Chilli Beans.「Welcome to My Castle」インタビュー|初のコンセプトアルバムで見せる、多面的な“お城”の世界 (2/2)

開き直らなきゃ、やってられない

──「Welcome」では「今夜はparty」と歌っていますが、このアルバムには「party」(パーティ)という言葉が出てくる曲がほかにもありますね。例えば、「aaa」には「こんなパーティー(潰れちゃえばいい)」、「105☻」には「君らが好きなこれはparty 楽しまなきゃいけない感じ?」という歌詞があります。

Moto ホントだ、すごい。知らない間につながってました。

──これらの歌詞から、このアルバムでは、パーティがポジティブなものとして描かれていないように感じたのですが、いかがですか?

Moto パーティっていうのは比喩なんですよ。うまく言えないけど、世界とか、社会とか、お金とか、ビジネスとか……。

──なんらかのルールがあって、それで回っている世界といったイメージでしょうか。

Moto そうです。そういう世界に対して、「そっちが作り出した最悪のパーティに乗っかって、踊ってあげるよ」「そんなに楽しもうって言うんだったら、君たち以上に楽しんであげるよ」って皮肉っぽく言っている感じです。

──なるほど。ちなみに、「aaa」はどのようなイメージで書いた曲ですか?

Moto 心が死んじゃって、風がそよそよ吹いているようなイメージです。自分の中の理想が崩れちゃった状態で、みんなは楽しそうにしているけど、その子だけは楽しめずにいるんですよ。だから「私、もう死んじゃってるんだな」と思ってる。で、ひねくれっちゃってるから、「君には、そんな私がかわいそうに見えるの?」と言っている。

──このアルバムの曲の主人公たちは精神的に疲弊していますよね。「My life is saikooo」も「最高って言わないとやっていられない」といったテンションですし。

Moto そうなんです。「私、終わってる! 最高!」「開き直らなきゃ、やっていられないですよ」みたいな。

──そういう曲が今の自分たちから出てきたのは、なぜだと思いますか?

Moto いつもそう思って生きているからだと思います。本当は「My life is 最高」なんて思ってないし、最低だってわかってるけど、自分を肯定したいとか、周りを否定したいという気持ちって心のどこかにあったりするじゃないですか。

Lily うん、そうだね。

Moto たぶん「My life is 最高」と思いながら生きている人って少ないと思う。だけど心の中は自由だから、何してもいい。だったら、自分の最低さをちょっと小馬鹿にしたい。変なサウンドを入れたりして、なんか面白くしたい。大人になったら仕事中にいきなり「どうしよう! ママー!」なんて叫べないじゃん?

Maika そうだよね。

Moto だけど私たちは本当はそう言いたいし、「みんなもそう言いたいんでしょ?」「だったら一緒に楽しんでいこうよ」という気持ちがある。そういう曲が集まっているんだと思います。

Moto(Vo)

Moto(Vo)

言いたいけど言えなかった核の部分

──「開き直らなきゃやっていけない」という感覚は、Chilli Beans.の音楽が多くの人に認められるようになっても、皆さんの中にずっとあるものだと思いますか?

Lily  そうですね。どこにいても、今音楽をしていなかったとしても、ずっとあると思います。

Maika 私たちだけじゃなくて、たぶん誰しもそういう面を持っていると思うんですよ。どんなにいい子ちゃんでも、心のどこかでは相手のことをネガティブに考えちゃうこともあるだろうし。

Moto だけどそれって、相手のことを本当に憎んでいるわけじゃない。

Maika そうそう。

Moto 自分のことを最低だと思っているからこそ、相手のこともそう思っちゃう。

──わかります。誰かのことを苦手だと思う理由を掘り下げると、結局自分のコンプレックスに行き着きますよね。

Moto そうなんですよ。「あの子を嫌だと思う自分が嫌だ」みたいな。外にボールを投げたつもりだったのに、自分の方にビュン!って跳ね返ってくる。

Lily これって自分の物の捉え方、世界の見方の話だから、どうしようもないんですよ。環境が変わっても、周りに何を言われても変えられない。だからこそ、この最低な毎日を乗り切るには、笑い飛ばすのが一番だと思います。背伸びしなくていいから、気楽だし。それをみんなと共有して笑えるのが楽しい。どう評価されてもよくて、自分たちが笑えればいい。ただただ、それだけなんですよね。

Lily(G, Vo)

Lily(G, Vo)

Maika 私は普段「いつもは言えないことでも、この自由な場所でなら言える」という感じで音楽を聴いているけど、それをChilli Beans.がやってるというのはテンション上がりますね。イケてるなって思います。

Lily あはは。マイピン、カッコいい!

──代弁してもらうことで、気持ちが救われることもありますよね。言い当てられることですっきりしたり、「自分だけじゃないんだ」と安心したり、自分の状態をより明確に認識できるようになったり。

Moto 私、「stressed」を聴いたときにそれを実感しました。「stressed」の歌詞はリリ(Lily)が書いたんですよ。

Lily モニ(Moto)になりきってというか、「モニはきっとこういうことで苦しんでいるから、こうやって言葉にしたら寄り添えるんじゃないか」と想像しながら書きました。「こういう曲でモニが表現したら絶対にカッコいい」と思いながら作り始めた曲だったので、歌詞もモニのことを想像しながら書こうと思って。今までもそういう曲があって、例えば「neck」もそうでした。私の趣味みたいなものです(笑)。

Moto 趣味なんだ(笑)。「死にたいの。いつも」という歌詞があるけど、自分だったらこんなに素直に言葉にできないんですよ。たぶん「死んじゃったみたい」とか「消えたい」って、ちょっと誤魔化しちゃうと思う。言いたいけど言えなかった核の部分を表に出してもらって、やっと言えた感じがしたので、心がキュッとなりました。

結成初期の気持ちを表現した4行

──アニメ「ONE PIECE」のエンディングテーマで、EP「for you」にも収録された「Raise」は、アルバムの終盤に配置されることで、強いメッセージ性を持つ曲になっていますね。「見えない先を照らして行く 自分の足でTry 世界の果てを共に見よう 一緒なら行けるFly」という歌詞が力強く感じられます。

Moto 「Raise」は3人で書いたんですけど、この歌詞を書いたのはマイピンですね。こういう力強い歌詞はだいたいマイピンです。モニじゃ書けない。

Maika 私にとっても1人じゃ書けなかった歌詞です。「Raise」は結成初期に書いた曲で、当時、3人でやっていくことの可能性をすごく感じていたんですよ。「無限だな」「どこまでもいけるんじゃないか」って。1人で音楽をやっていたときは、この先音楽を続けていく先にどんな未来が待っているのか、あんまり想像できなかった。だけどこの3人で一緒にやることになって、カバー曲とかの練習をしていたら、ライブとかリリースとか、もっといろいろなことができるかもしれないと思って。道の先がちょっと明るくなって、自分の頭の中がカラフルになったのをめっちゃ覚えてます。そのときの気持ちをこの4行で表現しました。

Maika(B, Vo)

Maika(B, Vo)

──バンドサウンドに乗せて歌うからこそ意味のある言葉ですね。

Maika そうですね。バンドで鳴らすことありきで書いた歌詞です。自分の思いを表に出すようにして書いたので、誰かに「一緒に行こうよ」と伝えたかったわけではないんですけど、今このアルバムに入ることで聴いてくれる方に何か届くものがあるんだったら、それはそれですごく素敵だなと思います。

──アルバムのラストを飾る「I like you」についても聞かせてください。

Moto 「I like you」はアルバムの最後の曲として作りました。アルバムの終わり方に関しては、明確にイメージがあって、「ただ、そこにある」というふうにしたいなと思っていたんです。お城の中とか世界の中でさんざん怖がらせられたし、嫌な感情になったりもしたけど、最後は夢からパッと醒めたら、なんか温かいなっていう。

──「I liked your days I feel you, stay here」というラストの歌詞もいいですね。

Moto その歌詞は私もめっちゃ好きです。近付かないし、触れないけど、ずっと見ている。遠い記憶なのかわからないけど、ずっと心の中にあるような。

みんなをお城に閉じ込めちゃいたい

──アルバムリリース後の2024年2月3日には、初の日本武道館ワンマン「Chilli Beans."Welcome to My Castle" at Budokan」が開催されます。チケットはすでにソールドアウトしているということで、たくさんの人にライブを観てもらえそうですね。

Lily 楽しみです!

Moto 耳だけじゃなくて目でも楽しめるような……空間そのものを楽しめるようなライブにしたいなと思っています。みんなをお城に閉じ込めちゃいたいなって(笑)。

──武道館にまつわる思い出があれば伺いたいです。皆さんは、武道館にほかのアーティストのライブを観に行ったことはありますか?

Moto 私は行ったことないです。

Lily 私はジョン・メイヤーを観ました。ポール・マッカートニーも観たし、エド・シーランも観たし、武道館にはけっこう行ってます。ジョン・メイヤーのときはめっちゃいい席が取れて、すごく近くで観られたんですよ。だけど感動したからこそ、「音楽ってこういう人がするものなんだ。私は無理だ」と思っちゃって。そのときはバンドを組む前だったから、同じ場所に立てるなんて信じられないし、うれしいです。

Maika 私は、2020年に藤井風さんのライブに行きました。

Lily いいな! めっちゃよさそう!

Maika めっちゃよかった。コロナ禍だったから、前後左右が1席ずつ空いていて。しかも2階席の一番前だったから隔てるものが何もなくて、すごく集中できました。号泣しながら帰ったのを覚えています。武道館でライブをやったことのあるアーティストさんが「武道館は大きなライブハウスみたい」と言っていたんですけど、藤井風さんのライブを観に行ったときにそれを感じました。たくさん人が入るけどみんなの顔が見えるって聞いているから、それが楽しみです。今セトリや演出を考えているんですけど、たぶん、今までで一番多くの曲を演奏します。きっとみんなにも、楽しんでもらえるんじゃないかと思っています。

Chilli Beans.

公演情報

Chilli Beans."Welcome to My Castle" at Budokan

2024年2月3日(土)東京都 日本武道館

プロフィール

Chilli Beans.(チリビーンズ)

2019年に結成されたMoto(Vo)、Maika(B, Vo)、Lily(G, Vo)からなる3ピースバンド。メンバーそれぞれがボーカルを担い、作詞作曲を手がける。2021年8月に発表した4曲入りデジタル音源集「d a n c i n g a l o n e」でデビューし、翌2022年7月に1stフルアルバム「Chilli Beans.」を発表した。2023年12月に2ndフルアルバム「Welcome to My Castle」をリリース。2024年2月に初の東京・日本武道館ワンマン「Chilli Beans."Welcome to My Castle" at Budokan」を開催する。