ナタリー PowerPush - cinema staff
「望郷」が示すバンドの新進路
今までのどの曲よりも泣ける
──ポジティブな精神状態になったときに、故郷である岐阜に思いが向かったのも三島くんの中では必然だったのかな。
三島 そうですね。僕は故郷にすごく依存してるんです。そもそも依存体質でそれがよくないところでもあるんですけど……。
──いろんな局面で自分の依存体質を感じる?
三島 感じますね。絶対的なものに寄っかかるところがあって。2011年に東京で東日本大震災を迎えたり、プライベートなことでもいろいろあって、自分の価値観がガラガラと崩れたときに、最終的に故郷が残ったんですよね。「あ、これはどうしたって残るんだ」と思って。べつに親とめちゃくちゃ仲がいいわけではないけど、今でも実家に自分の部屋が残っていたり、「いつでも帰ってこい」って言ってくれる地元の友達がいて。そういう細かいことが積み重なって、「あ、故郷って絶対的に変わらないものなんだ」って気付かされたんです。だからこそ、ポジティブな状態になったときに今は誇りをもって音楽をやれていることを曲で伝えたかった。その思いが固まったら曲が完成するまでは早くて。歌詞はメモに残っていた言葉とその場で思いついた言葉で2時間くらいで書けました。
──歌詞の「その孤独と手を取り合うあなたはとても美しい。 / でも、未来と手を取り合うあなたは更に美しいでしょう。」という言葉は「許し、受け入れる」というコンセプトにもつながってきますよね。
三島 僕もこの2行が好きで。沈んでいた状態の自分も認めたうえで、未来を思うというか。過去を捨てるわけではなく、過去があって今の自分がある、だからこそ過去を受け入れたいと思う。それを言及したかったんです。それは自分に言い聞かせていることでもあるんですけど。
飯田 「孤独と手を取り合う」という言葉を使うのが三島らしいなと思ったし、cinema staffらしいなと思ったんですよね。そこにすごくグッときたし。この2年半、メンバーみんな隙あらば地元に帰っていたんですけど。自分も音楽に対して迷ったことがあったら地元の友達と会って、夜中はアコギを持って弾き語りをしたりして。それで気持ちを持ち直して東京に帰るという繰り返しだったんですよね。地元があるから東京でも前に進むことができる感覚がずっとあったから、この曲が上がってきたときは、今までのどの曲よりも泣けましたね。
辻 うん、ライブでやってもダントツで泣きそうになる。
久野 バンドが趣味ではなく、完全に生活であり生業になったからこそできた曲だと思うんです。楽しいだけではない、でもだからこそ人間的にも音楽的にも成長できることがあって。この曲はそれを象徴していると思いますね。
三島 日本人なら誰もがそうだと思うんですけど、2011年という年を20年後に振り返ったときに、自分の中で重たい1年であることは間違いないです。でも、あの1年があって今があるんだという大切なプロセスとして受け入れたかったんですよね。
アルバムはツアーを終えたときに完成する
──震災以降を踏まえてこのアルバムを作ったところも大きかったと。
三島 それはすごくありました。僕らは震災直後に何か大きなアクションを起こしたわけではないですけど、身の回りの変化は大きかったので。上京直後だったからこそ感じたこともあったし、経済的にも苦しくて、どんどん精神的に塞ぎ込んでいってしまったから、とにかく曲を作るしかなかったんですよね。
──音楽と向き合うことで自分を保つことができたし。
三島 ホントにそういう感じでした。
──でも、そこで音楽しかなかったからこそこのアルバムができたわけで。だから、大げさな言い方になっちゃうけど、このアルバムって確実に音楽で救われた人が作ったアルバムなんですよね。それが作品全体の説得力になっている。
三島 ありがとうございます。うん、ホントに音楽に救われたし、だからこのアルバムを作れることができたんだと思います。
──このアルバムをツアーで体現することでバンドがまた新しいステージに行けると思う。
三島 そう思います。まだ全然ライブの練習ができていないんですけど、これからライブモードで曲を再構築していくのがめちゃくちゃ楽しみですね。このアルバムはツアーを終えたときに完全に完成すると思うので。楽しみでしょうがないです。
──このアルバムを聴いてホールライブをやってもいいと思った。音楽としてのスケールがそういう大きさに達しているなって。
飯田 うん、やりたいですね。今はただ単にお客さんを暴れさせるだけではない音楽を作れていると思うので。いつか実現させたいですね。
- ニューアルバム「望郷」 / 2013年5月22日発売 / ポニーキャニオン
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / PCCA-03822
- 通常盤 [CD] / 2500円 / PCCA-03823
CD収録曲
- 望郷
- 世紀の発見
- 西南西の虹(album version)
- 時計台
- 日記
- 待合室
- いたちごっこ
- あのスポットライトを私達だけのものにして
- 夏の終わりとカクテル光線
- 蜘蛛の巣
- 革命の翌日
- 小さな食卓(album version)
- 溶けない氷
初回限定盤DVD収録内容
cinema staff 1st E.P.「into the green」release oneman live『望郷』at 恵比寿LIQUIDROOM(2012.7.15)
- 水平線は夜動く
- AIMAI VISION
- daybreak syndrome
- ニトロ
- AMK HOLLIC
- 部室にて
- シンメトリズム
- 第12感
- 優しくしないで
- KARAKURI in the skywalkers
- 奇跡
- warszawa
- 実験室
- skeleton
- 棺とカーテン
- 白い砂漠のマーチ
- super throw
- 想像力
- 君になりたい
- into the green
- EN1. Talking Machine (9mm Parabellum Bullet cover)
- EN2. Poltergeist
cinema staff(しねますたっふ)
飯田瑞規(Vo, G)、辻友貴(G)、三島想平(B)、久野洋平(Dr)からなる4人組ロックバンド。2003年に飯田、三島、辻が前身バンドを結成し、2006年に久野が加入して現在の編成となる。愛知、岐阜を拠点にしたライブ活動を経て、2008年11月に1stミニアルバム「document」を残響recordからリリース。アグレッシブなギターサウンドを前面に打ち出したバンドアンサンブルと、繊細かつメロディアスなボーカルで着実に人気を高めていく。2012年6月にポニーキャニオン移籍第1弾作品となる「into the green」を、同年9月にメジャー第2弾となる4thミニアルバム「SALVAGE YOU」を発表。2013年5月に2ndフルアルバム「望郷」をリリースした。