今年7月に“完結”したチャットモンチーのベストアルバム「BEST MONCHY 1 -Listening-」が10月31日にリリースされた。
デビュー曲「恋の煙」、「シャングリラ」「風吹けば恋」「満月に吠えろ」といった代表曲、ラストシングルとなった「たったさっきから3000年までの話」などを収録した本作は、常に新しい表現を求め続けたチャットモンチーの軌跡が刻まれた作品となっている。
音楽ナタリーではデビューから“完結”までチャットモンチーのディレクターをつとめた菊池則行氏、そして彼女たちの楽曲制作に深く関わったエンジニアの古賀健一氏の対談を企画。チャットモンチーのキャリアを振り返りながら、この不世出のバンドの魅力について語り合ってもらった。また特集の後半にはカメラマン、映像監督、スタイリストなどチャットモンチーの作品に携わってきた5人のクリエイターのコメントも掲載する。
取材・文 / 森朋之 インタビュー撮影 / 関口佳代
「彼女たちは絶対武道館に行ける」「不思議なバンドだな」
──まずは菊池さん、古賀さんがチャットモンチーに関わった経緯を教えてもらえますか?
菊池則行氏 はい。チャットモンチーのデビューは2005年11月なのですが、僕が初めて音を聴いたのは2004年の夏ですね。キューンレコード(現キューンミュージック)の制作部会でライブ映像を観たのが最初です。当時の代表の中山道彦さんが「演奏はまだまだだけど、女性の3ピースというのが今いないし、とにかくボーカル(橋本絵莉子)の声がいい」と言っていて。その後、中山さんが彼女たちの地元の徳島までライブを観に行ったんですが、すごくよかったと。そして、その年の12月に中山さんから自主制作盤「チャットモンチーになりたい」を聴かされて、「担当してみないか」と打診があったんです。その時点で8、9組くらい担当していたので、「これ以上はちょっと無理です」と断ったんですが、「まあ、1回ライブ観てみてよ」と言われて。初めてライブを観たのが、翌年の1月。名古屋の鶴舞DAYTRIPというライブハウスだったんですが、そのときのライブが素晴らしくて。メンバーがセッティングしているときから、すごく雰囲気があったんですよね。絵莉子が当時復刻されたばかりの「ORANGE」というギターアンプを使っていて、それを1人で運んでいる佇まいもなんかよくて。さらに演奏も1曲目から素晴らしくて、「彼女たちは絶対武道館に行ける」と強く思いました。根拠のない自信だったんですけどね。そこからですね、チャットモンチーとの付き合いが始まったのは。結局、デビューから完結まで担当させてもらいました。
古賀健一氏 僕が初めてチャットモンチーの3人に会ったのは、2007年の春くらいだと思います。当時は青葉台スタジオでアシスタントをやっていて。
菊池 シングル(「とび魚のバタフライ / 世界が終わる夜に」)のカップリング曲「風」のレコーディングですよね。
古賀 そうです。「真夜中遊園地」(アルバム「生命力」収録)もそのときに録ってましたね。その頃はスタジオ業務がとても忙しかったので、当時の仕事の内容を細かく覚えてないことが多いのですが、チャットモンチーはすごく記憶に残っています。演奏はまだそんなにうまくなかったんですが、とにかく3人のまとまりと、グルーヴがしっかりあって。「不思議なバンドだな」という印象でした。
──デビューアルバム「耳鳴り」はすごく生々しいサウンドですが、音源の制作にあたってはどんな方向性を掲げたんですか?
菊池 女性バンドは、“大人に作られた”という感じになりがちなんですが、チャットモンチーはそういうバンドではないし、当初から「彼女たちが持っている感性をそのまま届けよう」とみんな思っていました。プロデューサーのいしわたり淳治さんがよく「土が付いたままの有機野菜みたいな感じ」と例えていたんですが、なるべく手を加えない状態で世に出そうと。それくらい曲がよかったんですよ。デビュー前に持ち曲を確認するために50曲くらい一発録りで録音してみたんですが、どの曲もちゃんとポップだし、いい意味でヒネくれていて引っかかりになるところがあった。驚きました。それは彼女たちが徳島で育んできたものだし、それをそのまま届けるのが一番いいと思ったんですよね。ビジュアルに関しては、3人のキャラクターがキレイに分かれていたので、3人が対等に見えるように心がけました。
古賀 当時からメロディセンスも飛び抜けていましたね。誰も思い付かないようなメロディだなと感じていて、どうやって作っているのか聞いてみたら、すべて詞先だと。詞先で曲を作ってるロックバンドなんて、当時あまり聞いたことなかったので、ビックリしました。しかも、全員が歌詞を書いて、さらに三つのオリジナリティがあって。
菊池 それも僕らが関わる前からできあがっていたスタイルなんですよね。基本的にはあっこ(福岡晃子)と(高橋)久美子が歌詞を書いて、絵莉子に渡してというシステム。そこから歌詞の順番を入れ替えたり、もともとサビじゃないところをサビにしたり……。
古賀 自由ですね(笑)。
菊池 (笑)。そうやって絵莉子が自分のフィルターを通して、曲ができあがって。歌詞を書いてたあっこと久美子はメロディにハメることを意識してないから、どうしても字余り、字足らずが出てくる。それが絶妙なメロディを生む一因になっていたんだと思います。
「これは好き」「これはイヤ」がはっきりしてた3人
古賀 レコーディングに関して言えば、オーバーダビングが極端に少なかったのが記憶に残っています。
菊池 それもメンバーの希望ですね。レコーディングしたものをそのままライブで再現できるようにしたい、と。ドラム、ベース、ギターの3つの音と、3人の声で成立させるのが基本原則だったので。
古賀 僕がガッツリ関わらせてもらうようになったのは3rdアルバムの「告白」からなんですけど、あのときは頑なにダビングしてなかったですよね。その前は隠し味程度に音を重ねることがあったんだけど、「告白」のときは「お願いだからダビングしてほしい」と言っても「絶対イヤです」って(笑)。「これは好き」「これはイヤ」と全員の考えがはっきり言っていたし、よりバンドらしくなったイメージがありました。
菊池 そうかもしれないですね。
古賀 その前はちょっとフワッとしていたと言うか、制作にしても「そういうものなのかな」みたいな感じでやっていたと思うんですけど。でも、「告白」の時期からはメンバー3人でしっかり話して、自分たちで方向性を決めていて……今思い出しましたけど、久美子さんがドラムの音(チューニング)にすごくこだわったことがあったんです。「何か違う」「何か違う」って、ドラムテックの三原さんと1時間以上試行錯誤していたんですけど、逆にこちらのほうが「ここまで粘っていいんだな」って勇気をもらえた気がしました(笑)。
菊池 「告白」の制作にはしっかり時間をかけたし、本人たちも「しばらくアルバムを出さなくていいと思えるくらい、いいものができた」と言うほど手応えを感じていて。それは僕自身もうれしかったし、3ピース時代の最初の到達点だったと思いますね。
あっこは努力型、絵莉子は直感型
──「告白」のあと、メンバーはどんなモードだったんですか?
菊池 カップリング曲を集めたアルバム(「表情
古賀 カップリング曲の制作にもとてもこだわりがあって、シングルには必ず3曲入れていたし、「表題曲を超えるような曲にして、スタッフを困らせてやれ」くらいの力の入れ方で。
菊池 「表情」は2枚組で、DISC 2には「バスロマンス」や「恋愛スピリッツ」などのアコースティックバージョンを収録しています。そのレコーディングも面白かったんですよ。
古賀 いろんな録り方を試しましたからね。そのときも青葉台スタジオだったんですが、狭いブースにメンバー全員で入って録ったり、スタジオの階段のバルコニーみたいなところでレコーディングしたり。「ツマサキ」なんて、外で録ったんですよ。
菊池 一発録りのアウトロで救急車が通っちゃったり(笑)。
古賀 そうそう(笑)。「何か面白いやり方はないかな」ってずっと探してた感じでした。メンバーからもその頃から音に対して色々な質問をされるようになりました。僕がメンバーと同世代で話しやすいというのもあったんでしょうけど、「エンジニアさんによって歌の聞こえ方が違うのはどうして?」とか。当時の僕には答えられないこともたくさんあったので、そういうときは先輩のエンジニアの方に僕から聞いたりもしました。特にあっこさんとそういう話をすることが多かったです。
菊池 あっこはすごく耳がいいんですよ。
古賀 「え、そんなところまで聞こえているの?」ということもすごくあって。彼女が指摘したところを直すとよくなることが多かったから、たくさん助けられました。「だったら、こういうやり方はどう?」という提案もやりやすくなるし。
菊池 持って生まれたセンスもあると思うし、ある時期から積極的に勉強するようになって。あっこは努力型ですね。絵莉子は直感型と言うか、あっこよりもうちょっとザックリしてる。彼女が弾くギターの音色は最初からすごくよかったんですね。特に歪みの作り方は抜群でした。音が潰れ過ぎず、しっかり芯のある歪みで。
古賀 当時、あまり見たことがないエフェクターを使ってることもありました。「これ何?」って聞くと「よくわからないけど、いいんよ」って(笑)。
菊池 ギターテックの方が持ってきたエフェクターの中から好みのものを自分で選んでいました。それが的を射てるんですよね。
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「え、何言ってるの?」「もう1回言ってくれる?」
- チャットモンチー「BEST MONCHY 1 -Listening-」
- 2018年10月31日発売 / Ki/oon Music
-
完全生産限定盤 [CD3枚組]
3996円 / KSCL-30067~70 -
期間生産限定通常盤
[CD2枚組]
3456円 / KSCL-30071~3
- 収録曲
-
DISC 1 [2005-2011]
- ハナノユメ
- サラバ青春
- 恋の煙
- 恋愛スピリッツ
- 東京ハチミツオーケストラ
- シャングリラ
- 女子たちに明日はない
- バスロマンス
- とび魚のバタフライ
- 世界が終わる夜に
- 橙
- 親知らず
- ヒラヒラヒラク秘密ノ扉
- 風吹けば恋
- 染まるよ
- Last Love Letter
- 8cmのピンヒール
- ここだけの話
- バースデーケーキの上を歩いて帰った
DISC 2 [2012-2018]
- 満月に吠えろ
- テルマエ・ロマン
- ハテナ
- きらきらひかれ
- コンビニエンスハネムーン
- 変身
- こころとあたま
- いたちごっこ
- ときめき
- 隣の女
- きみがその気なら
- majority blues
- 消えない星
- Magical Fiction
- I Laugh You
- たったさっきから3000年までの話
Disc 3 Remixies & Rare Tracks(※完全生産限定盤のみ)
- Shangrila(Takkyu Ishino Remix)
- あいまいな感情(Dub Mix)
- 変身(GLIDER MIX)by group_inou
- Last Love Letter(Koji Nakamura Remix)
- やさしさ -seb remix-
- 砂鉄(golmol Remix)
- 恋の煙(同期ver.)with 小出祐介(Base Ball Bear)
- お調子者
- マイネオムーン イズ ヒア
- 夢心地
- BETSUBARA
- 息子(Cover)
- かわいいひと(Cover)
- きっきょん
- とまらん
- チャットモンチー「BEST MONCHY 2 -Viewing-」
- 2018年12月26日発売 / Ki/oon Music
-
完全生産限定盤
[Blu-ray2枚組]
5940円 / KSXL-265~7 -
完全生産限定盤 [DVD4枚組]
5400円 / KSBL-6317~21
- Blu-ray収録内容
-
DISC 1 Music Video [2005-2018]
- ハナノユメ
- 恋の煙
- 恋愛スピリッツ
- シャングリラ
- 女子たちに明日はない
- とび魚のバタフライ
- 世界が終わる夜に
- 橙
- ヒラヒラヒラク秘密ノ扉
- 風吹けば恋
- 染まるよ
- Last Love Letter
- バスロマンス
- 春夏秋
- three sheep
- ここだけの話
- バースデーケーキの上を歩いて帰った
- 満月に吠えろ
- テルマエ・ロマン
- ハテナ
- きらきらひかれ
- コンビニエンスハネムーン
- こころとあたま
- いたちごっこ
- ときめき
- 隣の女
- きみがその気なら
- majority blues
- 消えない星
- Magical Fiction
- たったさっきから3000年までの話
DISC 2 Live [2005-2018]
※下記日程の公演から楽曲をセレクトして収録
- 2005
徳島・徳島JITTERBUG(2005.10.15) - 2006
東京・新宿LOFT(2006.04.01) 東京・SHIBUYA CLUB QUATTRO(2007.07.02) - 2007
東京・日比谷野外大音楽堂(2007.07.07@) - 2008
東京・日本武道館(2008.04.01) - 2009
東京・Zepp Tokyo(2009.07.05) - 2010
東京・Billboard Live TOKYO(2010.11.23) - 2011
大阪・Zepp Osaka(2011.06.18)
東京・中野サンプラザ(2011.06.22)
徳島・徳島club GRINDHOUSE(2011.09.29) - 2012
東京・西早稲田AVACO Creative Studio(2012.08.28) - 2013
東京・Zepp DiverCity(2013.01.14) - 2015
東京・Zepp Tokyo(2015.07.01)
東京・日本武道館(2015.11.11) - 2016
徳島・アスティとくしま(2016.02.28) - 2017
東京・EX THEATER ROPPONGI(2017.07.09) - 2018
東京・渋谷WWW X(2018.06.25)
徳島・アスティとくしま(2018.07.21)
徳島・アスティとくしま(2018.07.22)
- DVD収録内容
-
DISC 1 Music Video [2005-2011]
- ハナノユメ
- 恋の煙
- 恋愛スピリッツ
- シャングリラ
- 女子たちに明日はない
- とび魚のバタフライ
- 世界が終わる夜に
- 橙
- ヒラヒラヒラク秘密ノ扉
- 風吹けば恋
- 染まるよ
- Last Love Letter
- バスロマンス
- 春夏秋
- three sheep
- ここだけの話
- バースデーケーキの上を歩いて帰った
DISC 2 Music Video [2012-2018]
- 満月に吠えろ
- テルマエ・ロマン
- ハテナ
- きらきらひかれ
- コンビニエンスハネムーン
- こころとあたま
- いたちごっこ
- ときめき
- 隣の女
- きみがその気なら
- majority blues
- 消えない星
- Magical Fiction
- たったさっきから3000年までの話
DISC 3 Live [2005-2011]
※下記日程の公演から楽曲をセレクトして収録
- 2005
徳島・徳島JITTERBUG(2005.10.15) - 2006
東京・新宿LOFT(2006.04.01)
東京・SHIBUYA CLUB QUATTRO(2007.07.02) - 2007
東京・日比谷野外大音楽堂(2007.07.07@) - 2008
東京・日本武道館(2008.04.01) - 2009
東京・Zepp Tokyo(2009.07.05) - 2010
東京・Billboard Live TOKYO(2010.11.23) - 2011
大阪・Zepp Osaka(2011.06.18)
東京・中野サンプラザ(2011.06.22)
徳島・徳島club GRINDHOUSE(2011.09.29)
- 2012
東京・西早稲田AVACO Creative Studio(2012.08.28) - 2013
東京・Zepp DiverCity(2013.01.14) - 2015
東京・Zepp Tokyo(2015.07.01) 東京・日本武道館(2015.11.11) - 2016
徳島・アスティとくしま(2016.02.28) - 2017
東京・EX THEATER ROPPONGI(2017.07.09) - 2018
東京・渋谷WWW X(2018.06.25)
徳島・アスティとくしま(2018.07.21)
徳島・アスティとくしま(2018.07.22)
DISC 4 Live [2012-2018]
※下記日程の公演から楽曲をセレクトして収録
- チャットモンチー「CHATMONCHY LAST ONEMAN LIVE ~I Love CHATMONCHY~」
- 2018年10月24日発売 / Ki/oon Music
-
[Blu-ray]
5724円 / KSXL-271 -
[DVD]
5184円 / KSBL-6325
- 収録内容
-
- Opening~CHATMONCHY MECHA
- たったさっきから3000年までの話
- the key
- 裸足の街のスター
- 砂鉄
- クッキング・ララ feat. DJみそしるとMCごはん
- MC
- 惚たる蛍
- 染まるよ
- チャットモンチー 2005~2018 ヒストリー映像
- majority blues
- ウィークエンドのまぼろし
- 例えば、
- MC
- 東京ハチミツオーケストラ
- さよならGood bye
- どなる、でんわ、どしゃぶり
- Last Love Letter
- 真夜中遊園地
- ハナノユメ
- Encore
- シャングリラ
- 風吹けば恋
- MC
- サラバ青春
- Ending
- チャットモンチー
- 2000年4月、橋本絵莉子を中心に徳島で結成。2002年3月、橋本の高校の同級生だった福岡晃子が、翌2004年4月に福岡の大学でサークルの先輩だった高橋久美子が加入し、以降はこの3人体制で地元徳島を中心に活動する。2005年11月、ミニアルバム「chatmonchy has come」でメジャーデビュー。2006年1月には初のフルアルバム「耳鳴り」をリリースした。2008年春、初の東京・日本武道館ワンマンライブを2日間にわたって開催。その後も精力的な活動を繰り広げるが、2011年9月の徳島でのライブを最後に高橋が脱退。その後は橋本と福岡の2人体制で活動を継続する。2012年2月には初のベストアルバム「チャットモンチー BEST ~2005-2011~」を、同年10月にはフルアルバム「変身」をリリース。2015年11月に日本武道館公演「チャットモンチーのすごい10周年 in 日本武道館!!!!」を開催した。2016年2月には地元徳島にて2DAYSイベント「チャットモンチーの徳島こなそんそんフェス2016~みな、おいでなしてよ!~」を行った。2017年11月に活動を完結させることを発表。2018年6月にラストアルバム「誕生」をリリースし、7月に最後のワンマンライブを日本武道館にて実施。7月21、22日に地元徳島で開催した「チャットモンチーの徳島こなそんそんフェス2018 ~みな、おいでなしてよ!~」をもって活動を完結させた。