真心の風通しのよさは、都会のお兄さんって感じ
峯田 あのイベントで一緒に「うみ」をやれたのは忘れられないです。小学6年生のときにシングルを買って、「音楽って面白いな」と思ったあの曲を、この歳になってお二人と一緒に歌えたので。真心ブラザーズは、基本的にずっと変わってないと思うんです。その時期その時期のモードにぴったりな音楽を忠実に作ってるだけ。バンドはよく初期、中期、後期に分けて評価されるけど、真心はずっと面白い時期が続いてる。「TODAY」(2022年発表)っていうアルバムがもう最高で。
桜井 コロナ禍に出したやつだね。
峯田 「ここに来てこんな原点回帰のアルバム出すんだ!」みたいな。びっくりしました。別れの歌3部作に通じるような曲もあったし。真心の、その時期のモードに忠実なところは、僕からすると、都会のお兄さんって感じ。すごく風通しがよくて、自然で、おしゃれというか。地方出身の僕には真似できないです。
YO-KING そんなふうに見えるんだ。面白いね。
桜井 バンドを長いことやると、自分たちの定番の雰囲気を作るのも、それをみんなにわかってもらうことも大事なんだけど、同時にそれが自分たちを縛ることもあるから、諸刃の剣なわけで。例えば、2024年という時間は今しかなくて、そのときにこの年齢の男2人が音楽をやってるという状況は自分の人生に金輪際訪れないわけだから、じゃあ今面白いと思ってることはなんだろうと考えて、それを音楽にすることをずっと続けると、自分としてもこの先振り返ったときにも面白いし。それを繰り返してるってことを峯田くんも感じてくれたんだなと思って、すごくうれしい。
YO-KING 気分ってコロコロ変わるから、曲を作ってレコーディングして、世に出たタイミングにはちょっとズレてるってことがよくある。実は「もうこういう気分じゃないんだよな」と思いながら、がんばってプロモーションしてんの(笑)。それくらい好きなものは常に移ろってますね。
桜井 峯田くんが褒めてくれた「TODAY」のときは「どれだけ小さい音量でロックできるか」がテーマで。俺もできるだけアンプの音量を絞って、それでも「まだデカい!」ってYO-KINGに言われながらがんばったんですよ。で、この前出した「SQUEEZE and RELEASE」(2024年9月発表)は、「KING OF ROCK」(1995年発表)みたいなうるさいアルバムを作ろうというのがテーマだったから、リハスタに入ったらギターの音が大きすぎて(笑)。もうYO-KINGは、ちょっと前に「ミニマムロックだ」と言ってたことを髪の毛ほども覚えてないだろうなと思った。でも、それは言っちゃいかんと思い直して、俺もボリュームを上げて、ギャーッと。
YO-KING まあ、そのときやりたいことにどれだけ素直になれるかということが、やっぱり表現者の大切なところで。
峯田 お二人は純度が高いですよね。その、コロコロ変わる気分にどれだけ本気でいられるかという。それが毎回すごいなと。
YO-KING そう、“気分”なんだよ。
峯田 流行に乗ったとしても、気分に対して本当に迷いがない。それがたぶん、さっき言った風通しのよさだと思うんですけど。
YO-KING 「こういう音楽をやったらダサいんじゃないか」みたいな気持ちが人より少ないから、やれちゃうんだよね。やたら自信もあるんですよ。人の評価もあんまり気にしないし。
峯田 桜井さんもすごい人と出会いましたね。僕にはそういうパートナーがいないので、そこは全然違うと思うんですよ。
YO-KING ストップをかける人がいないから、より極端になるよね。峯田くんの音楽ってすごいもん。ノイズのときもあるし、打ち込みもあって。でもどれも峯田くんの匂いがするんだよね。
Yahoo!知恵袋「YO-KINGさんは歌が下手なんですか?」
──今年、真心ブラザーズはデビュー35周年を迎えて、峯田さんはGOING STEADYで最初のCDを出してから25周年ですが、長いキャリアの中で変化を自覚する瞬間はありますか?(※取材は2024年12月中旬に実施)
YO-KING 今のところね、体力も喉も絶好調なので、このまま生活していけばまだまだ若い頃と変わらずできるのかなと思ってます。
桜井 フィジカル的にも楽しくやれてますよ。突然走ったりは、怪我しちゃうからやらなくなったけど。やればやるほど面白いことが見つかってくるというか。
YO-KING 俺は歌に関しては、サビよりもAメロとかBメロを歌うのがすごく楽しくなってる。あと「うまい」ってことに対してどう考えるかも日々変わっていくから、それも面白い。ツアー中も「今日はこの曲をうまく歌ってみよう」とか「ちょっと乱暴にやってみよう」とか、イントロが始まったときにテンションで決めてるから。「この場にふさわしい歌い方はこれだ」っていうときもあるし、「ふさわしくないけど俺はこう歌いたい」という日もある。だからライブは楽しいですよね。
峯田 テンションで歌い方を決めるって、YO-KINGさん1人の弾き語りならわかるんですよ。それをバンドでやれてるのがすごい。桜井さんはすぐに感じ取って「今日はこういう感じか」ってわかり合えてるんですもんね。
桜井 さすがに歌い方まではわからないけど、雰囲気で反応してるでしょうね。
峯田 それがバンドの楽しみだと思うんですよ。打ち込みだったらニュアンスを変えられないし、やっぱり生演奏してるメンバーだからこその醍醐味ですよね。
桜井 真心は2人組だから、いろんな素晴らしいリズムセクションと一緒にできるのがラッキーで。それをフル活用してるから、飽きようがないんです。年を追うごとに、日本のミュージシャンのレベルが上がってると思うんですよね。一緒にやってるメンバーは、テクニックがあるだけじゃなくて、こっちの雰囲気にアジャストもできるし、「僕はこうしたいです」みたいな感じでわちゃわちゃもしてくれる。
YO-KING 思い出したんだけどさ、俺、あんまりネットで自分の評価とか見ないんだけど、たまたまYahoo!知恵袋を見たら「真心ブラザーズのYO-KINGさんは歌が下手なんですか?」って書いてあって。回答は「そうですね。下手ですけど、そこがいいんです。テレビでも音を外してるときありますよね」だって。「こっちはそんなところとっくに卒業してんだ、この野郎!」と思ったけど(笑)。めちゃくちゃ面白いよね。それを見たあとのライブでは、知恵袋に書いた2人に「うまい!」と思わせるつもりで「サマーヌード」を歌ったよ(笑)。自分の「うまい」と、一般的な「うまい」は別だから。カラオケのうまい人みたいな歌い方をあえて意識したりして、自分だけ楽しんでる。
峯田 わかるなあ……。
YO-KING そういうことあるでしょ? 「そうじゃねえんだよ」っていう気持ちがエネルギーになるから、たまにはネットで評価を見るのもいいのかもね。
峯田 この間、映画の撮影の打ち上げがあったんです。その日がちょうど僕の誕生日だったから、20人くらい集まってくれて、カラオケに行くことになったんです。みんな気を使って遠慮してるから、自分から歌ってみようかなと思って、ワーッて歌ったら盛り上がったんですよ。で、そのあとに俳優さんとかも歌ったら、みんな声がきれいで僕よりうまいんですよね。それを聴いてるうちになんか、「こういうんじゃねえんだよな」と思ってきて、ムキになって何曲も歌っちゃって(笑)。
桜井 いい話だなあ(笑)。
YO-KING リスナーが思ううまさとはズレがあるよね。それがあればあるほど、こっちとしてはおいしいんだけど。下手って思われてるくらいがいいんだと思う。カラオケでいい点数なんて出ないもんね。こないだ「サマーヌード」で高得点狙ったけど、全然ダメだった。本当に下手なのかもしれない(笑)。
真心ブラザーズも銀杏BOYZも融通無碍
──ツーマンで2組のコラボを期待してるファンもいると思いますが、実現するでしょうか?
YO-KING どうだろうね。弾き語りと違ってバンドでコラボするのはスタッフが大変なんだよ。でも、真心も銀杏も濃いけど融通無碍なところがあるから、パパッとできる気もする。釧路でもその日に決めて一緒にやったぐらいだから。
桜井 あれはすごく面白かった。
YO-KING それくらいのほうがいいんだよ。段取りするよりも。
──ちなみに、ライブナタリーのスタッフからは「人間はもう終わりだ!」が聴きたいという声が上がっています。
峯田 おお。
YO-KING いいかもね。
──峯田さんはライブで聴きたい真心ブラザーズの曲はありますか?
峯田 ちょくちょくライブは観に行かせてもらってて。今年の夏も札幌まで行ったんですよ。「うみ」も聴けたし、「流れ星」も。プライベートでしんどい時期だったから、本当に助けられました。ほかに聴きたいのは、なんだろうな。「素晴らしきこの世界」かな。最近ライブでやってます?
YO-KING やってるよ。
峯田 うわー、それは聴きたいな。
桜井 僕はバンドで銀杏の「人間」が聴きたいな。「ライジングサン」で猫ちゃんが柱を登ってったときの曲だし(笑)。
YO-KING 「漂流教室」も聴きたい。この前アコギで一緒に歌ったんだよね。あのとき、ちょうど楳図(かずお)さんの「漂流教室」を読み返してたんだよな。
峯田 銀杏はこのツーマンが2025年の一発目のライブで、そのあとアルバムのレコーディングが控えてますし、ライブで新曲も披露したいなと思ってます。
桜井 2024年は充実したバンド編成でツアーができました。楽しい感じでやってますよというのを峯田くんにも、サポートメンバーの皆さんにも、銀杏のお客さんにもお見せできるのが楽しみです。
YO-KING うん、活きのいいTEKKENバンド(大橋哲[B]、古市健太[Dr])で、ツアーの勢いをそのままポンと出せるかなと。楽しみですね。
公演情報
SMA50th Anniversary×ライブナタリー “真心ブラザーズ×銀杏BOYZ”
2025年2月11日(火・祝)大阪府 Zepp Osaka Bayside
<出演者>
真心ブラザーズ / 銀杏BOYZ
プロフィール
真心ブラザーズ(マゴコロブラザーズ)
YO-KINGと桜井秀俊によって1989年に結成。フジテレビ系「パラダイスGoGo!!」のコーナー「勝ち抜きフォーク合戦」で10週勝ち抜いたことをきっかけに、同年9月にシングル「うみ」でメジャーデビューを果たす。「モルツのテーマ」「どか~ん」といったナンバーがCMソングなどに採用され、そのフォーキーなサウンドが好評を博した。1995年リリースのシングル「スピード」以降は、それまでのイメージを払拭するようなロック&ソウル色の強い音楽性へと移行。「サマーヌード」「拝啓、ジョン・レノン」「空にまいあがれ」など、数々のヒット曲を発表する。2014年、自らのレーベル「Do Thing Recordings」を設立。デビュー35周年を迎えた2024年、19thアルバム「SQUEEZE and RELEASE」をリリースし、全国ツアーを実施した。2025年には1月に自主企画「目黒フォーク村」、3月にビルボードライブ公演「ROMANCE DANCE」、4月に“MB's”による10人編成ライブ「熟成」などの開催が決定している。
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銀杏BOYZ(ギンナンボーイズ)
2003年1月、GOING STEADYを解散後に峯田和伸(Vo, G)が、ソロ名義で銀杏BOYZを始動させる。のちにGOING STEADYの安孫子真哉(B)、村井守(Dr)と、新メンバーのチン中村(G)を加え、2003年5月から本格的にバンドとしての活動を開始。2005年1月にアルバム「君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命」「DOOR」を2枚同時にリリースする。その後も作品のリリースを重ねていたが、2011年夏のツアーを最後にライブ活動を休止。しばしの沈黙を経て2014年に約9年ぶりとなるニューアルバム「光のなかに立っていてね」とライブリミックスアルバム「BEACH」を2枚同時リリースした。チン、安孫子、村井はアルバムの完成に前後してバンドを脱退。2016年6月にサポートメンバーを従え8年半ぶりのツアー「世界平和祈願ツアー 2016」を開催した。2017年10月には初の日本武道館単独公演「日本の銀杏好きの集まり」を成功に収める。2020年に6年ぶりのアルバム「ねえみんな大好きだよ」をリリース。2023年から2024年にかけて47都道府県ツアーを実施した。峯田は俳優としても活動しており、出演映画「BAUS 映画から船出した映画館」が2025年3月に公開される。