Dios「Seein' Your Ghost」インタビュー|“喪失”を見つめ直して新たな場所へ (2/2)

メンバーにとってのGhostは?

Ichika 「Ghost」って、消えたものの残響かなと思っていて。それは人や記憶、感情、価値観といった、もうここには存在しないものの輪郭なんだけど、それらが不在であることを通じて存在を感じることができるものだと思ってます。

──そうですよね。たなかさんは今作でさまざまな「Ghost」に対する歌詞を書いていますが、お二人が人生を生きるうえで向き合っている「Ghost」はありますか?

Ichika どうだろう……。何かある?

ササノ うーん……。他人から見た自分自身かな?

たなか ああ。いいですね。

ササノ 結局自分らしさって他人が決めるんだなと痛感する日々で。髪型やメイク、服装など、外から見える要素が変わると、人から「変わったね」と言われるじゃないですか。その人の根底の部分はそう簡単に変わらないのに。俺は音楽を20年以上作っているから、1つの出来事が音楽に影響することってそうそうないんですよ。それでも「今回はいつもと違うことをやってみよう」と実践したことに対して、「変わっちゃったね」と言われやすい。そういう経験が今まで多かったんです。僕にとっては幅を広げてみただけなのに、アウトプットの変化から人格まで決めつけられてしまう。それは呪いであり、「Ghost」だなと。俺自身、好きなアーティストの曲を聴いて「変わったな」と感じることもあるけど、何個もある正解のうち、そのときアウトプットしたかった正解を見せてくれているだけだと思ってます。Diosは三者ともスタンスも思想も違うけど、そういった違いが混在していられる場所だと思っていて。3人の思想が合わさったアウトプットも、決して嘘ではない。僕は今回のアルバムにいろいろな表情を込めました。Diosは僕にとって、正しさが何個もある状態を見せられる場所なんです。

──表題曲「Seein' Your Ghost」における「Ghost」は、過去の自分でしょうか? しかもこの曲では、たなかさんはご自身のことを歌っていますよね。

たなか 俺は自分の思いをありのまま書くタイプではないんですけど、マネジメントから「ヒップホップ的なアプローチで詞を書いてみては?」という提案があって、この歌詞を書きました。“過去の自分”だったら本当は「My Ghost」が正しいけど、今の自分の心からは距離のあるものなので、もはや「Your Ghost」なのかなって。「過去に戻りたい / 戻りたくない」という話でもなく、ただ過去に存在していたものとして捉えています。

Diosのライブの様子。(Photo by Yukitaka Amemiya)

Diosのライブの様子。(Photo by Yukitaka Amemiya)

ドット絵の墓が見える

──今話していただいたことは「bkrr、それが自分だったって もう思えないんだ ネガティヴじゃなくて」という歌詞に反映されていると思います。ぼくのりりっくのぼうよみへの言及含め、ありのままの思いを書くことに抵抗はありませんでしたか?

たなか 抵抗とかは一切ないです。過去を振り返るいい機会をいただけたなと思いつつも、本当に文字通り「Seein' Your Ghost」なので。「今の自分はこうして暮らしていて」と個人的な話をしているだけの曲ですけど、翻って、誰かが自身の暮らしを回想するきっかけとかになったら面白いなと。ぼくのりりっくのぼうよみのリスナーだった人たちが聴いてくれたらうれしいし、「Diosとか別にあんまり好きじゃないんだよな」という人はもちろん聴かなくていい。そのくらいの温度感ですね。

ササノ この曲を聴いて「救われた」という人もいれば、「ムカついた」という人もいるだろうね。なんなら「聴けない」という人もいるかもしれない。とどめを刺されるというか、本当に終わりを宣告されてしまうんじゃないかって。

たなか なるほどね。

──ぼくのりりっくのぼうよみのエンディングは非常にセンセーショナルなものでしたからね。ラストライブのタイトルは「葬式」でした。

ササノ 僕はぼくりりと一緒に何曲か作ったし、もともとぼくりりのファンでもあるから、「聴けない」という人ももちろんいるだろうなと理解できる。「葬式」になぞらえて言うなら、俺にとっては「曙光」という曲がぼくりりへの手向けだったんですけど、それで言うと「Seein' Your Ghost」は法要なんですよ。だけど、そんなに重苦しい感じではなくて。制作中にIchikaが言っていた「ドット絵の墓が見える」という言葉が、すごくしっくりきたんですよね。

たなか いい表現だよね。

Ichika ありがとうございます。

ササノ 曲の受け取り方は人それぞれだけど、本当に重く捉えてくれている人もいるだろうし、俺はそっち側の人間だから、そういう人たちにも届くように意識して作ったところもある。ぼくりりのときに自分が作ったサウンドのニュアンスを踏襲したり、ディレクション含め、面影を感じるように仕向けた部分もありました。だいぶ意味のある、届いてほしい曲だけど、まあ、好きに受け取ってくれたらいいんです。

たなか 本当にそれに尽きる。

──たなかさんは「個人的な話をしているだけ」とおっしゃっていましたが、「いま歌いたいのは、おれみたいな誰かをあたためる言葉」というフレーズからは、リスナーを思う気持ちを感じました。

たなか どうなんでしょうか? ……ぐらいに留めておいたほうがいい気がする(笑)。

──なるほど。

たなか まあもともとは、ぼくのりりっくのぼうよみとDiosのどちらか、あるいは両方を知っている人が聴いてくれているという想定で書き始めた曲だったので。過去の自分を知ってくれているという前提で話すのであれば、今、心底思えているのはその歌詞で歌っているようなことだなと。「かつての俺みたいな気持ちでいる人たちにシンクロすることはできないけど、隣にいることはできるのではないだろうか」という思いから出てきたフレーズではありますね。でも「両方知らないけどこの曲は好き」という感想ももちろんうれしいです。一般論として、ごく個人的なことをつづるヒップホップ的なアプローチがなぜ人に受け入れられるのかというと、自分にまったく関係のないテーマが歌われていても、全身全霊で歌っている人がいて、その魂の振動に共鳴して……というロジックがあるからなので。この曲で僕がやりたかったのは、そういうことなんです。

たなか(Photo by Yukitaka Amemiya)

たなか(Photo by Yukitaka Amemiya)

あなたの影と踊る時間にしましょうよ

──アルバムリリース後には、全国5都市を回るツアーが開催されます。「Dance with Your Ghost」というツアータイトルや、ツアー自体に対する思いを聞かせてください。

たなか 最近やっとライブの意味がわかったんですよ。もちろん、生で演奏して、迫力ある音を届けられて、お客さんとコミュニケーションできるのがいいよね、という現象だと頭では理解していました。だけど全部頭の中で上滑りしていくというか。お金をもらっているから、最大限のパフォーマンスをするんだという大前提はあるけど、ライブをやる理由が自分の中で腹落ちしていなかったんです。だけど、この前、万博(EXPO 2025 大阪・関西万博)で歌う機会があって。屋外のステージだったんですけど、雷警報が出ちゃって、「ライブができるかどうかわかりません」という事態になったんです。俺は空調の効いた楽屋にいるのに、お客さんは大屋根リングの下で雨宿りしながら待ってくれていて。そのときに思ったんです。「あっ、この人たちのために自分ができることを届けるのが俺の仕事なんだ」って。

ササノ そうだよ。10年経って今気付いたの?(笑)

たなか やっとわかった(笑)。ライブの本質は、来てくれる人たちに何らかのインパクトを与えて持ち帰っていただくことなんだって。子供が生まれたりして、人生の主語が自分じゃない瞬間が増えてきたなと最近思いますね。音楽を聴くのは部屋に1人でいてもできるけど、肉体の動きが存在するのがライブならではのいいところ。「Dance with Your Ghost」=「あなたの影と踊る」時間にしましょうよ、という話です。

ササノ 隣で見ながら、大きな壁のようなものが取り除かれたんだろうなと感じていましたよ。

たなか お客さんのこと、好きになってきました。

ササノ 今までは?(笑)

たなか 怖かったのかな。自分に興味ない人の目線ってすごく冷たいから。

ササノ 僕は逆に、興味を持たれるのが怖い。向こうの認識の中に、自分の形が存在しているということだから。

たなか ササノマリイ像がね。

ササノ それを壊す恐怖がものすごく大きかったから、個人名義での活動でもライブはなかなかできませんでした。だけど、Diosがそこから引っ張り出してくれた。自分1人の世界では出会えなかった人たちに強制的に見てもらって、世界が広がったんです。俺はライブではフロントマンをサポートする立場だと思っているけど、そのうえでできることは、ライブを盛り上げること。楽しみたい人が楽しめるように誘導してあげること。「お前ら、行けんのか!」ってタイプじゃないけど、「行っていいんだよ」と身振りで示すことは自分にもできます。今回のツアーでも、来てくれた人たちに楽しんでもらいたいですね。

Ichika ひと皮剥けて進化したDiosのライブを楽しみにしててください!

Dios(Photo by Masato Yokoyama)

Dios(Photo by Masato Yokoyama)

公演情報

Dios Tour 2025 "Dance with Your Ghost"

  • 2025年11月16日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2025年11月26日(水)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2025年11月28日(金)大阪府 GORILLA HALL OSAKA
  • 2025年12月2日(火)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2025年12月9日(火)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)

プロフィール

Dios(ディオス)

たなか(前職ぼくのりりっくのぼうよみ)、ギタリスト・Ichika Nito、トラックメイカー / シンガーソングライターのササノマリイによって2021年3月に結成されたバンド。同年3月に1stシングル「逃避行」をリリースし、翌2022年6月に1stアルバム「CASTLE」を発表した。2023年9月に2ndアルバム「&疾走」をリリース。10月に全国7都市を巡るツアーを開催し、11月には中国4都市を巡る初のアジアツアーを行った。2024年1月には香港と台北でライブを行い、4月には東名阪での対バンツアー「Dios &LIMITED Tour」を開催。2025年10月に3rdアルバム「Seein' Your Ghost」をリリースし、11月から全国5カ所でのツアーを行う。