04. 接吻~らぶらぶ♥ちゅ~
[作詞・作曲:e-nne(FICE) / ラップ詞・編曲:前山田健一]
もふく 「接吻~らぶらぶ♥ちゅ~」は私が調べた限りもうほとんどネットにちゃんと聴ける環境がないのよ。CDは売り切れてるし配信もされてないし、画質悪いライブ映像がYouTubeかニコ動に1、2本転がっているだけで……FICEさんが一番ネットの海に落ちてない。完全メイド宣言も桜川ひめこさんもMVが残ってるけどFICEさんはMVがないからね。
ねむ ライブの動画撮ってアップする行為がメジャーじゃなかった時代だ。FICEさんはモモーイ(桃井はるこ)とかレジェンド系の皆さんがアキバでやっているときにはもういらっしゃったよね?
もふく FICEさんはその少し後の世代かな。とにかく観客であるはずのヲタクまでも演者になっちゃうというか。ヲタ芸や着ぐるみ芸などのヲタクも含めた、よそ者から「気持ち悪い」と揶揄されるくらいの極まったライブパフォーマンスを唯一無二に仕立てたのはFICEさんだよね。
ねむ ちょっと言葉選んでください(笑)。
もふく アキバにおいて「気持ち悪い」は勝ち組の証、褒め言葉ですから。みんなで同じ振りコピをやって、それが天才的ヲタ芸師を生む土壌になって、なんならヲタクのほうが目立ってるくらいのステージを作り上げてた。見た目的にもピンクの髪と水色の髪でアニメキャラそのままみたいな格好で。
ねむ 遠くからでもFICEさんがいるってわかるんだよね。昔、アキバのドンキでFICEさんを見かけたときも同じ格好で感動したよ。まさにレジェンドよ。だから前のアルバム(「DEMPARK!!!」)のとき、えんちん(e-nne)が「でんぱ組.incさんの作詞しました!」って告知してくれてたのには動揺したよ。
もふく 憧れのFICEさんが!
ねむ MOSAIC.WAVさんとかもそうだけど、我々はあの方たちの音楽を聴いて2006年頃のアキバを生きていたからさ。神と仕事してるんだよね。
もふく 初期のFICEさんは戦隊ヒーローものみたいな曲が多かったでしょ。この「接吻~らぶらぶ♥ちゅ~」で初めて“電波ソング”って言われ始めたんだって。ちょっと洗脳要素があって何を言ってるかわかんなくて、ちょっとエッチな感じも入ってるっていう。電波ソング自体は90年代後半からある概念だけど、この曲でFICEがその仲間入りをしたみたいな。
ねむ この新規のラップ部分はもともとヲタクの口上が入るパートだよね。
もふく うん。でも今はコロナもあって口上入れられないし、原曲の尺がそもそも短かったからヒャダインさんにラップパートを作ってもらった。原曲の大事なところはキープしつつ令和風にブラッシュアップしてるこのバランスがさすがヒャダインさんでしたね。
05. オーギュメンテッドおじいちゃん
[作詞・作曲:ARM(IOSYS)、MOSAIC.WAV / 編曲:ARM(IOSYS)]
ねむ 「オーギュメンテッドおじいちゃん」を聴いて、もふくちゃんが言ってた「やりたいこと全部やれた」の意味がわかった。今これをやりたい人はもふくちゃん以外にいないもん(笑)。
もふく ほかのアイドルと対バンするとき浮いちゃうだろうね。
ねむ これ聴いて怒る人と好きな人とで分かれるかも。おじいちゃん呼ばわりして(笑)。
もふく 怒るかな? こんなくだらない歌で?(笑)
ねむ わはは! こういう曲「コンピューターおばあちゃん」以来でしょ。
もふく うん、「おばあちゃんの歌も少年少女の歌もあるのにおじいちゃんの歌だけなくてかわいそう」って、これを作ったおじいちゃんたちが言ってました(笑)。
ねむ IOSYSとMOSAIC.WAVって一緒にやったことないよね?
もふく 1回もないと思う。
ねむ だよね。これはヤバい。とんでもないことですよ。ARMさん(IOSYS)とかやぴー(柏森進 / MOSAIC.WAV)の世紀の出会い。
もふく もともとこのコラボはARMさんのアイデアなんですよ。最初にARMさんに声をかけたら「MOSAIC.WAVさんどうですかね」と提案してくれて。
ねむ スチャダラパーとRHYMESTERが「Forever Young」(2020年「スチャダラパーからのライムスター」名義)出したときみたいな感動! この曲は「Forever Young」の秋葉原バージョンだと思いますよ。
もふく ほとんど同じじゃない? どっちもおじいちゃんの曲でしょ(笑)。
ねむ どっちの文化も好きだから泣いたわー。エモいわー。
もふく アキバ風だとこうなるわけよ。「え? この状況からでも目指せる未来があるんですか!?( ゚д゚ )」って相沢梨紗が言うんだから。
ねむ その歌詞は本当にすごいよ……。
もふく 今の日本の状況もそうだし、もっと最悪の状況からでも、おじいちゃんでも目指せる未来があるんですよって。
ねむ うちらもおばあちゃんだしね。
もふく 若いのはひなちゃん(高咲陽菜)だけ。
ねむ おじいちゃんたちがヲタ芸を打っていた頃、ディアステージができた頃に産声を上げてるんだから。ひなちゃんは産まれたときから「おじいちゃん!」って言う運命だったんだ(笑)。
電波ソングのバイブスは
もふく とりあえず今回5曲だったけど、次のアルバムでも電波ソングは作るつもり。まだやれてない電波ソングの形がいっぱいあると思ってるから。
ねむ もふくちゃんが、でんぱ組.incの本来の姿をひっぱり戻してくれた感じがするな。
もふく 今回、私の好きなようにやらせてもらうという話になって、じゃあもともとでんぱ組.incの1stアルバムでやりたかったことをあえて今やろう、P-FUNKでいうところの宇宙、つまり自分たちの故郷から引き離され、バラバラになった黒人たちが異国の地で、もう一度俺たちの魂、マインドを統一するぞ!って歌い出したときに現れた“宇宙”というモチーフ、それを電波ソングでやりたかったわけ。私がやりたいことはずっと、いわゆる“電波ソングっぽい曲”とか“アニソンっぽい曲”とか、そういう音楽の表面的なものは全然関係なくて、この魂を描くことなのよ。令和になって、もう忘れられつつある電波ソングの起源や、それを生み出したヲタク文化を、もう一度、再統合する宇宙を表現したかった。
ねむ 電波ソングってぱっと見意味ないように見えて、奥にはめっちゃ意味があるからね。MOSAIC.WAVの音楽はその最高峰ですから。
もふく 意味しか大事じゃないんだよ。そしてその意味が、宇宙から生まれてることを忘れないでほしいんだよ。それが私の思う電波ソングのバイブスね。
ねむ ……今回、ファンの人たちに一切寄り添ってないよね。
もふく 確かに、今のトレンドやアイドルっぽさは完全に無視してるのかもしれない(笑)。でもそうじゃなくて、私は本気で、今ファンの人に聴いてもらいたい音楽を作ったのよ。そういう意味では、私なりに一番ファンのみんなに寄り添ったつもり(笑)。
ねむ 不親切だしわかりにくいんだよね。だからこのCDは売れません!(笑)
もふく えっ、売れたくて取材受けてるんだけど!
ねむ でもね、このCDは売れないけど、私はこれに感動する人と遊びに行きたい。これが響く人たちとアキバでお茶飲みたいなって思うもん。やりすぎだけど最高だなって思います(笑)。
プロフィール
でんぱ組.inc(デンパグミインク)
古川未鈴、相沢梨紗、藤咲彩音、鹿目凛、愛川こずえ、天沢璃人、小鳩りあ、空野青空、高咲陽菜からなる女性アイドルユニット。メンバーはそれぞれアニメ、マンガ、ゲームなどに精通したオタクとしても知られ、“萌えキュンソング”と呼ばれるアッパーな楽曲と情感豊かなライブパフォーマンスで国内のみならず海外からも話題を集める。2011年にシングル「Future Diver」でメジャーデビュー。2014年5月に初の日本武道館公演を行い、2016年12月にはベストアルバム「WWDBEST ~電波良好!~」をリリースした。その後もコンスタントに作品を発表している。最新作は2022年12月発売のミニアルバム「でんぱぁかしっくれこーど」。
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夢眠ねむ(ユメミネム)
書店店主、キャラクタープロデューサー。2009年に女性アイドルユニット・でんぱ組.incに加入し、グループ活動のかたわら、映像制作やコラム執筆、作詞を行うなど多方面で活躍した。2019年1月に東京・日本武道館で行われたでんぱ組.incの単独公演をもってグループを卒業し、3月には芸能界も引退。2019年7月にはかねてから目標としていた、自身の名前を冠した実店舗の書店「夢眠書店」を東京・下北沢にオープンさせた。書店経営と並行してミントグリーンのたぬき・たぬきゅんと、その仲間たちによるユニット・たぬきゅんフレンズをプロデュースしている。
もふくちゃん
東京都出身の音楽プロデューサー、クリエイティブディレクター。東京藝術大学音楽学部卒業後、ライブ&バー・秋葉原ディアステージやアニソンDJバー・秋葉原MOGRAの立ち上げに携わり、でんぱ組.incや虹のコンキスタドール、ミームトーキョー、ARCANA PROJECT、わーすたのアイドルに加えて、PUFFYをはじめとする多くのアーティストのクリエイティブおよび楽曲プロデュースを手がけている。