ナタリー PowerPush - BRAHMAN
バンドの“今”が焼き付けられた3年半ぶり最新作「霹靂」
BRAHMANが9月7日に3年半ぶりとなるニューシングル「霹靂」をリリースする。本作は、3月11日の東日本大震災発生以降、震災復興支援活動および被災地でライブの両方を積極的に行っているBRAHMANの“今”を焼き付けた、鮮烈な印象の作品に仕上がっている。
シングルに収められる「賽の河原」「最終章」「霹靂」の3曲の歌詞は全曲日本語で綴られており、バンドが世の中に伝えたいメッセージが強烈に感じ取れる。震災後の日本で、なぜBRAHMANはこの作品をリリースするのか。その意図を、フロントマンのTOSHI-LOW(Vo)に訊いた。
取材・文 / 高橋美穂
譜面上の正しさより、伝えたいことが伝わればいいと思ってる
──久々のリリースですね。
リリースすることに大きな意味がついたっていうか……3.11っていう。ただ、「賽の河原」の歌詞以外は、震災前からあったんだけど。手元にあるものを形にしたい欲求が出てきたから、4月にレコーディングをして。収録されてる曲は、全部ほぼ一発録りで録ったんだよね。だから、やり方は今までとは違う。「賽の河原」の歌詞も、3人がトラックを作っている様子を見ながら書いて。
──レコーディングを一発録りにしたとか歌詞の書き方とか、瞬間をパッケージしたような印象ですけど、そういうやり方になったのはなぜなんでしょう。
それが一番いいかなって(笑)。俺は譜面上の正しさより、伝えたいことが伝わればいいと思ってるから。あのタイミングでは、それしか考えられなかった。
──4月は震災発生後まだ間もない時期で、BRAHMANはライブ以外にも被災地に足を運んだりしていますし、多忙な時期だったのでは?
普通に働いている人は毎日働いてるでしょ。今までがサボり過ぎていたんだよ。今日も(宮城県の)石巻から帰ってきて、インタビュー3本目だけど、全然疲れていないし。1500kmくらい運転してきたけどね。フジロックの前夜祭に出て、(岩手県の)宮古に行って、石巻に行って。石巻の川開きがあったから、そこで灯篭を作ったり灯篭に火を点けたりする手伝いを家族でやって、それで帰ってきたから。夜中の0時くらいに石巻を出たんだけど、あまりにも眠かったから車の中で3回くらい寝て(笑)、さっき東京に着いた。
──でも、疲れない感覚って、おこがましいですけどわかります。生きてる時間を全部使うっていう発想というか。
そうそうそう。今までが出し惜しみしていたんだと思う。
──今作の収録曲を聴いてもそういう思想を感じます。
まあ、震災に影響されているからこういう歌詞なんだろうなって、自分ではわかっているので。ただ、震災前にも「霹靂」みたいな歌詞を書いていたわけで、変な話、あってもなくても同じようなことを思っていたけど、具体化したっていうか……してしまったというか。
若い子も含めて、最近みんな規律が好きだなあって
──サウンド面に関しても、特に「賽の河原」は、すごく自由な展開ですよね。
変な曲だって言いたいわけでしょ?
──いやいやいや(笑)。
自分たちでもわかってるから大丈夫(笑)。誰も最終的に原型を知らなくなるとか、しょっちゅうなんで。それでいいと思っているし。伝わればいい、残ればいい、俺たちの中で良ければいい。譜面に乗らない気持ちもあるから、音楽って言われる定規に沿ったものじゃなくてもいいし、もっと自由でありたいし、もっとオリジナルでありたい。でも、だからこそ自分たちが今まで教わってきた音楽をリスペクトしてるし、自分たちだけで作れたんだぜとは思わない。これまで聴いてきた音が自分の中に入っているから作れるわけで。歌詞に関してもそう。これまで誰かが歌ってきたことからかも、誰かが書いた書物からかもしれないけれど、誰かが発してなければ、その言葉を知らなかったわけだから。
──確かに、そうですね。
だから、自分たちがオリジナリティを出そうとするほど、逆にルーツを思い返すんだよね。出てきてしまった歌詞を見て、「あ、あれと同じ言葉がある」って思ったこともあるのね。でも、この作品では、変えなかった。今までは変えていたけど。模倣とかの概念じゃなく、心の中から出てきたということは、その人の音楽がここ(心)に入っているんだろうし、それでいいんじゃないかなって。オリジナリティを目指してみんながやってないことを探してきたはずなのに、普通の言葉も、誰かと被ってる言葉も使ったら、逆に俺たちの変なオリジナリティが出てきたというか (笑)。でも、変なことが悪いことだと思っていないから。変だけどぐっとくるとか、いくらでもあるし。
──その、逆にルーツを思い返すっていうのは、興味深いですね。
だから、思っていたことと違うんだよ。普通でありたくないから普通じゃないものにしようと思ってたときは、意外にそうじゃなかった。でも今回、普通でもいいと思ったら、そうじゃなくなったっていう。自分たちが作ってしまっていた敷居がなくなったんだろうね。だから曲はもっとシンプルなでもいいのかもしれないし。変な曲を作りたいと思ってるわけじゃないんだよ。自然な自分たちが変なバンドだなっていうだけで(笑)。
──でも、歪とか変って、言葉を変えると人間臭いということだと思います。
そうそう。でも、整理整頓しようとしてきたでしょ。最近の社会の流れなんかを考えると。音楽も、このピッチはおかしいとか、耳のいい素人さんが言いだす世の中っていうか。そういうのはどうでもいいんだよね、正直コンピュータで直せるし。でも、きれいにするほうがいいんだろうな、そういうのが音楽なんだろうな、そう言われている感じはしませんでした?
──そうですね。みんな頭でっかちになっていたような風潮はあるかと。
そうだね。みんな頭中心の生活で、そこから外れると悪いっていう考えになっていて。それは違うよね。心でも聴いていれば、外し方すらもカッコいいって感じられるし。
──外れているところにこそ、思想や人間がそのまま出ている感じはしますよね。
そうそう。だから若い子も含めて、最近みんな規律が好きだなあって思っていたの。クラスにいた学級委員みたいな子たちが増えたなって。俺ら、そういう世代じゃないから(笑)。
──しかもロックシーンにまで。
そういうのが嫌だからバンドを選んだのにね。理由はわかってるけどね。囲まれていれば安心だっていう。そんなことのために簡単に規律に縛られて喜んでるのには、うーんって思ってた。でも、それをあえて言う必要はないし、俺らは俺らだしって思っていたんだよね。だけど、日本がこういう状況になって、今回の曲にさっき言われた人間味とかが出ているとすれば、嫌われようが、出していくほうが面白いし、そこで生じる軋轢すら人間だと思うようになったからかな。ここまでが良くてここまでが悪い、っていう一定の枠に当てはまらないことがいっぱいあるっていうことを、もっともっと出していきたい。
BRAHMAN(ぶらふまん)
1995年に東京で結成された4人組ロック / パンクバンド。ハードコアと民族音楽をベースにしたサウンドを特徴とする。1996年に初めての作品として「grope our way」をリリース。1998年に発表した1stアルバム「A MAN OF THE WORLD」はトータル60万枚以上のセールスを誇り、90年代後半にひとつの社会現象になったパンクムーブメントにて絶大なる人気を集める。日本以外にもヨーロッパやアジアでもツアーを行うなどワールドワイドな活動を展開している。