伝えたいことを潔くバシッと伝えたい

──DIRTY OLD MENの曲を聴いていると、歌詞の素敵さに引き寄せられることが多くて。そのあたり、リリシストとしてのこだわりって何かあるんでしょうか？

こだわりかー！ まず、風景とか匂いとか音とか、そういうものが歌詞からも感じられたらいいなとは思ってますね。あとはリアリティみたいなことも最近は強く意識してます。例えば、“悲しくて空を見上げる”みたいなことをよく言いますけど、僕は実際そういうことをしたことはないんですよ。だからそれを歌詞にすると一気に信憑性がなくなってしまうと思ってて。だから実際に自分がやること、見ているもの、感じているものをそのまま書くようにしてますね。もちろんファンタジーもめちゃくちゃ好きではあるんですけど、今は嘘くさくならないように、自分の気持ちをしっかり書いていきたいんです。文脈の途中で“他人”を感じるようなものは書きたくないなって。

──そういったリアルな感情を、ある種フィクション的な物語性の中に織り込む手法もすごくうまいですよね。今回で言うと、「夜空のBGM」なんかが象徴的ですけど。

音楽を通して出会いや別れというものを学んだつもりなんですけど、そこで感じた喜びや悲しみは夜空に咲いて散る花火のようなものなのかなと思って。そういう自分の音楽人生を表現したのが「夜空のBGM」なんですよね。改めてこうやって説明するとちょっと恥ずかしいですけど（笑）。

──あとは表現の面白さも随所で感じて。「following page」の冒頭に「君はさ クリスマスの朝みたいな子だと思った」っていうフレーズがありますよね。一瞬、どういうこと？って思ったり（笑）。

クリスマスの朝はワクワクするじゃないですか。だから簡単に言えば、君はワクワクするような子だねってことで（笑）。ちょっと聴きなじみのない言葉を使いたかっただけなんですけどね。僕はひねくれてるところがあるんで、どうしてもストレートに言うだけじゃ満足できないというか。ただ、わかりづらいひとりよがりの表現はイヤなので、そこのバランスとは常に戦ってますけど。

──それはやっぱり届けたい、伝えたいという思いがバンドとしての大前提になっているからですよね。

そうですね。昔はけっこう抽象的な歌詞を書いたりもしていたんですけど、今は伝えたいことを潔くバシッと伝えたいんです。ストレートな表現で思いを伝えているカッコいいアーティストもたくさんいらっしゃいますけど、僕にはそれができないので、自分なりの表現をしようって常に考えている感じですかね。

DIRTY OLD MENほど成長過程を見て取れるバンドはいない

──サウンド的に軸となっているのは、骨太な疾走感のあるロックサウンドだと思います。ですが、中には「In room」のようなすごく優しい雰囲気の曲もあったりして。そういう部分で、柔軟なバンドとしての幅を今回のアルバムからは感じることができました。

ああ、よかったです。「In room」は前回のアルバム「I and I」に入れようか悩んだ曲でもあったので、かなり前からあったんですよ。ライブでもとても大切に歌ってきている1曲ですね。

──こういうサウンドはバンドの引き出しとして普通に存在しているものなんですか？

R&B調の曲はほぼ初めてだったんですけど、基本的に今のバンドの状況が「なんでも来い！」な感じなので（笑）、全然抵抗はなかったというか。むしろ、メンバーそれぞれがいろんな音楽を聴いているので、スーッと作れた感じもありますね。曲自体、めちゃくちゃシンプルですし。

──サウンドと相まって、高津戸さんの声の表情もほかの曲とはガラッと違った印象で響いてきました。

ありがとうございます。そういう声の違いに気付いてもらえたのはすごくうれしいです。その歌の主人公になって……って言っても、基本それは自分なんですけど、歌詞に描かれた情景を感じながら歌うと自然に声が変わってくる感じではありますね。ただ、僕はそもそも歌にコンプレックスがあるんですよ。今でもキーボードを持ち歩いて音階の練習をしてからじゃないと歌えないですから。19歳の頃に出した作品の歌なんて、ひどすぎて笑っちゃいますもん。そういう意味ではDIRTY OLD MENほど成長過程を見て取れるバンドはいないと思いますね（笑）。

──過去の自分に物足りなさを感じるのは、確実に成長してるってことですからね。

まあそれも自分だから気付くことなのかもしれないですけどね。ほかの人が聴いたらわかんないかもしれない。でもほんとに昔の歌は聴けないレベル（笑）。

──あははは（笑）。いい状況で進んでいるバンドの今を詰め込んだ本作ができてみて、改めて思うことはありますか？

今やれること、今の思いはちゃんと真空パックできた作品になったと思うので、今度はやっぱりライブに来てもらいたいっていうことだけですね。楽曲っていうのは、お客さんの前で歌ったときこそが本当の意味での完成だと思うので。こんなに素敵なメンバーたちと一緒にやってるんだよっていうことも生で伝えたいですし。

──5月末からのツアーが楽しみです。

僕は、「どっかに同じ思いのやつがいないかな」って思いながらいつも部屋の中で曲を書いてるんです。だからライブはある意味、同士集めというか。みんなとつながって、仲間になれる場所にできたらいいなって思います。あと、ギターの拓実くんが骨折しているので、その姿をぜひ観に来ていただければと。ツアーファイナルで完治する予定なので、ぜひ（笑）。