救うものでも、救われるものでもない? 志磨遼平と粗品が考える“ロックンロール” (2/2)

粗品さんには色気があるんです

粗品 ミュージックビデオが公開されている「ミスフィッツ」もめっちゃよかったです。このタイトルは「1人ぼっち」とか「はぐれている」という意味ですよね?

志磨 そうですね。はみ出しものとか、社会不適合者とかを指します。

粗品 学生時代、はぐれていた自分に手を差し伸べてくれたロックンロールを思い出しました。若い頃に出会いたかったし、今の若い人にも聴いてほしいですね。

志磨 「1人ぼっち」でいることは人に蔑まれるようなことではなく、むしろ勇気のいる選択でもあると思うんです。そういった意味で粗品さんの「唯我独尊」とも言える立ち振る舞いは生まれもってのものなのか、どこかで備わったものなのか。備わったのだとすれば、それは何がきっかけだったのかをお聞きしてみたかったんです。

粗品 僕はもともとお笑い芸人になるつもりはなかったんですが、高校3年生のときに「R-1ぐらんぷり」に出場して、準決勝まで進出できたんです。それが「お笑い向いてんのかな?」と考えるきっかけになりました。そのあと大学時代によしもとのオーディションを受けて、養成所に行かずプロの芸人になったあたりで唯我独尊感が備わった気がします。

左から志磨遼平、粗品。

左から志磨遼平、粗品。

志磨 プロになったばかりの粗品さんの周囲は、どんな状況だったんですか?

粗品 当時は先輩、同期、後輩みたいな人間関係がなかったこともあって、周りの人全員に「しょうもないな、こいつら」って感じていたんですよ。もちろん「このネタ好きやな」とか「ここは尊敬できるな」と思えることはありましたけど、「俺のほうが全然いけるやん」みたいな気持ちのほうが強くて。お笑いが向いてるっていう感覚には自信があったし、ずっと「やるなら天下を取りたい」「我が道を行きたい」と考えてました。我が道を行く権利があるやつって、相当限られていますよね。その権利を得るため、周りには迎合せずにかましたい気持ちが芽生えました。ここ数年はさらにギアを上げて、もっと上を目指してますね。

志磨 ギアを上げてからのここ数年の粗品さん、色気がすごいですよね。

粗品 マジすか? 初めて言われましたよ。

志磨 さっき「テレビを観ない」と言いましたけど、たまたま粗品さんがゲスト出演されていたお笑い番組を目にしたんですよ。粗品さんはいわゆる先輩芸人の方々に囲まれていたんですけども、その先輩方が、粗品さんに対しては一瞬ひるむのがテレビを通しても伝わってきて。そういった一種の恐さを含んだ色気ですね。例えば不良の人だけが持っているような、そういう色気が粗品さんにはあるんです。

粗品 志磨さんこそめっちゃ色気あるじゃないですか! ライブもそうですし、「ミスフィッツ」のMVもすごく色っぽかったです。

志磨 いえいえいえ! あれはロックンロールの色気であって、僕自身の色気ではないと思います。まさに伝統芸能としてのロックンロールに必要不可欠な色っぽさ、ですね。

その続き、自分で作ってみました

粗品 もう1曲、「リンチ」についても聞いていいですか? アルバムの中で一番好きな曲なんです。

志磨 おお、ありがとうございます。これはまさに古いロックンロールのような、すごくシンプルな構成の曲ですね。日本のポップスってだいたいAメロ、Bメロ、サビという構成が基本ですけど、「リンチ」はAメロ、Bメロが交互に繰り返されて、終わり。ただうるさいだけの2分半のロックンロールです。

粗品 この曲はどうやって生まれたんですか?

志磨 お店でごはんを食べていたら、店内で流れている曲が気になって。Shazamで調べて、あとでちゃんと聴いてみたら、僕が思ってたのとはずいぶん違ったんですね。僕はものすごく凶暴なファズギターと、ちょっとチープで歪んだVOXオルガンが鳴っているように聞こえてたんですけど、ちゃんと聴いたら全然ソフトなサウンドだったんです。それで、僕の脳内で鳴っていたほうのサウンドを再現したのが「リンチ」です。

粗品 オモロい作り方だ。

左から志磨遼平、粗品。

左から志磨遼平、粗品。

志磨 この作り方はたまにやりますね。買ってきたレコードを聴いていて、あっ、いいなと思ったらそこで止めて、その続きを自分で作るっていう。そして、作り終わったらやっとレコードの続きを聴くんです。ああ、僕のアイデアのほうがいいじゃないか、って言いながら。

粗品 お笑いでも、ほかの芸人の舞台を観て「この振りはええのにボケがあんまりやから、俺やったらこう返すな」みたいな感じでネタを考えることがあります。それに近いんかな。

志磨 おお、同じ作り方ですね。

粗品 「リンチ」は曲の構成が好きで、「夏の庭で見つけたのは」と歌うところでメロディの音階が階段状に下がって、伴奏もユニゾンチックに下がっていくんですけど、伴奏のほうが1音多いですよね? そのちょっとした工夫がめっちゃうれしかったし、後半のギターソロもJ-POPではまず使われないメロディラインでえげつなくてね。このギターソロでチョーキングを使っている部分がありますけど、途中2、3フレットをスライドさせて、あえて経過音をはっきり聴かせている場所があったんですよね。そこもしびれました。

志磨 そんな細部まで解析してくださるなんて……絶句です。すごい。

粗品 それから最後に「なんだっけ わすれたけど」と歌ったあとに半音上がって、めっちゃきれいな和音がほのかに聞こえて、そのままフィナーレを迎えるセンスもえぐいですよ。近年のアニソンやボカロ曲って、あえてヘンテコなコードで違和感を作って、そのあときれいな和音を鳴らす、みたいな構成が多いんです。それってしっくりこない楽曲もまああるんですけど、「リンチ」は最後の1音でそれまでの全部が解決されるような、いい音楽体験でした。

志磨 そこはセブンスコードで終わらせる伝統のテクニックを用いたんですが、最近使う人が本当にいない、絶滅寸前の技なんです。そんな部分にまで言及してくださって、本当にうれしいです。

志磨遼平

志磨遼平

粗品

粗品

僕が進もうとしている道に、たまたまロックンロールが落ちていた

志磨 僕にとってロックンロールは、たった1人で立っている状態そのものだと思っています。そこはしがらみがなく平和ですけど、さびしくもあります。誰かと慣れ合うことができないし、かわいがってくれる人もいない。でもそんな状態だからこそ、「俺に勝てるやつがおったら出てこい」と堂々と言えるんです。だから粗品さんのデビュー直後の心境にはものすごくシンパシーを抱くし、そこからさらにギアを入れられる人は本当に稀有だと思います。上下関係に厳しいお笑いの世界で今そのスタンスが取れるのは、粗品さんだけじゃないかという気もします。

粗品 僕は志磨さんがやってる音楽そのものがロックンロールだし、「ロックンロールとは何か?」という問いに対して、ほぼ正解を導き出していると思います。ルーツをしっかりたどっているから、筋も通っていますしね。ロックンロールを通じて人を救っているところもあると思うんですが、志磨さんご自身はどう考えていますか?

志磨 僕はそういうつもりが全然ないんです。誰かを救うつもりはないし、手を差し伸べようとする行為は「1人でいる」という美学に反するので。さらに言えば、誰も僕を救えないし、誰も僕を助けられない。ロックンロールに救われたことも、一度もない。

粗品 えっ!

志磨 僕が進もうとしている道にたまたまロックンロールが落ちていた、ということです。それを拾って、「これが自分の道標だ」と勝手に信じ込んでいるだけなんです。

粗品 ファンの方が「志磨さんの曲を聴いて救われました」と言ってくれることがあると思うんですが、それはどう感じているんですか?

志磨 もちろんうれしいんですけど、「救われてくれたか、よかったよかった」とは思えなくて。僕にできるのは「ありがとう、がんばってね、なにがあっても自分を信じてね」と言ってあげることくらいです。

粗品 そうなのか。音楽としてのロックンロールだと、僕は高BPMでギターの音がとにかく歪んでいる曲が好きなんです。だからテンポが遅かったり、バラードチックなアレンジだと「ロックンロールではないんちゃう?」と好み的には正直思っちゃうんですよ。

志磨 うんうん。わかります。

粗品 でも「†」を聴いて、その考え方が変わったんですよ。このアルバムってミドルテンポの曲が多くて、ギターの音もそこまで歪んでいないですよね。だけどメロディラインなのか歌詞なのか、説明するのが難しいんですけど……すごくロックンロールやなって。志磨さんのロックンロールに対する愛やセンス、優しさがすべての曲に込められているから、「これはロックンロールやわ」と感じさせたのかもしれない。意固地になっていた僕の価値観を打ち砕いてくれて、気持ちよかったです。

志磨 今回のアルバムはファンの間でも賛否両論が分かれているみたいです。アルバム発売前に出したコメントから、過激なサウンドを期待した方もいらっしゃったみたいで。でも僕にとってのロックンロールはそんなに簡単なものじゃないので。期待外れだった方には「悪いことしたな」と思いつつ、いつか「なるほど、わかったぞ」と思ってもらえる日がくればうれしいんですけどね。

粗品 志磨さん優しすぎますよ! ほかのミュージシャンだったら絶対「ほんなら別のバンド聴いといて」ってなるやろうし、理解できない人がいたとしても、僕は正しい作品やと思います。このアルバムは間違いなく、志磨さんだからこそ表現できたロックンロールですよ。

左から志磨遼平、粗品。

左から志磨遼平、粗品。

公演情報

the dresscodes TOUR 2025 "grotesque human"

  • 2025年6月12日(木)神奈川県 CLUB CITTA'
  • 2025年6月14日(土)宮城県 Rensa
  • 2025年6月15日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2025年6月21日(土)岡山県 YEBISU YA PRO
  • 2025年6月22日(日)福岡県 BEAT STATION
  • 2025年6月28日(土)愛知県 THE BOTTOM LINE
  • 2025年6月29日(日)大阪府 なんばHatch
  • 2025年7月6日(日)東京都 Zepp Shinjuku(TOKYO)

プロフィール

ドレスコーズ

2012年に志磨遼平が中心となって結成した音楽グループ。同年1月1日に志磨、丸山康太(G)、菅大智(Dr)の3名で初ライブを実施し、2月に山中治雄(B)が加入。12月には1stフルアルバム「the dresscodes」を発表した。2014年9月の5曲入りCD「Hippies E.P.」リリースを機に丸山、菅、山中がバンドを脱退。以降は志磨の単独体制となり、ゲストプレイヤーを迎えてライブ活動や作品制作を行っている。2020年は志磨のメジャーデビュー10周年を記念し、4月にベストアルバム「ID10+」をリリース。2025年に10枚目のオリジナルアルバム「†」を発表した。

粗品(ソシナ)

2013年1月に霜降り明星を結成し、2018年に「M-1グランプリ」、2019年に「R-1ぐらんぷり」で優勝。芸人として数々の受賞歴を誇る傍ら、2020年からは音楽活動も本格的に開始し、2021年に音楽レーベル「soshina」を設立してアーティストとしての活躍の場を広げる。2024年4月にリリースされた1stアルバム「星彩と大義のアリア」は、オリコン週間アルバムランキングで初登場8位を記録。全国ツアーも2回実施するなど、アーティストとしての人気ぶりを証明した。2025年の年明けより、かつてボカロPとして初音ミクをフィーチャーし、発表してきた楽曲を自身のボーカルでセルフカバー。2週間おきに1曲、計5カ月にわたって10曲を配信し、ボカロPとしての新曲も3曲発表した。