音楽ナタリー Power Push - 吉川晃司 meets 「DAVID BOWIE is」 最期まで本物だった僕のヒーロー

今年1月より東京・寺田倉庫G1ビルで開催されているデヴィッド・ボウイの回顧展「DAVID BOWIE is」。この回顧展は、ボウイの世界観やキャリアを総括した企画で、2013年にイギリス・ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館で初開催され、その後世界各国を巡回している。

「DAVID BOWIE is」では、ボウイのデビュー前から近年に至るまでに発表してきた作品や着用してきた衣装、使用機材など300点以上を展示。初のアジアでの開催となる日本では、映画「戦場のメリークリスマス」でボウイと共演した坂本龍一と北野武のインタビュー映像を上映するなど独自企画も展開しており、多くのリピーターも生み出している。

今回音楽ナタリーでは、ボウイを敬愛し彼の楽曲をカバーしているほか、「DAVID BOWIE is」も観覧した吉川晃司のインタビューを企画。ボウイとの出会い、彼から受けた影響、「DAVID BOWIE is」の感想などを聞いた。

取材・文 / 小野島大 撮影 / 吉場正和

特異な歌声、そして得体の知れない魅力

──デヴィッド・ボウイという存在との出会いは?

「DAVID BOWIE is」を観覧する吉川晃司。

衝撃的だったのは映画「キャット・ピープル」(1982年に公開されたナスターシャ・キンスキー主演のアメリカ映画。ボウイが主題歌「Cat People( Putting Out Fire)」を担当)ですね。あの主題歌のシングル盤は、今でも持っていますよ。もちろんボウイの存在自体はそれ以前から知っていましたけど、この映画での出会いが強烈でした。あの特異な歌唱法、唯一無二ですよね。「Cat People」は特に、通常より1オクターブ低いところを軸にしているのに、声ににじみがないし、その輪郭もはっきりしている。まずはそこに驚き、惹かれたんです。僕が高校生の頃ですね。そこから、さかのぼって聴くようになりました。一番聴いたのは「Space Oddity」、それに「Ziggy Stardust」あたりでしょうか。

──ビジュアル面については?

あの得体の知れなさ、中性的な感じというのは、憧れた部分がありましたね。隣の芝生はよく見えるというのか……。当時、ロックスターっていうのは華奢で、痩せているものだという風潮がありましたよね。ボウイに限らずイギリスのロッカー達は皆さん概ね色が白くて、体も細かった(笑)。

──ボウイとか、Japanのデヴィッド・シルヴィアンみたいな。

そうそう、化粧もしたりしてね。ところが僕は水泳をやっていたでしょう。もう夏なんかは真っ黒だし、バリバリのアスリート体型なわけですよ。ミュージシャン的なシルエットとは真逆をいってるわけでして。それでも、よく音楽雑誌の裏表紙にロッカーの衣装の広告が載っていたから、僕もお金を貯めて、それを買ってみたりしたんですけど、逆三角形で肩幅が広いので、一番デカいLLサイズを買っても肩が入らない(笑)。友達にゲラゲラ笑われたことがありましたね。

ボウイをやれなかった学生時代

──当時、ボウイをカバーしたことは?

高校のときに所属していたバンド(EIGHT CITYS FISH BAND)は、けっこう腕のいいバンドでね。広島では、そこそこ名が知れていまして。コンテストでは、ベストギタリスト賞とかベーシスト賞、ピアニスト賞を何度も取っていた。そこで僕はデヴィッド・ボウイの曲をやろうって提案したんですけどね……ちょっと志向性が違うということで、あっさりと却下されてしまいまして。もしかしたらボーカルばかりが目立つような楽曲を嫌ったという部分もあったのかもなあ。ほらバンドって、往々にしてギタリストとボーカリストのそりが合わないことが多いでしょ?(笑) そこが実はバンドの最大の面白味だったりもするんですが……。まあ我々もそれにもれずで。そんなわけで、ボウイカバーはなし!でした。

──では、どんな曲を?

「DAVID BOWIE is」の模様。(Photo by Shintaro Yamanaka [Qsyum!])

ジノ・ヴァネリとかをやっていましたね。「Brother to Brother」(1978年リリースのアルバム)とか「Nightwalker」(1981年リリースのアルバム)とかの曲を。そういう、当時我々高校生よりも少し上の世代の大人たちが聴いていたような音楽をやっているというところにプライドを持っているタイプのバンドでした。周りはパンクやハードロック……Led Zeppelin、Deep Purple、Rainbowとか。邦楽だとHOUND DOGや佐野(元春)さん、原田真二さん。女性だとパット・ベネターあたりが多かったですね。それに対して、我々は邦楽でも、例えばマライア。それも、ギタリストの土方隆行さんのソロアルバムの曲をコピーしたりと、ちょっとマニアックな選曲を軸にしていました。

──ボウイは目指そうとしてもハードルが高いのかもしれませんね。中性的なルックスもそうだし、歌もすごくうまい。しかも音楽的なパターンが決まっている人ではないから、型だけそれらしく真似しようとしても、なかなか近付けない。だから、コピーの対象にはなりにくかったのかも。

でも、だからこそやりたかったんですけどね。しかしこればかりは1人じゃね、どうにもなりません(笑)。

「DAVID BOWIE is | デヴィッド・ボウイ大回顧展」

開催期間
2017年1月8日(日)~4月9日(日)
休館日
毎週月曜日(但し4月3日は開館)
開館時間
10:00~20:00
(毎週金曜日は21:00まで。入場はいずれも閉館1時間前まで。3月29日(水)は都合により17:00に閉館)
会場
東京都 寺田倉庫G1 ビル(東京都品川区東品川2丁目6番10号)
料金
一般:2400 円(2200円)
中高生:1200 円(1000円)
カッコ内は前売り価格。小学生以下は無料。
トワイライトチケット:毎日16時以降入場の会場当日券を一般、中高生ともそれぞれ200円引きにて販売
吉川晃司(キッカワコウジ)
吉川晃司

1965年広島県出身。1984年に映画「すかんぴんウォーク」の主役に抜擢。同時に主題歌「モニカ」で歌手デビューも果たし、楽曲のヒットと共に逆三角形の肉体とワイルドなキャラクターで人気を博す。その後もヒット曲を連発し、1988年には布袋寅泰とロックユニットCOMPLEXを結成。1990年に活動停止し、その後ソロとしての活動を再開する。近年は俳優としての活躍も目覚ましく、映画「るろうに剣心」で鵜堂刃衛役、NHK大河ドラマ「八重の桜」で西郷隆盛、TBSドラマ「下町ロケット」の財前道生役などで存在感を見せた。2016年には水球日本代表・ポセイドンジャパンからのオファーを受け、公式応援ソング「Over The Rainbow」を制作。同曲は2020年に行われる東京オリンピックへ向けても引き続き使用される。2017年7月より全国ツアー「KIKKAWA KOJI LIVE 2017 "Live is Life"」を開催する。