ギターアンプの王道ブランドであるMarshall(マーシャル)。近年ではヘッドフォンやポータブルスピーカーといったオーディオ機器も生産しており、筆記体で書かれた存在感のあるロゴが入ったヘッドフォンを街中で見かける機会が増えている。
ファッション性に優れたMarshall製のオーディオ機器だが、そのサウンド面での実力はいかほどなのか? 今回、世界を股にかけて活躍する技巧派ギタリストIchika Nitoに実機を試してもらい、イヤフォン、ヘッドフォン、ポータブルスピーカーそれぞれのサウンドや使用感をレビューしてもらった。
取材・文 / 田中和宏撮影 / 雨宮透貴
Acton III Cream(Bluetoothスピーカー)
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Homelineシリーズの中で最もコンパクトなサイズのBluetoothスピーカー。前モデルよりもさらに広いサウンドステージを持ち、没入感のあるホームオーディオ体験のために再設計されたサウンドを提供する。ホームスピーカーに期待される、部屋を満たすマーシャルのシグネチャーサウンドを余すところなく届ける。
Emberton II Black & Brass(Bluetoothスピーカー)
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コンパクトながらもMarshallならではのヘビーで力強いサウンドを兼ね備えたポータブルスピーカー。ユニークなマルチディレクショナル(全方位)サウンドを採用し、すべての方向で厚みのある360°サウンドが体験できる。最大約30時間の連続再生でアウトドアにも最適。
Major Ⅳ Black(ヘッドフォン)
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Marshallを象徴するアンプがモチーフの角ばったハウジングを採用したヘッドフォン。最大80時間の再生時間、ワイヤレス充電対応、そして新たに改良された人間工学に基づいたデザインが特徴。電源がなくても3日は充電切れの心配は不要。カスタム調整されたダイナミックドライバーは、うなるような低音、滑らかな中音域、鮮やかな高音域を再生し、豊かなサウンドを再現する。
Motif ll A.N.C.(ノイズキャンセリングイヤフォン)
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コンパクトながらも迫力の Marshallサウンドを届けるイヤフォン。充電ケースを使用して、最大約30時間の音楽再生が可能だ。新世代のテクノロジーLE Audioに対応し、接続性が既発製品よりも進化した。アクティブノイズキャンセリングを採用し、満員電車や騒がしい街中でもノイズを遮断して、音楽に没頭できる。
MarshallサウンドはIchika Nitoの原点
──ギタープレイで国内外のファン、SNSユーザーを魅了しているIchikaさんですが、Marshallのアンプを使った経験は?
もちろんあります。僕のギタープレイは独特なタッピングのスタイルで知られていると思うんですけど、ギタリストである僕のルーツとしてエディ・ヴァン・ヘイレンは避けて通れません。ギターを弾き始めた高校時代も、Van Halen、デイヴィッド・リー・ロス、Iron Maidenといったヘヴィメタル、ハードロックがギターの世界への入り口でした。そしてああいったサウンドに憧れて、エディみたいな音を出したくて、スタジオに置いてあるMarshallを試してみたけど、初めはどうにもうまくいかなかったんですよね。今になって気付くのは、独特な彼のタッチが“ブラウンサウンド”とも言われるあの音につながってるんだということ。そして彼のタッチから生まれる音を、アンプが引き出している。レスポンシビリティがあるからこそ、名ギタリストたちのプレイが個性豊かなものであるということを知ったわけです。僕の人生において、Marshallとともに音作りで試行錯誤した経験は今も生かされています。
──現在のIchikaさんのシステムはライン録りを取り入れている印象もありますけど、そういった経緯を経て、今に至っているんですね。
そうですね。でもアンプを通して弾く機会もたくさんあるので、そういうときはMarshallのJCM800を使うことが多いです。初めはJCM900というゲインが強いヘッドアンプを使ってたんですけど、結局のところ、自分のタッチ感、タッピングのニュアンスが出しやすいのは800のほうで。
──IchikaさんにとってMarshallの心地よさはどんなところにありますか。
僕が生まれて初めて使ったアンプがMarshallで。初めて音圧を直で感じたアンプの音はMarshallから出した音。Marshallとともに育ってきたので、僕にとってもっとも馴染みのある音でもあります。ひな鳥の刷り込み理論と同じように。それと、僕がソロギターの音を作っていく際に大切にしていることが1つあって、それは「いかに人の声と同じトーンの心地よさを生み出せるか」なんです。人の声に寄せるわけではなく、その要素をいかに取り入れて音作りできるかを考えていて。人の声をなぜ心地よいと感じるかはきっと遺伝子的な要因もあるし、人生の中で一番聞く馴染みのある“音”だからだと思うんです。
──Ichikaさんのギターサウンドには確かに生々しさを感じます。Marshallが今のスタイルを構築するきっかけになったとも言えそうですね。
まさに。でも演奏を音源にしたら、リスナーのほとんどがスピーカー、ヘッドフォン、イヤフォンで聴きますよね。そうなると、自分が感じた生の音とは程遠いものになる。音源の制作過程でフィルターがかかっているから。だから自分の感じた原体験的な音をより生々しく、リアルに伝えるために、別のプロセスを通じた音作りをしています。キャビネットを取っ払って、むき出しの音を作ることで、多くの人に生々しさを感じてもらえるように。
Marshallスピーカーをキッチンで愛用中「爆音で」
──今回はMarshallのオーディオ製品の特集になるんですが、Ichikaさんはすでに同社のスピーカーを使っていらっしゃるとか?
別のモデルですけど、キッチンで使ってます。僕、料理をするのが好きなので、爆音で音楽を聴きながらごはんを作ってるんです(笑)。Bluetoothスピーカーなのにトレブルとベースのコントロールノブが付いているので、曲によってはつまみをいじったりしながら。
──MarshallのBluetoothスピーカーをお求めになった理由は?
キッチン用のスピーカーを探していたんです。まずはPinterestで海外のキッチンの画像をいろいろチェックして、いい見た目のがないかなって。調べていたらMarshallのスピーカーを使っているインテリア例があって、いい感じだったので注文しました。ギタリストとして親和性もあるし、実際に使ってみてからというもの、めちゃくちゃ楽しいキッチンライフになりました。
──見た目がおしゃれですよね。
シボ加工やスイッチのボリューム感がアンプを想起させるデザインで気に入ってます。今回、持ってきていただいた「Acton III」は最近出た商品ですよね? 僕が持っているものはこれよりひと回り大きいStanmore IIです。