ナタリー PowerPush - bloodthirsty butchers

吉村秀樹にこの思い届け!トリビュートライブ4公演完全レポ

2014年5月28日(水)東京都 TSUTAYA O-EAST公演

あがた森魚

あがた森魚

2日目のTSUTAYA O-EASTは、ブッチャーズのメンバーたちと同じく北海道・留萌出身のあがた森魚がトップバッター。FRONT STAGEに1人で立ち、アコースティックギターをしっとりと爪弾きながら、地元への郷愁を感じさせる歌をつむいでいく。「今日は吉村くんとわかりあえてる気分」と言って彼が歌い始めたのはブッチャーズの「僕」。あがたはギターをかき鳴らしつつ、吉村への思いを込めて振り絞るようにして歌を響かせた。

あがた森魚から寄せられた直筆メッセージ。
セットリスト
  1. るるもっぺべいぶるぅ

パピー&ファルコンズ

パピー&ファルコンズ

2番手のパピー&ファルコンズは、ネットの検索でもバンド名が引っかからず謎を呼んでいたが、ライブが始まってステージに登場したのはなんと怒髪天の4人。「ホトトギス」「歩きつづけるかぎり」など怒髪天の楽曲が次々に演奏され、予想外の展開に観客は大きく沸き上がった。増子直純(Vo)は「オレたちより先に死ぬとろくなことがないぞと身をもって感じてもらうため」と言って、亡き吉村のさまざまなエピソードを暴露。パピー&ファルコンズの「パピー」は札幌時代に吉村が名乗っていた名前、「ファルコン」は吉村が一番バラされたくないであろう札幌時代モテ期の秘密のニックネームであることも明かされた。パピー&ファルコンズはその後、ひと足先に旅立った吉村に捧げるように怒髪天の「地獄で会おうゼ!」を熱唱。続けてブッチャーズの「I'm on fire」を大胆なアレンジでカバーした。

パピー&ファルコンズから寄せられた直筆メッセージ。
セットリスト
  1. 己DANCE
  2. ホトトギス
  3. 歩きつづけるかぎり
  4. 地獄で会おうゼ!
  5. I'm on fire
  6. プレイヤー1

八田ケンヂ

八田ケンヂ

続いてSIDE STAGEに登場したKENZIこと八田ケンヂも北海道・札幌出身。「2日前にケントリ(KENZI & THE TRIPS)でライブやったから、声が枯れちゃったよ」と言いつつも、迫力のある歌声で「BRAVO JOHNNYは今夜もHAPPY」などをアコースティックギターの弾き語りで披露した。その後も彼は「今日、怒髪天が出るって聞いてなかったから、楽屋にメンバーがいてびっくりした」などとトークをしながら、リラックスした雰囲気でライブを展開。ブッチャーズの「9月/September」をカバーしたあとで、観客の手拍子にあわせてKENZIのデビュー曲「LEOSTAR 8」を歌い、「サンキュー吉村! サンキュー道産子! サンキュー札幌!」と叫んでステージを去った。

八田ケンヂから寄せられた直筆メッセージ。
セットリスト
  1. BRAVO JOHNNYは今夜もHAPPY
  2. 幸せ
  3. 彼女のサイズ
  4. POWER OF THE BASE
  5. 9月/september
  6. LEOSTAR 8

THE STARBEMS

THE STARBEMS

「お前ら、吉村秀樹と遊ぼうぜ!」という日高央(Vo)のシャウトとともに開幕したのはTHE STARBEMSのステージ。メンバーはハイスピードなビートと爆音を繰り出しながら観客を煽り続け、会場の熱気をぐんぐん上げていく。日高は途中、吉村にプレゼントされたという「1秒も聴いたことがないオランダのハードコアバンド」のTシャツを両腕で掲げながら、「吉村秀樹は音楽の素晴らしさをみんなに教えてくれる変わり者のおじさんでした。吉村さんにはもう会えないかもしれないけど、吉村さんがオススメした音楽にはいつでも会える。みんな、音楽を聴くのをやめちゃダメだ! 今すぐバンドを始めろ! ギターを持つんだ! オレたちはみんな、吉村秀樹になるぞ!」と観客を扇動。ブッチャーズの「ギタリストを殺さないで」を演奏し、冒頭からラストまで全力疾走のライブを終えた。

THE STARBEMSから寄せられた直筆メッセージ。
セットリスト
  1. LET LIGHT SHINE
  2. ARE U SURE?
  3. MAXIMUM ROCK'N'ROLL
  4. THE CRACKIN'
  5. PITFALLS
  6. HUMAN RIGHTS
  7. ギタリストを殺さないで
  8. FORGIVENESS
  9. DESTINY

向井秀徳アコースティック&エレクトリック

向井秀徳アコースティック&エレクトリック

向井秀徳はSIDE STAGEの椅子に座るとまず、客席の照明を明るくするようにスタッフに注文。1曲目からブッチャーズの「プールサイド」をアコースティックギターで弾き語りし、吉村への哀悼の思いを透き通った歌声で表現した。2曲目からはエレキギターに持ち替えてNUMBER GIRLやZAZEN BOYSの曲を次々に歌唱。ギターと声だけで自分の独自の世界を作り上げ、会場を緊張感で包み込んでいく。そして彼は最後に、ギターでアルペジオを弾きながらeastern youthの「細やかな願い」を披露。歌い終えると客席にグラスを向けて、「乾杯!」と言ってステージをあとにした。

向井秀徳アコースティック&エレクトリックから寄せられた直筆メッセージ。
セットリスト
  1. プールサイド
  2. 鉄風鋭くなって
  3. ZEGEN VS UNDERCOVER
  4. TATTOO あり
  5. はあとぶれいく
  6. 細やかな願い

envy

envy

envyがFRONT STAGEの定位置に付くと、その直後に強烈な轟音ギターと力強い咆哮が会場の空気を震わせる。Tetsuya Fukagawa(Vo)は練習スタジオでよく会ったという吉村との会話を思い出しながら故人を偲び、「1年間ずっと実感が沸かないまま過ごしてたんですけど、今日になって『死んじゃったんだな』って感じて、今日でサヨナラって感じです。あの人が作った音楽を、僕らはこれから100年先も200年先も聴くことになると思います」とつぶやいた。彼が「アレンジもコードも歌い方も変えちゃったから『勝手に変えるんじゃねえ!』って言われると思うんですけど、気に入ってくれると思います」と言って演奏したのは「時は終わる」。観客を押し潰すような暴力的な音圧でありながら優しく感傷的な印象のenvyらしいカバーに、会場中が拍手に包まれた。

envyから寄せられた直筆メッセージ。
セットリスト
  1. さよなら言葉
  2. 静寂の解放と嘘
  3. Scene
  4. NURO_devilman
  5. 時は終わる

SLANG

SLANG

北海道出身者が数多く出演したこの日のTSUTAYA O-EASTで、2日間の大トリを務めたのは札幌を代表するハードコアバンドSLANG。KO(Vo)は革ジャンの中にブッチャーズのTシャツを着てステージに現れ、1曲目からブッチャーズのカバー「アンニュイ」を熱唱した。その後も彼らは、真っ赤な照明に照らされた不穏な雰囲気のステージで、観る者を威嚇するかのような激しく殺気立ったライブを展開。「吉村秀樹が東京に行くときに置いてったもの。メロディックとかそういうんじゃない、何かこう、心の底からこみ上げてくるようなもの。それがSLANG!」と握りこぶしを作りながら力説し、「吉村秀樹 in my blood!」などと叫びながら、発売されたばかりの新曲「Apocalypse Now」などを演奏した。KOはMCで、吉村に「おいお前、おでん食ったことあるか?」と言われて“日本一うまい本物のおでん”の店に連れていってもらったというエピソードを披露。「おでん屋に向かっている2人の後ろ姿を撮った写真をもらったから、せっかくなので吉村さんの背中に天使の輪と羽を描き加えてステッカーにして持ってきました。SLANGの物販で配ります」と告知すると、会場からは拍手と笑いが起こった。彼らがラストに「何もしないお前に何がわかる 何もしないお前の何が変わる」をパワー全開でパフォーマンスし、TSUTAYA O-EAST会場での2日間にわたる熱演を締めくくった。

SLANGから寄せられた直筆メッセージ。
セットリスト
  1. AIR RAID DAYS
  2. HARDCORE IN MY BLOOD
  3. 糞の吹き溜まり
  4. Cursed Dawn
  5. BLACK RAIN
  6. QUESTION NOW
  7. APOCALYPSE NOW
  8. 162 Graves
  9. WORLD OF LUNACY
  10. CRISIS
  11. SWINDLE
  12. 何もしないお前に何がわかる 何もしないお前の何が変わる
bloodthirsty butchers
(ブラッドサースティブッチャーズ)

bloodthirsty butchers

1986年に札幌で結成されたロックバンドで、メンバーは吉村秀樹(Vo, G)、射守矢雄(B)、小松正宏(Dr)、そして2003年に加入した田渕ひさ子(G)の4人。1991年にFugaziの来日公演に出演したことを機に上京し、2度のアメリカツアーや、オリンピアで行われたフェス「YO YO A GO GO Fes.」への出演などでUSインディーシーンにも名を知らしめる。1994年にはメジャーデビューアルバム「LUKEWARM WIND」をリリース。その後「kocorono」「未完成」といったアルバムが各方面で絶賛され、90年代のオルタナシーンで確固たる地位を築く。結成20年目となった2007年には自主レーベル・391toneを設立。2011年には彼らの姿を追った長編ドキュメンタリー映画「kocorono」が全国各地で劇場公開される。2013年5月、吉村が急性心不全のため逝去。すでにマスタリングを済ませていたアルバム「youth(青春)」と、写真集「bloodthirsty butchers『青春』」が同年11月に発売される。そして念願だった「kocorono」のアナログ盤を完全限定発売。2014年にはトリビュートアルバムを数カ月にわたって複数枚リリースする「Yes, We Love butchers ~Tribute to bloodthirsty butchers~」シリーズが企画されている。