音楽ナタリー PowerPush - ディズニーカバーアルバム特集
中塚武が見つけた カラフルな箱庭アルバムの作り方
カラフルなものが好き
──最初の話に戻るんですけど、中塚さんが年間パスポート保持者だって知ったときに驚きつつも、中塚さんがこれまで作ってきたカラフルなサウンドのイメージからすればディズニーがルーツであっても違和感はないなって納得しちゃう部分があったんです。実際はお酒が飲めるようになってからハマっていらっしゃってたわけなんですが(笑)。
そうですね(笑)。でもカラフルなものは昔から好きですよ。青一色でクールなセガよりも任天堂の暖色寄りで多色な感じのほうが僕は好きだったし。その部分はディズニーの色とりどりなイメージと共通してると思います。音楽を始めたときもたくさんの色を音にしようって思ってて、わりと色と音は僕の中で強くリンクしてるんです。Eは黄色、B♭は紫、みたいに。
──なるほど。
あと徹底した箱庭感もディズニーの作品としてのいいところだと思っています。ほかのテーマパークだと、非現実世界という感じが薄くて、どこかに現世を感じるスキがあったりします。僕がナムコに入った理由も、元々はパックマン好きで入ったんですけど、あのカラフルで閉じまくった世界が好きだったからなんです。鳥山明さんの「Dr.スランプ」などもペンギン村っていう閉じたパラレルワールドの中に魅力を感じる。ゲームを作るのも音楽を作るのも、現世から離れた箱庭を作りたいという衝動かもしれません。
大人の事情のないところで生まれる作品
──中塚さんにとってディズニー音楽の魅力はどこですか?
アラン・メンケンがいて、シャーマン兄弟がいて……ディズニーには素晴らしい作曲家さんがたくさんいるってところもそうですし、生まれたディズニーソングがスタンダードたりうる耳の残りやすさを持っているというか、群を抜いてるなあって思うんです。
──確かに、今回のアルバムの収録曲は全部歌えてもおかしくないナンバーが揃ってます。こういった楽曲がなぜディズニーから生まれると思いますか?
タイアップありきとかそういう大人の事情をまったく寄せ付けないところで生み出すからでしょうね。作品1つひとつの世界観ありきで楽曲が作られて、作品が一番偉い。おそらくどのディズニーの人たちより、ヘタすればウォルト・ディズニーよりも作品が偉いんですよ。作品に人間のほうが合わせる作品至上主義。そういうところが徹底されていると思うんですよね。
──中塚さん主体で自由に制作できたという点ではこのアルバムも “作品至上主義”によって生まれた作品と言えますね。
そう。なんのしがらみもなく作れましたからね。すごく遊ばせてもらえたっていう。
──制作時に「ここはこうしてくれ」っていうオーダーは?
それが1個もなかったんですよ。びっくりしますよ!(笑) 直しゼロです。よくピクサーとかのスタジオがすごく自由だって映像で紹介されるじゃないですか。「あの自由ってこのことか!」ってよくわかりました(笑)。
──なるほど。
その代わり、この作品のクオリティにおける全責任は僕にあるんです。少しでも大人の事情が入ると責任の所在がはっきりしなくなって、クオリティにおける僕の責任が相対的に薄まってしまう。「あんな事情がなければもっとよくなったのに」っていう言い訳ができてしまったり。人にもよるのかもしれませんが、その徹底した自由と責任が僕にはすごくやりやすかった。自分は自由に作品を作らせてもらうことが性分にあってるんだなってハッキリしましたね。
──今回の制作を通じてディズニーのまた1つ新しい一面を知ることができた?
ですね。クリエイティブな制作に関する姿勢っていうか……たぶん僕のときだけじゃなくどんな作品でもそうだと思うんですけど、ディズニーが何かを作ることに対しての、そしてそのクオリティに対しての、徹底した考え方みたいなものがわかりました。やっぱり作品至上主義じゃないとシンデレラ城のプロジェクションマッピング「ワンス・アポン・ア・タイム」や、シーの「ファンタズミック!」みたいに強烈で感動的なものなんか生まれないんですよね。
- 中塚武 カバーアルバム「Disney piano jazz “HAPPINESS” Deluxe Edition」 / 2014年11月12日発売 / 2700円 / Walt Disney Records / AVCW-63044
- 中塚武 カバーアルバム「Disney piano jazz “HAPPINESS” Deluxe Edition」
収録曲
- 小さな世界(ニューヨーク・ワールドフェア)
- 愛を感じて(ライオン・キング)
- 美女と野獣(美女と野獣)
- メインストリート・エレクトリカル・パレード(ディズニーランド)
- パート・オブ・ユア・ワールド(リトル・マーメイド)
- ビビディ・バビディ・ブー(シンデレラ)
- いつか夢で(眠れる森の美女)
- レット・イット・ゴー(アナと雪の女王)
- ホエン・シー・ラヴド・ミー(トイ・ストーリー2)
- 君がいないと(モンスターズ・インク)
- ハイ・ホー(白雪姫)
- 星に願いを(ピノキオ)
- スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス(メリーポピンズ)
- アンダー・ザ・シー(リトル・マーメイド)
- 輝く未来(塔の上のラプンツェル)
- ホール・ニュー・ワールド(アラジン)
- チム・チム・チェリー(メリーポピンズ)
- ふしぎの国のアリス(ふしぎの国のアリス)
- お砂糖ひとさじで(メリーポピンズ)
- くまのプーさん(くまのプーさんとハチミツ)
- レット・イット・ゴー(イン・クリスタル・クリスマス)(アナと雪の女王)
- V.A.「Bossa Disney Best」 / 2014年11月12日発売 / 2700円 / Walt Disney Records / AVCW-63045
- V.A.「Bossa Disney Best」
収録曲
- レット・イット・ゴー(アナと雪の女王) / 小野リサ
- ホール・ニュー・ワールド(アラジン) / イヴァン・リンス
- ハイ・ホー(白雪姫) / ジョイス
- 美女と野獣(美女と野獣) / ミウシャ
- スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス(メリー・ポピンズ) / サニー・アルヴェス
- 輝く未来(塔の上のラプンツェル) / ガブリエラ・アンダース
- パート・オブ・ユア・ワールド(リトル・マーメイド) / クラウデッチ・ソアレス
- メインストリート・エレクトリカルパレード(ディズニーランド) / ジョタ・モラエス・グループ
- 君はともだち(トイ・ストーリー) / べナ・ロボ
- 想いを伝えて(魔法にかけられて) / ケイシー・コスタ
- いつか夢で(眠れる森の美女) / ワンダー・サー&ジョアン・ドナート
- アンダー・ザ・シー(リトル・マーメイド) / べナ・ロボ
- 星に願いを(ピノキオ) / ジョイス
中塚武(ナカツカタケシ)
1998年、自身が主宰するバンドQYPTHONE(キップソーン)でドイツのコンピレーションアルバム「SUSHI4004」に参加。国内外での活動を経て2004年にアルバム「JOY」でソロデビューを果たした。その後はCM音楽やテレビ&映画音楽、アーティストへの楽曲提供など活動の幅を広げ、2010年には自身のレーベル「Delicatessen Recordings」を設立。2011年にはレーベルオフィシャルサイト内にて新曲を定期的に無料配信する「TAKESHI LAB」をスタートさせた。2014年4月にはソロ活動10周年を記念したベストアルバム「Swinger Song Writer -10th Anniversary Best-」をリリース。2014年11月にディズニー楽曲のカバーアルバム「Disney piano jazz “HAPPINESS” Deluxe Edition」をリリースした。