ナタリー PowerPush - cinema staff
「望郷」が示すバンドの新進路
cinema staffの2ndフルアルバム「望郷」が完成した。バンドの地元である岐阜県から上京して2年半。本作にはさまざまな苦悩に直面しながらも、音楽と向き合うことで救われた彼らの道筋と成長が全13曲に刻まれている。彼らはなぜ本作に「望郷」という言葉を冠したのか。そこに込めた思いをメンバー全員に語ってもらった。
取材・文 / 三宅正一(ONBU) インタビュー撮影 / 佐藤類
コンセプトは「許し、受け入れること」
──上京してからの2年半は、これを作るためにあったと言っても過言ではないアルバムになったと思います。
三島想平(B) うん、そうですね。今はいいアルバムができてよかったという気持ちと、こうして完成してみると意外と円滑に作ることができたなという実感がありますね。
──円滑に制作を進められた要因は?
三島 「into the green」と「SALVAGE YOU」を作っていたときのモヤモヤ感が抜けたあとはわりとすんなりいったというか。「SALVAGE YOU」は僕がインフルエンザにかかってレコーディングが中断してしまったこともあったし、スケジュールがカツカツの中で制作したので。でも、このアルバムは細かいアレンジだったり、制作面での難産も多少はあったんですけど、精神的には常にすっきりした状態で作ることができたんですよね。
──作品の重みと反比例して。
三島 そう、そこは反比例してるんですよね。あとは、時間的な余裕があったのも大きかったです。まとまった時間をもらって、じっくりアルバムのことを考えられたので。
──このアルバムはかなり前に完成していたんですよね。
飯田瑞規(Vo, G) 2月の終わりにはできていました。
三島 去年の12月の時点でアレンジもほぼ固まっていて。そこから余裕をもってレコーディングできました。
──ということは、完成してから聴き込む時間もあったと思うんですけど、そこでどんなことを思いましたか。
三島 曲数も多くて長い。よくこんなに曲を書いたなって(笑)。
──でも、この全13曲はどれも欠かせなかった。
三島 そうなんですよね。これ以下だったら言い漏らしがあったと思うし。曲数が多いとは思うけど、必然的にこうなったので。そこも納得いっているところです。
飯田 うん。このアルバムのコンセプトが「許し、受け入れること」なんですけど、それは自分たちの上京してからの気持ちがありのままに反映されたからこそ生まれたもので。この13曲が僕らの気持ちそのものなんですよね。
──久野くんはどうですか?
久野洋平(Dr) 今の心境的には、インディーズ1stミニアルバム「document」(2008年11月リリース)をリリースする前に近いものがあって。これが世の中の人にどう届くのかすごく興味があります。でも、あの頃の僕らが作りたかったものと今の僕らが作りたかったものはだいぶ形が変わったのも確かで。これがバンドの新しいスタートになるんだなと思いますね。
──当時と比べてもっとも大きく変わったことはなんですか?
久野 メンバーそれぞれ違うと思うんですけど、僕が思うのはあの頃は偶発的に曲ができていた感じがあって。そのよさもあるんですけど、今はどうしたら作品がよくなるか考えて曲を作れるようになったんですよね。じっくり考えながらいいアルバムを作れたという手応えがこの「望郷」にはあります。
──辻くんはどう?
辻友貴(G) 久野が言っていた偶発的なものに頼るのではなくて、腰を据えて作れたというのは僕も強く感じていて。フレーズもすごくじっくり考えることができたし、音にも1曲1曲こだわることができたので。レコーディングはすごく楽しかったですね。
「お母さん、僕は東京で元気に音楽をやってますよ!」
──三島くんの中では早い段階でフルアルバムのビジョンは固まっていたんですか?
三島 「SALVAGE YOU」ができた段階で半分くらいですね。こういうフルアルバムにしたいというビジョンは漠然とあって。
──「SALVAGE YOU」のインタビューで、「into the green」と「SALVAGE YOU」は起承転結の「起」と「承」であると。で、「転」は2月に同時リリースした「小さな食卓」と「西南西の虹」だったと思うんですけど。そして「結」であるこのアルバムに至るまでにもっとも肝となった曲は、やはり1曲目のタイトル曲「望郷」ですか?
三島 まさに「望郷」ができたときにフルアルバムのビジョンが固まりましたね。
──過去最高にスケールの大きな曲になりましたね。そして、この1曲でこのアルバムが何を描こうとしているのかがわかる。
三島 ありがとうございます。この曲のパーツ自体は「SALVAGE YOU」の前後くらいにあって。まだ歌詞もぼんやりしたイメージしかなかったんですけど。「into the green」と「SALVAGE YOU」を作れて、精神的にかなり清算できた感触があって。そこですごくポジティブな気持ちになれたんですよ。
──清算できたというのは、前のインタビューでも話してくれましたけど、上京直後の混沌とした精神状態ですよね。
三島 そう。あのときのことを考えたら、今はこんなに楽しく音楽をやれてるんだと思って。それを故郷に掲げたい、宣言したい気持ちになったんです。「お母さん、僕は東京で元気に音楽をやってますよ!」みたいな(笑)。
──手紙を書くように。
三島 うん。「魔女の宅急便」のキャッチコピーみたいに「おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。」みたいな(笑)。
──今は笑えてるけど、切実にそう思ったんだよね。
三島 そうなんですよ。それで「望郷」という曲の輪郭がはっきりして。
- ニューアルバム「望郷」 / 2013年5月22日発売 / ポニーキャニオン
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / PCCA-03822
- 通常盤 [CD] / 2500円 / PCCA-03823
CD収録曲
- 望郷
- 世紀の発見
- 西南西の虹(album version)
- 時計台
- 日記
- 待合室
- いたちごっこ
- あのスポットライトを私達だけのものにして
- 夏の終わりとカクテル光線
- 蜘蛛の巣
- 革命の翌日
- 小さな食卓(album version)
- 溶けない氷
初回限定盤DVD収録内容
cinema staff 1st E.P.「into the green」release oneman live『望郷』at 恵比寿LIQUIDROOM(2012.7.15)
- 水平線は夜動く
- AIMAI VISION
- daybreak syndrome
- ニトロ
- AMK HOLLIC
- 部室にて
- シンメトリズム
- 第12感
- 優しくしないで
- KARAKURI in the skywalkers
- 奇跡
- warszawa
- 実験室
- skeleton
- 棺とカーテン
- 白い砂漠のマーチ
- super throw
- 想像力
- 君になりたい
- into the green
- EN1. Talking Machine (9mm Parabellum Bullet cover)
- EN2. Poltergeist
cinema staff(しねますたっふ)
飯田瑞規(Vo, G)、辻友貴(G)、三島想平(B)、久野洋平(Dr)からなる4人組ロックバンド。2003年に飯田、三島、辻が前身バンドを結成し、2006年に久野が加入して現在の編成となる。愛知、岐阜を拠点にしたライブ活動を経て、2008年11月に1stミニアルバム「document」を残響recordからリリース。アグレッシブなギターサウンドを前面に打ち出したバンドアンサンブルと、繊細かつメロディアスなボーカルで着実に人気を高めていく。2012年6月にポニーキャニオン移籍第1弾作品となる「into the green」を、同年9月にメジャー第2弾となる4thミニアルバム「SALVAGE YOU」を発表。2013年5月に2ndフルアルバム「望郷」をリリースした。