ディズニーが初めて国内で独自に製作を手がけたオリジナル短編テレビアニメーション「ファイアボール」の放送10周年を記念したCD+BD作品「ファイアボール10周年記念盤『ファイアボール オーディオ・オモシロニクス』」がリリースされた。
“機械貴族”であるヴィントシュトレ・フォン・フリューゲル卿の一人娘・ドロッセルと、その執事・ゲデヒトニスの軽妙な掛け合いがファンの間で話題を呼び、2008年の放送以来、不定期でその続編が作られ続けている短編アニメ作品「ファイアボール」。シリーズ初のオーディオ作品となる今作には、ドロッセルやゲデヒトニスが歌うキャラクターソング、シリーズ3作品のサウンドトラック、また豪華キャスト陣によるオーディオドラマが収録され、音声主体のコンテンツながら「ファイアボール」シリーズの最新作と呼べる作品に仕上げられた。
音楽ナタリーでは本作の発売を記念して、「ファイアボールオーディオ・オモシロニクス」を紹介する特集記事を展開。特集の最後には「ファイアボール」シリーズの監督・荒川航からのコメントも紹介する。
文・構成 / 倉嶌孝彦
機械貴族の娘であるドロッセル・フォン・フリューゲルとその執事・ゲデヒトニスの他愛もない日常を描いた短編アニメーション。2008年に放送された「ファイアボール」が口コミで話題を呼び、2011年に「ファイアボール」の過去を描いた「ファイアボール チャーミング」が、そして2017年にはシリーズ3作目として「チャーミング」よりさらに過去を描いた「ファイアボール ユーモラス」が3話のみオンエアされた。
“10周年記念盤”の名にふさわしい新作
CD「ファイアボール オーディオ・オモシロニクス」は単なるサウンドトラックではない。歴代の「ファイアボール」シリーズの楽曲が収録されているだけでなく、ドロッセル・フォン・フリューゲルやゲデヒトニスらが登場するオーディオドラマが計20分以上も挿入され、それらのドラマを通して新たな「ファイアボール」の物語が紡がれているのだ。さらにアニメの本編では触れられなかったサブキャラクターの宇宙海賊キャプテン・レジナルドをフィーチャーした新曲「おれが海賊(宇宙海賊キャプテン・レジナルド)」が収録されるなど、「ファイアボール」ファンであれば思わずニヤリとしてしまう仕掛けがちりばめられた、まさに“10周年記念盤”の名にふさわしい内容に仕上げられている。
オーディオドラマの舞台となるのはこれまでの作品と同じくテンペスト領にあるお屋敷。「ファイアボール」および「ファイアボール チャーミング」では“亡きお父上”と表現されていたヴィントシュトレ卿が存命であることから、時代背景は「ファイアボール ユーモラス」付近であると思われる。物語には神谷浩史が演じる新キャラクター・ゲボイデ=ボイデが登場。ゲデヒトニスと同型の機械執事であるゲボイデ=ボイデはストーリーの鍵を握る重要キャラクターであり、あまり説明的なセリフを発しないドロッセルとゲデヒトニスに代わって狂言回しのように話を進行させる役割も担っている。
端的に説明すると、オーディオドラマのストーリーは「ファイアボール」「ファイアボール チャーミング」「ファイアボール ユーモラス」で描かれたそれぞれの時代のドロッセルとゲデヒトニスに、物語の案内役・ゲボイデ=ボイデが会いに行くというもの。ゲボイデ=ボイデに連れられた先でリスナーが遭遇するのは「ファイアボール」で描かれた形式番号・JUNO-XIVのドロッセルや、「ファイアボール チャーミング」時代の形式番号・JUNO-XIIIのドロッセルである。もちろん映像がないためビジュアルで当時のドロッセルを確認することはできない。しかし、ドロッセル役の川庄美雪は当時の芝居のクセなどを忠実に再現することで、それぞれの時代で描かれたドロッセルを見事に演じ分けている。ゲデヒトニス役の大川透も声のトーンや話し方の微妙な違いを駆使して、それぞれの作品のゲデヒトニスになりきっている。また役者の演技に頼るだけでなく、オーディオドラマ内で使用されている効果音には当時のサウンドがそのまま使われており、「ファイアボール」ファンであれば随所で過去作品の映像が思い浮かぶだろう。
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君は「宇宙海賊キャプテン・レジナルド」を知っているか
2019年2月8日更新