JIRO(GLAY)×JunIzawa(LITE)によるCONTRASTZ始動|異色のツインベースバンド結成の背景 (2/3)

初めて知った変拍子はGLAY「誘惑」

──そんなお二人が、一緒に音楽をやろうと思ったきっかけはなんだったのですか?

JIRO なんでだっけ?(笑)

井澤 LITEは基本的に海外で活動しているんですけど、パンデミックで行けなくなっちゃいまして。それで今自分が何をやれるかを考えて、“JunIzawa”っていう名前で作品を出すラインを作ったんですけど、そのときにもJIROさんに相談してました。JunIzawaには“いろんな人とつながりを作る”というコンセプトがあって。いろんなアーティスト、他ジャンルの人とコラボをしてたんです。そうしたらあるとき、JIROさんが「俺も一緒にやりたい」と言ってくれました。それまで遊びではいろいろと関わってきたけど、その交わりを音楽に持っていったらどうなるんだろう?と考えて、とりあえずその遊びの流れで「1曲作るんで、一緒にやってみませんか?」とデモを送ったのがスタートです。

──JIROさんはどうして「一緒にやりたい」と思ったのですか?

JIRO 山中さわおさんと組んだTHE PREDATORSもそうだったんですけど、さわおさんとプライベートでいっぱいお酒を飲んだり音楽の話をしたりして。「こんなに趣味が合うんだったら、酒ばっかり飲んでないでなんかやろうよ」って、さわおさんが言ってくれたんですよ。ただ、それが90年代末の頃でGLAYも忙しい時期だったんで、現実的に無理だったんですけど。GLAYがちょっと休止するときにその話を思い出して、さわおさんと一緒に音楽をやり始めたのがTHE PREDATORS誕生のきっかけなんです。井澤くんとはベーシスト同士なので、バンドは組みづらいところがあったんですけど、一緒に音楽ができたら絶対楽しいだろうなと。それに井澤くんが海外での活動が止まってしまったことで、俺なりに何かできないかなと思ってたんですよ。だから「お役に立てることだったら」みたいな感じで僕は言いましたね。そうしたら届いた音源がバカみたいに難しかった(笑)。やっぱハンパねえな、井澤くんすごいなとそのときにも思いました。

左から井澤惇(LITE)、JIRO(GLAY)。

左から井澤惇(LITE)、JIRO(GLAY)。

井澤 中途半端にJIROさんに合わせた曲を作っても面白くないと思ったんです。逆にJIROさんが弾かないような曲を、JIROさんの音で埋めてもらったらどうなるんだろう?という化学反応に興味を持って、最初から変態的な曲を作りました。それで曲を送って、返ってきたJIROさんのベースを聴いたら、自分にはまったくないタイプのプレイだったし、鳴っている音も深みがあって曲全体を支えてくれていた。だから「今度はこういうのを作りたい」という欲が出てきて、一気に3曲くらい作ったんですよ。JIROさんは1曲のコラボのつもりだったと思うんですけど、僕から「ちゃんとプロジェクトにしたい」と言って提案しました。

──1曲できた段階で次の展開が見えたんですね。

JIRO 2曲目に取りかかるときにもう井澤くんが「ちゃんとしたプロジェクトとしてやりたい」って具体的な話をしてきたんです。井澤くんの曲、普通に聴く分にはいいんですよ。でもいざベースを入れなきゃということで聴いてみると、頭が混乱するぐらいの変拍子。耳馴染みはいいけど、やってみると超変態的に難しい。井澤くん、ちょっと頭おかしいなと(笑)。GLAYは「輪になって踊ろうぜ」みたいな感じですけど、井澤くんの見てる音楽の世界は全然違うところにある。次にLITEのライブを観るのが楽しみですよ。そういうこと知ったうえで観るとかなり面白いんじゃないかと思ってます。

井澤 そもそも歌のない世界でJIROさんがベース弾くことはないですものね。

JIRO そうだね。以前井澤くんが「インストでも自分たちの中ではAメロ、Bメロ、サビがあるんです」と言っていて。僕はそれが全然理解できてなかった。それまでLITEは聴感上気持ちいいなと思いながら聴いていて、そういう音楽の分析をしたことがなかったんです。でも井澤くんと一緒にやることで、「ここをBメロと呼んでるのか」とちゃんと理解できるようになってきた。このプロジェクトでより深いところに行けた。歌モノ以外でもそういう楽しみ方をちゃんと知ることができましたね。

井澤 僕らが作るのは歌のない音楽ですけど、ポップスを追い求めてはきました。何がキャッチーに聞こえるのか、何がポップスになるのかを僕らなりに考えてるところもあるんですね。以前GLAYのドラムの永井(利充)さんとお話ししたときに、「4拍子って、逆に気持ち悪くない?」「確かに4拍子、ちょっと多いですよね」という話になったんです。早く次へ行きたいのに4拍子だと長い、そう思う人がいるんだなって。

JIRO いないよ、いない(笑)。

左から井澤惇(LITE)、JIRO(GLAY)。

左から井澤惇(LITE)、JIRO(GLAY)。

井澤 でも、永井さんはわかってくれたんです(笑)。たぶん僕ら、息継ぎのタイミングがちょっと早いんですよ、ほかの人よりも。でもそこが僕らのジャストタイミング。変拍子を求めているわけではなく、気持ちいいタイミングを求めたら変拍子だったという。それが僕らなりのポップスだったり、キャッチーさだったりするのかなって。テクニックがあるとキャッチーに聞こえたりするじゃないですか。ないよりはあったほうがいいというのと一緒で、変拍子があったら気持ちいい。だったらそれはポップスにつながるんじゃないかって、僕らは信じています。

JIRO Aerosmithに変な拍子が入って次の展開に行く曲があるんだけど、それは単純にスティーヴン・タイラーが歌いやすいタイミングで書いてるんじゃないかっていう、そういうことだよね。自分たちが一番気持ちいいタイミングで次へ行く、小節にとらわれたくない、みたいな。

井澤 ちなみに、僕が初めて出会った変拍子は「誘惑」なんですよ。

JIRO あははははは! あれは変拍子といっても子供だましみたいなもんだよ(笑)。

井澤 中学生のときに「これ、うまくノれないじゃん!」と思って。でもそれがキャッチーだったんですよね。あのリズム、あのビートに耳が惹かれたんですよ。

JIRO あれは永井さんが考えた変拍子だなあ(笑)。

井澤 やっぱ永井さんなんだ(笑)。そういうところもポップスなんだと思ったきっかけは、やっぱりGLAYなんですよね。初めて知った変拍子はGLAYです!

“LITEの井澤とGLAYのJIROが一緒にやる”コントラスト

──1stミニアルバム「CONTRASTZ」の制作は、井澤さんが作ったトラックにJIROさんがベースを入れていくという形で進められたのですか?

JIRO ええ、井澤くんがすべてのトラックを作って。僕のベースラインの部分を仮で入れてきてくれたので、それに対して僕のアプローチで返していく。「このフレーズ以外ありえない」と思ったところは井澤くんの提案のまま弾いてるし、カウンターとしてフックや休符を入れたり、メロディがこうなったらもう少し広がりを見せられるな、というところをいじったりしたくらいで、ほぼ井澤くんの世界観ですね。

井澤 でも、JIROさんのフレーズで曲が変わっていくことがいっぱいありました。そのまま弾いていただいたところもあったんですけど、僕が弾いたものをJIROさんが弾くことでアップデートされているのを感じましたね。3曲目の「UNITE」は僕が弾いたベースとはまったく違うフレーズだったんですよ。それを元に作った音源が「これで完成だ!」となったところ、JIROさんが「これじゃなくなってきた」と言って、丸ごと全然違うフレーズに変わったんですよ。

井澤惇(LITE)

井澤惇(LITE)

JIRO 最初に「PIGEON」を作って、そのあとが「UNITE」だったよね。曲が増えていくにつれ、「UNITE」の俺が弾いたベースラインが浮くなあと思って。それで「録り直したい」と言ったんですよ。

井澤 最初のものがすごくカッコよかったから「変えちゃうんですか……」って、ちょっと寂しい気持ちもあったんですけど、そのあとに送られてきたものが、これまたカッコよかった。音色も弾き方も全然違うものになってた。「PIGEON」「UNITE」「CLOCKWISE」を作ったあとに「これは作品としてちゃんと形にしたい」と思ったんですね。それでJIROさんとタコスを食べにいって、「インストは何曲くらいだと飽きないですかね?」「7曲じゃない?」「じゃあ、7曲で作りたいです」という話をしました。

JIRO そうそう、おいしかったね、タコス。

──全体的に音数が少ないですよね。余計な音が入っていなくて、ベースが映える。そこはこだわったところですか?

井澤 JIROさんと遊びに行くときに車で音楽をかけながら「今どういう音楽を聴いてるんですか?」という話もするんですけど、お互い音数が多すぎる曲を嫌っていて。1個1個の音の粒がはっきり出るような音楽、というのは念頭にありました。

──ベースメインのインストながらテクニックに走っていない、いい意味でのBGM感があります。とはいえお互いの色がはっきりとある仕上がりで、これはJIROさん、こっちが井澤さん、というのが聴いていてちゃんとわかる。そのコントラストがユニット名につながっているんでしょうか?

JIRO まさにそうですね。“LITEの井澤とGLAYのJIROが一緒にやる”ということで、音楽やロックという大きな部分では一緒かもしれないけど、対極にあるサウンドを奏でるバンドなんで、そういった意味でのコントラスト。スカタライツ(The Skatalites)っていうバンド名がキャッチーですごい好きなんですけど、そのニュアンスでCONTRASTZ(コントラスツ)はどうだろうと。

井澤 一発でしっくり来たので、「それで!」と決まりました。

JIRO 音楽的な部分では井澤くんに乗っかりっぱなしなので、ほかの部分でちょっと貢献しないとね。

井澤 曲名もJIROさんが付けてくれたり。

JIRO アー写やジャケットのアイデア出しもね。

JIRO(GLAY)

JIRO(GLAY)

井澤 僕が知らないことをたくさん知っているので。どう見せると面白いか、そこに関して迷いなく「それにしましょう!」と言える。先輩だから立てるわけじゃなくて、素直に一緒にやるのが面白いなと思ってますね。

──ラストだけ歌モノで、ホリエアツシさん(ストレイテナー)が参加したボーカル曲「ALTZ」が入ってますね。

井澤 僕はよくサンプリングボイスを使うんです。ピッチと波形を組み合わせてメロディを作る。それでよかった曲もあるんですけど、「ALTZ」だけはしっくりこなかった。生ボーカルのメロディラインがないと困ると思ったんですね。それでJIROさんに「この曲だけちゃんと歌が欲しいです」という話をして。JIROさんと僕の共通の知り合いがいるかな? この曲にハマる声は誰かな?と考えて浮かんだのがホリエさんだったんです。

──いい具合にハマってますね。

JIRO うんうん、めちゃくちゃいい感じになった。

井澤 僕とJIROさんはデータのやりとりで制作を進めたんですけど、ホリエさんはDTMをやられない方なんで、普通にアコギで歌ってるボイスメモが送られてきて。オケとは別に、ちゃんとスタジオでレコーディングしました。