「Fate/Grand Order Original Soundtrack V」芳賀敬太&毛蟹インタビュー(聞き手:石谷春貴)

スマートフォン向けRPG「Fate/Grand Order」のサウンドトラック第5弾「Fate/Grand Order Original Soundtrack V」が12月22日にリリースされる。音楽ナタリーでは前作のインタビュー(参照:「Fate/Grand Order Original Soundtrack IV」芳賀敬太&毛蟹インタビュー(聞き手:赤羽根健治))に続いて、「FGO」シリーズの音楽をメインで制作する芳賀敬太と、BGMのアレンジャー・毛蟹へのインタビューを実施した。

今回のインタビュアーは「FGO」第2部に登場するクリプターの1人・ベリル・ガットの声優であり、「FGO」のヘビーユーザーである石谷春貴が担当。ベリル・ガットが活躍する「FGO」の第2部 第6章「妖精円卓領域 アヴァロン・ル・フェ 星の生まれる刻」やイベントを彩る楽曲の制作秘話、TYPE-MOONの音楽像について聞いた。

※本記事は「Fate/Grand Order」本編シナリオへの言及も含まれますのでご注意ください。

取材 / 石谷春貴文 / 酒匂里奈撮影 / 曽我美芽

実験を繰り返す芳賀敬太

──芳賀さんは「FGO」の音楽制作に携わられてからもう7年目になるんですね。

芳賀敬太 そうですね。1つの作品という括りでは長い付き合いになりますね。

──ずっと走り続けているコンテンツの中で、どの楽曲のクレジットを見ても芳賀さんのお名前があって、「FGO」の音楽に触れている自分としてはすごいと思うのと同時に、体調が心配になってしまいます。

芳賀 幸いにも、今のところ体は大丈夫です(笑)。自分に何かあれば大きな穴が開いてしまうので、なんとか踏みとどまれるように自分なりに気を付けていますね。

石谷春貴

石谷春貴

──毛蟹さんから見ても、やはり芳賀さんの制作ペースは早いのでしょうか?

毛蟹 信じられないペースですね。今回は「FGO」の話ですけど、芳賀さんとTYPE-MOONの歴史は「月姫」(TYPE-MOONが2000年に発表した伝奇ビジュアルノベルゲーム)から続いているんですよ。厳密に数えたことはないですけど、作った曲の数は4桁いってるんじゃないですか?

芳賀 そこまではいってないんじゃない?(笑)……でも確かに、サントラに入っていないような宝具の曲とか、細かいものも含めたらそれくらいあるのかも。宝具の曲はある時期から急に増え出したんですよね。

──だんだんと状況が変わっていったんですね。楽曲制作にあたっては、インプットとアウトプットの両方をされていると思うのですが、具体的にどんなことを心がけていますか?

芳賀 僕が作っている「FGO」の音楽は、TYPE-MOONが20年かけてようやく形にしたものなので、それは世にあふれているものとはちょっと違ったりもするんですよ。なのでアウトプットに関しては、基本的には自分の内から湧き上がってくるものや奈須(きのこ)と武内(崇)が求めるものを形にするという明確な道筋があります。という前提はありつつ、僕は本当にゲームが好きで、それでこの仕事をやっているので、日々のリフレッシュという意味でも必ず寝る前に30分はゲームをしますね。もちろんドラマや映画も観ます。ゲームはわずかな時間でもできるので頻度が高いですね。

──へえー! 普段はどんなゲームをされているんですか?

芳賀 サウンドを参考にしたいので、最新のタイトルはやりますね。海外の大規模スタジオのハイエンドゲームをやりつつ、もちろん国内作品やインディゲームもやります。ユービーアイソフトのタイトルが好きなので、シリーズものはほとんどやっていますし、あとは目ぼしい大型タイトルは大体。ゲーム音楽は時代によってどんどんサウンド感が変わっていくので、6年前の感覚でやっていたら古い音になってしまうんですよね。なので全体的に変えているわけではないんですけど、なるべく新しいものを吸収して、「TYPE-MOONならこれをどう表現するか」ということ踏まえて、少しずつ時代に合わせて表現を変えていますね。

──今の話をお聞きして、より体調に気を付けてほしいなと思いました。ゲームするのも体力がいると思うので。

芳賀 それが趣味のゲームが健康に役立ってるんですよ。今のペースで曲を作っていると、無意識にフレーズを考えているので、頭の中が常に熱を持っている感じがして眠れないんです。でも仕事が終わって趣味に触れると冷ましてあげられるので。

──頭をクールダウンさせる時間になっていると。

芳賀 でも、けっこう作家には頭の中で曲を作り続けちゃう人が多いよね。

毛蟹 そうですね。

──ずっと泉が湧き出ている感じなんでしょうか?

毛蟹 湧き続けてるのはたぶん芳賀さんだけです(笑)。芳賀さんのすごいところは、これだけ曲を作られているうえに、常に実験を繰り返しているところで。毎回これまでご自身が作られてきた曲とは少しだけ違うところに踏み込んでいるというか。特に今回のサントラに収録されている「妖精円卓領域 アヴァロン・ル・フェ 星の生まれる刻」の曲はそう感じました。

奈須きのこが求めるTYPE-MOONの音楽

──「アヴァロン・ル・フェ」は、ベリル・ガット役を務めている僕としてはすごく思い出深い章です。シナリオを奈須さんが担当されていますが、奈須さんからサウンドに関しての指示はありましたか?

芳賀 基本的に奈須がシナリオを担当しているものはすべて発注から確認までしてもらっています。

ベリル・ガット

ベリル・ガット

──そうなんですね。「アヴァロン・ル・フェ」では、キャラクターに付随する楽曲が多かったですよね。妖精騎士ガウェイン、妖精騎士トリスタン、妖精騎士ランスロット、モルガンなど。それぞれのキャラクター性に合わせてサウンドを考えたんでしょうか?

芳賀 そうですね。特に「アヴァロン・ル・フェ」については、奈須から「こういう曲が欲しい」という明確なオーダーを受けていて。奈須が「アヴァロン・ル・フェ」を音楽でどう魅せたいのかという点を熟慮した末に、具体的な形を考えていきました。最初に発注をもらったときは、バトル曲やマップの曲に偏っていたので驚きましたが、シナリオ内で使える汎用的な曲はすでに何百曲とあるので、今回はこういう形でという話でした。もちろん、必要な曲は新たに用意していますが。

──「アヴァロン・ル・フェ」の最初のマップで音楽が鳴り始めた瞬間、妖精をイメージさせるメルヘンさを感じました。そのメルヘンさが、僕の中で考えていた「アヴァロン・ル・フェ」の世界観とガチっとハマった感覚があって。テーマに沿って楽曲を作るのは難しいですか?

芳賀 作り始める前は、テーマを聞いて「いやこんなのできないよ……」とわりといつも思っています。でもいざ手を動かし始めると、とっかかりになるアイデアがふっと湧いてきて、そこからはスルッとできるんです。さすがにTYPE-MOON歴が長いので、奈須が求めているものはこういうことだろうなというのが人よりはわかることもあって。奈須には基本的に全部できあがってから聴いてもらうんですけど、あまりにも不安なときだけ途中の段階で確認することもあります。

──「アヴァロン・ル・フェ」の音楽を聴くと、弦楽器が多くてハネるような音が多く感じたんです。シェイクスピアが活躍した約400年前のイギリスの雰囲気というか。

芳賀 そうですね。方向性としてはメルヘンなゴシックということで、美しさを念頭に置いた結果弦楽器がメインになっていきました。余談ではありますが「月姫 -A piece of blue glass moon-」の音楽の方はホラーなゴシックというテーマになっています。

石谷春貴

石谷春貴

石谷春貴

石谷春貴

──毛蟹さんはいかがですか?

毛蟹 正直テーマに音楽を落とし込むのが一番難しい作業なんですが、逆にテーマがなければ曲を作りづらい側面もあって。僕の場合はゲームのサントラよりも歌を作るほうが多いので、歌に関してはテーマとは別に考えなければいけないことがいろいろと出てくるんですよね。

──歌の場合、考えることが増えると。

毛蟹 そうですね。歌う人間の雰囲気や声に合うかどうかとか。そういうものもある種テーマと言えばテーマかもしれない。それを全部縫いながらいい感じに落とし込んでいくのはやっぱり難しいですね。

──一概に楽曲制作と言っても、いろいろな作り方があるという。「FGO」という枠組みとテーマがあると作りやすいのかなと思っていた部分もあったんですけど、そうではないんですね。

芳賀 歌が入っている楽曲は、生の感情がすごく大事になってくると思うんです。言葉にはすごいパワーがあって、それを裏付けるために生きた感情が絶対に必要で、逆もまた然りですね。一方でBGMはと言うと、僕は音楽を作るうえでは、自分の経験や感情は極力排除しています。例えば「FGO」のとあるキャラクターのテーマを作ろうとして、自分の人生経験を当てはめようとしても、そのキャラの経験に自分の人生経験が追いつかないんですよね。なので設定や物語を全部頭に入れたうえで演算しながら作っています。そのほかにもBGMは、あくまで1つの感情や1つの状況を説明することがほとんどなので、基本的には1曲の中で一定の雰囲気や感情をキープすることが大切です。

───奈須さんからのサウンド感の要望というのは、具体的にどんなものなんでしょうか?

芳賀 リファレンスやテンポ感、主要な楽器の感じとか。リファレンスと同じ曲を作るように言われているわけじゃないので、うまく汲み取らないといけないところはありますよね。あくまで奈須が求めているのはTYPE-MOONとしての表現なので。

──なるほど。「アヴァロン・ル・フェ」はシナリオの文量が段々と増えていったとお聞きしていて、それに合わせて楽曲も増えていったのでしょうか?

芳賀 そうですね。実は最初の発注会議では10曲くらいの予定だったんですよ。

──実際に制作された曲数の約半分ですね。

芳賀 はい。でも長いシナリオというのは聞いていたので、できるかどうかはともかく、次点で必要なものもリストにしよう、というような話をして。そこで一旦増えて、その後また逐一増えて……と言う感じでしたね。

毛蟹 芳賀さんからときどきLINEで「また増えた……」と連絡をいただいてましたね。