CD全盛期と現代の絶望感
──中村さんは初めて買ったCDを覚えていますか?
中村 全然覚えてない。アナログで最初に買ったのはトワ・エ・モワだけど(笑)、最初に手にしたCDはひょっとすると自分たちの1stアルバムかもしれない。1stアルバムはCDだけでアナログレコードは出ないと言われて、すごく心配したもん。CDだけでいいの?って。それまでのアルバムはアナログレコードとカセットを必ず出してたから。
映秀。 カセットも出してたんですか?
中村 そうだよ。最近また若い世代の間で人気だよね。配信がメインになる前は、いろんなメディアで音楽を届けていたんだ。これは余談だけど、今のクリエイターたちは制作費に対して配信だけではペイできない。だけど本人たちに聞くとそれで全然構わないんだよね。曲を作るお金はいつか取り戻せればいい、あるいはライブで取り戻す。1曲を売って儲けようとは思ってない。
映秀。 そうですね。僕がお金にあまり頓着がないからかもしれないですけど、楽しく音楽ができてればいいか、みたいな。
中村 僕たちが若い頃は、ミュージシャンはとにかくモテたい、お金持ちになりたい、いい車に乗りたい。欲望だけが音楽の原点だったんだ。次のジェネレーションにアドバイスできることはヒット曲の作り方じゃなく「プロとしてキャリアをどうやって続けたらいいか」しかないわけ。ただ、今はそういうアドバイスをしようとすると「いや、いいです。楽しくなくなったらやめますから」という人のほうが多いね。
映秀。 それは選択肢が増えすぎたからかもしれないです。音楽がダメなら別の仕事で、みたいな。もちろん音楽だけで持続的に稼げるのが理想ですけど。
──CD全盛期は音楽だけで稼ぐことができた時代でもありました。DREAMS COME TRUEは1989年の2ndアルバム「LOVE GOES ON…」がミリオンセラーになり、92年の5thアルバム「The Swinging Star」は日本で初めて300万枚を売り上げました。
映秀。 300万枚!?
中村 いやいや、GLAY(1997年「REVIEW-BEST OF GLAY」480万枚)や宇多田ヒカルさん(1999年「First Love」770万枚)、ユーミンさん(1998年「Neue Musik」380万枚)もすごかった。一番売れていた頃なんて、レコード店からバックオーダーが毎日35万枚来てたんだから。
野村 時代ですね。
中村 売れたときはうれしかったよ。儲けたお金で作りたい音楽が作れたから。例えば、自分のスタジオが欲しい、最新のシンセを買いたい、高いコンピューターでもっと効率よく作りたい、腕のいいサポートミュージシャンやスタッフを雇いたい。その欲求だったんだ。配信が主流になって以降、今のクリエイターたちのベースにある欲求は僕らの時代と根本的に変わっちゃったんだろうね。
映秀。 稼ぐ、何かを手に入れる、みたいな強い感情を持っている人はレアですね。経済的な側面もあって、現実的にがんばっても報われないという漠然とした絶望感は僕らの世代には正直あると思います。
音質と表現力は別物
中村 マジか……どうする? 野村くん。
野村 僕はハードウェアの評論がメインなので、今回のアルバムのように音にこだわった作品を作ってくださると本当にありがたいです。例えば2曲目の頭、すごく作り込んだドラムから入るじゃないですか。
中村 あれは僕のエディット。
野村 ああいう音を再生すると機材の本性がバレるんです。だから「これはこういうふうに聴くといいよ」と言えるし、買う方々も「なるほど、この会社の製品はいいね」という話にもなるので。
中村 リファレンスだよね。ただ、うちはオーディオ評論家に向けて音楽を作ったことはないんだ。なのにオーディオ評論家はこの音は悪いとか、レンジが狭いとか批評するんだよ(笑)。
野村 僕がよく言うのは、音質と表現力は別物であり、いわゆる「音がいいこと」は表現力を高めるうえでのひとつのファクターなんです。
中村 いい言葉だ!
野村 「ああ、この人の声いいな」とか「演奏にリアリティを感じるな」とか、そういう表現力が音楽にとって一番大事なことで、極論を言えば音質がダメだろうが、音楽さえよければそれでいいんです。
中村 ローファイ=悪い音楽じゃないってことだね。
野村 今回のアルバムはサンプルCDを用意していただいて、CDプレーヤーで聴いたんです。そしたらトラックは切ってあるけど、これ1トラックでもいいんじゃないかって正直思いました。
中村 プリンスが「LOVESEXY」(1988年)でやったように?
野村 そうです。あのアルバムを思い出しました。奇しくも彼が今作と同名「ブラック・アルバム」を直前で発売中止にして、代わりにリリースした作品でしたね。僕もプリンスは大好きなので。
中村 今考えると傲慢なアルバムだったね(笑)。全9曲なのにわざとトラックナンバー入れてないの。頭から通して聴いてほしいから。
映秀。 まとめて全1曲ってことですか? すごい!
野村 何かとせっかちな世の中なので、すぐ次の曲へ飛ばしがちですけど、最初はBGM代わりでいいから、映画を1本観に行くつもりでアルバム1枚を通して聴いてみてほしいです。
中村 昔はアルバムの1曲が終わると、次の曲のイントロが流れる前に頭の中で聴こえてきたんだよね。それくらいアルバムって何度も何度も繰り返し聴くものだったんだ。うちはCDでデビューしたけど、シングルで売りたいバンドでは全然なかったの。だから今でも人気がある当時の曲はみんなB面やアルバムの曲ばかり。シングルヒットは眼中になかった。
映秀。 「この1曲が伸びてほしい」とか思わなかったんですか?
中村 まったくなかった。しかも1st(1989年3月21日リリース「DREAMS COME TRUE」)と2nd(1989年11月22日リリース「LOVE GOES ON…」)を同じ年に出していて、1stはドリカムのダンサブルな側面、2ndはドリカムの音楽の幅を出すために最初から作っていた。今じゃ途方もない考え方だけど、1stと2ndの2枚でドリカムのデビューアルバムにしたかったの。だけど、映秀。くんにはアルバムという概念がないんだもんね。
映秀。 いや、だんだん作りたくなってきました(笑)。
中村 今後バラバラな10曲をどうやって1枚のアルバムにするか、考える機会もきっとあると思う。例えば、曲と曲の間にインタールード(間奏)を入れてつなげてみたりね。僕はCD文化の火を消したくないんだ。レコード会社の存在意義のひとつに、ビジネスにならない音楽を出すことがあったの。月日とともに消えていく音楽を収録して記録に残すことは、プロにとってひとつの使命なんだ。それが配信だけになって利益率が悪くなると、できなくなってしまう。貴重な音源を後世の人が聴く手段が永遠になくなるわけ。
野村 実際そうなっていますよね。
新たなCDブームの兆し
中村 この前ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文くんと対談したんだけど、後藤くんはお金がないミュージシャンでも手軽に使える音楽スタジオを地元の静岡に作ったんだって(参照:ついに完成した藤枝市のスタジオ「MUSIC inn Fujieda」に行ってみた | 「MUSIC inn Fujieda」ができるまで~ゴッチのスタジオ設立奮闘記~ 第5回)。バンドってお金がかかるんだ。最近アメリカからバンドがいなくなってるのはそれが理由で、トラックメイカーと歌い手の2人だけでできる音楽が主流になってるけど、果たしてそれでいいのか?という思いがあるんだよね。僕らのように先輩が築き上げた大きな資本の下で音楽をやらせてもらった人間としては、なんとか恩返しをしたいと思っているんだけど。
野村 ただ、一方で新たな潮流があって、音にこだわるリスナーの間でCDが新たなブームになりつつあるんです。
中村 おっ! やった。うれしいなあ!
野村 これは中国発信のブームなんです。実は中国はアナログレコード、カセットと来て、いきなり配信の時代になったから、CDを体験していないそうなんですよ。
映秀。 面白い!
野村 例えば今日お持ちしたオーディオ製品の会社の社長たちはみんな30代と若いんです。彼らは海外に行って「あのCDってのは何?」と思ったそうで、日本に旅行に来るたび1枚100円で売られているJ-POPの中古CDを何千枚と買い漁って、CDを楽しんでいたらしいです。
中村 それ、仕入れとしては最高だよね(笑)。
野村 彼らはデノン、ソニー、ティアックといった日本製のビンテージCDプレーヤーで楽しんでいたけど、若い人たちにも広めたいという思いから自分たちでプレーヤーを作り始めた。最初は1万円以下でとりあえずCDが再生できればよかったらしいんですが、彼らはもともと有線イヤホンなど凝った製品を作っていた人たちなので、いや、もっといい音出せるぞと。MOONDROP(水月雨)の本社に行くと1階がカフェになっていて、ソニーの初代ウォークマンなどビンテージオーディオ製品がズラッと並んでるんです。彼らの作ったプレーヤーをきっかけに、日本の若い音楽ファンの間で再びCDプレーヤーが流行り始めています。ちなみに今日お持ちしたハイクラスのポータブルプレーヤーは、音が悪くなるからあえてBluetoothは入れてないんです。
中村 Bluetoothは音楽信号を圧縮するから音質を劣化させるもんね。その代わり光学のアウトは付いてるんだ?
野村 完全に昔のソニー的な考え方です。今の海外の人たちは、日本のCD文化が豊かだった時代をよく知っていて、うまく拾い上げてくれたので、それが日本でも肯定的に受け入れられている感じですね。
次のページ »
CDがなくなるのはもったいない











