濃い思い出が全部詰まった1stアルバム
──1stアルバム「Chevon」は結成からこれまでの約2年8カ月のすべてが詰まったような作品ですね。
谷絹 セルフタイトルだし、名刺になるようなアルバムになりましたね。マスタリングが終わって、最初から最後まで聴いたときに「いいアルバムだな」としみじみしちゃいました。1曲目の「No.4」はバンドを組んで最初に作った曲、2曲目に最も新しい曲(「ダンス・デカダンス」)があって、ずっとライブでやってたけど初めて音源化した曲「ですとらくしょん!!」が3曲目に入っていて。思い入れのある曲ばかりだし、ウチらとしてグッとくる並びになってます。
Ktjm 活動し始めてから環境の変化が目まぐるしいので、そんなに結成から時間は経ってないんですけど、実感としては10年、20年分くらいの感覚があって(笑)。その中の濃い思い出が全部入ってるんですよ
谷絹 わかる。アルバムを聴くとすでに「この曲、懐かしい」みたいになっちゃうんです。作ったのは去年とかなのに(笑)。
Ktjm すでに懐かしさがすごい(笑)。ついこの間のことだったりするんですけどね。
オオノ 聴いてほしいChevonの曲が全部詰まってます。収録曲以外にもいい曲はいっぱいあるんですけど。
谷絹 そうそう。どうしても落とさなくちゃいけない曲もあって……。まずメンバーみんなで候補曲を出し合って、スタッフの意見も聞いて、さらにブラッシュアップして。もちろん「これで正解だった」と思ってるんですけど、外した曲のことを考えると苦しくなりますね。しかもウチら、ボツ曲も多いんですよ。
──世に出る前にボツになった曲ですか?
谷絹 そうです。私が作ったワンコーラスだけの曲を含めたら、2~300くらいボツになってるんじゃないかな? フル尺まで作ったのに、レコーディング直前で白紙になったこともあるし。
Ktjm そこは妥協したくないので。
谷絹 1曲1曲振るいにかけて。ソラで歌えるくらいまで作り込んだ曲もあったんですけどね。
オオノ 谷絹、ボツにした曲をやるために別のバンドを組もうとしたんですよ。
──えっ!?
谷絹 どうにかボツになった曲を供養したくて(笑)。でも喫茶店に呼び出されて「それは違う。これからってときに何考えてるんだ」と言われて。
オオノ そんなに言い合ったわけではないですけどね(笑)。
谷絹 本当にケンカがないバンドなんですよ。普通ならマジで怒られてもしょうがないようなことでも、ちゃんと話し合ってくれるし。感情をガッと出すんじゃなくて、「ここはよくないよ」「こうしたらいいんじゃないか」と冷静に言ってくれる2人なんです。私はすごくワガママだし、突発的にあり得ないことをやろうとするので、本当に2人には助けられてます。
──民主的なバンドなんでしょうね。意固地になってまで我を通そうとしないというか。
谷絹 どうしても作りたい曲は「やりたい」って言いますけどね。ただ、バンドで100%思い通りにやることって、個人が100%やりたいこととは違うと思っていて。私の意見ばかりを通そうとしたら、それは私のバンドになってしまう。そうじゃなくてChevonとしての100%を作りたいんです。そのために折れることもあるし、「そこは違うんじゃない」と意見をする部分もあって。たぶん2人もそういう気持ちでやってくれているし、曲作りにおいてもそれぞれに完全に任せるところがあるんですよ。
──分担制で制作していることの利点がある、と。
谷絹 それはChevonの強いところだと思います。ほかのバンドを見ていると、ボーカルのワンマンになって、比重が1人にかかることで「なんで俺ばっかり」という感じになることもあるみたいです。だけどウチはそうじゃなくて、均等に同じだけ圧がかかってるんです。私は楽器がカラッキシできないし、その部分をほか2人で補い合ってるところもありますね。
オオノ そうかも。
谷絹 私の「こういうメロディを歌いたい」から始まって、Ktjmにコードを探ってもらうこともあるし、オオノが「こういうノリの曲を作りたい」と言うこともあって。アプローチの仕方は増えてますね。
思い入れのある曲をエピソードとともに紹介
──選ぶのは難しいかもしれませんが、アルバム「Chevon」の収録曲の中で特に思い入れのある曲、印象に残っている曲は?
谷絹 「ボクらの夏休み戦争」かな。マスタリング後に聴いたときも「これが一番いいんじゃないか」と思いました。一貫したストーリーがあるというか、まず私があらすじを作って、それを全員で共有して。「もし映画化したとしたら、どんな主題歌がいい?」という感じで作っていったんです。起承転結がハッキリしているし、全体を通して疾走感もあって、熱い感じをうまく出せたなって。あとは「ですとらくしょん!!」。ライブでずっとやってて音源にしてなかった唯一の曲だし、かなりアレンジを練る時間があったんですよ。ミックスもちょっと変わった感じにしてもらって、気に入ってますね。ライブでめっちゃ盛り上がるわけじゃないんだけど(笑)、不思議な雰囲気があります。
──なるほど。「ボクらの夏休み戦争」の「ボクらが必然的に集まって それが運命的に絡まって」という歌詞は、バンドのことを歌ってるのかなと思ったんですが。
谷絹 あ、いや……(笑)。でも、歌詞の物語を考えていくうえで、自分たちのことを投影している部分はあると思うし、図らずもという感じですね。そのほうが私たちとファンのどちらも感情移入しやすいし。
オオノ 僕はアルバムの最後に入ってる「スピンアウト」かな。この曲、制作期間が1日だったんですよ。
谷絹 厳密には10時間とかじゃない? 新曲を2、3曲くらいは入れたくて。「ですとらくしょん!!」はもともとあった曲だし、「ダンス・デカダンス」はアルバムのリリース前に先行配信したから、完全な新曲を作って、新しい顔を見せたかったんですよ。でもレコーディング前日の段階でまったく何もアイデアがなくて(笑)。
Ktjm スタジオだけ押さえちゃったんです(笑)。
谷絹 まず私が4曲くらいのデモを「こんなのどう?」という感じでクラウドに上げて。その中から1曲選んで、そこに歌詞を乗せたんです。歌詞を読んだら日本語だけど、聴いた感じは英語というか洋楽っぽくなるように作りたくて。そのあとスタジオで集まって、アレンジやらキメを作りました。
オオノ その場で作り上げた感じもありますね。制作時間は短かったんだけど、100%振り絞れたし、自分たちとしてもかなり気に入っています。
谷絹 もっと練る時間があったら、いろいろ考えてしまって、もしかしたらアルバムから外れてたかもしれないですね。アルバムの最後にも合うし、いい曲になってよかったです。
ギターリフ名人・Ktjm
──Ktjmさんはどうですか?
Ktjm そうですね……。
オオノ リフでしょ? リフ名人だから。
谷絹 「Banquet」とかね。「革命的ステップの夜」もそうか。
Ktjm 自分的には「ノックブーツ」かな。
──ワウの効いたギターが印象的な曲ですね。
Ktjm はい。この曲のギター、好きですね(笑)。
谷絹 この人のギターフレーズは簡単に口ずさめるんですよ。
Ktjm ギターのフレーズを覚えてほしいので、音数を少なくして、なるべく簡単にするように心がけてるからね。ギターをやってる人に弾いてもらえたらうれしいです。
谷絹 ギターに関して私は関与ゼロで、完全に任せてるんです。最後にリフを入れることが多いんですけど、「頼んだ。信じてるぞ」という状態で(笑)。
──リフによって曲のイメージが変わることもありそうですね。
谷絹 それを一番感じたのは「薄明光線」ですね。最初はわりと普通のバラードの印象だったんですけど、リフが入った瞬間に「めっちゃいい!」って。
オオノ 確かに。それはすごく感じました。でも、レコーディングの前にリフができてたことってないよね?
Ktjm そうだね……。
オオノ 前日に徹夜して考えるらしいです(笑)。
Ktjm もっと早く作ろうと思ってるんだけど、結局、初めてリフを聴かせるのがレコーディングの当日になっちゃうんですよ。
谷絹 リフや前奏を聴いたらどの曲かわかる、Chevonだってわかるって、すごい武器だと思うんですよ。これだけ曲の幅があって、なおかつChevonらしさがちゃんと出ているのはこの人のギターがデカいんだろうなと思います。
谷絹、ヤバいときは箱に閉じこもる
──「薄明光線」の歌詞についても聞かせてください。「胸の中の霧を上手く出せない あなたを救う歌詞が書きたいんだ」というフレーズがありますが、こういうメタ的な視点で歌詞を書いたのはどうしてですか?
谷絹 「ダンス・デカダンス」でも同じようなことを書いてるんですけど、私、病みがちな性格なんですよ。実際に病んだときは1人になってしまうというか、誰かに話したりせず、外界を遮断してしまうタイプで。1人になるための四角い箱が部屋にあって。
Ktjm ははは。
谷絹 ホームセンターで買ったベニヤ板を張り付けただけなんですけど。
オオノ ちょうど人が1人入れる大きさなんでしょ?
谷絹 そう(笑)。ヤバいときはその中に入ってますけど、そこでも音楽は聴けます。もう死にたいと思う一歩前のところの“しんがり”を務めてるのが、ラジオやYouTubeで聴く音楽で。「がんばれ」って言われるのは嫌だけど、同じような状態の人に寄り添える曲があったらいいなと思って作ったのが「薄明構成」です。“薄明光線”(雲の切れ間から放射状に光が地上に降り注いで見える現象)について、私はお母さんから“神様の手”とか“天使の梯子”って教えてもらったことがあって、この曲の歌詞にはそのイメージもありましたね。実際は神様でも天使でもないんだけど、人によってはその景色に救いを感じることもある。この曲もそういう位置付けなったらいいなと思ってました。
Chevonのこれから
──そういう深い思いを込めた楽曲をアルバムに収録して、ライブで歌えるのは素晴らしいですよね。
谷絹 ライブの会場が大きくなったり、バンドがもっと有名になったりすれば、この曲を聴く人も増えると思うんです。「Chevonと出会ってなかったら、この世の中にいなかったかもしれない」という人が1人でもいれば、やってる意味があるのかなと。そのことによって自分も救われる……。「大行侵」でも「ドウカ私二救ワレル事デ 私ヲ救ッテヤッテクレ」と書いてるように、Chevonの曲に救われた人がいれば、私が存在している価値があったと思えるんじゃないかなって。自分が救われたいから、誰かを救ったという実績が欲しいというか。回り回って自分のエゴなんですよね。
オオノ いいね。インタビューでこういう話をどんどんしていこう(笑)。
──名刺代わりのアルバム「Chevon」がリリースされたあと、次のアクションは?
谷絹 近々の目標だと、来年にはZeppツアーができるくらいにはなっていたいと思ってます。その先は考えていないんです。目標を決めちゃうとそこまでになっちゃう気がするので、この3人で行けるところまで行こうと。それができるバンドだとも思うし。あとは楽曲提供とか、タイアップもやりたいです。
オオノ タイアップはやりたいですね。設定が決まっていて、作品のストーリーなり情景を共有できるとすごく作りやすいので。
Ktjm アニメのテーマ曲とか作ってみたいです。
──アニメソング、似合いそうですね。
谷絹 よく言われるんですけどね(笑)。私たちはまだ1曲もバズってないし、がっちりハマるタイアップがやれたらいいなと。急にドン!と行きすぎて一過性になるのも嫌なので、しっかり土台も固めて。地に足を付けながらやっていきたいと思ってます。
ライブ情報
Chevon「冥冥」
- 2024年7月17日(水)北海道 cube garden
- 2024年7月20日(土)宮城県 Rensa
- 2024年7月22日(月)東京都 LIQUIDROOM
- 2024年7月25日(木)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2024年8月7日(水)岡山県 YEBISU YA PRO
- 2024年8月9日(金)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
プロフィール
Chevon(シェボン)
Chevonは2021年6月に札幌で結成された、谷絹茉優(Vo)、Ktjm(G)、オオノタツヤ(B)の3人からなるバンド。谷絹の変幻自在な歌声、センスフルかつ表現力豊かなバンドサウンドで多数の楽曲を生み出し、各地で人気を博している。2022年7月に北海道・Sound Lab moleで1stワンマンライブ「山羊ノ肉」を開催。1年後の2023年7月には北海道・札幌PENNY LANE24で2度目のワンマンライブを行った。2024年2月に1stアルバム「Chevon」を発表。7月からは初のワンマンツアー「冥冥」を開催する。
Chevon official (@chevon4472) | Instagram