CHRONICLE|3つの才能が紡ぐ「歌と声」の物語

現実から逃げないこと

──そういう手法であったり、音楽と映像と物語がシンクロした作品作りを行うにあたって、何かインスパイアされたものはありますか?

KOJIMA 具体的な何かというのはありませんが、今までにない挑戦なので自分なりの常識を捨てて音楽制作をしていると、例えば学生時代に聴いていた音楽みたいなニュアンスが自然と出てくるんですよ。それは自分でも自覚していますね。

「宇宙」予告編アニメ映像より。

loundraw 僕も、昔ファンアートを作っていた感覚に近いかもしれないです。例えばKOJIMAくんの曲を聴いて「この世界観ならプラスαでこういう要素が入るよね」と考えながら、自由に自分たちの世界を作っているんです。それと、僕もKOJIMAくんも、いわゆるプロとして作品を洗練させてきましたが、CHRONICLEはよりゼロから自分たちのものを作る作業なので、また一段階「自分って何?」というところから始まるんですよ。そうなるとどんどん昔の原動力に戻っている気がしますね。

KOJIMA 確かに。「自由」というのは「不自由」でもあって、自由にやっていいとなるとけっこう困るんですよ(笑)。そこで自分の作る音楽はこれでいいのか考えることになるのですが、自由に投げ出されたときに頼れるのは自分の今までの経験なので、そういう意味で自分が学生時代の多感な頃に聴いていた音楽のテイストが出るんだと思います。

──確かにCHRONICLEの曲は、KOJIMAさんが普段制作されている楽曲に比べてロック色が強い印象です。

KOJIMA 作曲を始めた頃のことを思い出しつつ、今と共存できる音楽を作っているので、自分の中では新しい試みだと思いますね。

──loundrawさんは自分を見つめ直すことで、新たに気付いたことはありますか?

loundraw 僕にとっての今のアイデンティティは、「本当の自分」や「不確かな未来」、それこそ「創作」に対する悩みだとか、少年少女の葛藤を逃げずに描くことだと思うんです。なので今回の「宇宙」の映像に登場する一ノ瀬空(いちのせそら)という女の子は、最初は音楽アプリで配信して視聴者が4人ぐらいしかいないところから、街へ弾き語りをしに出かける、自分の身体をリアルに投げ出す話でもあって。そういう「現実から逃げない」ことをいかに描くか、それが僕の表現のアイデンティティであり、作品として伝えたいところだと思うんです。それはCHRONICLEの制作で悩む中で、自分に立ち返って出た答えですね。

左からloundraw、HIDEYA KOJIMA。

ストーリー性を表現する音作り

──今回配信リリースされた「宇宙」という楽曲は、どのような物語を描いたものなのでしょうか?

loundraw CHRONICLEの物語は、先ほどもお話した「歌」や「声」をコンセプトに、それらの力や表現が人々の歴史にどういう影響を与えてきたのかを、すごく長い時間軸で描く話なんです。ある種の年代記的な側面があって、全部の話が時代ごとに完結するのですが、大きく見ると全部がつながっている形にもなっていて。オムニバスのように見えて1つの大きな物語でもあるんです。なので、それぞれを別々の物語と捉えるのも正しいし、全部を通して「音」の話を描いていると捉えるのも正しい。その中で今回の「宇宙」は、物語の「現代編」にあたるもので、なおかつ一ノ瀬空という女の子と柏木一樹(かしわぎいつき)という男の子にフォーカスした物語の予告編になります。

──CHRONICLEが紡ぐ壮大な物語のプロローグ的な楽曲でもあるわけですね。

loundraw そうですね。なので「宇宙」はあえて最大公約数的な歌詞にしていて、「この歌詞で描かれている2人は、物語の中のどの2人の話か?」ということもありますし、「君」も別に人間に限った話でなく、何か別のモチーフとして捉えることもできる。そんな、多様な可能性のある歌詞にしました。クローズドでいて、全体を表している歌詞というか。今後いろいろと紐解かれていくので、考えながら観たり聴いたりしてほしいと思います。

──なるほど。サウンド的にはスケール感のあるピアノロックですが、こちらはどのようなイメージで作っていかれましたか?

KOJIMA 僕はこの曲に関しては「CHRONICLEの始まりの曲」であることを一番重要視していて、物語が始まるスタート地点の曲を書く意識で作りました。例えばイントロのピアノの音は、僕の中でCHRONICLEのスタートを演出するのにふさわしいフレーズだと感じて、アレンジ前の作曲の段階からずっとあったんですよ。曲の中でもストーリーを作ることを意識していて、リズムも最初は静かに始まって、1番のサビで余裕を持って走る感じ、2番で急展開して疾走感が出るけど、2番のサビはやっぱり走りすぎない、というストーリーを表現しています。それはCHRONICLEのストーリーやローくんのイラストに引っ張られた部分が大きくて、とても繊細なスタートだけど、進んでいく先はとても壮大な世界というイメージがあったからなんです。

loundraw 僕からは、単純に音をキラキラさせたいのではなく、空気感からきらびやかでスケール感のある雰囲気の曲にしたい、という話はしましたね。

KOJIMA なのでサウンドではそういう部分を取り入れて、最初のキラッとしたシンセはイラストの星のイメージ、「流れ星が飛んでるんじゃないかな?」と思わせるような音にしたり、ローくんの絵を見て考えさせられた部分を曲に落とし込んだりしています。