築田行子|フンボルトペンギン、大空へ羽ばたく

A4用紙2枚分の「この曲をカラオケで歌います」リスト

──このデビューミニアルバム「my palette」のリリースに至るまで、どんなふうに制作が進んでいったんでしょうか。

最初に「どういう曲が歌える?」って聞かれたのですが、もう歌いたい曲がいっぱいありすぎて。(A4ほどの長方形を指で作りながら)このくらいの紙2枚分の「この曲をカラオケで歌います」っていうリストを作って、打ち合わせに持っていきました。いきものがかりさんやSuperflyさん、アニソンとかもリストアップしていったんですが、それもあって今回、まったく種類の違う楽曲の集まった作品になったんじゃないかなと思います。いろんな曲を歌ってみたいと思っていたのですごくうれしかったです。リストを作るのもすごく楽しくて。しかも、それが自分の歌になるんだと思ったらすごくワクワクしちゃって、もうそのときは浮き足立ってましたね(笑)。

──ほかに、制作にあたってどんな希望を出されたんですか?

5曲あるうちの1曲だけ、初めて自分で歌詞を書いているんですけど、それは書きたいっていうことを自分から言っちゃいました。最初はやったことがないのでできるかわからないし、こわいなと思って言えなかったんですけど、何度か打ち合わせを重ねていくうちにやっと言えて(笑)。1曲は自分で思っていることを表現したいなと思って、「やらせてください」って言いました。

──リード曲の「君とひこうき雲」ですね。歌詞を書くにあたって、曲の候補はいくつかあったんですか?

プロデューサーのCarlos K.さんからいろんな曲を聴かせていただきまして。その中で私自身「素敵だな」と思って、一緒に聴いていたスタッフさんも「こういう曲、合ってるんじゃない?」って言ってくださって、満場一致で決まったのがこの曲でした。まだ当時はそれがリード曲になると思ってはいなかったんですけどね。明るいけど、激しすぎないところが自分の中にスッと入ってきた感じがあって、すごくいい曲だなと思いました。

──歌詞はどんなふうに書いていったんですか?

これまで「けものフレンズ」の活動や、日々自分が生活していく中で感じてきたことがたくさんあって。その中でも、今回歌詞を書くにあたっては感謝を伝えたいという思いが一番大きかったと思います。そういう自分の気持ちを家で箇条書きで書き留めて、スタッフさんに相談しながら作っていきました。「“下を向いていたら気付かなかったけど、周りには助けてくれる人がいっぱいいた”みたいなことを書きたいです」という感じで、思ったことをそのまま話して、アドバイスをもらって。伝えたいことはたくさんあったんですが、情景が浮かぶような言葉にするにはどうすればいいのかを考えるのが、すごく難しかったです。歌詞を書ける人って本当にすごいなと思いました。

──ご自身の書かれた歌詞だと、歌う感覚も違うものですか?

そうですね。自分が伝えたいと思っていたことだからか、歌っていて歌詞がすんなり身体に入ってきて。でも気持ちが入り過ぎるとすぐ泣いちゃうので、レコーディングでそこは気を付けて歌いました。感情を入れるというより、作品を聴いている人に伝えよう、という思いで歌っていました。

築田行子

なかなか頭と口が連動しなかった英語詞

──レコーディングはどの曲からされたんですか?

「Woo hoo!!」からですね。最初、仮歌を聴いて「こういう感じなんだな」と思ったものと、実際に自分で歌ってみてできあがったものが全然違うな、というのがこの曲の最初の印象でした。アップテンポな明るい曲で、イケイケな女の人が歌ってそうだなと思ったんですけど、自分が歌ってみると全然イケイケじゃないなと思って(笑)。でも、それもアリなんだなということがわかったレコーディングでもありました。カッコよさもありつつ元気いっぱいに、力強いメッセージも入っているので、パワーを出して歌おうというのは意識しました。

──この曲では英語歌をかなりリズミカルに歌いこなしていらっしゃいますね。

実はレコーディングは噛み噛みで、めっちゃくちゃやり直しました。しかも発音もそんなに得意ではないので、英語の堪能な方にレクチャーしていただきながらレコーディングしたんです。でもなかなか頭と口が連動しなくて、10回くらい歌ったところもありますね。(歌い出して)♪Upside down! Turn thぁっらんらん……あああー! 今も歌えない(笑)。ドツボにハマって全然できなくて、本当に地獄だったんですけど何度もがんばりました。ここはぜひ、聴いてほしいですね!

──この曲もそうですが、築田さんのハイトーンボイスが際立つ曲が多いのもこのミニアルバムの特徴だなと思いました。ご自身では、歌の面で手ごたえのようなものはありましたか?

そうですねえ……あ、でも今回レコーディングをしてみて、意外と自分の声が好きだなって思えました。今までは自分自身の声なので普通と言うか、あんまり好きだと思ったことはなかったんです。でもこうやって作品になってみると、聴き心地がいいなって初めて思えました(笑)。

飛べないペンギンが羽ばたいていく

──バラエティに富んだ楽曲がそろった分、それぞれに異なる歌の表情も出ていて、ご自身でも発見があったのかもしれませんね。

築田行子

それは1曲目の「Flashback」で特に感じました。カッコよすぎて、自分とはかけ離れていると思っていたので、こういう楽曲はこれまでカラオケとかでも歌ってこなかったんです。なので最初は歌う勇気が出なかったんですけど、今回歌ってみて、やろうと思えばできるんだなと思いました(笑)。曲に染まるように自分を振り切ると言いますか、リズムやメロディに一番集中して歌ったのがこの曲だと思います。これまでの自分を払拭しよう!みたいな、新しい挑戦だと思って歌いました。

──「Flashback」で言うと、PPPのアルバム「ペパプ・イン・ザ・スカイ」を想起させる「In the sky」というワードが何回も出てきたり、「ペパプ・イン・ザ・スカイ」収録の「大空ドリーマー」で飛べないペンギンの思いを歌った築田さんが「Fly so far」と飛び出していく歌詞になっていて。1人のアーティストとして羽ばたいていく姿と重なる象徴的な1曲目だなと思いました。

全然気付かなかったです!(笑) 確かに、言われてみたら本当ですね。そういう意味合いでも聴いてもらえたらうれしいです。

──ミュージックビデオが先行公開されているリード曲「君とひこうき雲」は築田さんのイメージと近いので、そういう雰囲気のミニアルバムだと思って聴くと、この1曲目の「Flashback」はなかなか衝撃的ですよね。

そうですね。今まですごくフワフワしたキャラクターの活動をしてきたので、そのイメージがすごく強いと思うんですけど、それをこの1枚で壊したいなというのがあって。なので、最初の曲はあえてこれでいきたいという思いを込めました。