chay|20代最後のアルバムで見せるこれまでの集大成

chayがニューアルバム「Lavender」をリリースした。

10月で29歳になったchayが、今の年齢だからこそ感じる迷いや焦りを赤裸々に吐き出したという本作。アイデンティティクライシスとも言える状況にありながらも、その揺らぐ感情を楽曲に昇華させることで、そこにはいつにも増してchayにしか描き出せない、chayならではのカラフルな世界が広がることとなった。同時に、ほんのり大人な表情をも見せていくことで、未来に向けた大きな期待を感じさせる仕上がりになっている点も大きな聴きどころと言えるだろう。

今回の音楽ナタリーの特集では「これまでやってきたポップスの集大成になった」と大きな手応えを感じているchayに、アルバム制作にまつわる話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき 撮影 / 曽我美芽

アイデンティティクライシスを「Lavender」に置き換えて

──2年5カ月ぶりとなるフルアルバム「Lavender」、すごくいい作品になりましたね。

ありがとうございます! 今回は私にとって20代最後のアルバムでもあるので、これまでやってきたポップスの集大成になったような気がしていて。サウンド面では武部聡志さんにプロデューサーとして携わっていただいて、かなり良質で華やか、そしてゴージャスなポップスアルバムになったなと思います。

chay

──制作にあたって全体像として思い描いていたものはあったんですか?

これまでと同様、特にコンセプチュアルなアルバムにしようという思いはなかったんです。ただ、今回はバラエティに富んだ楽曲を並べたときに、1つの共通点が見えたところがあって。それが今の年齢ならではの漠然とした焦りや迷い。そういう感情が見える曲ばかりがそろっていたんですよね。

──無意識にそういう曲が生まれていたわけですか。

そうなんです。前作(「chayTEA」)からの2年5カ月の間に27、28、29歳と年齢を重ねてきたことで、意図せずともそういうことを曲にしていたんですよね。で、アルバムにそんな一貫したテーマがあるのなら、それをタイトルにしたいと思ったんです。例えば“アイデンティティクライシス”みたいなものとか。

──なるほど。

でも、ちょっとネガティブな意味合いを持ったタイトルを掲げるのはchayのアルバムっぽくないなと思ったので、そのテーマを私らしい言葉で表すと「Lavender」だったんです。“ラベンダー”には“疑い”“期待”“繊細”“許し合う愛”など、さまざまな花言葉があって、それらがこのアルバムに出ている自分の揺らいだ気持ちにリンクしたんです。このタイトルを付けてすごくいいまとまりが生まれたように思います。

──先日29歳になったchayさんと同世代の人たちとって、このアルバムはものすごくリアルに響く内容になっていそうですね。

同級生のお友達と話していても、みんなお仕事のことや結婚、出産のことで悩んでいますからね。年齢的に一度立ち止まって何かを考える時期なんだと思います。“第二次思春期”じゃないですけど、そういうタイミングがあるんですよね、女性には。もちろん性別も年齢も関係なく、すべての人が必ず通るものだとも思うので、何か悩みを抱えているたくさんの人に聴いていただきたいアルバムでもあります。

不安や焦りを吐き出して

──chayさんの場合、音楽活動においても不安や焦りを感じている部分もあるのでしょうか? はたから見ているとデビュー以来、着実にリリースとライブを重ね、しっかり歩んできているように思うのですが。

chay

そう見えていますよね、きっと(笑)。自分が思い描いている場所にたどり着けていないことに対してのもどかしさや焦りというものはあるんです。いつまで活動できるのかなという不安もありますし。アルバムに収録されている「ずっと きっと 叶う」という曲で書きましたけど、夢を追いかけ始めた10代の頃って、とにかくがむしゃらに突き進むことができていたんですよ。怖いものが何もないというか(笑)。

──歌詞では“無敵な自分”と表現されていますね。

そうです。根拠のない自信があふれていて、まさに無敵だったんです。でも年齢を重ねていくごとに現実を知り、大きな夢を思い描くことへの恐怖心が生まれたりもする。25歳を超えてからは、かなり焦りとぶつかってきたような気がします。ただ、昔持っていた根拠のない自信も大事なものだったとは思うので、改めて自分を奮い立たせるためにこの曲を書いたんです。

──このアルバムが作れたことで、ご自身の中にあった焦りや不安が浄化された感覚もあったんじゃないですか?

そうなんですよ! 無意識ではあったけど、自分の抱えていた感情を全部吐き出したことで、デトックスじゃないですけど、しっかり浄化できたんですよね。肩の荷が下りて気持ちが軽くなった気もするし。アルバムを作り終えてそんな感覚になれたのは今回が初めてでした。

──今回は、幼い頃や青春時代などさまざまな時代のことを振り返っている曲も多く収録されています。それらで自分のこれまでを顧みたことで、chayという人間を改めて肯定できたところもあったでしょうしね。

おっしゃる通りだと思います。「あの頃がよかったな」「戻りたいな」みたいな感覚ではなく、その時々の自分が今の自分の背中を押してくれていると感じることができました。そこも意識的ではなかったけど、1回立ち止まって振り返ってみてよかったなと思いました。