CDがなくなるのはもったいない
中村 さっきの映秀。くんの話で言うと、ジャケットをいっぱい付けたい人のためにブックレットがあるわけ。今までのジャケットを全部収録すればいい。そうすると手に持てるアートになるんだよ。スマホの画面アイコンより大きなサイズの作品として。しかも、完成に至るまでの自分の苦労を記録したセルフライナーノーツを付けることもできる。どんな機材を使って、誰が関わってくれて、どんな経緯でアートワークになったとか……作った本人もすぐ忘れちゃうから(笑)。そういう意味でもCDアルバムという形態は素晴らしいし、面白いと思うね。
映秀。 聴き手として、お店に行ってCDを手に取ってどんな曲が入ってるかワクワクするところまでセットにした身体性が音楽に伴うのは、すごくいいなと思います。
中村 「彼と初めて一緒に買いに行ったCD、これだったね」とか「渋谷のタワーレコードに行った帰り、MIYASHITA PARKに寄ったよね」みたいな思い出と一緒にね。何回も言うけど、昔に戻るんじゃなく、CDにまつわる出来事ってこんなに楽しいんだ、こんなに切ないんだってことをまさに今、体験してほしい。そこからさらに進んで機材に凝り始めても楽しいし。野村さんは詳しいと思うけど、理論的には安いCDプレーヤーだろうが高いCDプレーヤーだろうが、デジタル信号を光学ピックアップで読むだけだから音は変わらないはずじゃない? だけど、そうじゃない。例えば本体の重さ。回転運動を伴う機材は重ければ重いほど回転がピュアになるって僕らはまだ信じてるから(笑)。理屈ではそんなことないんだけど。
野村 いや……、あるんです。
中村 あるの!?
野村 電圧が揺れちゃうんです。
中村 そこか!
野村 データは一緒でも、デジタル信号は電圧が揺れると矩形波を正しく送れないことがあり、ノイズの原因になってしまうことがあります。加えてデータの再読み込みが頻発するとプレーヤーのアナログ部に悪影響を与えます。だからボディを重く、硬くして電源部を安定させて、動作や音を理想の姿に近付けるんです。
中村 重さは正義って本当なんだ? 僕なんて「アルミ削り出し」って言葉にめっぽう弱いからね(笑)。
野村 今日お持ちしたMOONDROP(水月雨)の「DISC DREAM 2 ULTRA」は、航空グレードのアルミ合金の削り出しです。
映秀。 (手に取って)重っ!
野村 「オカルトじゃないの?」とも思うけど、ブラインド試聴すると違いがはっきりとわかるんです。ただ、クリーンで安定した電源がオーディオにとって大事なことは確かです。
中村 うちのスタジオも照明関係と音響関係は当然分けてるし、キュービクル(高圧受電設備)まで入れてるから。
──音質にこだわる日本のアーティストがマスタリングを海外で行う理由の1つに、日本と電圧が違うからだと聞きます。
中村 もう全然音が違う。「THE BLACK ◯ ALBUM」を手がけたクリス・ゲーリンジャーは、ニューヨークのスターリング・サウンドという世界有数のマスタリングスタジオで活躍するトップエンジニアで。クリスとはもう12年仕事してるんだけど、今回の「CD ファースト チャレンジ!」の話をしたら「マサ、実は人間にとって一番いい音で音楽を聴けるフォーマットはCDだと思う」って言うんだ。最近そういう話がいろんなところから上がってきてる。なのになくなるのはもったいないなと思って。感情論じゃないけど、作ったものを一番いい状態で聴いてもらいたいと思うのはどんな人でも常だよね。そういう意味での新しいCDの価値観。今回の「CD ファースト チャレンジ!」も自分なりのCDへの愛情でしかないんだ。CDで聴くことの素晴らしさを体験してきた分、これを皆さんと共有できればということで始めたんだよ。
野村 このままいけば確実にCDはなくなります。だからこそ、中村さんが今ここでCD再始動の声を上げてくれたことにすごく意味があると思います。音楽を届けるメディアをあえて減らすことないじゃないですか。アナログレコードだって今まで生き延びてきたんだから、一世を風靡したCDだって残せばいい。それぞれ得意な方法で供給させればいいわけで、マテリアルがあると意外といろんなことができるんです。これは以前、僕が関わったアニメのコラボイヤフォンなんですけど、購入特典として劇伴に入っていない本編使用曲が入ったCDを付けまして。配信音源だとシリアルナンバーを用意したり、アクセスの都合上、期限付きにせざるを得なかったり、けっこう大変なんです。だったらそのままCDを付けちゃえということで、マテリアルの優位性が生きました。おかげさまでファンの方には好評でした。
映秀。 お話を伺っていて正直、音楽を聴く媒体としてスマートフォンに代わるかと言われたら僕、正直その未来はあんまり見えてなくて。反面、希少性やマテリアルがあることの価値、ある意味、グッズの1つという扱いになってくんじゃないかなって感じたんです。
中村 若い人は完全にそうだよね。映秀。くんが言うように最初の一歩はグッズとして手に取ってもらって、そこから派生していけばいい。だけど僕たちにとって音楽はグッズじゃない。額縁に入った「絵」なんだ。
野村 アニメファンの方々は昔から音楽そのものへの興味が深い人が多いんです。僕は「ラブライブ!」や「ガールズ&パンツァー」でアニソンのハイレゾの立ち上げに関わってたんですけど、そのとき「ラブライブ!」のファンの方たちにお会いして直接聞いたのが、「CDとハイレゾ、両方買いました。ただ、CDプレーヤーを持ってないのでCDの封を切らずにハイレゾで聴いてます。だけど野村さんがそんなに勧めるんだったらCDプレーヤーも買ってみます」という話。彼らは熱烈なファンとして、いろんな媒体で聴いて楽しみたい気持ちがある人たちなんです。実際、The Beatlesにしてもそうですけど、ロックの名盤って何度もリイシューしてるじゃないですか。リマスター盤とか、SACDとか。
中村 永遠にリイシューだよ。全部買うし(笑)。映秀。くんは普段どういう環境で音楽を聴いてるの?
映秀。 家ではワイヤレスイヤフォンとタンノイのスピーカーで聴いてます。
中村 おおー、タンノイか。いいね!
理想のアルバムとは
野村 ではここで映秀。さんにCDプレーヤーとヘッドフォンで「THE BLACK ◯ ALBUM」を聴いていただきましょう。セッティングするので、少々お待ちください。
映秀。 楽しみです。今回のアルバムは60分の音楽作品ということですよね?
中村 そう。51分47秒の「ひとつなぎの音楽作品」。あちこちに散らばっていたものを集めてみたら、実はつながっていたということだね。
──中村さんにとっての理想のアルバムを伺ってもよろしいですか?
中村 マーヴィン・ゲイの「What's Going On」、Earth, Wind & Fireの「All 'N All (太陽神)」、日本だとチューリップの「TAKE OFF」は僕が理想とする“ひとつなぎの音楽”だね。あとはやっぱりThe Beatles全般かな。
──映秀。さん、The Beatlesは?
映秀。 全然通ってないです。ちょっと聴いてみたんですけど、あまり得意じゃなくて。
中村 大丈夫。自分も昔はそうだったから。昔は断然ポール・マッカートニー派だったけど、今はジョン派だね。
映秀。 ちゃんと聴き直してみます。
中村 ちゃんとしなくていい。いつか自然と親和性が生まれてくるから。僕なんか67歳になってOasisに夢中だし、いまさらBlurのよさに気付いたところだよ。娘がGorillaz大好きだから、その影響で。
映秀。 僕もUKのロックは勉強と思って聴いてます。もともとR&Bとゴスペルはよく聴いていて、ディアンジェロが大好きです。
中村 ディアンジェロは、うちの隣のスタジオでずっとレコーディングしてたよ。仲良しだった。
映秀。 えっ、そうなんですか!? すごすぎる……。
「もっとこっち来いよ」
野村 準備ができました。まずは僕が一番オススメしたい組み合わせで、プレーヤーはMOONDROP(水月雨)の「DISC DREAM 2 ULTRA」、ヘッドフォンは同じくMOONDROP(水月雨)のオープンエア有線タイプ「SKYLAND」で聴いてみてください。
映秀。 ここまでのお話を聞いて「アルバムのこの曲が聴きたいです」とか言えない……(笑)。「Kaiju」と「G」、めっちゃ好きです。
中村 ありがとう。最初はぜひ頭から聴いてほしいな。
映秀。 (しばらく試聴して)めっちゃ音像が見えますね! 普段聴いてるワイヤレスイヤフォンと比べて、没入感がヤバい! このアルバムはドーム公演をイメージして制作されたそうですけど、そのイメージがめっちゃ伝わってきます。スピーカーで聴くよりヘッドフォンのほうが伝わってくるかも。
中村 今の言葉、大きく書いてほしいね(笑)。
映秀。 別のプレーヤーでも聴いてみていいですか? 比較したいです。
中村 いいねえ。この人たちに伝えたいわけ。「いいだろ? CD、最高じゃん!」って。
映秀。 (聴き比べて)レンジ感が全然違いますね。あと、解像度も違います。見える度合いというか。
野村 今聴いてもらっているプレーヤーはあくまでBGMとして使う用で、最初のはガチで聴き込む用です。
映秀。 ワイヤレスイヤフォンで聴くのやめようかな……。
中村 違う世界があるでしょ? ただ、うちはどんな環境で聴いてもいいように音を作ってあるからね(笑)。
映秀。 さっき中村さんが「絵」とおっしゃってましたけど、その通りだなって思います。これまで自分は遠くから目を細めて絵を見てたけど、そうじゃなく「もっとこっち来いよ」ってことですよね?
中村 さすがだね! 素晴らしい表現だ。ありがとう。
映秀。 僕、芸術作品を鑑賞する感覚が最近までなかったんです。ただの消費というか“食べる”みたいな感じだったんですけど、今CDを聴いてみてめっちゃ“鑑賞”してるという実感がありました。今までは遠くからかなり目を細めて音楽を聴いていたんだなって。
中村 頭のいい人、好きだな。今の発言、見出しでお願いね(笑)。どう? このあと、うちのスタジオ見ていく?
映秀。 いいんですか!? ぜひ見たいです!
使用した機材
CDプレーヤー
(左)水月雨 Moondrop DISCDREAM 2 ULTRA
インタビュー内の試聴においてメインで使用された、中国の音響機器メーカー・水月雨(MOONDROP)のポータブルプレーヤー。航空グレードのアルミ合金を削り出したボディで重量感がある。USBオーディオ機能を持ち、ハイレゾ音源の再生も可能。
(中央)DUNU CDプレイヤー CONCEPT R
中国のオーディオブランド・DUNUの有線ポータブルプレーヤー。航空機アルミCNC精密加工の筐体で、没入感のあるリスニング体験ができる。スライド式フェーダーやハードキーなど、レトロな雰囲気のデザインも魅力。R2Rラダー方式DACを採用し、より自然な音色を実現。USBオーディオ機能によりハイレゾ再生も可能。
(右)SHANLING EC Smart
中国の老舗オーディオメーカー・SHANLINGのポータブルプレーヤー。Hi-FiクラスのCDサーボシステムと、高品質な光学ドライブとして知られる、Sanyo製「DA11」を搭載している。ポップかつスタイリッシュなデザインで、インテリアとしての一役も担う。
ヘッドフォン
(左)MOONDROP(水月雨)「SKYLAND」
2026年2月に発売されたばかりのハイエンド有線ヘッドフォン。特許を取得した直径100mm平面駆動ユニットを搭載している。全帯域で着色の少ない、原音再生が可能。
(中央)オーディオテクニカ「ATH-ADX3000」
純粋でリアルな音場が楽しめる開放型ヘッドフォン。空気の流れをコントロールし、振動板の動きだけで原音再生する。質量257gまで軽量化し、長時間の使用時にストレスが少ない。
(右)Philips「Philips SHP9500CY」
Philipsオーディオ100周年記念モデル「Century」シリーズの新モデルとなるオープンバック(開放型)有線ヘッドフォン。50mmダイナミックドライバーを搭載し、全音域のバランスが取れたナチュラルでクリアなサウンドとリッチな音場を誇るハイコストパフォーマンスモデル。
DREAMS COME TRUE 公演情報
DREAMS COME TRUE CONCERT TOUR 2026 THE BLACK ◯ ALBUM
- 2026年3月21日(土)神奈川県 横浜アリーナ
- 2026年3月22日(日)神奈川県 横浜アリーナ
- 2026年4月4日(土)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
- 2026年4月5日(日)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
- 2026年4月11日(土)愛知県 日本ガイシホール
- 2026年4月12日(日)愛知県 日本ガイシホール
- 2026年4月25日(土)福岡県 マリンメッセ福岡A館
- 2026年4月26日(日)福岡県 マリンメッセ福岡A館
- 2026年5月9日(土)東京都 有明アリーナ
- 2026年5月10日(日)東京都 有明アリーナ
- 2026年5月23日(土)愛知県 日本ガイシホール
- 2026年5月24日(日)愛知県 日本ガイシホール
- 2026年6月2日(火)神奈川県 横浜アリーナ
- 2026年6月3日(水)神奈川県 横浜アリーナ
- 2026年6月20日(土)大阪府 大阪城ホール
- 2026年6月21日(日)大阪府 大阪城ホール
- 2026年7月4日(土)北海道 北海道立総合体育センター 北海きたえーる
- 2026年7月5日(日)北海道 北海道立総合体育センター 北海きたえーる
- 2026年7月18日(土)香川県 あなぶきアリーナ香川
- 2026年7月19日(日)香川県 あなぶきアリーナ香川
- 2026年8月1日(土)広島県 広島グリーンアリーナ
- 2026年8月2日(日)広島県 広島グリーンアリーナ
- 2026年8月29日(土)広島県 広島グリーンアリーナ
- 2026年8月30日(日)広島県 広島グリーンアリーナ
- 2026年9月5日(土)大阪府 大阪城ホール
- 2026年9月6日(日)大阪府 大阪城ホール
- 2026年9月19日(土)福岡県 マリンメッセ福岡A館
- 2026年9月20日(日)福岡県 マリンメッセ福岡A館
- 2026年9月26日(土)神奈川県 横浜アリーナ
- 2026年9月27日(日)神奈川県 横浜アリーナ
プロフィール
DREAMS COME TRUE(ドリームズカムトゥルー)
ベーシストでありコンポーザー / アレンジャーの中村正人と、ボーカリストでありコンポーザー / パフォーマーである吉田美和の2人からなる。2人であることを核に、結成当時から「ポップスの追求」「血湧き肉躍るライヴ」を両輪として活動。2024年にデビュー35周年を迎え、2025年には大阪・関西万博開催記念「EXPO EKIDEN 2025」テーマソング「ここからだ︕」をCDでリリースした。同年7月にテレビ朝日系ドラマ「大追跡~警視庁SSBC強行犯係~」主題歌「BEACON」を配信リリース。また4月から9月にかけてドリカムが企画に全面協力したテントシアター「渋谷 ドリカム シアター」が行われ、大きな話題となった。2026年3月に19枚目のオリジナルアルバム「THE BLACK ◯ ALBUM」を発表。「CDファースト チャレンジ!」と銘打ち、CDのみでリリース。このアルバムを携え、3月から9月にかけて全国ツアー「DREAMS COME TRUE CONCERT TOUR 2026」を開催する。
DREAMS COME TRUE 9年ぶりのオリジナルNEWアルバム 『THE BLACK ◯ ALBUM』
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映秀。(エイシュウ)
2002年3月17日生まれのシンガーソングライター。高校時代に作詞作曲を始め、2020年12月に1st EP「別解」、2021年3月に1stアルバム「第壱楽章」をリリースした。2026年1月には往年の名曲「Fly Me To The Moon」とアニメ「サイバーパンク:エッジランナーズ」から着想を得て制作した「Fly You to the Moon」を、さらに自身の誕生日である3月17日には新曲「寄り道」を立て続けに配信リリース。5月には東名阪ツアー「Fly You to the Moon Tour」を開催する。
野村ケンジ(ノムラケンジ)
オーディオビジュアル評論家。イヤフォンやヘッドフォンなどのポータブルオーディオ製品をメインに、さまざまなレビュー記事を執筆している。YouTubeで「ノムケンLabチャンネル」を公開中。











