BLUE ENCOUNT「Z.E.R.O.」インタビュー|4人で前へ進むための選択と、切り開く新たな道

BLUE ENCOUNTが11月9日にニューシングル「Z.E.R.O.」をリリースした。

シングルの表題曲はテレビアニメ「コードギアス 反逆のルルーシュ R2」のエンディングテーマ。「ブルエン史上、もっとも壮大で強靭な音楽を作れたと思います」と田邊駿一(Vo, G)が語るこの曲では、ダイナミックなサウンドに乗せて、アニメの主人公・ルルーシュの胸の内にある切実な感情が歌われている。

今年の6月、BLUE ENCOUNTは辻村勇太(B)が活動拠点をアメリカに移すことを発表した。辻村は2023年春よりアメリカで音楽活動をしながらBLUE ENCOUNTのメンバーとして今まで通りに楽曲制作、レコーディングを継続。以降のライブはサポートメンバーを迎えて行われる。音楽ナタリーでは4人にインタビューを行い、新しいバンドのあり方を選択するに至った経緯やシングルに注いだ思いについて話を聞いた。

取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 斎藤大嗣

4人でいられる方法を考えよう

──辻村さんが2023年春から活動拠点をアメリカに移すとのこと、驚きました。

辻村勇太(B) そうですよね。驚きますよね。

──発表時のコメントによると、海外で音楽を学びたいという気持ちが数年前からあったそうですね(参照:BLUE ENCOUNT辻村勇太が来春よりアメリカ移住、詳細は今夜のYouTube生配信で)。

辻村 はい。ある程度キャリアを積むと周りの人から注意をされなくなるので、ちょっと寂しさを感じていたんですけど、でもそこは自分から成長していくべきだなと思って。あとは単純に、海外のミュージシャンの方と話す機会があって「海外での活動もいいな、楽しそうだな」と思ったんですよ。ブルエンの活動もあるけど、海外に行ったらもっとワクワクできるんだろうなという正直な気持ちがあって……数年前から葛藤はしていましたね。

辻村勇太(B)

辻村勇太(B)

──「2023年3月以降のライブには出演せず、楽曲制作やレコーディングにはアメリカから参加する」という決断に至るまでには、もちろんさまざまな話し合いがあったのではと想像します。

辻村 「アメリカに行くけどバンドにはまだいさせてほしい」なんて都合のいいことは僕の口からは言えなかったので、最初は「脱退したい」とはっきり伝えたんですよ。みんなにそう伝えたときは、メンバーもちょっと複雑そうでした。

田邊駿一(Vo, G) 複雑というか、むしろ僕は激昂しましたから。「何を言っているんだ、ふざけんなよ!」って。2019年のことだったので、ありがたいことにいろいろなタイアップも決まっていたんですよ。なので、「とりあえず落ち着けよ」「今みんなで走っているところなのに、そこまでして脱退する必要ある?」という話をしました。江口も同じような感じだったよね。

江口雄也(G) そうそう。

江口雄也(G)

江口雄也(G)

──ということは、脱退の可能性が浮上した状態でコロナ禍に入ったと。

田邊 逆にそれが幸運でした。2019年の僕らはみんなで話し合ったり互いに歩み寄ったりすることができていなかったので、ステイホームで考える時間を与えてもらえたのはかなり大きかったと思います。本来は2020年に脱退の発表をする予定で「僕らもまだまだ納得できていないけど、辻村の意思は固そうだし、そうするしかないよね」という感じで準備を進めていたんですよ。ホールツアーの終着点として2020年にやる予定だった横浜アリーナでのワンマンを卒業ライブにしよう、と。だけどいろいろな期日がズレて、ホールツアーも中止になって。ツジ(辻村)もパスポートの申請とかしていたんですけど、そもそも渡航できなくなっちゃったし、アメリカの学校にももちろん通えないという状況でした。

辻村 なので、僕からメンバーにお願いして、脱退を1年遅らせてもらいましたね。

田邊 そこから「とりあえずこの体制で最後のアルバムを作ろうぜ」とまず制作を始めたんです。それが2020年11月に出したアルバム「Q.E.D」でした。そのあとはいいアルバムができたからツアーを回ろうということで、「辻村がこの日渡米だから……」とスケジュールとにらめっこしながらツアーの日程を決めて。さっき話した横アリワンマンは、最終的に2021年4月に延期になったので、そこからツアーが始まっていったんですけど、横アリ1日目のライブをやってみたら……やっぱりこの4人がいいなと思ったんですよね。ライブをするまでは「このツアーは卒業旅行だ」という感覚だったんですけど、そこで「よし、まだ4人でいられる方法を考えよう」というふうに変わって。そこからいろいろ考えて、今年発表したような活動スタイルの草案が僕の頭の中でできあがったんです。そのタイミングでまず、辻村に「こういう思惑があるんだけど、どう? バンドに残らない?」「やっぱりお前のベースがいいと思ってるから」と伝えて。あと、「まだこの4人で最高の作品を作れてないよ。それで終わるのって、プレイヤーとしてよくないよね?」という話もしましたね。「ツジの渡米の目的は音楽家として最高の作品を作ることだから、BLUE ENCOUNTでそれを達成できていないのに脱退をするのは違うんじゃない?」って。

──なるほど。

田邊 そしたら辻村から「バンドに残ります」という返事をもらえたので、そこから高村、江口にも話して。さらにチームの人たちにも「すみません、卒業というムードになっていましたけど、なしにしてもらっていいですか?」と言って。チーフマネージャーに伝えたのが、去年の「MERRY ROCK」が終わったあと、名古屋駅に向かう車の中だったかな。その時期はひたすら走り回っていろいろな人に頭を下げて、1人ひとりに意見を聞いて、徹底的に話し合って、理解していただいて……あのときの俺、すごくフロントマンらしかったと思いますよ(笑)。

高村佳秀(Dr) ここに来てやっと?(笑)

高村佳秀(Dr)

高村佳秀(Dr)

田邊 やっとフロントマンになれた(笑)。今までは衝動のままに曲を作って、それを受け入れてもらっている立場だったけど、真ん中に立つ人間として「やらなきゃ」と思ったのは人生で初めてでしたね。

同じ境遇の人たちがいたら「こういうやり方があるよ」と伝えたい

──そのように田邊さんが立ち回ったからこそ、メンバー全員が納得できる決断に至れたんじゃないかと思います。もしもコロナ禍など存在せず、横アリワンマンが2020年に行われ、それを最後に辻村さんが脱退していたらと思うと……。

田邊 最悪でしたよね。もしもそうなっていたら、俺ら1人ひとりのことを応援してくれている人たちは離れていっちゃってたと思います。

──それに4人の関係も修復不可能なものになっていたかもしれません。

田邊 確かに。やっぱり付き合いが長いと「もうわかってくれてるでしょ」という感じになっちゃうんですよ。曲作りがあるから、最終的にそこでつながっているよな、って。だからお互いに思っていることをちゃんと話せてすっきりしましたし、コロナ禍の空白の期間にある意味救われましたね。

田邊駿一(Vo, G)

田邊駿一(Vo, G)

辻村 さっき田邊が自分で「最初は激昂した」と言ってましたけど、そのときの田邊は「結局何が言いたいの?」という感じで全然気持ちが伝わってこなかったんです。だけど改めて話してみたら、シンプルに「辞めないでくれ」ということだったので……やっぱり僕は単純に、メンバーと本音で話がしたかったんだと思う。今まではそれができていなかったんだなという反省もありますけど、そのことにみんなで気付けたから、今は一緒にいてもラクですし、楽しいですし。同じ問題を4人で一緒に考えられる状態になれていると思います。

田邊 このメンバーでまだ続けていたいのに、何らかの理由で脱退や解散を選択するバンドもきっといるじゃないですか。だけど僕、「脱退・解散=前進なのか?」と思うんです。誰も傷付かず、みんなで前に進めるような方法をもっと考えたほうがいいんじゃないかって。

──確かにそうかもしれないですね。ブルエンの場合、「囮囚」(2021年7月に配信リリースされた楽曲)は辻村さんの自宅でプリプロを行ったとのことでしたが、辻村さんがベース以外にも視野を広げて音楽について学んでいるということは、バンドが成長する要因にもなり得ると思うんです。だけど、当たり前ですが、続けていないとバンドが成長すること自体もあり得ない。だから「バンドを続けたうえでの前進」を目指そうというブルエンの考えは理解できます。

田邊 そうそう。だからもしも同じ境遇の人たちがいたら「こういうやり方があるよ」と伝えたいし、「そうやってみようかな」と思ってもらえるような活動を僕らはこれからしていかなきゃいけない。

BLUE ENCOUNT

BLUE ENCOUNT

──そのためには対話が必要だったし、これからも必要になっていくんでしょうね。

田邊 そうですね。距離が離れる分、違和感を埋めるための対話はより必要になると思います。何か思うことがあったときに違和感をちゃんと共有し合える関係性は保っていたいですね。