったことで自分の原点に帰れたかもしれないです。

Shinji 作曲って、今っぽいものを取り入れるとか、世間の流行を意識しつつ作業するところがあるんですけど、今回はそこを無視して作れました。にも関わらず、ウチの若いマネージャーの子が「すごくいい作品です」と言ってくれたことが僕はうれしくて。若い子からしたら90年代のニュアンスなんてよくわからないと思うんですけど、わがままに作らせてもらった作品がちゃんと若い世代の子に伝わったことが大きな手応えでしたね。年齢問わず、幅広い方に気に入ってもらえる作品になったと思います。

fuzzy knot初ライブ
  • 2021年11月14日(日)東京都 Zepp Tokyo ※チケット等の詳細は、後日発表。