でんぱ組.inc「でんぱぁかしっくれこーど」特集│メンバーインタビュー+夢眠ねむ&もふくちゃん全曲解説 (3/4)

[後編]夢眠ねむ×もふくちゃん「でんぱぁかしっくれこーど」全曲解説

でんぱ組.incの最新ミニアルバム「でんぱぁかしっくれこーど」は、グループ名の由来である“電波ソング”を令和の時代にアップデートしたコンセプチュアルな1枚。音楽ナタリーではこの作品の魅力に迫る特集記事を前後編にわたって掲載している。後編ではでんぱ組.incのプロデューサーを務めるもふくちゃん(福嶋麻衣子)とでんぱ組OGの夢眠ねむにインタビュー。畑亜貴とAiobahnによる「でんぱぁかしっくれこーど」、けんたあろはとサイレンジ!と玉屋2060%(Wienners)が手がけた「でんぱっていこーぜ!!」、まふまふ提供の「我ら令和のかえるちゃん!」、FICEの楽曲をヒャダインこと前山田健一がアップデートした「接吻~らぶらぶ♥ちゅ~」、ARM(IOSYS)とMOSAIC.WAVがタッグを組んだ「オーギュメンテッドおじいちゃん」を収録曲順にじっくりと解説してもらった。

01. でんぱぁかしっくれこーど
[作詞:畑亜貴 / 作曲・編曲:Aiobahn]

夢眠ねむ この前もふくちゃんと話したとき「次のやつすごいよ」「やりたいこと全部やらせてもらった」って言ってたでしょ。もふくちゃんがでんぱ組.incにあんまり口出さなかった時期があったから「ついに来たか!」と思ってワクワクしちゃった。

もふくちゃん 口を出したらこんなことになってしまったよね(笑)。でもフルアルバムだったらこれをやるのは無理だったと思う。集中力は5曲が限界だった(笑)。

左から夢眠ねむ、もふくちゃん。

左から夢眠ねむ、もふくちゃん。

ねむ シングルで本領を発揮するタイプなのかな。

もふく シングルだとやりたいことが多角的に見せられないけど、5曲あればストーリーが作れるんだよね。曲順もこれしかない感じで、1曲目は絶対「でんぱぁかしっくれこーど」だなって。

ねむ この曲、畑亜貴さんの歌詞マジで最高だね。天才すぎるもん。

もふく 幻の石板に書いてある文学みたいなものだから。この曲はまずAiobahnさんからトラックだけが届いて。セリフとかラップもないオケだけだったから、これからどうやって調理するのかなって思いながら畑亜貴さんにお渡ししたらこの仕上がりだからね。

ねむ えーーー!?(笑) そもそも、どういう感じで依頼したの?

もふく アルバム全体を通して、秋葉原を舞台にしたSFがやりたくて。クリストファー・ノーランの「インターステラー」みたいな宇宙規模の壮大な物語を描きたいんですって。

ねむ そのオーダーもおかしいよ。

もふく そう言ったら畑亜貴さんに「うんうん、わかった。秋葉原がテーマなら“散骨”って言葉がマストだね」「アイドルの歌詞に“散骨”って入ってても平気?」と言われて「あ……よくわからないけど平気です……」って。

ねむ その段階で散骨出てきてたんだ!(笑) この曲のりさちゃん、3000歳ぐらいだよね。

もふく そうそう、相沢梨紗は秋葉原の地霊になっているの。ギリシャ神話のゲニウス・ロキみたいな土地の守り神。そんな相沢さんが最後に「この場所が個々の記憶というストレージにある限り滅亡から免れる論…はありきたりだけど強いっ 強いのだよ諸君!」と言う。

左から夢眠ねむ、もふくちゃん。

ねむ 半透明のりさちゃんがね、エモすぎ。ここで私泣いたもん。

もふく わかる。ここで3回は泣くよね。だからこのアルバムは、最初に全部結論言っちゃうけど、主役はでんぱ組.incじゃなくて秋葉原の街なんです。街というストレージに刻まれた記憶があって、私たちの脳内に秋葉原が存在してる限りこの世界は大丈夫なんだという話。しかも、Aiobahnさんのトラックは今流行ってるトラップみたいなビートから始まって、時代をさかのぼってドラムンベースを経てトランスからユーロビートになる。そんで最後はピアノでタララララーみたいな。

ねむ これ全然個人的な考察ですけど「セイハローから骸骨まで」というフレーズがあって、生まれたときからじゃなくてみんなに会ったときからが人生なんだと思って、そこも泣いちゃった。

もふく お前だけだぞ(笑)。

ねむ アキバに降り立った瞬間から夢眠ねむの人生が始まってるからね。実はそういう人、多いんじゃないかなあ。

02. でんぱっていこーぜ!!
[作詞:けんたあろは / 作曲:サイレンジ! / 編曲:玉屋2060%(Wienners)]

もふく 玉屋さんには最近、詰め込み系の情報量が多い曲をお願いすることが多かったから「でんぱっていこーぜ!!」はもうちょっと抜け感のあるアレンジをリクエストした。電波ソングって本来もっとスカスカなものが多いからね(笑)。

ねむ 音数多そうだけど意外と少ないんだよね。でんぱ組.incが詰めがちなだけで。

もふく 今聴くと「でんぱれーどJAPAN」の情報量の少なさにびっくりするのよ。その話を玉屋さんとしてたら「あの頃はアレンジ下手だったしGarageBandで作ってたんで」と言われて「えっ、GarageBand!?」って驚いた(笑)。

ねむ 歌詞は相変わらずぎっしり詰まってるけどね(笑)。「救う」とか「地球最後の日」とか今までのでんぱ組.incのエッセンスもちりばめてるのかな。

もふく 「ユートピア」とか「わっしょい」とかね。けんたあろはさんに「過去のいろんなものを詰め込みたい」とは伝えてたかも。でんぱ組.incって自分さえ救えてないのに宇宙を救いたいとか言ってるのが面白いんだよ、人類全員救いたいんだって夢みたいなことを叫んでいるのが素敵なんだよねっていう話はしてたと思う。

夢眠ねむ
もふくちゃん

03. 我ら令和のかえるちゃん!
[作詞・作曲・編曲:まふまふ]

もふく 「我ら令和のかえるちゃん!」はとんでもなく気に入ってます。

ねむ 私もこれ好き! 神曲! この曲に関してはまず私の考察言っていい? これ聴いた瞬間に18禁のPCゲームのパッケージが思い浮かんだ。これはエロゲの主題歌ですね。

もふく うん、まふまふさんサイドには「すーぱーぬこになりたい」みたいなイメージで、と伝えてたと思う。私の個人的な狙いとしては、あわよくばいい感じの美少女ゲーム感が出るといいなと……。

ねむ やっぱり!(笑)

もふく まふまふさんもきっとヲタクだから、歌詞の感じもでんぱ組とリンクするのではと勝手に思って(笑)。ただ、最初にもらったデモはアイドルみたいなかわいい歌詞だったから「でんぱ組.incはそういうんじゃなくて大丈夫ですよ」と伝えたらこれが上がってきた。「最初はアイドルの歌を作らなきゃって気負ってたけど自分の気持ちで書いたらこうなった」とSNSで言ってくれていて。まふまふさんも引きこもりだと思うから、でんぱ組.incの気持ちをわかってくれたのかも。

ねむ  うわあ、泣けるね。もふくちゃんはなんで今回まふまふさんに頼もうと思ったの? まったく接点なかったよね?

もふく Twitterでまふまふさんが「東京ドーム終わったら個人の活動は休んで楽曲提供とかやります」と言ってて「キタコレ(゚∀゚)!!」って(笑)。

ねむ わー、そうだと思った! その場面、手にとるようにわかるわ(笑)。ツイート見て会議で盛り上がって、バカのふりして頼んじゃえって感じだよね。それがもふくちゃんのいいとこなんだけど。

左から夢眠ねむ、もふくちゃん。
左から夢眠ねむ、もふくちゃん。

もふく まふまふさんはマジで天才ですよ。これこそが私が思ってる抜け感のある電波ソングなの。音数はそんなに多くないけどメロがよくて耳に残る“ケロケロ”がある。

ねむ めっちゃわかる。新曲なのに“当時好きだった電波ソング”って感じがするもん。曲の向こうにゲームの物語が見えるよね、「どのかえるちゃんを攻略しようかな?」って。このゲームのジャケをファンアートで誰かに描いてもらいたい。

もふく ちょっとエッチなやつね。まふまふさんはヒャダインさんの次の世代のニコ動出身クリエイターというイメージ。今回アルバムの裏テーマがニコ動だから。

ねむ 私も最近YouTubeのゲーム実況観るようになって、好きになった人が何人かいるんだけど全員ニコ動出身だった。この時代にニコニコ動画の有料チャンネル登録したもん。

もふく 今そんな人誰もいないよ(笑)。

ねむ ニコ動いいなーと思ってたらもふくちゃんがすでに作品にしてたから、やっぱこの人カリスマなんだなって。

もふく 最先端を走りすぎて逆に今一番後ろにいるっていう(笑)。

2022年12月17日更新