「Fate/Grand Order Original Soundtrack IV」|カドック役・赤羽根健治が聞く!「FGO」音楽の作り方

スマートフォン向けRPG「Fate/Grand Order」のサウンドトラック第4弾「Fate/Grand Order Original Soundtrack IV」が7月15日にリリースされる。音楽ナタリーでは「FGO」シリーズの音楽をメインで制作する芳賀敬太と、今回からBGMのアレンジャーとして制作チームに加わった毛蟹へのインタビューを実施した。インタビュアーは「FGO」第2部に登場する“クリプター陣営”の1人・カドック・ゼムルプスの声優であり、「FGO」のヘビーユーザーを自認する赤羽根健治が担当。「FGO」を彩る音楽の誕生秘話をたっぷりと聞いた。

※2ページ以降、「Fate/Grand Order」本編シナリオへの言及も含まれますのでご注意ください。

取材 / 赤羽根健治 文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 石井小太郎

決め手は「マンわか」

──取材の準備をしているときにサウンドトラックのクレジットを拝見して、ほとんどの楽曲を芳賀さん1人で制作していることに驚きました。僕も長らく「FGO」を遊ばせていただいているんですが、いろんな人が分担して曲を作っているんじゃないかと勝手に想像していたところがあって。

「Fate/Grand Order」第2部メインビジュアル

芳賀敬太 そうですね。基本的にはほとんど1人で作っています。最初は1人でも問題ない予定だったんですよ(笑)。

──最初というのは「FGO」の稼働初期ということですよね?

芳賀 はい。約5年前のことですね。「FGO」のローンチに向けて制作している段階では、最初にある程度曲を書いたあとは半年に1度何曲か追加される、くらいのボリューム感の話をしていたんです。なのでローンチ後はけっこうほかの仕事のスケジュールも入れていたんですけど、いざ「FGO」がローンチされたら、思ったよりも多くの曲がどんどん必要になっていって……。

──メインストーリーの曲だけではなく、ゲーム内でイベントが開催されればすぐにまた新しい曲が必要になるわけですからね。

芳賀 そうなんです。「FGO」と並行してほかの「Fate」作品のプロジェクトも動いているから、その音楽も作らなくちゃいけないし。そうやって曲作りに追われてギリギリで作っていると、人にお願いする労力すら割けなくなってしまうんです。ベースとなる曲を作って、その派生アレンジをお願いするという方法に落ち着いたのがここ1年ほどのことなんですよ(笑)。そういったアレンジは今日来ていただいた毛蟹さんに手伝ってもらっています。

──毛蟹さんがこれまで携わってきた曲は「参全世界」「清廉なるHeretics」といったテレビCM向けのボーカル曲が多かったですよね。ゲームのBGMを手がけることになったのが、今作の収録範囲である「徳川廻天迷宮大奥」からだと伺いました。

毛蟹 いろんなプロジェクトに作詞で参加することも多いので“毛蟹=ボーカル曲”みたいなイメージが強いかもしれないのですが、僕はもともとゲーム音楽で育ってきたところがあって、劇伴やBGMにずっと興味があったんです。以前から芳賀さんにはそういう話をしていて、あるときに芳賀さんやアニプレックスの山内(真治)プロデューサーが出席する“お肉を食べる会”に呼んでいただいて。そのときの芳賀さんが、かなり切羽詰まった様子だったんです。それで「何かお力になれることはありませんか」というお話をさせていただきました。

芳賀 2019年の3月頃は「Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-」の作曲や「Fate/Grand Order Orchestra」の準備もあったから本当に大変で……。ちょうどその少し前、「マンわか」(「マンガで分かる!Fate/Grand Order」のアニメ版)のテーマ曲と劇伴を毛蟹さんが担当していたんですよ。「FGO」のゲーム内楽曲のアレンジも多く、それが決め手で、「毛蟹さんならいろいろ任せても大丈夫だろうな」と思ってオファーさせていただきました。

赤羽根健治

──その後、「大奥」イベントの楽曲制作から毛蟹さんが編曲で参加するわけですが、芳賀さんからはどのようなオーダーを?

芳賀 「FGO」のBGMは基本的にメインテーマを作るところからスタートして、それ以外の曲はメインテーマから派生させていることが多いんです。「大奥」のときはまずメインの「徳川廻天迷宮:大奥 ~表~」を作り、それを元に毛蟹さんにバトルのBGM「鏡花水月」と、ショップで流れる曲「徳川廻天迷宮:ショップテーマ」の編曲をお願いしました。

毛蟹 特に具体的なオーダーはなかったんです。僕もずっと「Fate」作品には触れてきたし、「FGO」もずっとプレイしていたので「バトルとショップをお願い」と言われただけでだいたいイメージはできて。

芳賀 さっき「人にお願いする労力が割けない」とお話しましたけど、毛蟹さんは「Fate」のことをずっと前から知ってくれているから、ほとんど説明がいらなくて助かりました。

──「大奥」はゲーム内でイベントとして期間限定で実装されたストーリーですが、メインストーリーの第2部第4章「Lostbelt No.4 創世滅亡輪廻 ユガ・クシェートラ」とつながった物語でもあるんですよね。物語の舞台は日本の江戸時代だけど、「大奥」にはインドの神々が登場している。で、毛蟹さんが編曲を手がけた「鏡花水月」をよく聴くと、最初は和風のサウンドなんですけど、ちゃんとインドの民族楽器(シタール)の音が入っていて。

毛蟹 細かく聴いていただけてうれしいです(笑)。もちろんストーリーの大枠を把握したうえで制作しているので、「和風と見せかけて実はインドの要素が入っている」という、物語の肝になる部分は音楽でも表現したくて。イベントのショップではキャラクターのボイスが入るのでトラックはそこまで多くせず、とはいえ「大奥」という世界観はしっかり地続きで感じてもらえる曲になっていると思います。

芳賀 毛蟹さんの頼れるところの1つは、いわゆるソロ編成以外の形でも少ないトラックのままフィニッシュできるところ。TYPE-MOONの音楽では“極限の薄さ”みたいなものを求められることもよくあるんです。普通の感覚だと楽器を1つ2つ足してしまいそうなところをわかったうえで踏みとどまって、かつクセになる面白みもしっかり出せる。そこを生かしてもらったのが「見参!ラスベガス御前試合」での「ぐだぐだマーチ」ですね。