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近年右肩上がりの成長を続けているアナログレコード市場。特に昨年はアナログブームが再燃したと言われ、年間を通して79万9000枚のアナログレコードが生産された。今回のコラム企画では、国内で唯一アナログレコードの一貫製造を行う東洋化成や、カッティングマシンやプレス機を導入するなど自社生産体制の整備を進めるソニーミュージックグループのほか、アナログ専門レーベルのGREAT TRACKS、レコードショップ、ミュージックバーといった多方面の関係者に話を聞き、アナログレコード市場の“今”に迫った。また、久保田利伸、スカート、YONCE(Suchmos)、もも(チャラン・ポ・ランタン)に、アナログレコードの魅力についてコメントしてもらった。

取材・文・撮影 / 近藤隼人

ストリーミングサービスと二人三脚の関係

Technicsのレコードプレーヤー、SL-1200MK3D。

2017年の国内のアナログレコードの生産数は、8月の時点で昨年の年間生産数の約80%となる62万3300枚を突破。多くのアナログレコードが市場に出回っている。東洋化成のディスク事業部営業部長の本根誠氏は、近年市場が盛り上がっている背景が、定額制の音楽配信サービスが浸透していることとつながっていると推測する。

2015年にiTunes StoreがApple Musicをスタートさせるなど、定額制音楽配信サービスが相次いで始まったことによって、若者が聴いたことのない音楽を聴くことの敷居が下がりました。そのとき僕らは「CDやアナログレコードの文化は終わっちゃうんじゃないかな」と思ったのですが、実際にはアナログレコード市場は右肩上がりになって。今はSpotifyやLINE MUSICなどストリーミングサービスが盛んな一方で、アナログ盤も売れていて、両者は二人三脚の関係にあると思うんです。ストリーミングサービスが検索エンジンとしての役割も果たしていて、そこで触れた音楽をCDではなくアナログ盤で買ってくれている人が多いんじゃないですかね。

──東洋化成 本根誠氏

「レコードの日」ポスター

東洋化成は「全国どこでもレコードが手に入るイベントをやりたい」という思いのもと、2015年より毎年11月3日にアナログレコードの催事「レコードの日」を開催している。毎年4月に行われている「RECORD STORE DAY」と共に、回数を重ねるごとにその存在が音楽業界に浸透しつつある。

レコードの日
2017年11月3日に東洋化成が開催するアナログレコードの祭典。

毎年エントリーしてくれるアーティストもいるんです。年間スケジュールの中に「レコードの日」を入れてくれているのはすごく光栄なことですね。今年メジャーレーベルにもお声がけしたら、「待ってました」と手を挙げてくださったアーティストもいました。昨年11月3日にはハッシュタグ「#レコードの日」がTwitterのトレンドに入るなど、リスナー側にも年1回のお祭りとして「レコードの日」を待ち望んでいる方がいることを実感しています。

──東洋化成 本根誠氏

今年の「レコードの日」のラインナップは、YEN TOWN BAND「“Swallowtail Butterfly~あいのうた~7inch analog record single”」、キリンジ「スウィートソウル ep」、フェイ・ウォン「Eyes On Me」をはじめとする全79作品。岩崎宏美「Hello! Hello!」「Piano Songs -Edited for LP-」など、メジャーレーベルからのタイトルも並んでいる。

アナログレコードを初めて買う人、アナログ盤を聴くことをひさしく忘れていた人への訴求はメジャーレーベルの作品がエントリーされたことで表現できたと感じています。例えば岩崎宏美さんはノスタルジーの中に生きてる人ではなく、現役のポピュラーシンガーですよね。今回の2タイトルには今でもあの世代が持っている現役感が出ていると思います。その一方で、アナログファンに親しみのあるThe Pen Friend Clubが昨年に続いてエントリーしてくれたのもうれしいですね。彼らの音楽は「アナログで聴いてこそ完結!」と思えるのでがんばってほしいです。

──東洋化成 本根誠氏

ハイブリッドなアナログレコードの音作り

ソニーミュージックグループはアナログレコード市場が年々活気を帯びていることや、若い世代も含むアーティストから「アナログレコードで作品を出したい」という声が増えてきたことを受け、今年2月にソニー・ミュージックスタジオにアナログレコード用のカッティングマシンを導入。新たにカッティングエンジニアを育成した。スタジオを運営するソニー・ミュージックコミュニケーションズの代表取締役、そしてソニー・ミュージックエンタテインメントの役員でもある古川愛一郎氏は、その背景をこう語る。

アナログレコードのマスター作りにはカッティングエンジニアの個性が出るんですよ。切り方によって音量も音質も違ってきます。ただ、スタジオの現役エンジニアにはアナログレコードを手がけた経験のある者がいなかった。そこで音作りに精通したマスタリングエンジニアを抜擢し、OBや他社のエンジニアの方々にご協力いただき、カッティング技術を伝授してもらいました。3年はかかると言われていたところを、なんと3ヶ月で習得できました。その理由の1つは、今は事前にデジタル処理が行えること。昔はカッティング作業と音源の調整を同時に行わなくてはいけなかったのですが、デジタル技術の進歩により、今は事前に調整をしておくことでカッティング作業だけに集中することができます。そういう意味では、昔と同じことを復古的にやっているわけではなく、デジタル技術との掛け合わせによるハイブリッドなアナログレコードの音作りをしているとも言えます。

──ソニー・ミュージックコミュニケーションズ 古川愛一郎氏

ソニー・ミュージックスタジオに導入されたアナログレコード用のカッティングマシン。(写真提供:ソニー・ミュージックエンタテインメント)

またソニー・ミュージックエンタテインメントは、6月に光ディスクの製造拠点であるソニーDADCジャパンにアナログレコードのプレス機を導入。さらに、原盤からスタンパーを作成する工程も自社で行い、アナログレコードを一貫生産するべく体制を整えている。

自社で一貫生産することによって、アーティストの細かい要望にも応えられる、よりこだわった音作りを目指したいですね。同時に、お客さんの視聴習慣の中にどれだけ選択肢を提示できるかに挑戦しています。「サブスクも利用するしアナログも聴く」という音楽の聴き方でいいと思っているんです。CDが登場したときのような音楽メディアのフォーマットの変化を起こそうとしているのではなく、アナログという選択肢を提示することで音楽業界を活性化していきたいです。

──ソニー・ミュージックコミュニケーションズ 古川愛一郎氏

アナログレコードは茶道

バーニー・グランドマンのサイン入りのテストカット盤。

一方で昨年立ち上げられたソニー・ミュージックダイレクトのアナログ専門レーベル・GREAT TRACKSでは、一部のタイトルをソニーミュージックグループ内に導入されたマシンで製造しつつも、ほとんどの作品のカッティングとプレスをアメリカで行っている。1980年代にレコーディングエンジニアとしてアナログレコードに関わり、「洋楽の輸入盤はどうしてこんなにいい音をしてるんだろう?」という疑問を抱いていたというプロデューサーの滝瀬茂氏は、マイケル・ジャクソンらの名盤を手がけた名匠、バーニー・グランドマンにカッティングを依頼。ピチカート・ファイヴ「カップルズ」「ベリッシマ」など、小西康陽が監修したタイトルをはじめとする、確かな音質と豊かな音圧にこだわったアナログレコードを世に届けている。

最初小西さんに「いい音のピチカート・ファイヴのアナログ盤を作りたい」と話したら、「カッティングに立ち会わせてくれるなら」という条件を提示されたんです。でもアメリカのバーニーさんのところに一緒に行くにはスケジュールが合わず、1980年代の輸入盤レコードの音を目指したいというGREAT TRACKSの理念を伝え、「東京で小西さんの好きなようにマスタリングして、その音をバーニーさんにカッティングしてもらうのはどうか」と提案すると、最終的には小西さんが「滝瀬さんに任せるよ」と言ってくれて。テストカット盤を持ち帰って小西さんに聴いてもらったら、すごく気に入ってくれました。

──GREAT TRACKS 滝瀬茂氏

GREAT TRACKSより発売されているアナログレコード。

昨今のアナログレコード市場の盛り上がりについて、売上枚数の面ではまだまだだが、今後への可能性は感じていると言う滝瀬氏。彼はアナログレコードの魅力を2つ挙げている。

1つは音ですね。デジタル化された音源は必要以上に加工されてしまっていて、直接聴くにはヴィヴィッド過ぎて、人の耳に心地よくない気がします。それに対して、アナログはよい意味で鈍く、人が聴いて気持ちいい音なんです。もう1つは、音楽に向き合う時間ができることですね。いろんなことが便利になったおかげで簡単に音楽を聴けるようになりましたが、アナログ盤を聴くときは「音楽を聴こう」という気持ちが強くなります。僕は昔アナログ盤しかなかった頃は好きなアーティストの次のアルバムが出るのが楽しみで、お店で買ってきたら家で正座して聴いていたくらいで。うちのとある役員はその作法や動作から「アナログレコードは茶道だ」と言っていました。最近はレコードショップも増えているので、今後市場がもっと盛り上がることを期待しています。

──GREAT TRACKS 滝瀬茂氏