新譜市場は若年層が中心

ディスクユニオン下北沢店の様子。

アナログレコードを購入する音楽ファンと直接触れ合うレコードショップのスタッフたちは、現在の市場の活況をどのように感じているのだろうか。1985年のオープン時からアナログレコードを扱い、ロックやJ-POPを中心にオールジャンルのタイトルをそろえているディスクユニオン下北沢店の木村晃平店長は、購買層の変化についてこう述べている。

DJシーンが盛り上がった1990年代後半から2005年あたりまでを超えるほどではないですが、活況は感じています。それと当時とは売れ方が変わっていて、DJが曲をかける用に買うより、コレクターの方がコレクション目的で買うことのほうが多い印象です。お客さんの年齢層も若くなっています。以前は三十歳以上のお客様がメインの購入層でしたが、最近は高校生が制服でアナログ盤を買いに来るようなことも多いです。「RECORD STORE DAY」や「レコードの日」が浸透してきていることもあり、若いお客さんが新譜を買う光景をよく目にします。

──ディスクユニオン下北沢店 木村晃平氏

HMV record shopコピス吉祥寺店の様子。

若者が多く集まる東京・吉祥寺には、今年3月にHMV record shopコピス吉祥寺店がオープン。新宿や渋谷店よりもライトな層に向けたわかりやすいラインナップが特徴だ。同店の竹野智博店長はアナログレコード文化が若年層に広がっていることをより実感しているという。

吉祥寺店に関しては若いお客さんが目立ちますね。十代の方もいますし、お母さんと来店した小学生に「Nulbarichのレコードを買いたいんですが、このプレイヤーでも大丈夫ですか?」と聞かれたときは衝撃的でした。親が懐かしいと思ってレコードを聴いていると、子供も親しみやすくなるんでしょうね。

──HMV record shopコピス吉祥寺店 竹野智博氏

さらに彼は、新譜をアナログレコードでリリースするアーティストの増加が市場の盛り上がりを牽引していると語る。

今年もリリースが増えていますし、新譜に引っ張られる形で市場が盛り上がっていると思います。新譜の購買層は若いお客さんが中心になっていますね。4月の「RECORD STORE DAY 2017」でも多くのお客さんがお店に並びました。昨年の盛り上がりを通して定着したお客さんも多いんじゃないでしょうか。それに今年、THE BLUE HEARTS、はっぴいえんど、スピッツといったビッグネームのタイトルがリリースされたことがきっかけで、アナログ盤から遠ざかっていた人たちが戻ってきているようにも感じます。中古盤の購買層に関しては、珍しいものがあれば何枚でも買っていくコレクターの方などが中心ですね。

──HMV record shopコピス吉祥寺店 竹野智博氏

手間以上のものが返ってくる

原宿ペニーレインの店内の様子。

レコードショップのほかに、アナログファンが集う場所としてミュージックバーがある。1990年に一度閉店するも2006年に復活した老舗・原宿ペニーレインでは、アナログレコードの視聴イベントを月に1回開催。店のオーナーであるフォーライフミュージックエンタテイメントの後藤豊社長による、「レコード会社としていい音でアナログレコードを聴く環境を持つべきじゃないか」という思いのもとスタートしたこのイベントでは、パイオニアのブランド・TADのスピーカーやAcoustic Reviveのオーディオアクセサリーなど、はちみつぱいの和田博巳が監修した純日本製のハイエンドなオーディオシステムでアナログレコードを楽しむことができる。店にある約400枚のアナログ盤の半分近くが私物であるという米屋龍治店長は、幅広い客層が集う「アナログcafebar1975」への思いや、アナログレコードの魅力をこのように語ってくれた。

昔の音楽を聴くきっかけってあまりないと思うので、素晴らしい名曲を「アナログcafebar1975」を通してどんどん知ってほしいです。音楽好きな方の中にはいい再生環境で、いい音で音楽を聴きたいという人がけっこういると思っていて。そういう人たちにとっては、アナログレコードはとても興味のあるものだと思うんです。我々からすれば青春時代に聴いた音楽を同じ環境で聴きたいし、今は安く中古盤を買えるので、手軽にノスタルジーに浸れますし。あと、手間とお金がかかるものって、それを手に入れたときの感動、喜びも大きいと思うんです。手間以上のものが返ってくるのがアナログレコードの魅力じゃないでしょうか。

──原宿ペニーレイン 米屋龍治氏

Spincoaster Music Barの様子。

2015年に東京・代々木にオープンした、アナログレコードとハイレゾ音源のサウンドを楽しめるSpincoaster Music Barでは持参したアナログレコードをかけることができ、購入した商品をそのままバーに持ち込んで試聴する客も多い。ボトルキープのように、店の棚に自分のアナログレコードを置いておくことも可能だ。音楽を通してコミュニケーションできる場所を作ろうと考え、ミュージックバーを作ったという株式会社Spincoasterの林潤代表取締役は、新譜をかけること、若い客層も来店するのが店の大きな特徴だと紹介する。

僕は老舗のミュージックバーが好きで、お店を見つけるたびに遊びに行くようにしてるんです。都内でも有名なところは全部行っているんですが、どこも古い曲は流しても新しい曲は全然流さないことに気付いて。客層も四十、五十代以上の人が中心で、二十、三十代の若者が集まるミュージックバーがあってもいいんじゃないかと思ったんです。なのでうちのバーには新譜のレコードがいっぱいあって、お客さんの年齢層も幅広いですね。若い女性の方も学生も来ます。

──Spincoaster 林潤氏

そしてアナログレコード市場の活況については、昨年以上の勢いを感じているという。

CDが売れなくなっていることもあって、手軽に音楽を聴くならストリーミングサービスで、いい音で聴くならレコードという二極化が顕著になっていますね。このバーがアナログとハイレゾという2つの軸を持っているのは、世の中的に二極化の方向に向かっているという感覚があったからで、アナログレコード市場も昨年以上に盛り上がってると思います。

──Spincoaster 林潤氏


2018年11月16日更新