全人類ポール・マッカートニー好きだし
──見た目のインパクトに反して、音楽に対してはすごくストイックなバンドですよね。
アサガオ ああ、ありがとうございます。そう言っていただけるのはうれしい。
サクラ メンバー間でよく言ってるのは、「演奏がちゃんとしてないと出オチになっちゃうよね」ってことで。見た目だけのバンドになることは避けたいし、ザ・ドリフターズみたいに「演奏がガチだからこそ面白い」という存在でありたいと思っていますね。
アサガオ 派手な格好をするからには、その前提として音楽的なクオリティの高さがなければダメだと思っているので。むしろそれが当たり前というか。
──実際、テクニカルな演奏もこのバンドの重要な特徴になっています。ただ、そのわりに使っている楽器がそれっぽくないですよね? ギターもベースも。
サクラ 確かに、テクニカルなギタリストやベーシストが持ってるようなものではないですよね。何かこだわりがあるの? 憧れ?
スイレン 憧れもあるし、あとはサイズ感と慣れかな。私はギブソンのES-335を使ってるんですけど、メロコアが好きだった影響で中学生くらいのときからエピフォンの335をずっと使ってたんですよ。当時から体重が70kgくらいあったんで普通のエレキギターだとちっちゃくて、335のサイズ感がしっくり来たんです。それを4年間くらい使い続けていたときに、高校の修学旅行で東京へ行くことになって。「じゃあそれまでにバイトでお金を貯めて、御茶ノ水でいいギターを買おう」と決心しまして、自由時間に御茶ノ水へ行ってギブソンの赤い335を買いました。
サクラ 結果、その赤い335がトレードマークになってるもんね。そのままメンバーカラーにもなって。
──でも、335って速弾きなどの細かいプレイに適したギターとは言えない節がありますよね?
アサガオ 「ストラトに変えろ」っていつも言ってるんですけどね。
スイレン 絶対イヤです(笑)。まあ慣れちゃってるというのも大きいですね。14歳くらいからずっと335だったので、それ以外のギターをほとんど持ったことがなくて。
──なるほど。「ギターとは335である」みたいな。
スイレン そうそうそう(笑)。
アサガオ 偏ってるなあ。
スズラン ベースに関しては、私はリッケンバッカーを愛用しているんですが……もともとは普通にフェンダーのジャズベースを使ってたんです。ただ、あの子(スイレン)があとから加入してきたときに“赤い335”という強烈なキャラクター性に衝撃を受けちゃって、「ちょっと負けてられないな」と。それで、たまたま東京へ行ったときに楽器屋さんを覗いたときにリッケンを見つけて、「まあ全人類ポール・マッカートニー好きだし、これでいいか」と。
一同 あはははは(笑)。
アサガオ こっちはこっちで偏ってるなあ。
──それこそ弾きづらいイメージがありますけど……。
スズラン 最高に弾きづらいです(笑)。
スイレン 正直、愛でしか使ってない。
スズラン やっぱり見た目がいいと愛着も湧きますし。弾きづらいけど、それもかわいい。
サクラ そのこだわり、まるで旧車に乗ってる人みたい(笑)。
アサガオ 手がかかればかかるほどかわいいんだよね。
──正直、リッケンでスラップする人なんて初めて見ました。
スイレン あはははは!
スズラン いや、それ以前に「リッケンで指弾きする人初めて見た」ってよく言われますね(笑)。だいたいピックでゴリゴリやる人が多い楽器なんで。
5日間で7曲録ってね
──そして今回、デラックス×デラックス初のフルアルバム「千紫万紅」が完成しました。バンドの王道と言えるディスコ歌謡を基調に、昭和の名曲カバーや、いわゆるシティポップ的なものなどが挟まれていく構成で。
アサガオ やっぱりライブばかりを続けていると、現場が盛り上がりやすいハイテンポで激しい曲に偏ってきちゃうんですよね。それがあんまりよくないなと思っていて。うちらはあくまで「ポップスをやりたい」という志のもとに曲を作っているので、「こういうデラデラもあるんだぞ」という、私たちのいろんな魅力を切り取れるアルバムにしたいなと思って作りました。
──その思いがアルバムタイトルにも表れているわけですね。レコーディングはどうでした?
アサガオ ボーカル的にけっこう大変だったのは、松原みきさんのカバー「真夜中のドア~stay with me」ですかね。サビの裏でウーアーコーラスを入れているんですけど、三声を右左それぞれで歌ってるので、サビのたびに合計6トラックのコーラスが必要になるんですよ。
サクラ しかも、同じフレーズなんだから1回録ってコピペすればいいのに、そこはこだわりで全部いちいち録ってるんですよね。
アサガオ そのコーラス録りがけっこうすさまじかった。どんどん声がカスカスになっていって(笑)。
サクラ ドラムで言うと、「アナタに首ったけ」という曲がありまして。デラデラ史上最速になるBPM204の曲なんですけど、シンプルに速い曲を叩くのが大変で(笑)。
スイレン こっちはそれが楽しかったけどね。
サクラ それは君がパンクスだから(笑)。こっちは「真夜中のドア」とかのテンポが体に染み付いてるもんだから、もう汗だくになって録りました。
アサガオ レコーディングではいつもドラムとベースを同時に録るんですけど、録り終えた2人がスタジオから出てきたら「サウナにでも入ってきたんか?」というくらい湯気ほかほかでしたから。
スイレン 今回、レコーディングが上京のタイミングと重なったこともあって、リモートでのレコーディングも多かったんですよ。特にギターに関しては「5日間で7曲録ってね」と言われて(笑)、朝から晩までずーっと弾いてました。
サクラ デラハ(デラックス×デラックスのメンバーとマネージャーが暮らす家の呼称)に録音できる環境を作ってね。マネージャーさんが趣味でいろんな機材を持っているので、プリアンプとかをいろいろお借りしてやったんですけど、意外とリモートでも高いクオリティで録れるもんだなあと。
スイレン ただ、ギターの音作りをミックスの段階でやっていただいた関係上、録音の時点では全部をクリーントーンで弾かないといけなくて。だからタッピングのフレーズとかになってくると、本当に音が出てるのかどうかわからないんですよ(笑)。波形が全然動かなくて。
──Pro Tools上で歪みを加えたときに、初めてちゃんと鳴ってるかどうかがわかるという。
スイレン そうなんです(笑)。そういう意味で言うと、「女心ミステリヰ」のギターソロには注目して聴いていただきたいですね。タッピングを交えたフレージングを意識的に取り入れた初めての曲でもありますし、ギターソロ全体としてもオクターブ奏法のパート、速弾きのパート、タッピングのパートと移っていく、渾身のソロになっているので。
スズラン 「女心ミステリヰ」ではベースもタッピングとかロータリー奏法とか、およそリッケンバッカーでやることじゃないプレイを全部詰め込んでいますね。我慢していたものが全部噴き出たような1曲になっています。
一同 (笑)。
アサガオ でも確かに、あの曲が一番みんなの趣味を詰め込んでるかもしれない。ボーカルとしても、CHAGE and ASKAのASKAさんがよくやる「低いところから上昇させてミックスボイスの高いところに当てる」っていう発声をどうしても使いたくて、すごくこだわったボーカル装飾になっていると思いますし。
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昭和歌謡を現代風に再構築