当初の構想より666倍の出来栄え
──大聖典「旧約魔界聖書」第Ⅰ章と第Ⅱ章には、どんな違いがあるのでしょうか?
私の中では、比較的シンプルにまとめた曲が第Ⅰ章、複雑な構成の楽曲が第Ⅱ章という分け方になっている。どちらも王道メタルや様式美だけではなく、斬新なアイデアも取り入れているがな。ストーリー的なことで言えば、第Ⅰ章の1曲目、2曲目、3曲目はしっかり構築されている。1曲目の「聖詠」は合唱曲で、初代魔王ルシファーの言葉を引用して教えを説いている。続く「BABEL」は神が純愛を切り捨て、天界の掟を重視する姿を描いた曲で、3曲目の「Heaven to Hell」では悪魔が連れ去った天使と紆余曲折を経て愛を育むまでをつづっている。2曲目と3曲目の対比をリスナーに届けたかったのだ。「Heaven to Hell」は組曲的な構成だから本来は「第Ⅱ章」に入れるべきなのだが、「Babel」と「Heaven to Hell」は大聖典としての効果のためにも絶対につなげなければいけなかった。
──なるほど。さくら“シエル”伊舎堂さんの歌声、バンドメンバーの演奏技術も本作の大きな魅力ですよね。陛下から見て、シエルさんの一番のよさはどこにあると思いますか?
シエルの魅力はいっぱいあるが、技術的なことはもちろん、一番注目すべきは吸収力だと思う。バンドに参加することが決まる前に、インターネット上の彼女の動画や音源をチェックしたのだが、「旧約魔界聖書」における歌はそのときの音源よりも数倍うまくなっている。悪魔教会(レコード会社)からから聞いた話なのだが、私が送ったデモテープを50回以上も聴き、歌の表現を追求していたらしい。もともとの肺活量、ダイナミクスや音域の広さもあるが、努力家であることが彼女の素晴らしさだな。
──“改臟”の甲斐もありそうですね。
まさに逸材だ。バンドメンバーも進化せざるを得なかったと思う。先ほども言ったが、人間技では弾けないアレンジも含まれているからな。実際、「今までできなかったことができるようになりました」と言っていたぞ。浜田道場で鍛えられ、立派な改臟人間になったということだ。ダミアン浜田、伊舎堂さくら、金属恵比須に共通しているのは、クラシックロックが大好きだということ。趣味が合うので私の作る楽曲の世界観に共鳴、共感してくれているし、レコーディングの際も「このフレーズはどうでしょう?」と細かく相談してくれた。ダミアン浜田の世界観を崩さず、よりよいものにしてくれたことはとてもありがたいと思っている。
──陛下ご自身の手応えもかなりあるのでは?
それはもう十分すぎるほどにある。当初の「歌声だけ差し替えて出してもいい」と思っていた段階に比べると、大聖典の出来栄えは666倍よいものになっている。私が作った楽曲とアレンジに金属恵比須のメンバーの個性、シエルのシャウトや歌い回しなどが加わり、自分でも感動してしまうほどだ。私がリスナーとしてこの作品を試聴したとしたら、間違いなく買うな。それにしても、まさかこんな展開になるとはな。去年の3月に教職を退職したときの自分に、「この先、かなり楽しいことが待ってるよ」と教えてやりたいくらいだ。
“史上最大のゼウスの妨害”が去ればすぐにライブを
──「Bable」のミュージックビデオが公表されたときの信者の方々のリアクションもとても大きかったですね。
そうだな。信者の反応が気になるので、私も常にチェックしているぞ。YouTubeのコメントでも非常に評価が高く、うれしく思っている。私は褒められて伸びるタイプだから俄然やる気が出てくるし、「次もがんばるぞ」という気持ちになるのだ(笑)。あと、驚いたことが2つあって。まずは、YouTubeに外国からもコメントが寄せられていること。「どうやって知ったんだ?」と不思議ではあるが、海外から注目されることも本当にうれしい。もう1つは、「Bable」のMVが公開されて24時間経たないうちに歌詞を聴き取って掲載していた信者が2人もいたことだ。熱心にもほどがあるだろう。まあ、部分的に違っていたがな(笑)。
──大聖典が2作リリースされれば、「ライブを観たい!」という信者も多くなると思います。
私も観たいぞ(笑)。そもそもライブを視野に入れて結成されたバンドだしな。“史上最大レベルのゼウスの妨害”と呼んでいるコロナが去れば、すぐにでもやりたいと思っている。
──非常に楽しみです。次作の構想などもあるのでしょうか?
曲の構想はどんどん浮かんでいるぞ。次の大聖典のタイトルも私の中ではすでに決まっているし、準備は勝手に進めている。次の次くらいまで先を見据えて、湧いてくるものを形にしていければいいなと。「照魔鏡」を出したときは「もうしばらくいい」「出し尽くしたかもしれない」と思ったが、今は違っていて、むしろ「いくらでも出てくるんじゃないか」と感じるくらいだな。
──素晴らしいです。最後にお伺いしたいのですが、陛下の中には「ヘヴィメタルのよさを日本の人間に知らしめたい」「ヘヴィメタルを復権させたい」という気持ちはありますか?
それはさすがにおこがましいだろう。デスメタルが好きな人間もいるし、最近のリズム重視のメタルが好きな人間もいるし、好みはそれぞれ違うからな。そもそも私は、かつての個悪魔大教典にしても、初期の聖飢魔Ⅱの楽曲にしても、“ザッツ・ヘビィメタル”とは全然思っていないのだ。ただ私が好きな音楽を作っているし、今回の大聖典2作も好きなことしかやってないからな。メジャー進行の明るい曲も作ろうと思えば作れるが、それでは自分らしさが出せないし、作っていて楽しくない(笑)。やはり私は、暗さの中に美しさがあるヘヴィメタルが好きなのだ。これからもそれは変わらないだろう。