音楽ナタリー PowerPush - 藤巻亮太

ソロとして新たな方向性を示す“旅”の行方

前に進むための節目

──「旅立ち」というキーワードのほかに、本作の歌詞には「別れ」というキーワードも出てきます。

藤巻亮太

別れや、何かが終わることで違うことが始められるっていうことに切り替えられますよね。例えばレミオロメンが活動休止した瞬間にある意味で一度バンドは終わったということで、だからこうやってソロを始められるっていう。そんな状況を今回「別れ」という言葉で書けたっていうのが気持ち的に大きかったです。竹でいう節目みたいなものっていうんですかね。節目がないと次には進めないような気がしていて。そういった別れも歌に正直に出していこうって思ったんです。

──新たな出会いの裏には「別れ」もあったと。

むしろ別れのほうが重要な気もしています。いっぱいになったものを一旦カラにすることで、自分に新しいものを注げるというか。そういう感覚がすごく大事なように感じましたね。やっぱり自分自身が飽きることっていうのが一番怖いなって思うんです。チャレンジをしないと楽曲、音楽って輝かないと思うし。新しい場所に向かってジャンプしていくことを怖がらないっていう気持ちは音楽的にすごく大切ではありますね。

1つのテーマのもとにパッケージした作品

──各収録曲は同時期に作られたものでしょうか。

バラバラですね。一番古いものは「指先」で、これは「オオカミ青年」の頃に作っていたものの「違うテーマの内容だな」って思ってアルバムに収録しなかった曲です。「春の嵐」はアルバム発表から2年間迷っていた時期に生まれた曲で、それから内から外に舵を切りたいと思う気持ちが「名もなき道」っていう曲になって。あとは「ヴァンフォーレ甲府の応援歌を」というオファーをいただいて形にしたナンバー「ゆらせ」とか。時期もそうですし、作ったきっかけもそれぞれ違うんです。

──ではそれらの楽曲をどうやって「旅立ちの日」という1枚にしたのでしょうか。

藤巻亮太

表題曲「旅立ちの日」を書いたあとで、自分が作ってきた曲の中で新たに進んでいきたいっていう思い、同じテーマが散りばめられてる曲ってのがこの2年間でいくつかあるなと感じて。「旅立ち」というテーマの楽曲を選んでパッケージしたミニアルバムにしようって思ったんです。

──テーマの統一感もそうですが、全体的にバイタリティのあるナンバーが詰まった作品だという印象を受けました。

そうなんです。「オオカミ青年」のような「レミオロメンとは違うものを出したい」ではなくて、人とつながっていく喜び、自分の考えを奏でる喜び、作る喜びを出したいというのが楽曲にも出たなあと。それにアコースティックライブも大きかったですね。少ない音で、どうやって音を豊かにしていくのかって考えて作っていくことに意識を向けた2年だと思うし、それが楽曲の内容やレコーディングの取り組み方にもつながっていったんで。どんなベクトルで音楽を作っていくのかと考えることはすごく大事なことでしたね。

一緒に作品を作る喜び

──レコーディングはどのように行われたのでしょうか。

まず自分で音を打ち込んで、ほかのミュージシャンに生音で録ってもらいました。今作は「自分の輪郭を知ろう」っていうのがテーマにあって、アレンジも初めて全部自分でやっていて。

──その試みはスムーズにいきましたか?

藤巻亮太

レコーディング自体はスムーズでした。「旅立ちの日」というテーマの歌詞を考えたり、テーマにもとづいて作品をまとめることには時間がかかりましたし、アレンジに関しては生のドラムを入れたときにもともと入れていた音に対して「これいらないのかもな」っていう取捨選択をしたり、もっといい音にしたいと思って変えたりはしました。でもプリプロ段階である程度作りこんだので、その設計図のまま進めることができましたね。

──制作陣には「オオカミ青年」「ing」でそれぞれ1曲ずつ参加していた河野圭さんが今作では3曲参加していますね。

ええ。河野さんは素晴らしいプロデューサーでありプレイヤーで、アコースティックツアーも一緒にやってくれていて。彼の影響はすごく大きいです。それに生のピアノを入れるときに「河野さん、どんなふうに音を入れてくれるかなあ」っていうのが楽しみでもあって。レコーディングに対するノウハウもすごく深いし、いろいろ勉強になることもあって密にやらせてもらいました。

──あとは表題曲で伊藤大地さんがドラムを叩いているほか、玉田豊夢さん、佐野康夫さん、そして最終曲ではあらきゆうこさんとドラマーが複数名参加していますね。

参加してくれた人たちはみんな大好きで、タイミングが合って一緒にやれました。僕が打ち込んできたものが彼らの手によって想像を超えた音に生まれ変わったのを聴きながら「素晴らしいものを宿してくれたなあ」と思いました。プレイヤーの音で曲の奥行きみたいなのがだいぶ変わってくるというか、厚みが増すんです。

──参加プレイヤーといい関係を築いて制作された作品になったんですね。

本当にありがたいと思っています。だってこんなにほかのミュージシャンといろいろ関わるのはソロになってからですよ。バンドだと知り合うことがなかったんですけど、今こうやって素晴らしいミュージシャンの方々と一緒に作れるという喜びを得られました。

──お話を伺っていると、藤巻さんが今アーティストとしてすごく充実した環境にいるように感じます。

そうですね。今作は何が正解かはわからないなりに自分が音楽的に前に進む意思を示し、実際にチャレンジしたものだと思うので、このベクトルを向いて音楽を作れたことはすごく大事だと思います。

藤巻亮太 TOUR 2015「旅立ちの日」
2015年5月14日(木)愛知県 DIAMOND HALL
2015年5月15日(金)東京都 中野サンプラザホール
2015年5月28日(木)大阪府 なんばHatch
藤巻亮太(フジマキリョウタ)

藤巻亮太

2000年12月に前田啓介(B)、神宮司治(Dr)とともにレミオロメンを結成し、ギター&ボーカルを担当。「3月9日」「南風」「粉雪」などの楽曲群が多くのファンからの支持を集める。2012年2月にレミオロメンの活動休止を発表し、初のソロシングル「光をあつめて」をリリース。同年8月に2ndシングル「月食 / Beautiful day」、10月に1stソロアルバム「オオカミ青年」を発表し、2013年1月から初のワンマン全国ツアーを開催した。2014年12月に3rdシングル「ing」をリリース。2015年5月にはミニアルバム「旅立ちの日」を発表し、東名阪でバンド編成でのリリースツアーを展開する。