音楽ナタリー PowerPush - ぼくのりりっくのぼうよみ

“シーン揺るがす驚愕の17歳”の素顔

インターネットは創作の源泉

──先ほど「ネガティブな感情」というお話がありましたが、歌詞に関しても「鉄格子」「烙印」といった居心地の悪さを想起させるような表現がいくつも出てくるのが気になりました。このあたりはご自身の心象風景とつながっているのでしょうか。

そういう部分もあります。例えば「Black Bird」は自分の心境をカラスに投影して言葉にしたものなんですけど、なんとなく「初めからすべて決まってしまっているのかな」と思って歌詞を書き始めたら、だんだん「やばい、ほんとに全部決まってる気がしてきた! もうダメだ……」みたいな気持ちになってくるんですよ(笑)。自分自身の言葉にさらに触発されて、芋づる式に言葉が生まれてくるというか。あとは自分の気持ちではなくて世の中で起こっていることを歌詞で表現するパターンもあって、今回のアルバムだと「CITI」はネトウヨの人たちについて歌っています。「Creatures In The Internet」の略なんですけど。インターネットは自分にとっての創作の源泉になっています。

──歌詞から“インターネット感”はすごく感じますね。「パッチワーク」の「繊細なのが何かの免罪符になる世界で今日もwake up 誰かに許されたら正解?」とか、「sub/objective」の「二元論でしか世界を観れないのは悲しい」とかは、まさにSNS上で日々行われていることの的確な描写になっているというか。

インターネットは好きですね。ずっと見ているというか……(笑)。今回のアルバムに関しても、トラックを作ってくれた人で実際に会ったことがあるのは2人くらいしかいないし、ネット上で人とつながっていることのほうが自然だと思うことすらあります。小野ほりでいさん(「オモコロ」や「トゥギャッチ」などのサイトでイラスト入りのコラムを連載しているライター)が書いているような文章も面白いなあと思ってよく読んでいます。

──あの人のインターネットの捉え方も面白いですよね。誰かをバカにしている人をバカにしている、その人をさらにバカにするみたいな。

無限ループですよね(笑)。

──あと気になったのですが、歌詞の中に出てくる難しい言葉はどこで知るんですか? 「イドラ」なんてラテン語がサラッと出てきてすごいなと思ったんですが。

適当にググって……みたいなことが多いんですけど、倫理の授業で聞いた言葉を使ったりすることもありますね。

──倫理の授業ですか。

倫理の授業で出てくる言葉がカッコいい、ということに気付いたんですよね(笑)。それ以来真面目に聞いています。

音楽業界は過渡期

──現状の自分の手札を広げた1stアルバムを作り終えたわけですが、ここから先やってみたいことはありますか?

歌詞の書き方だと、特定の人物を作って、完全にその人になりきるというのをやってみたいなと思っています。

──俳優さんが役を演じるみたいな感じですかね。

そうです。またインターネットの話になっちゃうんですけど、インターネット上で意見を発信して大勢を先導していた人が、何かのきっかけで急に周りから見向きもされなくなったりすることがあるじゃないですか。ああいう状況とかが面白いなと思っているので、その当事者になったつもりで歌詞を書くとか。音楽的にはがっつりジャズをやってみたいです。ベース、ドラム、ピアノ、トランペット、あとはサックスがいて、というようなスタンダードな編成で。

──生バンドで。

やれるといいなあ。あ、あとはライブがやりたいです。まだ5回くらいしかやったことがないので。

──ライブだとネット上と違ってお客さんの反応がダイレクトに見えますね。表情とか動きとか。

そうですね……どうしよう、みんな「くそつまんねー」みたいな顔してたら。

──(笑)。楽曲的には、声を上げて盛り上がるというよりはじっくり聴き入るようなライブになりそうですね。

盛り上がるような曲もやってみたいんですけどね。ただ自分としてはエレキギターの音があまり得意じゃないんで、なかなかそういう楽曲は作りづらいというか……いや、そういうのはなくてもいいかな。そういうライブは僕がやらなくてもすでにたくさんあると思うんで。

──この会場でライブをやってみたい!といった具体的な野望はありますか?

「閃光ライオット」のときに新木場STUDIO COASTでやったんですけど、そのときは自分の力不足であまりいい反応を得られなかった記憶があるので、いつかリベンジしたいと思っています。

──わかりました。最後にちょっと違う角度からの質問なんですけど、これから音楽業界にアーティストとして足を突っ込んでいくわけですが、17歳の高校生から見て今の音楽業界というものがどう見えているのかコメントをいただけますか。

え、どうなんですかね……。周りの人が何を考えているかは全然わからないです(笑)。いろんな人が1つの目的に向かって動いていることとか、夢を持って仕事をしている人が多いとかっていうのはいいなあと思います。

──「音楽業界は厳しい状況」みたいな話は聞きたくなくても耳に入ってくると思うんですが、そういう話に対して何か思うことがあれば。

そうですね……衰退しているんじゃなくて過渡期だと思っているんで、今の状況は。だからこそ面白そうだし、いろんなことがやれるんじゃないかなと感じています。

──前向きな回答をありがとうございました。

(笑)。未来は暗い、とかではないと思います。

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メジャーデビューアルバム「hollow world」2015年12月16日発売 / CONNECTONE / 2160円 / VICL-64487
「hollow world」
収録曲
  1. Black Bird
  2. パッチワーク
  3. A prisoner in the glasses
  4. Collapse
  5. CITI
  6. sub/objective
  7. Venus
  8. Pierrot
  9. Sunrise (re-build)
ぼくのりりっくのぼうよみ
ぼくのりりっくのぼうよみ

神奈川県横浜市在住の男性アーティスト。活動初期は「ぼくのりりっくのぼうよみ」「紫外線」名義で動画サイトにオリジナル曲や“歌ってみた”を投稿。トラックメーカーが作った音源にリリックとメロディを乗せていくスタイルをベースとする。高校2年生だった2014年、コンテスト「閃光ライオット2014」に応募し、ファイナリストに選ばれ一躍脚光を浴びる。同年7月には電波少女のハシシが主催するidler records から4曲入り音源「Parrot' s Paranoia」を発表。2015年12月にアルバム「hollow world」でビクターエンタテインメント内のレーベル・CONNECTONEより17歳でメジャーデビューする。