音楽アート集団・CHRONICLEのオリジナル楽曲第1弾「宇宙」が6月21日に配信リリースされた。
CHRONICLEは、小説「君の膵臓をたべたい」の装画などで知られるイラストレーターloundraw、サウンドクリエイターHIDEYA KOJIMA、シンガーT.B.Aの3人が生み出す音楽とloundrawが描く物語およびビジュアルを融合させ、物語×アート×音楽による新しい形の音楽の創造を目指すユニット。YouTubeで公開された「宇宙」予告編アニメ映像と楽曲「宇宙」は壮大な物語のプロローグであり、今後音楽と物語がシンクロした形で展開されていくという。
音楽ナタリーではloundrawとHIDEYA KOJIMAにインタビュー。この音楽アート集団が始動した経緯やコンセプト、楽曲制作の過程、今後の展開などを聞いた。
取材・文 / 北野創 撮影 / 入江達也
お互いの才能をリスペクトする3人
──CHRONICLEはどういう経緯で結成されたのですか?
loundraw もともとお互いの作っているものに関しては知っていたんです。その中で、それぞれ自分が専門でやってきた分野以外のことにも興味があったので、一緒に何かできないかを考えていくうちに、CHRONICLEというユニットの構想が形になっていきました。
KOJIMA 音楽というものは目に見えないし、形にならないものじゃないですか。もちろんそれはそれで素晴らしいのですが、ローくんと一緒に音楽を作ることで、それに形をつけることに一歩近付けるんじゃないかと思いまして。その期待や楽しみもあって一緒に活動を始めました。
loundraw 僕も、イラストというのは一瞬を描くことしかできないので、音楽のように時間軸がある表現にすごく憧れがありました。自分の表現の領域にはアニメーションや小説もありますが、音楽は自分で作ることはできなかったので。
──そこで生まれたのが、loundrawさんが作り出すオリジナルの物語と、KOJIMAさんの音楽、T.B.Aさんの歌声、さらにアニメーションなどの映像やイラストが融合したCHRONICLEならではの表現だったと。ちなみにボーカルのT.B.Aさんはどんな方ですか?
KOJIMA そこはまだ秘密にしておきたいので、のちのちの楽しみにしておいていただければ(笑)。
──それで「T.B.A(=To be announced)」という名義なんですね(笑)。
loundraw でも、活動の方向性については3人で相談していますし、彼は声という一番生身の部分を担っているので、彼の声が乗ることでどういう曲になるのかを考えながら制作しています。「声を出す」という行為は、技術以前のポテンシャルがすごく大きな部分を占めていると思うんですね。その部分でオンリーワンの存在だと思うので、彼に対してすごくリスペクトがあります。
KOJIMA 曲を聴いていただければすぐわかると思いますが、彼はシンガーとしての歌唱力もありますし、加えて「語り手」のような声質、ローくんの紡ぐストーリーを語り継ぐような歌声を出せる人なんです。聴き手に直接訴えかけられるような声を持っていると思いますね。
──では、loundrawさんとKOJIMAさんはクリエイターとしてお互いの表現についてどう評価されていますか?
KOJIMA 僕はローくんの絵を見るとすごく考えさせられるところが好きなんです。絵を見ただけで「このキャラクターは今どんな感情なんだろう?」とか「何を見てこんな表情をしてるんだろう?」というふうに想像をかきたてる要素がたくさんあるし、初めて見たときは絵なのか、写真なのかの区別がつかなくて。いろんな感情を込めた複雑な絵だと思いますし、それは音楽を作るにあたっても大事な部分なので、一緒に制作することできっといいものができると感じましたね。
loundraw 僕はそもそもKOJIMAくんの作る曲が好きでしたし、クリエイターとしての姿勢に共感していました。KOJIMAくんはみんなが今どういうものを求めているかを理解している方だと思うんですよ。ですが、その中で自分としては絶対に曲げたくないもの、ポリシーを作品の中に一貫して入れていることは、直接会う前から何となく感じていたんです。なので、そういう考え方を持っている人と一緒に何かを作れたらと思っていました。
同時進行で生まれる音楽と物語
──CHRONICLE全体のコンセプトとしては、どのような世界観の物語を紡いでいかれる予定なのでしょうか。
loundraw これは今後の物語に紐付いていく部分なので、ネタバレを避けるためにあまり詳しくはお話できないのですが……まずCHRONICLEを始めるにあたり、絶対に「歌」や「声」をモチーフにした物語の世界観にしようと考えていました。そうすることで、自分たちが作る曲によりメッセージ性が乗ると思いましたし、そのストーリーに登場するキャラクター歌にまつわる感情や葛藤も感じてほしくて。やはり「歌」というものは創作や芸術と密接な関係がありますし、音楽に鼓舞されたり、慰められたりすることは多感な少年少女以外でも音楽を聴いたことがある方誰しもが経験したことがあると思います。それは僕たち自身の話でもあり、みんなの話でもある。なので、CHRONICLEのテーマとして”描ける”と思いました。
──実際に楽曲を制作する際の作業の段取りは?
loundraw まずは曲の大元となるストーリーや世界観、空気感みたいなところから始めます。その世界観を描くのは主に僕なのですが、そこからどの部分を切り取って楽曲にしていくかは、メンバーやスタッフを含めたチームで話し合いながらみんなで決めています。今回の楽曲で言えば「宇宙」をテーマにしていて、僕の描いたイラストの青い感じ、といったところから始めました。
KOJIMA そこから僕がメロディを作って、それにローくんが歌詞を付けて、その歌詞とメロディをT.B.Aが歌って、詰めながら作り上げていくスタイルを取っています。
──CHRONICLEの楽曲の場合、そこに映像なども絡んでくるわけですが、例えば1つの楽曲に対してストーリー仕立ての映像やアニメーションを付けるミュージックビデオとは、どのような違いがありますか?
KOJIMA MVの場合、基本的には楽曲が完成してからそれに合う映像を作る流れが一般的だと思うのですが、CHRONICLEに関しては物語や映像と音楽を同時進行で制作を進めるので、1つの作品として循環しながら作り上げていることが強みだと思います。MVのように曲をプロモーションするための映像ではなく、すべてを複合したアート音楽ということですね。
loundraw それと1曲の中で描いているものが、すごく大きな物語の一部分でしかないことも特徴だと思います。例えば今回の「宇宙」の予告編アニメ映像も90秒で完結しますが、実はあの映像の中にたくさんの伏線が入っているんです。一見すると「宇宙」のMVに思えるかもしれませんが、「深さ」という意味では他と一線を画す、今後につながるものになっています。
──楽曲制作の時点で映像の見せ方にもこだわった作り方をされているんですね。
loundraw 僕はビデオコンテを作る段階で、曲やセリフのタイミングも全部入れていくんです。なのでKOJIMAくんには「この絵にはこういう音を合わせたい」「この尺でこう切りたい」と、かなり細かいディレクションをさせてもらってます。サビの部分は逆に、音楽に合わせて映像を作ったりもしています。
KOJIMA 僕も映像に寄り添いたいので、そのために新たに音を作ったり、今ある音を拡張させることで映像とリンクするように作ったりしていて。今までにない作り方なので面白いですね。
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現実から逃げないこと