ZAQ×藤井隆|器用すぎるアニソンアーティストの多彩な才能

4人のキュレーターがそれぞれ話を聞きたい次世代アーティストとトークを交わす「Coming Next Artists」シーズン2の対談企画。第5回では、キュレーターの藤井隆が対談相手にZAQを指名した。“架空のアニメソング”を収録した椿鬼奴のミニアルバム「IVKI」(参照:「Coming Next Artists」シーズン2 キュレーター対談 第3回 椿鬼奴×沙田瑞紀(ねごと))をプロデュースした藤井が、実際に多数のアニメソングを手がけているZAQの音楽家としての背景や、彼女の多彩な才能を探る。

取材 / 臼杵成晃 文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 堀内彩香

Coming Next Artists シーズン2

ZAQ(ザック)
ZAQ
シンガーソングライター。3歳の頃からピアノを始め、音楽大学のピアノ科に進学。学生時代に触れたアニメソングに衝撃を受け、アニソンシンガーを目指す。2012年、テレビアニメ「未来日記」のキャラクターソングで作詞・作曲・編曲を担当し、クリエイターとしてデビューを飾る。その後もさまざまなアニメ作品や声優アーティストに楽曲を提供しながら、並行してソロアーティストとしても活躍中。2019年1月にはテレビアニメ「荒野のコトブキ飛行隊」オープニング主題歌を収めた17thシングル「ソラノネ」を、2月には「劇場版 トリニティセブン」劇場第2弾の主題歌シングル「Against The Abyss」をリリースした。

大学行かずにパリピになっちゃった

藤井隆 そもそもZAQさんは、どういう経緯で音楽を始めたんですか?

ZAQ 私は3歳の頃からずっとピアノを習っていて、東京の音大のピアノ科に入ったんです。鹿児島出身なので、「東京で一旗揚げてやるぜ!」という感じで上京したんですけど、みんなめちゃくちゃピアノがうまいんですよね。上京して周りのレベルに埋もれてしまう中でやさぐれて、クラブ通いをするようになりまして……。

藤井 え!?

ZAQ

ZAQ クラブに行くようになって、ヒップホップとかR&Bとかダンスミュージックの世界に傾倒して、大学行かずにパリピになっちゃったんです(笑)。俗に言う“大学デビュー”という名の黒歴史ですね。

藤井 そこからアニソンに興味を持ったのはなぜですか?

ZAQ 当時テレビでたまたま流れたCMがきっかけですね。「喰霊-零-」っていう深夜アニメのCMで、声優の茅原実里さんが歌っていたんですけど、その曲がメチャクチャカッコよくて。それからいろいろアニソンを聴いていくうちに、アニソンの音楽性の高さに惹かれたんです。アニソンって89秒という枠組みの中で自由に駆け回れる音楽なんですよ。

藤井 でもそれって作家目線の話ですよね。ZAQさんはご自身が歌うこともあるわけで、アーティストとしてやっていこうと思ったきっかけは?

ZAQ 自分にとってアニソンに興味を持つきっかけとなった茅原さんのライブに行ってみたんです。そうしたらファンの一体感がすごくて、「なんだこれは!?」ってまた衝撃を受けて。サイリウムで白1色に染まる会場を観て「この景色をステージから観てみたいな」と思って、そこから歌を始めました。ただ、いろんなオーディションを受けてみたけどまったく受からなくて。どうしようか悩んでいるとき、ちょうどヒャダイン(前山田健一)さんがバーンと有名になりまして。「今の時代、歌えるだけでも、曲が作れるだけでもダメなんだ。曲が作れて編曲もできて歌も歌える。ヒャダインさんみたいな存在を目指そう」と思って、今のような感じになっちゃいました。

ジャンルに縛られなすぎて覚えてもらえない

──藤井さんはアニソンに対してどういうイメージを持ってますか?

藤井 原体験としては「アルプスの少女ハイジ」とか「母をたずねて三千里」とか、それくらい古い作品になっちゃいますね。おぼろげな記憶ですけど、オープニングテーマよりエンディングテーマのほうが好きでした。例えば「母をたずねて三千里」って、オープニングでは“お母さんに会えない寂しさ”を歌っているんです。それに対してエンディングでは“お母さんに会えたときの喜び”が歌われていて。そう言えば「あさりちゃん」も「ルパン三世」もエンディングテーマが好きだったなあ。

ZAQ エンディングテーマって「来週もまた見たいな」と思ってもらうことが狙いでもあって、ミドルテンポの楽曲だったり、バラードだったりが求められるんですよね。逆にオープニングはアニメの看板、要は作品の“顔”になる曲なんです。アニメの幕を開ける役割だと思っています。

左からZAQ、藤井隆。

藤井 今日初めてお会いして少しお話をしただけでも、ZAQさんはボーカリストとしても作曲家としてもすごくサービス精神旺盛な方なんだなとひしひしと伝わってきます。オーダーに応えて曲を作るのって、すごく大変なことだと思うんです。それにオーダーに応えられるだけのバリエーションを自分の中にちゃんと持っているところに、ものすごいポテンシャルを感じます。

ZAQ ジャンルにこだわらず、いろんな曲を作るのがもともと好きなんですよね。「まさかこんな曲を書けると思っていなかった」みたいに言われたいんですよ。ただジャンルに縛られなすぎて覚えてもらえないというデメリットもあるんですけど……。

藤井 あはは(笑)。

ZAQ ようやく最近になって“ZAQ節”というのがみんなの間で言われるようになってきたんですけど、最初の頃は曲ごとにまったく違う雰囲気だから全然覚えてもらえなかったんですよね。