fripSide「とある科学の超電磁砲」主題歌集に刻まれた、挑戦の歴史と新たな可能性 (2/2)

「もう、やっちゃえ!」と思い切って歌ったテイク

──新規制作された「way to answer -version2025-」と「eternal reality -version2025-」について、先ほど八木沼さんから「特に難しい」というお話がありましたが、具体的には?

八木沼 まず「eternal reality」(2013年8月発売)は小室哲哉さんとの共作で、サビを小室さんが作っているんです。しかもそのサビのメロディが、たった5音で構成されている。要は、鍵盤奏者が手を動かさずに5本の指で弾けるぐらいシンプルなメロディなので、普通に歌うとすごく平坦になってしまう。逆に言うと、ある程度表現を詰め込んだうえで歌ってもらわないとダメな曲なんですよ。一方の「way to answer」(2011年12月発売)は、第2期fripSideがライブを重ねる中で南條さんの歌唱表現がどんどん進化していった曲で。それに引けを取らない歌を、2人に歌ってもらう必要があった。そうした理由で、最後の最後までカバーするのを躊躇した2曲ではありますが、2人ともよく歌ってくれたなというのが今の正直な感想です。

上杉 「この2曲もいつかは歌うんだろうな」と思いながら3年過ごしてきたんですけど、3年経った今じゃなければsatさんがOKを出してくれるテイクは録れなかったかもしれません。特に「way to answer」は、いちファンとして第2期fripSideを聴いていた当時から「キーが高いな!」と思っていたので、今回、無事にレコーディングを終えられて、正直ホッとしたようなところもありますね。

──「eternal reality」はサビをどう表現するかがキモだというお話でしたが、そちらに関しては?

上杉 「eternal reality」に限ったことではないんですが、私はどの曲も人間らしく、感情を大切にして歌うように心がけていて。「eternal reality」も同様に、メロディがシンプルな分、自分たちのボーカルで最大限、抑揚をつけつつ開放的な気持ちを乗せるようにして歌いました。

「とある科学の超音楽祭」で歌う上杉真央。

「とある科学の超音楽祭」で歌う上杉真央。

阿部 私が「eternal reality」のサビをレコーディングしていたとき、satさんから「まだ足りない」と言われた記憶があって。自分の中では、サビはダイナミックに表現したいと思っていたし、それを実践していたつもりだったんですけど……。

八木沼 「もっとやっていいよ」って言ったもんね。

阿部 そうなんです。だから「もう、やっちゃえ!」と思い切って歌ったテイクがDISC 2に入っています。「way to answer」は、ライブで南條さんが歌っているのを現場でも映像でも観ていて、私も「キーが高いな!」と、本当に歌うのが難しい曲だと思っていたんですよ。ただ、そうやって南條さんを観ながら、憧れを抱いていた1曲でもあったので、このタイミングで正式な音源としてリリースできて本当によかったです。

ツインボーカルならではの魅力で「超電磁砲」の世界観を提示する

──DISC 2には新曲「PHASE NEXT」も収録されています。こちらは遊戯機「eとある科学の超電磁砲 PHASE NEXT」のテーマソングですね。

八木沼 今回、第3期fripSideとして「超電磁砲」の関連楽曲を作ってほしいというオファーをいただいた際、僕はツインボーカルならではの魅力でもって、つまり新しい形で「超電磁砲」の世界観を提示するいいチャンスだと思いまして。それが制作の大きなモチベーションになりましたね。当然、上杉真央、阿部寿世という2人のボーカリストにアジャストした楽曲を、ようやく「超電磁砲」を題材に作れるという感慨もありましたし、これまで「超電磁砲」楽曲を2人でカバーしてきた経験も存分に生かしながら、第3期fripSideの「超電磁砲」をこの1曲で表現しました。

上杉 今までの「超電磁砲」の楽曲は、南條さんが歌うことを前提に作られているんですよね。それに対して「PHASE NEXT」は曲を聴いた瞬間、ツインボーカルで、つまり私たち2人で歌うために作られていることが伝わってきて。今まで以上に自分たちの強みを生かせるんじゃないかとワクワクしましたし、実際、レコーディングでは個々の歌声の特徴だったりノリだったりもうまく曲に乗せられたと思っています。

阿部 第3期fripSideとして「超電磁砲」のオリジナル楽曲を歌えると聞いたときからすごく楽しみにしていましたし、その曲は私たちにとって本当に大切な1曲になると確信していて。いざ「PHASE NEXT」を渡されたとき、自然と体が動き出してしまうぐらいノリノリの、ライブでもきっと盛り上がる楽曲だと思ったので、私もレコーディングはノリノリで臨みました。

「とある科学の超音楽祭」で歌う阿部寿世。

「とある科学の超音楽祭」で歌う阿部寿世。

──歌詞に関して、節々に「超電磁砲」らしいワードもありつつ、第3期fripSideの決意表明のようにも読めるのかなと、僕は思ったのですが。

八木沼 オファーをくださった遊戯機メーカーの皆さんも作品愛が非常に強いといいますか、歌詞の指定もアニメばりに細かくて。そこに情熱を感じて、「超電磁砲」の原作もアニメ第3期の放送が終わった時点から進んでいますので、それをすべてチェックしたうえでネタバレにならないように配慮しつつ、100%作品に向けて歌詞を書いたつもりではいるんです。ただ、そこに僕ら第3期fripSideの現状ですとか、リスナーに届けたい気持ちも少し乗っかってしまったかもしれないですね。

──それは、決して悪いことではないのでは?

八木沼 もちろん「超電磁砲」に限らず、タイアップ曲であっても一定の条件さえ満たせば自由に表現できる余地はあるし、そこに、その時々のfripSideあるいは僕自身の気持ちを織り交ぜることは今までもしてはいて。今回はそれを意図せずやってしまった感があるんですが、現体制を応援してくれているファンの皆さんが喜んでくれる1曲になったことは違いないと言い切れます。

──都合のいいことを言いますが、多様な受け取り方ができる歌詞のほうが面白いと思います。

八木沼 うん。聴いてくださる皆さんはそれぞれ異なる状況、環境、境遇にありますからね。どんな形であれ、その人の生活の一部を彩るような楽曲になってほしいと願いながら音楽活動をしているので、そう言っていただけるとありがたいです。

「超電磁砲」という作品に負けないパフォーマンスを観てほしい

──先ほど「PHASE NEXT」のレコーディングに触れられましたが、もう少し詳しく伺ってもいいですか?

上杉 歌詞の話に絡めると、「PHASE NEXT」には「君」という言葉が出てくるんですけど、もしかしたら、satさんはそこにリスナーの皆さんを重ねているんじゃないかと思ったんです。もちろん私にもそういう気持ちはあるんですが、やはりツインボーカルということもあって、一番近くにいる相方を「君」に置き換えてもいて。私はレコーディングのとき、satさんが歌詞に込めた意図やメッセージを汲みつつ、自分の身近なところに引き付けるというか、言ってしまえば自分の都合のいいように捉え直して感情を乗せやすくすることがけっこうあって。「PHASE NEXT」は、「君」がもし寿世だったら……と思いながら歌っていました。

──テンポなど、技術的な部分で苦戦はしませんでした?

上杉 確かにテンポはかなり速いんですけど、たぶんfripSideのボーカルを3年務めてきた中で、このテンポにも適応できるようになったんじゃないかと思います。むしろ、「PHASE NEXT」はツインボーカルにアジャストされた楽曲なので、技術的な面で難関はほとんどなくて、すごく自分の声が乗せやすかったです。

阿部 私も特に苦戦した覚えはないんですけど、サビの最後の音がちょっと高いので、そこだけ何回か録り直したのかな? それ以外は……satさん、覚えていますか?

八木沼 苦戦してはいないと思う。ただ、「裏声に逃げるな」とは言った。「地声で出るんだから、出しちゃえ」と。

阿部 そうでした。真央ちゃんも言っていたように、今までの「超電磁砲」楽曲とは違って「PHASE NEXT」は2人用なので歌っていて気持ちがいいし、すごくしっくりくる感覚がありました。

──「PHASE NEXT」は祝祭的な、かつてないほどアッパーなサウンドでありながら、「超電磁砲」らしさ、fripSideらしさもちゃんと感じられます。

八木沼 時代の波なのか、最近、特に10年以上前に作った「超電磁砲」楽曲をライブでやっていると「もうちょっとBPMを上げてもよかったな」と感じる瞬間があって。ただ、やりすぎるとfripSideらしさと戦ってしまうし、そのうえツインボーカルで「超電磁砲」の世界観を描くとなったときに、このBPMにたどり着いたといいますか。僕も作っていて非常に楽しかったですし、気持ちいい曲ができたと思っています。

「とある科学の超音楽祭」で演奏する八木沼悟志。

「とある科学の超音楽祭」で演奏する八木沼悟志。

──アルバムには、2024年11月4日(※11月4日は「only my railgun」の発売日)に開催された「とある科学の超音楽祭」の模様を収録したBlu-rayも付いてきます。ライブあり、アニメ「超電磁砲」のメインキャストによる朗読劇ありと、にぎやかなイベントでしたね。

八木沼 「とある科学の超音楽祭」は、本来であれば南條さんと僕の第2期fripSideが出るべきイベントだったとは思うんです。そこに、主催の皆さんから「第3期fripSideも出演してほしい」「『超電磁砲』楽曲をカバーしてほしい」という温かいお声がけをいただきまして。その期待に応えるように、上杉と阿部の2人が、カバーとはいえ「超電磁砲」という作品に負けないパフォーマンスを披露しているので、ぜひ観てほしいですね。

上杉 このイベントは「とある科学の超電磁砲」のアニメ化15周年を記念したもので、私と寿世は直接の関わりはなかったにもかかわらず、お客さんも温かく迎えてくださって。もちろん私たちのパフォーマンスもご覧になっていただきたいんですが、イベント自体の雰囲気がちょっと言葉にできないぐらい素晴らしいものだったので、それを映像を通して感じていただけたらうれしいです。個人的には、佐藤利奈(御坂美琴役)さん、新井里美(白井黒子役)さん、豊崎愛生(初春飾利役)さん、伊藤かな恵(佐天涙子役)さんによる生アフレコを拝見してめちゃくちゃテンションが上がりまして。それを改めて観られるのが自分でも楽しみです。

阿部 第3期fripSideとして15周年イベントに呼んでいただいて、光栄に思うと同時に、プレッシャーを感じてもいたんです。でも、南條さんと一緒に「only my railgun -15th Anniversary version-」を歌ったら、不思議と緊張がほぐれていって。南條さんと歌えたこと自体もすごくうれしかったし、私たちも現体制のfripSideとしての誇りを持って一生懸命、楽しく歌ったので、皆さんも楽しんでいただけたらうれしいです。

「とある科学の超音楽祭」の様子。

「とある科学の超音楽祭」の様子。

プロフィール

fripSide(フリップサイド)

2002年にコンポーザー&プロデューサーのsatこと八木沼悟志によって始動したユニット。2009年にテレビアニメ「とある科学の超電磁砲」のオープニングテーマ「only my railgun」をリリースし、アニソンシーンにその名を大きく知らしめる。以降アニメやゲームの楽曲を多数手がけ、2015年には初のアリーナ公演を行った。2022年4月に第2期ボーカリストの南條愛乃が卒業。新たなボーカリストとして上杉真央と阿部寿世が加入し、第3期がスタートした。2022年10月から2025年2月にかけて47都道府県ツアーを開催。また2023年10月にリリースしたシングル「Red Liberation」は海外のファンからの賞賛も受け、ミュージックビデオの再生回数は450万回を超えている。2025年9月に「とある科学の超電磁砲」の主題歌集「とある科学の超音楽集 -A Certain Scientific Railgun:Music Chronicles-」をリリースした。