映画「ボブ・マーリー:ONE LOVE」|「ボブ・マーリーは言葉の持っているパワーを教えてくれた」SUPER EIGHT安田章大が語る伝記映画の見どころは

僕が芸能の仕事を続けている理由

──映画ではボブ・マーリーの苦悩もしっかり描かれています。世界的スターになったことによる状況の変化、リタとの関係、マネージャーとのいざこざもそうですけど、“レゲエの神様”というイメージとは違う、人間らしい部分が感じられました。

ボブ・マーリーさんも1人の人間ですからね。常に悩みや問題はあっただろうし、だからこそ行動を起こしてきたんだろうなと。社会的に不安定だった当時のジャマイカの状況もありますけど、彼の出自も関係していると思うんですよ。父親が白人で母親が黒人で、ドキュメンタリーでも「自分はどちらでもない」と言っていて。「俺には野心なんてない。ただ1つ叶えたいのは、人類が共に生きること──黒人も白人も黄色人種も共に。それだけだ」という言葉も残しているんですけど、このメッセージはそのまま現代につながっていると思います。僕も仕事でベリーズやパプアニューギニアに行かせてもらったことがありますが、仲よくなるのに言語は必要ない。音楽や思いがあればつながれるんですよね。おこがましいですけど、「ボブ・マーリーさんもこういう思いを抱きながら、社会に対して訴えてたんやろうな」と。もしかしたら「未来の子供たちには自分と同じような経験をさせたくない」という感情もあったかもしれないですね。

「ボブ・マーリー:ONE LOVE」場面写真

「ボブ・マーリー:ONE LOVE」場面写真

──苦悩や悩みを音楽に昇華して、オーディエンスにいい影響を与える。安田さんにも同じような経験があるのでは?

そうですね……映画の中で、ボブ・マーリーさんが自分を襲った若者を許すシーンがあるじゃないですか。「その思いの種を心に埋めてくれたらいい」みたいなことを言うんですけど、僕もまさにそういう考えです。自分が大切にしていること、ずっと抱いている思いを届けて、それが誰かの心の中に埋まって。数年後、ふと振り返ったときに「あのとき安田くんが言ってたことが、この思いにつながってたんだな」というふうになってくれたらいいな、と。僕が芸能の仕事を続けている理由は、それだけなんですよね。病気もしたし、芸能界を辞めてもよかったけど、ここから退いたら何も伝えられなくなる。僕と同じような経験をしている人、今まさに闘病している方に向けてちゃんと伝えられる場所は“ここ”やなと。だからステージにも立ち続けるし、言葉を届け続けてるんですよね。

──「ボブ・マーリー:ONE LOVE」は、ボブ・マーリーの音楽の素晴らしさを改めて伝える作品でもあると思います。安田さんが特に好きな曲は?

一番好きなのは「One Drop」なんですよ。「One Drop」はレゲエでよく使われるリズムの名称で、1拍目に音がなくて、3拍目にスネアのリムショットとかが入って。それが自分を突き動かすポイントなのかなと。そこにベースラインが入ってきて、ギターの裏打ちのカッティングがあって、「ああ、気持ちいい!」という感じです(笑)。「Jamming」も好きですね。もちろん曲自体も最高ですけど、「ワン・ラブ・ピース・コンサート」(1978年開催のボブ・マーリー史上最も伝説的なライブの1つ)で政党の党首同士を握手させたときに「Jamming」を延々と演奏し続けていて。そういう背景とエピソードを知ったうえで聴くと、また違って聞こえてくるかもしれないですね。一番アガるのは「Get Up, Stand Up」ですね。「(自分の権利のために)立ち上がれ」というメッセージの曲なんですけど、僕は「目を覚ませ」という意味も含まれていると思っていて。自分たちが日々を生きている中で、忘れてしまいそうになることをちゃんと大事にしようぜ、という。あとはもちろん「No Woman, No Cry」も好きやし、「I Shot The Sheriff」のリフもカッコいいし。映画の中では歌詞の和訳も字幕に出るんですよ。ストーリーと相まって、どんなことを歌ってるのかを感じ取れるのもいいところだと思います。

「ボブ・マーリー:ONE LOVE」場面写真

「ボブ・マーリー:ONE LOVE」場面写真

彼がまとっているパワーを感じたい

──映画「ボブ・マーリー:ONE LOVE」を楽しみにしている方、「ちょっと興味ある」という方にメッセージをお願いできますか?

今の世界情勢みたいな話をすると難しくなりそうなので、あえてそこを避けて言いますね。過去も現在も、きっと未来もそうですけど、自分の人生に悩んだり、行き詰まったり、ちょっと進んでは立ち止まることの繰り返しだと思うんです。だけど、その人自身が信じていること、仲間と一緒にあきらめずにやり続けることには必ず意味がある。ボブ・マーリーさんの音楽が今も聴き続けられているのは、あきらめなかった人たちの結果だと思っていて。そこには学ぶべきものがたくさん含まれていると思います。

──成功するかどうかより、まずは信念を持って続けることが大事。

はい。成功したかどうかで区別しがちですけど、世の中的に成功しなかった人たちの人生にもいろいろな成功と失敗があって、それがちゃんと道になっている。そのことを忘れてほしくないなって、この映画を観て改めて思いました。あとはインタビューの最初でも言ったように、ボブ・マーリーさんの言葉ですね。今現在ってたぶん、生きづらさを感じてる方が多いじゃないですか。それはボブ・マーリーさんの時代も同じだと思うし、実際、本当にたくさん苦難があったにもかかわらず、「Everything's gonna be Alright」というメッセージを届け続けた。とてもそんなことが言えない状況であっても、あえてこの言葉を発することで、自分たちの未来を作ろうとしてたんじゃないかなと。愛を愛で返そうとする姿勢もそうだけど、あの精神性は僕たちも持っていたほうがいいだろうなと思いますね。この映画は「今を生きている僕たちはどうすればいいのか?」と考えるきっかけにもなると思います。

安田章大

安田章大

──そういう意味では、世界各地で分断が進み、争いも続いている今まさに観るべき映画とも言えると思います。

そうですね。ボブ・マーリーさんが未来の展望について語る場面もありましたけど、自由と平和についてずっと考えて、行動した方だと思うんですよ。そのためには戦わなくちゃいけないんだけど、武力で争うのではなくて、言葉、思い、思想をつないでいくことをブレずに続けてきて。だからこそ今も評価されているんでしょうし、彼が発したメッセージをしっかり受け取らないといけないなと思いますね。

──日々を前向きに過ごすためのヒントがありそうですね。

ボブ・マーリーさんの笑顔を見たら、きっと伝わると思うんですよね。彼が笑っている表情には周りのみんなを笑顔にする力があるし、そこからあふれ出ているエネルギーを浴びるだけでもいいんじゃないかなと。僕がiPadの待ち受け画面をボブ・マーリーさんの写真にしているのも、彼がまとっているパワーを感じたいから。僕自身も芸能人として、見るだけで陽の空気を感じるような存在になれたらいいなと思ってます。あと、この映画は絶対に映画館で観たほうがいいです。

──それは間違いないですね!

これは言ってもいいと思うんですけど、エンドロールで「Rasta Man Chant」が使われてるんですよ。この映画の最後で「ザイオンに帰ろう」(ザイオンはラスタファリアンにとっての“天国”の意味)と歌う曲が流れるのはすごいなって。そこに込められた思いをぜひ感じ取ってほしいなと思います。ボブ・マーリーさんが残した音楽、彼の人生がストーリーになっている映画だし、いい音で、集中して観られる環境を選んでほしいですね。

「ボブ・マーリー:ONE LOVE」
サウンドトラック配信中

プロフィール

安田章大(ヤスダショウタ)

男性アイドルグループ・SUPER EIGHTのメンバーとして2004年にシングル「浪花いろは節」でCDデビュー。多数のヒット曲をリリースし、2011年には初の5大ドームツアーを開催した。グループの楽曲制作にも携わり、映画「スパイダーマン:ホームカミング」の日本語吹替版主題歌となった2017年リリースのシングル「Never Say Never」では作詞作曲を担当。俳優としても活躍しており、映画「ばしゃ馬さんとビッグマウス」、舞台「リボルバー ~誰が【ゴッホ】を撃ち抜いたんだ?~」「あのよこのよ」などで主演を務めている。