ENTH×SPARK!!SOUND!!SHOW!!|刺激を求めて生きる男たちのドキュメンタリー

俺らにとって生きやすい時代になればいい

──歌詞の部分で、お互いのバンドの印象はどうですか。

タナカ 今回、俺らの「あいどんのう」っていう曲で、ENTHの「HANGOVER」の「なーんにもわかりません」っていう歌詞を引用してるんですけど、あれはパンチラインやなと思いますね。ああいう言葉って頭を練って考えて出てくるものでもないし、「なにもわからない」ということをあれだけ大きな声で言っているバンドはいないと思うんですよ(笑)。本人も自信満々で言っているわけでもないし、「なにもわからない」ということをよしとも悪しともしていない。ENTHのそういう部分が好きですね。

daipon スサシは言葉遊びが面白いし、力が抜けているのがいいですよね。でも、ボケっと聴いていると、ぶっ刺しにくるような鋭いワードも入っている。「あいどんのう」の「ほんまえーって数字だけミュージシャン」とか、刺しにきているなって思う。そういうところも好きですね。

──言いたいことや思いはあるんだけど、それを直接的に、説教臭く伝えるのではなく、あくまでもラフに楽しんでいるというスタンスの中に織り交ぜていく。それがこの2組に共通している態度という気がします。

daipon メッセージ性がないわけではないんだけど、説教臭いことを言いたいわけでもないんですよね。ただ楽しく生きたいだけなので。

──今回のスプリットアルバムに収録される2組それぞれの新曲、ENTHの「BLESS」とスサシの「NU ERA」に共通しているのが、どちらも“時代”について表現していることだと思うんです。2組が求めている“楽しく生きること”“刺激的なパーティ感”の根底には、「今の時代をよしとしていない」という前提があるのかなと思うのですが、どうですか?

タナカ 今の時代すべてを否定したいわけじゃないんです。何かをひっくり返したいわけじゃないし。ただ、SPARK!!SOUND!!SHOW!!が生きやすい時代になればいいなと思っている、ということですね。偉そうなことも立派なこともできないんですけど、自分にできることを精一杯やって、そこにいい感じに数字が付いてきて膨らませることで、とりあえずスサシの4人が生活できるようになればいいし、それにプラスして、チームのみんなが生活できるようになればいい。自分たちの身の周りで、まずはそういうことを求めている。ライブをしたり曲を作ることで生活できるようになれば、それは俺たちにとって生きやすい時代になっているっていうことだから。

──なるほど。

タナカ そういうことを考えているときに、去年の春にENTHと一緒にツアーを回ることになったんですよ。ホテルのdaiponの部屋で、俺とタクマと3人で飲んだときに、daiponも同じようなことを言っていたんですよね。ENTHの「BLESS」も、俺らの「NU ERA」も、別に時代のことを歌おうってミーティングをしたわけじゃなくて。でもお互いが曲を出したら、自ずとそういう曲がそろった。余計にこのスプリットを作ってよかったなと思いましたね。きっと俺らにとって生きやすい時代はENTHにとって生きやすい時代だと思うし、ENTHにとって生きやすい時代は、俺らにとって生きやすい時代になると思うんですよ。

daipon そうだね。

タクマ 今は前線で説教が上手な人らがのさばっている感じもあるけど(笑)、それに対して俺らがヘラヘラと踊っていたら、説教を聞くのに飽きたお客さんたちが「そっちのほうが楽しそうじゃない?」って集まってきてくれるかもしれない。そうやって俺らが生きやすい時代になっていってほしいなっていう曲です、「NU ERA」は。

──「BLESS」はどうですか?

daipon 「BLESS」は、きっと同じように思っている人はいるんじゃないかなっていう曲なんですけど。今はネットとかSNSでみんなの汚い部分がめくれて出てきているし、それが思いっきり社会に影響してしまっているじゃないですか。そういうことですごく息苦しくなってしまっている感じ……直接誰かに何かを言われるわけではないんだけど、生きているだけですごく息苦しさを感じてしまうっていう感覚が前提にあって。ユーキが言ったことに近いけど、それでも俺らも自分たちが生きやすい時代にしたいし、何より俺らは友達が大好きだから。「みんなでそこに行きたいよね?」っていう感じですね。

──ちなみに「BLESS」の歌詞には「SOMEWHERE WE HOPE」という言葉も出てきますけど、ENTHには同名の曲もありますよね。

daipon 好きなワードなんですよね。そこまで、あの曲とかけて今回の歌詞に使ったわけではないし、最初に「SOMEWHERE WE HOPE」を歌っていたときの感じと、今のENTHは全然違うものだと思うんです。自分たちの行きたい場所……それがどこかわからないし、「こんなユートピアに行きたい」みたいな形で言葉にして表すようなものでもないんだけど、俺たちが行きたい場所にもう少しでたどり着けそうだなっていう感覚が「BLESS」にはあると思いますね。

──あと、「BLESS」には「今一度問うべき / 金と正義の使い方 / 怒りの伝え方 / 自由の在り方を」という意味の英語詞がありますけど、怒りは皆さんの表現の根底にあると思いますか?

タナカ 怒りというより憤りというか。“怒り”というと、何かに対してすぐにカッとなる感じがするけど、もっと漠然と「なんでこれはこうなんだろう?」とか「なんか面白くないな」ってずっと思っている。それをグッと凝縮して曲にしている感じはありますね。ライブでは怒りが表情や声色で表現される瞬間があるのかもしれないですけど。ENTHは怒りはなさそうやんな?

daipon うん、あんまり。俺自身としては、メンタル面で怒りモードのときはあるんですけど、俺の怒りはあんまり意味がないので(笑)。無意味に怒っている、みたいな状態なんですよね(笑)。「BLESS」の歌詞で書いたのは、ヘイトの伝え方や解消の仕方を間違えると、結果として何もいい方向に向かわなくなってしまうから「もう1回、考えよう?」っていう。

タナカ ホンマにそうやな。うまく言えば伝わることなのに、伝え方を間違えていたら仕方がない。

左からイチロー(Dr, Cho / SPARK!!SOUND!!SHOW!!)、Naoki(G, Cho / ENTH)、チヨ(B, Cho / SPARK!!SOUND!!SHOW!!)、タクマ(Key, G, Cho / SPARK!!SOUND!!SHOW!!)、takumi(Dr, Cho / ENTH)、daipon(Vo, B / ENTH)、タナカユーキ(Vo, G / SPARK!!SOUND!!SHOW!!)。

生きてさえいれば、いい未来になっている

──漠然とした質問になってしまいますけど、2組にとって“やりたくないこと”はどういうことですか?

タナカ 人のためにがんばることですね。音楽だけじゃなく、芸術全般に言えることだと思うんですけど。金になることはいいことやけど、それは自分がマックス満たされてからの話じゃないですか。他人が満足してくれることを自分の満足にしてしまっている人を見ると、「それは芸術によって満たされているわけではないよな?」と思うんです。それは奉仕活動だと思う。邦ロックシーンを見るとそういう人たちがけっこう見受けられるなと思うんですけど、俺はそういうことはできないし、性に合わないなと思います。自分が最速で満たされることのために、人生を使いたいので。

タクマ やりたくないことって挙げたらキリないよね。でも、やりたいことはシンプルで「みんなで楽しいことできたらいいじゃん」っていう。俺は音楽も自分のためとすらも思ってやっていない感じがします。自分らの上の人たちで「誰かのため」と思ってやっていそうな人って勝手に責任を負ってしまって、こうやってディスカッションをしているときにも、ちょっと自分と意見が違うと怒ったりする人が多くて。そういう人たちが早くいなくなればいいなと思いますけど(笑)。

一同 (笑)。

タクマ まあそういう人たちが悪いわけじゃないですから。俺らは俺らでいい時代を作りたいなって思う。俺の作る曲にも、意味はないですからね。全部うるさくて、BPMは速くないけど、ガチャガチャしていて……カッコいい曲を作るっていうのはありますけど、そんなに深い意味はないんですよ。

──イチローさんはどうですか。

イチロー ユーキが言ったように、誰かのためっていうのは信用できないですよね。媚び売るみたいなこともしたくないし、そういう感じの人とは、友達になれないというか……。

チヨ お前、友達いるっけ?

イチロー ……いるよ?

──(笑)。ENTHはどうですか。

daipon “縛り”は嫌いです。「これはこういうものだ」っていうレールに乗っていくだけのやり方とか、SNSでピーチクパーチク言うだけの感じになるのはイヤです。そういう人を見るのも嫌だし、自分がそうなるのも嫌だし。ただ自分も今までダサいことはやってきたし、これからもやるだろうと思うんですよ。俺らもまだ目指すべき場所にたどり着いているわけではないし。でもそこに向かって進んでいく中で、その都度その都度、何かに気付いて、みんなで同じ方向に向かっていけたらいいなと思います。あくまでも“みんな”で一緒に向かっていきたいですからね。

──改めての質問になりますけど、どんな未来に向かっていきたいですか?

daipon みんながやりたいことをやれたないいなと思います。学歴がどうこうとかも大事かもしれないけど、みんながやりたいことを仕事にできて、10代や20代でもカッコいいやつが自分のやりたいことで食えるようになれたらいいし、みんなで好きなことで暮らしていけたらいいなと思う。あとは動物の殺処分とか、なくなってほしいなと思うんですけどね。

タナカ それ、すごいわかるわ……未来に向けてってことで言うと、俺は、最終的には「生きていたらいいな」くらいにしか思わないです。生きてさえいれば、“今”をいい感じに生きていると思うので、自ずといい未来になっていると思うんですよ。でも、明日死んだら台無しやから。

チヨ そうやね。期待はしていないけど、自分らでやるだけみたいな感じです。行動できるのは自分たちだけやから。

ライブ情報

ENTH × SPARK!!SOUND!!SHOW!! presents 爆走!白虎珍道中
  • 2020年3月27日(金)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2020年4月17日(金)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2020年4月23日(木)東京都 渋谷CLUB QUATTRO

<出演者> ENTH / SPARK!!SOUND!!SHOW!!