曲を作ることによって、自分の過去の時間を成仏させていく
──「北極星」以外にも「優しい星」「go my way」「紙飛行機」と、過去の自分にとって大事だった人たちへの思いや眼差し、距離感を描いた曲があって、そうしたことが今の自分を形作っている、というテーマが重要なものとして浮かび上がってくる気がします。
なるほど。むしろそれを書くことによって「大事なのは今だよね」と言いたいんだと思います。
──そう。そこが本作のポイントかと。
ソロになって一番思うのはそこなんです。人間って止まっていると過去が襲ってくるって話を聞いたことがあって。人間のカラダって、何かバランスが崩れるともとへ戻そうとするホメオスタシスっていうものがあるんです。塩分を取り過ぎたら汗で出すとか、疲れて体内が酸性になったらアルカリ性に戻すとか、もとの状態に戻そうとする能力が人間にあるんだけど、人間の心にとってのホメオスタシスは“過去”だと聞いたんです。人間って前に歩き続けない限り、どうしても後ろに引っ張られてしまうんですよ。今回の作品は、そういうものを断ち切りながら、今という地平を歩いていく、という曲が多い気がします。過去の思い出は美しいものだけど、それに囚われていては今を生きることができない。曲を作ることによって、自分の過去の時間を成仏させていくって言うかね。
──なるほど。
僕がソロを始めて、スタッフとかレーベルとかいろんなものが変わって、大変なことや苦労はいっぱいあって、周りの人を自分の思い通りに変えようとか、自分の身の回りの状況を変えようってトライした時期があったんですけど、絶対にうまくいかなかったんです。それで結局、変わるべきなのは周りとか他人じゃなくて、僕自身なんだって思えたんです。僕の中の弱い部分を見つめて、自分はどうなりたいのか、何になっていくべきなのか向き合って、自分が変わっていく方向に舵を切らないといけない。そうするといろんな意味で考え方が少しずつ変わってきて。考え方が変わると言葉が変わるし行動も変わってくる。人との付き合い方も変わってくるんです。人との付き合い方が変わると状況も変わってくる。それに気付いたときに、自分の中に新たな自由の感覚、囚われない感覚のようなものが生まれてきたんですね。「マスターキー」って曲がそうなんだけど、次に進むための扉の鍵穴に合わせるように、自分を変えていけるんだ、という感覚。自分自身はこういうものだって固定されたものじゃなく、自由にトランスフォームできるんだ、自分が変わることでその扉を開けて前に進んでいけるんだ、という感覚を得ることができたんですよ。
──自分の過去とか周りの状況とか、いろんなものに囚われていた自分から解放されて、いろんなものをフラットな、自然な視線で見ることができるようになった、という気がします。肩の力を抜いて、藤巻さんらしくできてるなと。
うれしいですね。さっきも言った通り、今回は理屈っぽい因果論で曲ができてないので。大学生の頃の最初に曲を作り始めた時期に理屈が先行してたかって言うと、そんなものはなかったわけですよ。これこれこういう理由でこういう曲ができました、みたいな理屈は結局あと付けに過ぎないわけでね。ただそこあるものを素材として組み合わせていって曲にしていく、みたいなシンプルな境地を、3枚目にしてようやく実現できたかなと。無自覚なところからすごいエモーションが湧いてきた。そういうことってなかなかないし、そのエネルギーみたいなものをみんなに感じてもらいたいですね。
前田啓介と神宮司治が言ってくれた「弾くよ」「叩くよ」
──今回は小林武史さんも1曲プロデュースしていますね。
小林さんは昔から、僕が狭いところに行こうとすると、アドバイスしてくれる存在なんです。今回このアルバムに向かう直前ぐらいの時期に「お前はあまり理屈っぽくならないほうがいいよ。お前はさ、関東近郊の山のあるところで育って、でもRadioheadが好きでさ。ああいうよくわかんない感じがいいんだよ。あまり“洗練”に向かうなよ」と言われました。それを聞いて小林さんにプロデュースしてほしいと思ったのかもしれない。今でも師匠みたいな気持ちもあるんで。
──そしてこれは聞かないわけにいかないんですが、今作には前田さんと神宮司さんが何曲か参加していて驚かされました。
驚きますよねえ(笑)。あのね、「北極星」って曲を作ったときに、まず2人にデモを送ったんですよ。けっこう前のですけど。「今オレはこういう気持ちでいるんだよ」って。こういうふうに送れるようになるまでにずいぶん時間がかかった。治は治でサポートドラマーとして揉まれてるし、啓介は啓介で農業というフィールドで真剣にがんばっている。活動休止から5年が経って、それぞれ思うことはあったと思うんですけど、今年になってからライブを観に来てくれるようになったんです。「あれこれあと付けの理屈を付けて作品を作ってきたけど、3枚目のアルバムにして、生きていることがそのままアルバムになるような作品ができそうなんだ」とかそういう話をしたら、2人が「弾くよ」「叩くよ」って言ってくれたんです。お願いしたわけではないですけど、でもきっと何かを感じてくれたんでしょうね。
──なるほど。
それで、2人にアルバムの中からいくつかの曲に参加してもらったんです。啓介はたぶん5年ぐらいベースを持ってなかった男とは思えないぐらいうまくて(笑)。治は治で、あいつの持ってる明るさとか元気さとかが音で爆発してて。曲に新しいものを宿してくれました。
──「北極星」はレミオロメンの駆け出しの時期に思いを馳せて作った曲だし、そういう曲のデモを聴かされて、2人共藤巻さんの心境を知って思うところがあったのでは?
まあ、2人に対してあの曲がどう作用したかはわからないですけど、自分にそういう思いがあるんだって伝えられたのはよかったです。
──ただ2人が同時に参加した曲はないので、レミオロメンが復活したとはまだ言えないと思うんですが、今後もう一度レミオロメンをやる可能性はあるんでしょうか?
今は何も決まっていないし変に期待させるようなことも言いたくないけど、今まで応援してくれた人たちに対して、ネガティブな未来は見せたくないし、何かしら恩を返せるようにしていきたいとは思ってます。どういう形かはわからないけど、何か感謝を伝えられるようなことを……このアルバムがそうかもしれないし、ツアーに出ることがそうかもしれないけど、舵をいい方向に切れてるとは思います。
──ちょっと前だったらできなかったけど、今ならできるってことはありますよね。
ありますよね。時間の中で人は変わっていくし。優しくなったり思いやりを身に付けたり……。
──前に比べて優しくなりました?
どうでしょう。優しくなったかな?(笑) 少なくとも固定観念でお互いを縛り合うとか、狭い方に誰かを追い詰めるとか、そういう生き方をしたいとは思わない。なぜならそういうことで僕も苦しんだから。優しくする、愛するってことは人にスペースを与えることだと思うんです。
──藤巻さん自身がそうして自分を追い詰めて苦しんだ経験があるってことですね。
そうそうそう。みんなそういう“線”の中にがんじがらめで生きてる。音楽や芸術の役目って、そういう“線”を消してスペースを作ってあげることだと思うんです。僕自身そういうつもりで音楽を作ってきたので。
- 藤巻亮太「北極星」
- 2017年9月20日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
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初回限定盤 [CD]
3564円 / VICL-64845 -
通常盤 [CD]
3240円 / VICL-64846
- 収録曲
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- 優しい星
- Blue Jet
- Have a nice day
- another story
- マスターキー
- 波音
- go my way
- 紙飛行機
- 北極星
- 愛を
- Life is Wonderful
- LIFE(※初回限定盤ボーナストラック)
- 3月9日(※初回限定盤ボーナストラック)
- 藤巻亮太 Polestar Tour 2017
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- 2017年10月22日(日)
大阪府 Zepp Osaka Bayside - 2017年10月23日(月)
愛知県 THE BOTTOM LINE - 2017年10月27日(金)
宮城県 darwin - 2017年10月28日(土)
新潟県 新潟市秋葉区文化会館 - 2017年11月5日(日)
広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA - 2017年11月6日(月)
鹿児島県 姶良市文化会館 加音ホール - 2017年11月8日(水)
福岡県 イムズホール - 2017年11月12日(日)
山梨県 甲斐市双葉ふれあい文化館 - 2017年11月18日(土)
東京都 昭和女子大学人見記念講堂
- 2017年10月22日(日)
- 藤巻亮太(フジマキリョウタ)
- 2000年12月に前田啓介(B)、神宮司治(Dr)とともにレミオロメンを結成し、ギター&ボーカルを担当。「3月9日」「南風」「粉雪」など数々のヒット曲を発表する。2012年2月にレミオロメンの活動休止を発表し、同月に初のソロシングル「光をあつめて」をリリース。10月には1stアルバム「オオカミ青年」をリリースした。以降もソロ活動を活発に展開し、2016年2月に初の写真集「Sightlines」を、3月に2作目となるオリジナルフルアルバム「日日是好日」を発表している。2017年9月に3rdアルバム「北極星」をリリース。