Drop's|バンドに新たな息吹をもたらした多保孝一とのコラボ

雑踏の音はメンバーが録音

──アルバム「Tiny Ground」にはこれら2曲のほか、新たに多保さんがプロデュースされた曲がありますね。

中野 はい。「Cinderella」と「毎日がラブソング」だけで終わるわけにはいかないですから(笑)。アルバムのタイミングでお願いした2曲、「Lost in Construction」と「アイラブユー」は共作ではなく、もともとあったものをプロデュースしていただいた形ですね。どちらも自分たちだけでは今ひとつ物足りなくて、カッコよくまとまりきっていない気がしていたので、それを多保さんにお願いしました。

多保孝一

多保 もらった曲がもともとすごくよかったんですよ。「Lost in Construction」はフレーズもメロディも歌詞も基本そのまま、何も変わってないですね。ジャズに変わる中間部のアイデアも最初からあったし。だから僕はどういう音で録って、そして仕上げるか、ポストプロダクション的なところでお手伝いさせてもらいました。最後に香辛料を振りかけたくらいですよ。

中野 いやいやいや。確かに曲自体はそこまで変化はしてないですけど、聞こえ方は大きく変わりました。「もうちょっとバキッとさせたいんです」という漠然としたイメージをお伝えしたんですけど、それを見事に汲み取ってくださって。街の雑踏の音やレコードノイズを入れたらどうだろうとか、いろいろな提案をしてもらいました。全体としての世界観がよりギュっとして、すごくカッコいい仕上がりになりましたね。

多保 ちなみに街の雑踏の音はメンバーそれぞれがボイスレコーダーで録ってきてくれて。オーディションをしたところ、荒谷さんのものが採用されたんだよね。新宿で録ったって言ってたけど、空気感がすごくよかった。

中野 そうでしたね。私も新宿で録ったんですけど、iPhoneが古くてダメでした(笑)。そういう作業もすごく楽しかったですね。

ただただ楽しい時間に

──もう1曲の「アイラブユー」の制作はどうでしたか?

多保 この曲はライブではすでにやってたんだよね?

中野 そうですね。上京した当初に作ったから、3年くらい前からあった曲なので。

多保 実際、僕はライブで何度もこの曲を聴いていて、メロディも歌詞もすごくいいなと思ってはいたんですよ。ただ、コード進行を変えることでもっと彩りが豊かになって、メロディのよさが生きるような気がしていて。なのでアルバムに収録したいという話をもらったときに、新たなコード進行を提案しました。

中野 最初にこの曲を多保さんに聴いていただいたとき、目の前でコードを変えて弾いてくださったんですよ。ギターでシャラーンって。その瞬間、「え!? こんなに変わるんだ!」って感動しました。コード1つでここまで広がりが生まれるものなんだなって。まだまだ勉強が足らんなと思いましたね。

多保 そんなそんな(笑)。で、新たなコード進行が決まった段階でアレンジを考えたわけですけど、Drop'sはみんなThe Beatlesが大好き……特に(石川)ミナ子さんがすごく好きなので、じゃ、思いっきりやっちゃいましょうかってことになって(笑)。ドラムセットはリンゴ・スターと同じもの、ベースもビンテージのHOFNER、Dメロで鳴ってるカウベルも「Drive My Car」で使われたのと同じものを用意して。カウベルはホントに同じピッチ感で鳴るから、めちゃめちゃ興奮しましたね(笑)。

中野 ただただ純粋に楽しい時間でした(笑)。楽器や音作りにこだわることで、自分たちだけでは手に入れられなかった曲の幅がすごく出せたと思います。

多保さんの曲に負けてられない

──アルバムには多保さんが携わったナンバーが4曲収録されていて、新たなDrop'sを感じさせる強い輝きを放っています。ただ、全体を通して聴いていると、Drop'sが4人だけで作り上げた曲たちとも違和感なく並んでいることにも気付きます。それはつまり、多保さんとの制作を通して学んだことが、すでにバンドとしての血になっていると思うんですよね。

中野 あーうれしいです。言い方はアレですけど、メンバー全員が「多保さんにプロデュースしていただいた曲に負けてらんないよね」みたいな気持ちになっていたんですよね。だから、すでに作っていた曲でも多保さんとご一緒したあとに1回バラして再構築してみたものもあるんです。荒谷は鍵盤が弾けて打ち込みもできるので、いろいろ新しいアイデアを考えてくれたりもしましたし、「ここでこういうコードを使うのはどうかな」とか各自が提案してくれたりもして。みんなそれぞれが多保さんとの作業の中で吸収したものを出し合って曲作りできた実感はありますね。新しいことがしたいという気持ちは、アルバム全体を通してしっかり形にすることができたと思います。

多保 アルバムを聴くと、DAWをちょっとずつ駆使し始めてるのが見えて。「おー、マジか!」みたいな感動はありましたよね(笑)。

中野 ホントにまだちょっとずつではあるんですけどね。

多保 でも、そういったアプローチをすることで、例えばアレンジに対しての別のアイデアが浮かんできたりもしますから。そういう部分が今回のアルバムにはしっかり反映されてると思う。僕が関わった4曲以外の実質的な作業は見ていないからわからないですけど、例えば「アイラブユー」のときはメンバーそれぞれの持っているセンス、引き出しの多さに驚きの連続だったんですよ。間奏にブランクの部分があったから、小田(満美子)さんにロジャー・ニコルズのような1960年代のソフトロックへのオマージュのようなベースソロを入れるのはどうかなと提案したところ、すごく印象的なソロを入れてくれて。そういった各自の新しいアイデアが積み重なることで新しいDrop'sの音になっていく様は、見ていて「ああ、すごいな」って思いましたから。

──多保さんとの作業を経験したことが、メンバーそれぞれの持っていた引き出しを開けるきっかけになったんでしょうね。で、それがほかの曲でもしっかり生かされているという。

中野 ホントにそうですね。ちょっとでも思い付いたことがあったら、「できない」と思わないでやってみることの大事さを学びました。打ち込みに関しては、まだ何も知らないからこそなんでもできると感じます。その感覚がすごく楽しかったし、このアルバムができたことで「もっとできるな」という気持ちにもなれました。

10周年、まだまだこれから

──今回のアルバムはコーラスの多さも新しいですよね。

中野 今までの自分たちは最低限……いや、もうそれ以下くらいのコーラスしか入れてこなかったですからね(笑)。多保さんとのレコーディングでみんながたくさん歌ったことで、コーラスの大事さに今さらながら気付きました。多保さんが関わっていない曲でも荒谷がコーラスを考えてくれて、レコーディングでは私が歌うこともけっこうあって。今までで一番コーラスの入ったアルバムなので、聴き心地はかなり新しいですね。

──制作の最後に生まれたという「マイハート」でも、みんなでたっぷり歌ってますし。

中野ミホ(Vo, G)

中野 この曲は勢いで「えいっ!」と作ったものではあるんですけど、今までだったら私が普通に歌う曲になってたと思うんですよ。でも今回は「みんなで歌って手拍子したらどう?」というアイデアが自然と出て、「だったらマイク1本立ててやってみよう」ってどんどん思いつきで広がっていったんですよね。荒谷がちょっとジャズっぽいスケールを使ったソロを弾いているのも、「Lost in Construction」でジャズっぽいことをやったのが影響してるんじゃないかなって。なので一見、同じように聞こえるかもしれないけど、よく聴くと違うぞっていうポイントはたくさん詰まっていると思います。

──Drop'sは結成10年目にして大きく進化しましたね。

中野 メンバーが変わったりとかいろんな事情でCDがなかなか出せなかったりしたんで、「もうどうしよう!」みたいな思いもあったんですよ。でも、この4人になって初めてのフルアルバムとしてすごくいいものが作れたので、完成したときはホントにうれしかったですね。

──思わずメンバー同士で抱き合ってしまうくらい。

中野 いや……抱き合ってはいないかもしれない。ちょっと今度抱き合っときます(笑)。

多保 あははは(笑)。一緒にやってみて感じたのは、バンドの雰囲気がすごくいいってことなんですよね。だから今のDrop'sは充実してるんだと思う。歌詞なんかを見てても、まさに「毎日がラブソング」が最たるもので、今の彼女たちはポジティブなエネルギーに満ちているし。それがホントに素晴らしいなと思いますね。今の日本を見てると僕らが好きなルーツミュージックを聴く人は少しずつ減っている気もするんです。だから僕はそれをしっかり未来に継承したいと思うし、Drop'sにもその役割を担ってほしいなという願いもありますね。ルーツミュージックの素晴らしさをこれからも伝えていってください。

中野 はい。10周年とは言え、まだまだこれからだなと思っているので。がんばります。またぜひご一緒させてください。

多保 うん、そうですね。ぜひぜひ。よろしくお願いします。

ツアー情報

Drop's 10th Anniversary ONE MAN TOUR 2019「Tiny Ground」
  • 2019年10月23日(水)愛知県 CLUB UPSET
  • 2019年10月25日(金)香川県 高松TOONICE
  • 2019年10月26日(土)広島県 広島セカンド・クラッチ
  • 2019年10月28日(月)福岡県 graf
  • 2019年11月1日(金)宮城県 enn 3rd
  • 2019年11月4日(月・振休)北海道 札幌KRAPS HALL
  • 2019年11月12日(火)大阪府 Music Club JANUS
  • 2019年11月15日(金)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
左から中野ミホ(Vo, G)、多保孝一。