振り逃げでもいいから塁には出ようと思ってた
──今、はっとりさんから「友達」とありましたが、2人は今回コラボする前からの友達なんですよね?
北村 そうですね。さっき“不思議なつながり”の話をしましたけど、実はあいみょんがつなげてくれたんですよ。「猫」より前かな。20歳のとき、食事の場で会ったのが初めてでしたね。
はっとり あいみょんと匠海くんはすでに知り合いだったから、仲のいい後輩ってことで紹介してくれて。最初はゆっくり話せなかったんだけど、そのあとにフェスや音楽番組で一緒になったりして。だから、今回お話をもらったときはうれしかったし、いいものを作りたいという思いが強かったし、かつ、「猫」のプレッシャーもすごかった(笑)。
北村 あはははは(笑)。「猫」を書いてくれたあいみょんがつなげてくれた仲でもあるし、「はっとりくん燃えてるんだろうな」と思ってました。「僕らが強く。」を受け取ったときには、僕にしか歌えない曲を書いてくれたなって感じましたよ。
はっとり お、ヒット打ててた?
北村 かなりの!
はっとり よかった。振り逃げでもいいから塁には出ようと思ってたから(笑)。
北村 いや、僕にとっては運命的な曲だなと思っています。世の中いろんなことが起きている中で、僕は今、まさにこの曲にすごく救われているんです。
橘 デモを聴いた段階でもう、グッとくるものがあって。朝起きてベッドの上でデモを流したんですけど、泣きそうになってしまって。レコーディングでも、コーラスを入れながら「危なっ!」と思う瞬間があったんですけど(笑)、涙を流しながら歌うとぐちゃぐちゃになるなと思って、そこは堪えて。
北村 僕は泣いてました。レコーディングで(笑)。
矢部 僕はデモを初めて聴いたとき、このご時世でモヤモヤしていた気持ちが一瞬でスッキリした感覚でした。この曲を聴いて同じ感覚になる方が多いのではないかなと思います。今の時期だからこそ届ける意味があるし、必ず聴いてくれた皆さんの心に寄り添えるなと今から確信しています。
泉 僕も聴いた瞬間に、今、このタイミングで歌うべき曲だなって思いましたね。匠海が言ったように、今のDISH//にとって運命的な曲だなという印象がありました。
DISH//はやっぱりバンドだなって思った
──制作はどのように進めていったんですか?
はっとり 今、ライブができない時期に出す曲だということを考えつつ、最初は僕から「DISH//を必要としている人との再会」をテーマに1コーラスだけ書いてみんなに送ったんです。そうしたら匠海くんから連絡があって。「自分たちの気持ちも乗せたい。一緒に作っている感覚で進めたい」という熱いメッセージをもらったんです。すごくうれしかったですね。で、ほどなくしてメンバーみんなから、今思うこと、感じていることをつづったメッセージが送られてきて。とても混沌としたものだったんですけど、それがすごくリアルだなと思いました。DISH//を客観的に見ると、知名度も人気もあるわけだし、もうちょっとポジティブな気持ちでいるのかなと思ったら……1人ひとりがモヤモヤとした葛藤を抱えてた。「みんなのこの気持ちをなんとか曲の中に詰め込みたい」という思いで、そこからは一緒に作っている感覚になれました。メンバーの言葉を拾いながら表現していきましたね。
北村 僕ら6月に配信ライブをやったじゃないですか。その日に送ったんです。ライブのあと、4人でひさびさに長い時間しゃべったんですけど、その中で今のDISH//に対するそれぞれの思いがいろいろと出てきたんですね。はっとりくんから届いた曲はその時点で素晴らしいものだったけど、僕らも何かを乗せたいし、結構な夜中にあふれ出た思いをそのまんま送って。
はっとり 読んでて「あふれてんなあー」と思ったよ(笑)。
北村 あふれちゃったんです(笑)。
はっとり もうさ、送ってきた時間帯からして“あふれてた”。しかも、匠海くんだけなのかと思ったら、みんなが同じくらい強い思いだったから。DISH//はやっぱりバンドだなって思った。
橘 メンバーと話して、思うことはそれぞれにあるものの、向かっている方向は一緒だと思えた感覚は確かにありました。
自分は弱いということを認めた者の言葉
──皆さんそれぞれどんなメッセージを投げたんでしょうか?
橘 そのとき自分の中にはぐちゃぐちゃっとした悩みがなんとなくあったんですけど、「こういう悩みって音楽をやっているからこそのものだな」と思えたんですね。なかなか経験できないものかもしれないし、それが面白いなと感じたんです。なので、僕は音楽をやっているからこそ抱えている悩みの面白さと、その面白さの中にある葛藤みたいなものを長々と文にして送りました。
矢部 僕はがんばっている人に「がんばれ!」って一方的な応援を送りたくないと伝えました。がんばっていない人なんていないし、がんばってる人に「がんばって!」って言うのってなんだか失礼な気が僕にはしていて。違う言葉で背中を押せたらなと思ったんです。
泉 僕が送ったのは今の世の中に対しての疑問ですね。生きづらい社会とか、決められた固定観念に対して引っかかることが自分の中ですごく多くて。誰かが決めたからこうしなきゃいけないとか、縛られる必要はないんじゃないか、そういう思いを伝えさせていただきました。
北村 僕は一緒に闘いたいという気持ちが大きかったんです。僕は誰かのために生きるし、誰かのために戦うし、その人が戦えないって背中を向けるのであれば、俺が代わりに戦ってやるという気持ちがあったんですね。そういった思いを、それほど長い文章ではなかったけどはっとりくんに送りました。それに、このコロナ禍で誰かに会えない、誰かに思いを直接伝えられないっていう人は多いし、例えば学校の大事な行事がなくなったり、甲子園だって中止になったりしている。とんでもない状況になっている世の中で……誰かの思いを代弁できたり、一緒に闘えたりするのは、やっぱり僕らみたいな立場の人間だろうっていう思いが強くて。
はっとり 匠海くんが送ってくれたメッセージに、自分は弱さに対してのコンプレックスというか……強くありたいんだけど、「自分には何もできない」という無力感みたいなものを抱いているんだなと感じたんです。ほかのメンバーも根本は一緒。「こんなもんじゃないぞ、まだまだ」っていう思いも自信もあるけど、それが確固たる安心感にはつながっていない。やっぱりどこか不安で、ちょっと強がってるようにも思えたんです。でもそれは、みんなが抱える生の感情というか。自分自身もすごく無力感を感じていた時期だったから「感覚が近いな」とも思いました。で、そんな中に「僕らが強く。」という匠海くんの言葉があって。
──楽曲のタイトルになっているフレーズですね。
はっとり 「タイトルはこれしかない」と思いました。「僕らが強く」って、自分は弱いということを認めた者の言葉だと思った。しかも、「強くありたい」とか「強くあろう」とか「強くあれ」とかではなく「強く。」で終わっているんですよ。「強く。」の先を言わないのがいいなと思って。それに、弱さを認めた時点でその人は強かったりするんですよね。強がることも大事だけど、弱さを認めることが強さにもなる。あとは、サビに一番力強いメッセージがあるべきだと思っているので、ここに「笑い合ってたい」というフレーズを。「笑い合ってたい」という歌詞が、この曲の根幹を成していると思います。今、人とつながれない中で……うん、サビはその一択でしたね。メンバーの気持ちみたいな部分はCメロとかに特に入れ込めたなと思ってる。
北村 うんうん。僕も「笑ってたい」じゃなくて「笑い合ってたい」というところにすごく強い思い入れがある。自分が笑っていたいんじゃなくて……笑い合えるのは、誰かがあってこそのことじゃないですか。今までもこれからもそうでありたいし、多分これは僕らだけじゃなくて、みんなが今思っていること。だから僕は、この1行を読んですごくホッとしたような、自信を持てるような感覚がありました。
はっとり 歌っていて、演奏していて自分たちが強くなれるのが一番だと思う。僕も自分の歌を作るときって、なんだか強くなれる、無敵になれる気がするものを作るということをテーマにしているんです。DISH//にも「この曲を歌っていると強くなれるな」と感じてほしいと思っていたから、今そういうふうに言ってもらえてうれしかったよ。まずはメンバーに届かないと意味がないからね。メンバーに届いてくれていたとわかって、とても安心しました。
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お互いに愛を持っているからこそ戦っていけるんだ