ナタリー PowerPush - DOPING PANDA
バンドの新たな境地を切り開くいびつな最高傑作が完成
DOPING PANDAが約1年3カ月ぶりとなる3rdフルアルバム「decadence」をリリースした。本作には、去年の夏を席巻したキラーチューン「beautiful survivor」はもちろん、ヒダカトオル(BEAT CRUSADERS)をゲストボーカルに迎えた「Lost & Found」、ハリウッド映画の主題歌に起用された「gaze at me」など話題の楽曲が盛りだくさん。紛う事なきドーパンの最高傑作に仕上がっている。
だが、これほどのアルバムを作り上げたというのに、首謀者であるYutaka Furukawa(Vo,G)の表情はどこか煮え切らない様子。インタビューは思わぬ方向に転がり、DOPING PANDAの音楽に対する姿勢や、ライブの哲学までを 浮き彫りにするものとなった。誤解を招きそうな発言も少なくないが、以下のロングインタビューからぜひその発言の本質を捉えてもらいたい。
取材・文/大山卓也 インタビュー撮影/中西求
達成感がまったくない
——ニューアルバム「decadence」を聴かせてもらって、これまで以上に完成度が高く、細部まで丁寧に作られていることに驚きました。Furukawaさん自身、できあがってみての感想はどうですか?
うん、スキルもテクニックもすごいし、メロディもアレンジも過去最高です。それは間違いないです。ただこの作品を作り終わって、達成感みたいなものは、ないんですよねえ。
——達成感がない?
そう、「Dopamaniacs」を作り終えたときには、到達した感じがあったんですよ。ああ、来るところまで来たなって。でも今回は間違いなく最高傑作を作ったにもかかわらず、まったくないんですね、達成感が。うん。思い描 いていたゴールが遠くなったのか、ただ単に目の前が見えなくなっているのか。それは僕だけが持っている感覚なのかもしれないですけど。こんなことを急に言われても、インタビュアーさんはみんなビックリされるんですけど(笑)。
——ビックリしますよ(笑)。だってすごくいいアルバムですよ?
なんなのかわからないですけど。とにかく達成感がないんです。
——じゃあちょっと質問を変えますね。今回のアルバムは、これまでのドーパンのイメージをある意味くつがえす内容で、いわゆるダンスロック的なサウンドから離れた楽曲も多くて。明確な意志のもとにシフトチェンジを図ったのかな、と感じたんですが、制作時のコンセプトはどんなものだったんでしょうか?
うーん、その、音楽的なコンセプトっていうのは今までどおり、ないんです。だけど、意識的なコンセプトっていうのかな。それはあって。要するに物事を平均化して、研磨して、世の中に提示する方法はイヤだってことですね。自分の頭で鳴っている音を100%再現したかった。古川裕の本質、DOPING PANDAの本質は何なんだっていう話ですよ。確かにこれまでずっとスキルアップしてきたけど、1個1個の音に自分の哲学が入ってないなら意味がないんです。
僕の音楽がそのままわかってもらえるわけがない
——つまり今回のアルバムでは、100%の作りたい音は作れなかったということですか?
いや、逆に自分の作った作品の反応速度を上げるためには、100%の自分をそのまま出してもダメなんですね。いろんな人の意見を取り入れて研磨する必要がある。
——反応速度というのは?
ええと、僕が作る音楽はですね、田舎の女の子が試聴機で一発聴いただけで「あ、これカッコいい」って思えるようなものじゃないんです。一日中音楽に浸かって、いろんなスキルを磨いてる、この僕っていう人間が作った音楽が、そのままの状態でわかってもらえるわけがないんですよ。わかったらおかしいんです。
——確かに、Furukawaさんの頭の中で鳴っている100%の音は、一般的なリスナーが求めるものより一歩も二歩も先に行っているんだろうな、というのは感じます。
だからそれをわかるようにするための作業が、いろんな人の意見を取り入れて曲を研磨したり、宣伝やタイアップで曲を何度も聴いてもらうってことだと思うんですね。それが反応速度を上げるっていうことなんです。
——なるほど。
それが、この音楽業界のシステムの中で音楽を作るっていう作業なんですね。そうじゃなかったら、システムの外で作ってください、ということになるんです。ただ、この先の音楽産業の未来はどうなるのかっていうと、パッケージっていうものの存在がどんどんあやふやになっていく。だからこそ僕は今、このマーケットの中で本質的なものを作る努力をしていきたいと思ってて。でもその方向があってるかどうかもわからない上に、今は現行のシステムが生きてるわけだし 。難しいです。音楽産業も過渡期だけど、僕自身もすごく過渡期というか。
——でもとにかくFurukawaさん自身は音楽産業が衰退していく空気を感じつつも、音楽の本質に向かっていくと。もうその覚悟は決まったということなんですね。
そうですね。本質に向かうっていうそのキーワードがなかったら、今頃僕はあわてふためいていたかもしれない。稼げるうちに稼ごうって発想でアルバムを年に2枚出してみたりとか、ベストアルバムじゃんじゃん出そうとか 。でも自分は幸か不幸かそうじゃなかったっていうことですね。
わかってもらう必要があったのかな
——逆に言えば、音楽の本質というものを強く意識してしまったおかげで、達成感が感じられないのかもしれないですね。目指すゴールが遠すぎて。
そう、だから100%自分が思うものを作れるかどうかは別としても。やっぱり作っていく方向に向かわなきゃいけないとは思ってます。でも、それはすごく危ない方向でもあって。
——それはリスナーを置いてけぼりにしてしまうということ?
うん、研磨をしないいびつなものはやっぱり手に取りにくいんですよ。自分の手にはすごくフィットするんだけど、それだと多くの人には受け入れられない。でも受け入れられることがいわゆるアメリカ式、ビルボード式音楽産業構造の価値基準ですからね。
——そこを狙っていく?
いやいや、そこはなくなるんですよ。もう実際なくなりはじめてるし。
——でもFurukawaさんが現在のマーケットの状況をそこまで意識しているなら、自分が作ったものをわかりやすく研磨してメジャーのパッケージに乗せていくということには、もう必然性を感じなくなってしまうんじゃないですか?
感じなくなってきてるから、あの、インタビューがつらいんです。
——(笑)。でも確かに研磨して丸くしてっていう作業は、クリエイティブの本質とは逆の方向かもしれませんね。
そうですよ。例えば絵を描いている人がそんな作業をするか、っていうことですよね。しないです。絶対にしないです。
——でも研磨して、ある種ポップにコーティングすることで多くの人に届くわけですし、それこそ田舎の中学生にもわかってもらえるようになるわけですよね。
うーん、わかってもらいたかったんですかね、僕は。
——違うんですか?
わかってもらいたかったかな。わかってもらう必要があったのかな。
——難しいインタビューになってきましたね(笑)。
わかってもらった先には得るものがいっぱいあったし、それが正しいと思ってたのは確かなんです。うん。だからこそ、ある程度のトーンとマナーを守りながら研磨もしてたし。実際それが上手かったかというと、まあむしろ下手だったんだろうけど。でもなんか、そこに本質的な意味があったかっていうと、どうなんでしょうね。作った音を丸くして田舎の子にすぐ理解してもらうことが嬉しいかっていったら、僕は嬉しいんですかね。
——まあ、そこまで丸くしたこともなかったですけどね。
まあね。だからわかってもらえなかったんですかね(笑)。
CD収録曲
- introduction
- decadence
- majestic trancer feat. VERBAL(m-flo)
- beautiful survivor
- Lost & Found feat. TORU HIDAKA(BEAT CRUSADERS)
- crazy one more time
- the idiot
- the edge of outside
- beat addiction
- gaze at me
- standin' in the rain
- I was just watchin' you
DVD収録内容
- Hi-Fi
- The Fire
- MIRACLE
- Blind Falcon
- Can't Stop Me
- The fast soul got all(reason)
- I'll be there
- Crazy
- nothin'
- beautiful survivor
- majestic trancer
- beat addiction
DOPING PANDA(どーぴんぐぱんだ)
YUTAKA FURUKAWA(Vo,G)、TARO HOUJOU(Ba,Cho)、HAYATO(Dr,Cho)から成る3ピースバンド。1997年の結成当初は主にパンク/メロコアシーン界隈で活動していたが、生来のダンスミュージック好きが独自の発展を見せ、後にエレクトロとロックのハイブリッドな融合を担う存在に。インディーズでのブレイクを受けて2005年にミニアルバム「High Fidelity」でメジャーデビュー。時代の空気を反映させたサウンドとエンタテインメント性抜群のライブパフォーマンスで、幅広いリスナーからの支持を獲得した。全国各地でツアーやライブ出演を精力的に展開し、ロックフェスティバルでは入場規制を頻発させている。2008年にはイギリスで初の海外公演を開催。ワールドワイドな活動にも注目が集まっている。