デジナタ連載 Technics×「RSD Drops」 おかもとえみ&ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)|2人の“おかもと”が同世代レコード談義

アナログレコードの祭典「RECORD STORE DAY」から派生したイベント「RSD Drops」が、8月29日、9月26日、10月24日の計3回にわたって全世界のレコードショップで開催される。例年であれば「RECORD STORE DAY」は4月に開催されているが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で今年は中止に。その代わりに世界的に行われるのが、オンライン販売の展開を含む「RSD Drops」だ。

「RSD Drops」の開催に合わせて音楽ナタリーではレコードの魅力を掘り下げるべく、イベントの一環で自身の1stミニアルバム「ストライク!」のアナログ盤をリリースするおかもとえみと、レコード好きとして知られるハマ・オカモト(OKAMOTO'S)の対談を企画した。同世代でベーシストという共通項を持つ2人の対談を通して、奥深いレコードの世界に触れてほしい。

取材・文 / 三宅正一 撮影 / 吉場正和
スタイリスト(ハマ・オカモト):TEPPEI ヘアメイク(ハマ・オカモト):高草木剛(Vanites)

RECORD STORE DAY JAPAN

RECORD STORE DAY JAPAN

毎年4月の第3土曜日に世界で同時開催されるアナログレコードの祭典「RECORD STORE DAY JAPAN」。2008年にアメリカでスタートし、現在世界23カ国で数百を数えるレコードショップが参加を表明している。日本での運営は東洋化成が担当。レコードショップでは数多くのアーティストのアナログレコードの限定盤やグッズなどを販売。世界各地でさまざまなイベントも行われ、毎年大きな盛り上がりを見せている。今年は世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け開催時期を調整し、「RSD Drops」として8月29日、9月26日、10月24日の3回に分けて行われる。

“おかもと”つながりの2人、会うときの“ステージ”は居酒屋

──お二人は以前から面識があると思うんですけど、こうしてメディアを通してお話することは今までありました?

おかもとえみ 一緒に仕事をするのは初めてかな? 対バンすらもやってないかも。

ハマ・オカモト ないよね。

おかもと ハマくんと会うときの“ステージ”は居酒屋という感じで(笑)。数年前から同い年という共通点でミュージシャン友達とみんなで一緒に飲むようになりました。

左からおかもとえみ、ハマ・オカモト。

ハマ えみそんは最初、THEラブ人間のベーシストという認識でした。僕も仕事をしている吉澤嘉代子ちゃんのライブでえみそんがサポートベーシストとして参加していたことがあったり。

おかもと そもそも“おかもと”つながりでもあるし(笑)。

ハマ 僕は本名ではないのでニセの“オカモト”ですけど(笑)。えみそんがソロ活動を始動してからけっこう経つよね?

おかもと ソロを始めたのは2014年だから、6年ですね。

ハマ 最初はベーシストのイメージが強かったから、歌ってるのを知ったときは驚きましたけどね。科楽特奏隊でボーカルを担当する以外に、フレンズやソロもあって、めちゃめちゃシンガーなんだなと思って(笑)。もともと歌うのは好きだったんですか?

左からおかもとえみ、ハマ・オカモト。

おかもと もともとはボーカルをやりたくて、学生時代に軽音楽部に入ったんです。そこでベースボーカルをやってた。で、バンドのベーシストとして音楽のキャリアが始まっていって。そもそもはSPEEDに憧れていたんですよ。歌ったり踊ったりしたくて。

ハマ えみそんがギャルでSPEED好きだったのは知ってます(笑)。ベーシストの印象が強かったから、「あ、歌うのが好きなんだ」と思って。歌もうまいし。曲もしっかり作っているし、こうやって話してるときと歌ってるときのギャップもすごくあって、最初は「おかもとえみがこんなに本気で歌ってるの面白くない?」という感じでした(笑)。そこからだんだん本気のシンガーモードがあるんだとわかって。

おかもと 私がTHEラブ人間でデビューしたのが20歳とか21歳の頃で。それこそハマくんと出会ったときはガシガシとベースを弾いてる最中だったから、「同い年でこんなにベース弾ける人がいるんだ」とちょっとしたライバル心もあったんです。だからハマくんは「私ももっとベースをがんばらなきゃ!」って火を点けてくれた存在でもあって。結局、今はあんまりベースを弾いてないんですけど(笑)。

ハマ (笑)。

デカい音でレコードを聴く衝撃体験

──ここから本題のレコードについての話を。OKAMOTO'Sのメンバーがレコードディガーであることは多くの人が知るところだと思うんですけど。

おかもと ディガー!(笑)

ハマ どうなんでしょうね。自分としては普通の人にちょっと毛が生えた程度だと思うんですけどね。

──そんなことはないでしょう(笑)。一方、えみそんがレコードを買って聴くようになったのは最近ということで。

おかもとえみ

おかもと はい。レコードを買うきっかけとしては、2015年に吉祥寺のリベストギャラリー創というところで「キチレコ展」という、いろんなマンガ家やイラストレーターやミュージシャンがオリジナルのレコードジャケットを描くという展示があって。それで、モーセの十戒とか北大路魯山人の「握り寿司の名人」をレコードジャケットとして絵にしたらどうなんだろう?と思って描いたんですね。

ハマ またマニアックな(笑)。

おかもと 当時はレコードプレイヤーも持ってなかったけど、絵を描く資料としてとりあえずレコードを買ってみたのが始まりですね。最初に買ったのはSugarの「ウェディング・ベル」が入ったアルバム(「Sugar Dream」)でした。それから少し時間が経って、私の「HIT NUMBER」がアナログ化された2016年に、スピーカーが内蔵されているプレイヤーを買ったんです。自分がレコードをリリースするならもっといろんなレコードを聴きたいと思うようになって、そこから少しずつレコードを買うようになりました。コロナの自粛期間中にも大阪のFLAKE RECORDSのInstagramを見て、気になった作品をサブスクでチェックして通販でレコードを買ってみたり。そのときに買ったスフィアン・スティーヴンスの「Carrie & Lowell」を最近よく家で聴いてますね。

ハマ 俺も最近DAWAさん(FLAKE RECORDSオーナー)のところで1枚通販で買った。

──ハマくんが最初にレコードに触れたのはいつ頃ですか?

ハマ・オカモト

ハマ 中3くらいですね。当時は僕らもレコードの知識なんて何もなくて、親世代のものという感覚だったんですけど。バンドを始めてから(オカモト)レイジの親父さんの家によく遊びに行ってたんです。そしたら当たり前のようにレコードがたくさんあって。それぞれが好きそうな作品を聴かせてくれたりしていたんです。それが初めてのレコード体験でした。

──レイジさんのお父さんがセレクトしてくれたんですか?

ハマ そうです。僕にはニューオリンズファンクとか。(オカモト)ショウだったらロックとか。それを信じられないくらいデカい音で再生してくれて(笑)。そうするとやっぱり衝撃的な体験として残るんですよね。僕ら世代だと当時の音楽メディアはMDがまだギリギリ“花形”で。

おかもと 自分でお気に入りの曲を集めたMDを友達にプレゼントしたりしてた(笑)。

ハマ そうそう。MDプレイヤーを持ち歩いてヘッドフォンやイヤフォンで音楽を聴くことが多かったから、音響設備が整った部屋でデカい音でレコードを聴くのは衝撃的な体験でしたね。そこからレコードについていろいろ知っていくんですけど、まず「実はそんなに高価なものじゃない」ということがわかって。当時はレコードって骨董品的というか、手が届かないくらい高価なものだと思ってたんですよ。でも、いざ中古レコード屋に行くと100円箱とかもあったりして。中古市場でもプレミアが付くともちろん高値になるけど、レコードが大量に流通していた時代にヒットした作品はそれだけ数多く出回っているわけだから、安価な値段で中古レコード屋さんに売られていて。

おかもと 私もレコード屋さんに行って「これが600円なの!?」って驚いたことがあった。

ハマ それってレコード屋さんに行くまではわからないもんね。あと、プレイヤーやスピーカーに関してもこだわればキリがないけど、最初は使いやすさ重視で選んでもいいわけで。なので、これからレコードに興味を持つ人たちには難しいことはないし、間口も広いよということは言いたいですね。

部屋に音楽が溶け込んでるような感覚に

左からおかもとえみ、ハマ・オカモト。

おかもと 私は親があまり家で音楽を聴いていた記憶がなかったので、実家にはレコードがないとずっと思っていたんですけど、私がレコードプレイヤーを買ったときに実家でそのことを両親に話したらお父さんが「家にレコードいっぱいあるよ」って言われて「え!?」みたいな(笑)。実家には私が小さい頃からレーザーディスクのプレイヤーがあって、レーザーディスクが収納されていると思っていた場所に実はレコードがあったんです。父はイラストレーターで、仕事の関係的に特撮系のサントラが多かったですね。

ハマ なるほど。LPレコードとレーザーディスクはサイズが同じだしね。

──実は実家にレア盤が眠っていたというパターンもありますよね。

ハマ ありますね。「OKAMOTO'Sの影響でレコードを聴き始めました」と言ってくれるファンもよくいるんですけど、その中には親がずっと持っていたレコードとプレイヤーを丸々くれたという人もけっこういて。

──えみそんはレコードの音の魅力をどんなところに感じてますか?

おかもと サブスクも含めてスマホやパソコンで音楽を聴くことがどんどん増えて、もともと私はデジタルデバイス好きでもあるんですけど、たまに耳が疲れちゃうことがあるんです。「今はそんなに音楽が聴きたくないな」と思ったときにレコードの音を聴くと部屋全体に音楽が溶け込んでるような感覚を覚えるんですよね。デジタルの刺すような音とは全然違って。だから耳が疲れないし。

ハマ 音が部屋に溶け込むというのは僕もよくわかりますね。

おかもと 音を小さい粒として捉えられる感じ。