ナタリー PowerPush - ドレスコーズ

飢えと怒りとやるせなさから吐き出した、誰にも負けないロックンロール

ロックスターになった今の気分は「最低」

──志磨くんは毛皮のマリーズ末期のときにも大きなフラストレーションを抱えていたと思うんですけど、そのときとはどう違うんでしょうか? 純粋にもっと音楽をやりたい、音楽家でありたいという思いから、このドレスコーズというバンドが生まれたはずなのに、それだけじゃまだ足りないものがあるということですか?

左から菅大智(Dr)、山中治雄(B)、丸山康太(G)、志磨遼平(Vo)。

志磨 うん。だから、人間の欲望そのものにも腹が立つんですね。どこまで僕らは、自分にないものを欲しがるんだろうって。

──でもそういう貪欲さ、足りないという思いは、ロックンロールには必要なものですよね。

志磨 おそらく。最近よく思うのは、僕ら子供の頃「大人になったら何になろう」って思っていたじゃないですか。それって実は、「大人になったら」じゃなくて「大人になるまでに」だったような気がしていて。なりたかったものになったとき、初めて大人になるような気がするんです。子供のときにロックスターになりたいと思って、ロックスターになったとして。今の自分はそうなのかもしれないけど。そこで「なりたいものになった今の気分はどうや?」って聞かれたら、まったく、なんて言うのかな、「最低やな!」って思うんですよ。ちょっと誇張して言ってますけどね。僕ら毎日楽しく生きてますし、バンドに何か問題があるわけじゃないですけど。でも、この気持ちは続くんやなっていう。勝利なんてものは永遠に訪れない、ずーっと続くものなんやなって。

──それはなんでなんだろう? 2010年代のこの日本で、ロックンロールバンドをやってるから?

志磨 いや、もうずーっと、人間っていうものが生きている限り、根源的にそういうもんなんだと思います。今の自分の環境がっていうより。だから、僕ら人間がもっと何も感じなければいいのにって。ただ、目の前にあるもの全部を受け入れることができたらいいのにって、そんなふうにも思うんですけど。その一方で僕らは悩んで苦しんで、それはどうやらずっと続くっていうようなことがわかってきたところですね。なんだか、すっごい悩んでる人みたいな感じになっちゃってきましたけど(笑)。

音楽だけじゃ物足りなくてもがいてる

──でも実際、今回のシングルの3曲はそういう精神状態から生まれてきた曲ですよね。曲によって表現の仕方は違いますけど、一貫した感情がそこにはある。

志磨遼平(Vo)

志磨 そうですね。初めての感情だからうまく言葉にできないけれど。もし僕が知っている感覚で言葉にするなら、それは「怒り」ですね。あるいは、「やるせなさ」。

──逆に言うと、これまでは「怒り」とか「やるせなさ」っていうのは表現の源にはなかった?

志磨 特定の人に対する怒りだとか特定の状況に対する怒りだとか、そういうのはあったかもしれないですけど、これは今まで感じたことがない、もっと根源的な感情ですね。この1年で、僕らはいろんなものを獲得してきたと思うです。理想のメンバーとバンドをやってるし、ツアーも最高だったし、今どんどん生まれている曲も全部カッコいいし。そうやって勝ち得てきて、「僕がやりたかったのはこれだ!」って思う。なのに、満足できない。それで埋まらないものはなんなんやろうっていう、それがすごく知りたくて、それがやるせない。寝ても覚めても音楽のことだけ考えて生きてきたのに、その音楽だけじゃ物足りなくて、まだもがいてる。

──例えば、セールスの面でものすごく大きな成果を出したときに、そこで満たされるものというのはあると思いますか?

志磨 想像では、それはわかんないや。そこで自分が何を思うかが知りたいから、全部手にしたいってずっと思ってますけどね。

──どうしてそういうことを聞いたかというと、ドレスコーズの音楽が「もっと売れるべき」と思ってるんじゃなくて、もっと売れたときの変化を、このバンドの変化だけでなく日本のロックシーンの変化も心から見てみたいんですね。自分にとってドレスコーズは、そう思わせてくれる数少ないバンドなんです。

志磨 ありがとうございます。そう思っていただいているのは、きっとこの4人が純粋なプレイヤーだからだと思います。僕ら、音楽に対してすごく真面目だし、そこに邪な気持ちはまったくないんですよ。そういうバンドは、自分で言ってしまいますが、すごく稀だと思います。

ドレスコーズ

ドレスコーズ「トートロジー」(Short ver.)
<フジテレビ系アニメ「トリコ」エンディング主題歌>

2ndシングル「トートロジー」 / 2013年8月14日発売 / 日本コロムビア
「トートロジー」初回限定盤/通常盤ジャケット
初回限定盤[CD+DVD] / 1575円 / COZA-784~5
通常盤[CD] / 1050円 / COCA-16749
「トートロジー」トリコ盤ジャケット
トリコ盤[CD] / 1050円 / COCA-16748
CD収録曲
  1. トートロジー
  2. フォークソングライン(ピーターパンと敗残兵)
  3. Zombie
  4. トートロジー(TVサイズ)※トリコ盤のみ
初回限定盤DVD収録内容
  • 「トートロジー」ビデオクリップ
  • メイキング映像
ドレスコーズ
ドレスコーズ

志磨遼平(Vo)、丸山康太(G)、菅大智(Dr)、山中治雄(B)による4人組ロックバンド。2012年1月1日に山中を除く3名で初ライブを実施。同年2月に山中が加入し、現在の編成となる。6月には大阪、名古屋、横須賀で「Before The Beginning」と題したツアーを突如開催。7月に1stシングル「Trash」をリリースし、タイトル曲は映画「苦役列車」主題歌に起用され話題を集めた。12月に1stフルアルバム「the dresscodes」を発表。2013年3月には本作を携えた全11公演の全国ツアー「the dresscodes TOUR」を成功に収めた。同年8月14日、フジテレビ系アニメ「トリコ」のエンディングテーマに採用された「トートロジー」を2ndシングルとしてリリースする。