ナタリー PowerPush - チャットモンチー

後藤正文プロデューサーとの新曲制作過程を語る

子供に向けたロックを作りたかった

──全てひらがな表記の歌詞は、未来への希望を見出すシンプルで力強いメッセージ性に満ちていて。独立した形で見ると童謡のような趣がありますよね。どういうイメージで書いた歌詞なんですか?

福岡 まさに童謡っぽいというか、子供向けのロックができたらいいなと思って書いた歌詞なんです。この歌詞は去年に書いたものなんですけど、そのとき個人的にすごく子供たちのことを考えていて、「いつか子供たちのための曲を作りたい」って思っていたんですよね。自分に子供がいるわけじゃないんですけど、教育大学を卒業しているというのもあって、今の日本の状況を思ったときに自然と子供のことを考えるようになったんですよね。それで、チャットで子供向けの曲を作れないかな?と思ったんです。絵本のような感覚で、近くに感じられる曲を作りたいなって。

──この歌詞がスピーディかつダイナミックなサウンドに乗る面白さがありますよね。独特の化学反応が起きている。

福岡 ね。「まさかあの歌詞がここまで速い曲に乗るとは!」って思ったんですけど(笑)。でも、私も想像以上の化学反応が起きたなって思います。チャットはいつも歌詞を先に書くから、バラードだと思って書いた歌詞が速い曲になることもよくあるんですけど、今回はそのパターンのすごいやつができたなって。

──橋本さんは福岡さんが書いた歌詞をどう受け止めましたか?

橋本 まず「全部ひらがなや!」と思って。そういう歌詞は今までなかったから。全部ひらがなやと、強いメッセージが丸っこく入ってくるんですよね。それがすごくいいなって。曲は勢いで作りました。速いビートと、ループステーションを使って2本のギターをカッコよく鳴らすことを重点的に考えて。曲ができて、そこにこの歌詞を当ててみたらカッコよくハマったので「これだ!」と思ったんです。

フロアタムをバスドラの代わりに叩いてる

──メロディも強いですね。ひたすら熱量が下がらずに進んでいく。メロディ全体がサビみたいな感触もあって。

橋本 曲がサビで始まるというイメージが最初からあって。その勢いがずっと止まらないようなメロディにしたいなと思ったんです。それで全体がサビみたいな印象を持ってもらえたのかなと思うんですけど。

──「ハテナ」のときも強く感じたけど、新体制になってから、橋本さんのメロディとボーカルはどんどんタフになっていると思います。

橋本 自分でも熱量がかなり増していると思いますね。今は声もひとつの音として捉えているところがあるんですよ。その変化は大きいと思います。

──福岡さんは橋本さんから曲が上がってきたときに、どういう印象を持ちましたか?

福岡 絵莉子から送られてきたデモのドラムがツーバスみたいになっていて。「誰がツーバス叩くんや!」って思いました(笑)。

──あはははは(笑)。

橋本 GarageBand(音楽制作ソフト)で曲を作っているんですけど、音をハメすぎるとたまにちょっとバグるんですよね。バスドラが二重になったりすることがあって。でも、聴き直したらカッコよかったから、そのままあっこちゃんに送って(笑)。

インタビュー写真

福岡 ポップメタルみたいなサウンドになってたからね(笑)。「これはどう叩いたらいいんだろう?」って考えました。でも、だんだんデモよりも速くしてやろうという欲が湧いてきて。ただ、バスドラを高速で叩くのはまだ技術的に追いつかないところがあるので、どうしようかなと考えて、フロアタムをバスドラの代わりに叩くことにしたんです。

──タムでビートの速さを稼ぐっていう。

福岡 そう、その方法を見つけてからはどんどん速くすることができました。

──叩いていて相当気持ちいいでしょう?

福岡 めっちゃ気持ちいいです。レコーディングのときも立って叩いたんですよ。もう、和太鼓みたいな感じで(笑)。

──これ、BPMでいうとどれくらいの速さなんですか?

福岡 213です。めっちゃ速いです(笑)。

──200超えだ。

福岡 初の200超えです(笑)。

橋本 「~200超え~」ってサブタイトルをつけてもいいかもね(笑)。

ゴッチさんは見ているところが広い

──後藤さんに曲を聴かせたときの反応はどうでした?

福岡 まず2人で録ったプリプロ音源をゴッチさんにお渡しして。結果的にほぼ完成形と変わっていないんですけど、唯一変わったところは、間奏の長さとかコーラスの分量くらいですね。そのあたりのアドバイスをゴッチさんからメールでもらって。やり取りはその1回くらいでした。「あとは本番で」みたいな感じで。ゴッチさんは「俺はチャットのファンだし、リスペクトしているから、2人がこだわりたいところはそのままやってもらって、ファン的にこうしたほうがいいなと思うことを言わせてもらいます」って言ってくれて。アドバイスもすごく明確でした。私たちも「ファンが言うなら、間違いないよな」って思えたし(笑)。ゴッチさんは見ているところが広いんですよね。「俺はファンだから」って言えてしまうところもすごいと思うんですよ。言葉の1つひとつに説得力があるんです。

──レコーディングはどんなことがポイントになりましたか?

橋本 クリックを使うかどうか悩んだんですけど、結局クリックなしで勢いのあるテイクを録ろうってなって。どういうテイクを録るかということと、ギターの足元のシステムを組むまでにちょっと時間がかかったんですけど、それが決まってからは早かったですね。

福岡 うん、すごく順調に進みました。ゴッチさんはレコーディングスタジオでずっと冗談を言って和ませてくれました。かなり男子バンドっぽいムードでしたね(笑)。

橋本 そう、面白いこと言っていったん和ませてくれてから録るという感じで。気持ち良くレコーディングに臨めましたね。

ニューシングル「きらきらひかれ」/ 2012年7月4日発売 / 1020円 / Ki/oon Music / KSCL-2062

CD収録曲
  1. きらきらひかれ
  2. カリソメソッド
チャットモンチー(ちゃっともんちー)

2000年4月、橋本絵莉子(G, Vo)を中心に徳島で結成。2002年3月、橋本の高校の同級生だった福岡晃子(B, Cho)が、翌2004年4月に福岡の大学でのサークルの先輩にあたる高橋久美子(Dr, Cho)が加入し、以降はこの3人体制で地元徳島を中心に活動を展開する。2005年11月、ミニアルバム「chatmonchy has come」で、Ki/oon Recordsよりメジャーデビューを果たす。2006年春には初の全国ツアー「smoke on the ご当地'06」を開催し、同年1月には初のフルアルバム「耳鳴り」をリリース。この作品はオリコンウィークリーチャート10位を記録した。2008年春、初の日本武道館ワンマンライブを2日間にわたって開催。チケットは2日間とも完売し、大成功を収めた。その後も精力的な活動を繰り広げるが、2011年9月29日の地元・徳島でのライブを最後に高橋が脱退。その後は橋本と福岡の2人体制で活動を継続し、同年11月からは対バンツアー「チャットモンチーの求愛ツアー♡」を行う。2012年2月には初のベストアルバム「チャットモンチー BEST ~2005-2011~」をリリース。7月4日、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)をプロデューサーに迎えたシングル「きらきらひかれ」を発表した。