堂村璃羽「夜景」インタビュー|月のように身勝手で構わない。自分に優しくするための音楽 (2/2)

月は「自分に優しくすること」の象徴

──では配信アルバム「夜景」について聞かせてください。タイトル通り、夜を想起させる作品ですね。

最初にテーマを決めてから作り始めました。月が好きなんですよ、昔から。太陽はみんなを照らすし、昼間は歩きやすいじゃないですか。一方で、月は自分のことしか照らさない感じがするし、夜は街灯も必要。“太陽は人思いで、月は身勝手”みたいなイメージもあるんですけど、月は全然悪くないと思うんです。これまでの歌詞でもけっこう書いてるんですけど、僕は人に気を遣うよりも、まずは自分に気を遣ったほうがいいという考え方なんですよ。自分の人生なんだから、自分を大切にするのは当然。余裕ができたら、他人のことを考えればいいんじゃないかなって。自分のことがうまくいってると、人にも優しくできるはずだと、よく思うんです。例えば店員さんにキツく当たってる人も、余裕がないから怒ってしまうんだと思うし。

堂村璃羽「夜景」配信ジャケット

堂村璃羽「夜景」配信ジャケット

──なるほど、自分に優しくすることの象徴が“月”なんですね。このアルバム、全体的に音数が少ないですよね。

トラックメイカーの方も携わってくれてるんですが、シンプルにしようという話はしてました。「夜景」というアルバムなので、夜に聴くのに適したものにしたくて。リラックスできるビートや曲調もそうだし、自分の声もどちらかというと柔らかめで、低めの成分を生かして。その結果、寝るときにも聴けるようなアルバムになったと思います。もともと僕は音数が少ない曲が多いんですけどね。そのうえで言葉数を増やして、きれいに歌い上げるのが好きなので。伝えたいことがたくさんあるし、歌詞だけを読んでも刺さるものにしたいという気持ちもあります。

──曲作りは、トラックに合わせて歌いながら?

そうですね。ビートを流しながらフリースタイルでメロディを歌って、いい感じのメロディが浮かんだら、そのまま歌詞をバーッと書いて。ヒップホップっぽい作り方なんですけど、メロディもしっかりあるし、でも韻も踏んでるっていう。ジャンルに捉われず、作りたいように作ってます。

馬鹿にされても夢を追う、自分自身を反映した「Prima Stella」

──リード曲の「Prima Stella」について、堂村さんは「今、作りたい音楽そのものをぶつけました」とコメントしていますね。

まさに一番作りたかった楽曲ですね。周りの人に馬鹿にされてもがむしゃらに夢を追う少年と、彼に恋する少女が登場するという、ストーリーや裏設定をしっかり作り込みました。いつか小説にしたいくらい思い入れがありますね。主人公の少年には自分自身のことも反映しています。さっきも言いましたけど、何もやってないのに「俺は有名になる」って言っちゃうような人間だったし、傍から見れば「あいつ、馬鹿じゃねえの」と思われてただろうなと。でも好きだから音楽を続けてきたし、それが今につながっていて。まったく名前を知られてないとき、全然芽が出てない時期から応援してくれていた人もいるし、いろんなことを思い出しながら作りましたね。楽曲自体はきれいに終わってるけど、実はバッドエンドなんです、この曲は。それから、みんなで歌える曲にしたいという気持ちもありました。

堂村璃羽

──ライブ映えも意識していた?

はい。僕のライブはどちらかというと、しっかり聴き入ってくれる方が多くて。もちろんすごくうれしいんですけど、1曲くらいはみんなで歌える曲が欲しいなと思ってたんですよね。「Prima Stella」はアルバムの中でも一番激しい曲だし、ライブでもしっかり共有できると思ってます。特にサビはぜひ覚えてほしいです!

──世の中の状況的にも、声出しOKの公演が増えてきていますからね。ちなみに、堂村さんが周りの人になんと言われようとも、やりたいことを貫けたのはどうしてだと思いますか?

うーん……。まず、僕はメンタルがめっちゃ強いんですよ。否定的なことを言われても耳に入ってこなかったし、「俺の人生やし、好きなことやるわ」と思ってたので。馬鹿にされたとしても、あとで見返せるじゃないですか。ストーリーの土台になるというか、馬鹿にされてたのはむしろよかったかも(笑)。あと「今は何者でもないから、何にでもなれる」が口癖でした。

──すごい。鬼メンタルですね。

もともとそういう感じなんですよ(笑)。人間関係もそうで、例えば誰かに「〇〇は性格よくないから、仲よくしないほうがいい」と言われても、「俺は別にイヤなことされてないし、これからも仲よくするよ」と言い返すタイプ。そういうところは今も変わってないですね。

全部さらけ出した真っ裸ソング

──アルバムには堂村さんらしい生々しいラブソングも収録されています。先行配信曲「Romantic」は題名通り、ロマンティックな恋愛を夢想する男性が主人公。そして「長年付き合っていた恋人と別れる歌」は切ない失恋ソングです。

恋愛映画を観てるときに、好きな人のことを考えることってあると思うんですよ。映画の登場人物を自分に置き換えたり、その世界に入り込んで妄想したり。そんなことしてるって人には言えないけど、共感してくれる人も多いだろうなと思って書いたのが「Romantic」です。「長年付き合っていた恋人と別れる歌」を書いたのは高校のときからの友達が、8年くらい付き合ってた彼女と別れたのがきっかけですね。そいつから「ええネタできたやろ? 曲にして」と言われて。

──4曲目「君が愛を知りたいと言ったから」には、「お前をずっと 愛し続ける」というストレートな歌詞がありますね。

この曲は自分でも気に入ってます。もともとは後輩のPAREDに提供しようと思って作った楽曲なんですよ。2人で一緒に制作したんですけど、あまりにもいい曲だから「俺のアルバムにも入れていい?」「もちろんです」みたいな話をして。人に提供するときって、絶対にいい曲にしたいと思うから、自分で歌いたくなるんですよね(笑)。

──続く「Memory」は、恋人との思い出をプレイバックするような楽曲ですね。

配信ライブの最中に作った曲ですね。「夢の国行った思い出も 夢となり今襲ってくるよ」とか、気に入ってる表現もあって。地声で張り上げるところは男性、裏声のパートは女性目線で歌ってたり、ラストのサビでまったく違うメロディが出てきたり、聴き応えがある曲になったと思います。

堂村璃羽

──そして「Sorry」には、堂村さん自身の活動のこと、ファンとの関係などが赤裸々につづられています。まるでドキュメンタリーのような楽曲ですね。

確かに、めっちゃ自分の話ですね。2022年の中盤あたり、音楽をサボってた時期があって、その頃のことをそのまま歌にしてます。その頃はなんて言うか、気分が乗らなかったんですよね。いつも作り始めたら2、3時間くらいで1曲できるんですけど「やろうと思えば、いつでも作れるやん」と思ってしまって、作らなくなっちゃったんです。「作らないといけない」と思うと、余計にできなくなるというか……「それって仕事だよな」と。

──音楽は仕事じゃない、と?

「音楽は仕事でしょ」と言われると、違和感がありますね。あくまでも好きなことをやってるだけで、ビジネスにしているつもりはないので。ただ、こうして音楽で生活しているのは確かで、それはファンのみんなのおかげなのもわかっていて。曲を作ってなかった時期は、遊んでるようにしか見えなかったと思うし、実際にファンを辞めた人もいます。一方で、それでも応援し続けてくれる人もいて、「裏切っちゃいけない」という気持ちが芽生えた。そうなったときに、ありのままを曲にしてアルバムに入れようと。「Sorry」は全部さらけ出した、真っ裸ソングです(笑)。取り繕うこともできたんだろうけど、嘘はつきたくないので。

上は果てしてない、あえて目標を定めず行けるところまで

──さらにアルバムには過去曲の再録バージョンも収録されています。すごく濃密な作品になりましたね。

そうですね。1人でやってたときは、曲ができるとすぐにリリースしてたんですよ。今回はアルバムという形にできて、まとめて曲を聴いてもらえるのもうれしくて。アーティストっぽいというか、「歌手してるな」って感じです(笑)。

──メジャーレーベルと組むことも、大きなターニングポイントですよね。

さっきの「仕事だと思ってない」という話にもつながるんですけど、商業的な音楽にしたくないという気持ちがあるんですよ。ただ、個人でやれることには限界があるし、メジャーレーベルの力をお借りすることで、もっとリーチを伸ばして、いろんな人に音楽を届けられるんじゃないかなと。自分は変わらず“好き”を追求しながらやりたいことをやって、ビジネス的な部分をレーベルのスタッフに見てもらう。それが理想的だと思ってます。

──昨年11月に事務所「BLUEMOONMUSIC」を立ち上げましたが、ここには堂村さん以外のアーティストも参加する予定だとか。

はい。所属するメンバーの発表はこれからなんですが、まったく知らない人はいなくて、前から交流のある仲間とか後輩ですね。これまでの活動の中で身に付けたこともあるし、いろんな情報とか知識を共有しながら、身内で少しずつ上がっていけたらいいなと。もともとそんなに友達が多いほうではないんです。STUPID GUYSというユニットを一緒にやってるたかやんとか、さっきも話に出たPAREDとか、本当に仲がいいのは5人くらいかな。こじんまりしてます(笑)。

──最後に2023年の展望を教えてもらえますか?

ライブも増やしたいし、曲もどんどん出していきたいです。1曲バズったら、ずっと引っ張るというやり方もあるだろうけど、今は量産したくて。今日もここに来る前に、歌詞を書いてきたんですよ。

──「有名になりたい」という思いも継続してます?

はい。この前も「今年は去年よりももっと大きくなるので ぜひ応援よろしくお願いします」とツイートしたんですけど、そうやって言葉にしたほうがいいと思っていて。1年後に本当に大きくなってたら「1年前から言ってたよ」と言えるじゃないですか(笑)。ただ、あえて具体的な目標は立てないんですよ。「あの会場でライブをやりたい」という思いとかもなくて、目標を立てたらそこで満足しちゃうので、行けるところまで行きたい。上は果てしてないですからね。

堂村璃羽

プロフィール

堂村璃羽(ドウムラリウ)

兵庫県淡路島出身、1998年1月12日生まれのシンガー。18歳のときに関西の大学に通いながらツイキャスやYouTubeで歌い手としての活動を開始。その後、大学を中退し、上京してオリジナル楽曲制作の活動を本格化させる。2019年発表の楽曲「FAKE LOVE」の赤裸々な歌詞が共感を呼び、Spotifyバイラルチャートでトップ10にランクイン。同年リリースの「Escepe - EP」はApple Musicのヒップホップジャンルの日本トップアルバムで7位を記録した。2022年11月に自身の事務所・BLUEMOONMUSICを設立。2023年1月に5thアルバム「夜景」を配信リリースした。自身の作品のほか、にじさんじ所属バーチャルホストの不破湊や、こはならむ、PAREDらへの楽曲提供でも注目を浴びている。たかやんとのユニット・STUPID GUYSとしても活動中。