アイナ・ジ・エンド(BiSH)&松隈ケンタ(SCRAMBLES)|コアな制作エピソードから紐解くメンバーの心境とBiSHサウンドの魅力

アイナの心境とシンクロしたミュージックビデオ

──「リズム」のミュージックビデオは山田健人(yahyel)さんが監督を務めています。

アイナ 2、3回くらい軽く2人で打ち合わせをしたときに、「雨のシーンで踊りたい」と伝えたんですけど、「狭い場所で6人踊れるの?」と確認があって。で、結局は踊らずにいこうと。

──基本的には1人ずつ登場して、最後のユニゾンパートで初めて6人が同じ場所にいるという、歌詞のストーリーに導かれるように展開されています。

アイナ 今回のMVで私が一番すごいなと思ったのは、口を動かしている人物が何かを表現しているのかと思いきや、後ろにある家具が一番語っているような気がして。

──ビニールで覆われている家具ですね。

アイナ そうです。そういうMVを観たのが初めてだったので、山田さんの頭の中を見てみたいくらい、すごいアイデアだなと驚きました。

──普段なかなか聞く機会がないので伺いますけど、松隈さんはBiSHのMVを観てどう思いますか?

松隈 あのね……観ないんですよね(笑)。

アイナ あー観てない!(笑)

松隈 でも「リズム」は観ましたよ! これはクリエイター本人にしかわからないと思うんですけど、楽曲と映像は別物で。僕は山田さんとお会いしたことはあるくらいで、MVについて打ち合わせをしていないんです。 別の人が作った映像に自分の作った音楽を使っていただいている感覚なので、そう考えると、全然映像と音楽が合ってないと感じることはあります。僕は冗談で言うんですけども「オーケストラ」の冒頭で「見上げたあの夜空に」と歌うシーンがバリバリ昼やったときに、「昼だし!」って。夜空が広がっているイメージで作ったのに「夜空見えないじゃん」と(笑)。MVではときにそういうことがある。

アイナ ちょっとそれは悲しいかも(笑)。

左からアイナ・ジ・エンド、松隈ケンタ。
左からアイナ・ジ・エンド、松隈ケンタ。

松隈 いやーもう悲しすぎるんですけど、それは仕事として映像、音楽それぞれ作り手の役割が違うので仕方ないことですから。でも「オーケストラ」のMVを観たとき、初めて渡辺くんに「ここは夜空だぞ! 違うやん!」と言ったら、次の「プロミスザスター」のMVでは星がバーッと広がるシーンが最後にちゃんとあった(笑)。「松隈さんこういうことっすよね?」なんて渡辺くんから言われて(笑)。

アイナ 星空のシーンで終わりますからね(笑)。

松隈 珍しくMVについて僕が発言したという意味で、あの2作品は面白かったですね。MV以外で、例えばゲームとかアニメに楽曲を使っていただくこともあるんですけど、そういうのは音に対して絵が動いてくれたりするんですよ。シャキーンという音に対してキャラクターが飛んできたりとか。アニメは音ありきで映像を作るからか、MVを観るよりも僕個人としては「そういう解釈があるんだ」と思うことが多いです。「リズム」のMVは後半で全員がそろうストーリーがあったり、アイナだけが目立たない感じになっていたり。もちろんアイナが前に出る部分は多いですけど、アイナのストーリーを生かしながらBiSH自体をよく見て、楽曲をしっかり聴いて作ってくれてるなと思いました。だからすごく好きです。

──花の前で歌うシーンではメンバーが手術着を着ていることから、アイナさんが作曲した時期をイメージしているのかなと思いました。

アイナ 監督が決めたんで、私はそれについてわからないんです。でも篠崎さんが伝えているかもしれませんし、山田さんの発想がたまたま私の過去の状況と重なったのかもしれません。

松隈 スタッフ含め、いろいろ考えてやってくれたんだろうね。僕の誕生日のときにMV撮影をしてたみたいで、アイナとハシヤスメが手術着姿で「誕生日おめでとうございます!」みたいに言ってるちょっとバカっぽい動画を送ってくれたんですよ。「なんの撮影をしてるんだ」と思いましたよ。「ドクターX」にでも出るのかなって(笑)。だからMVを観たときに「ああ、これか!」とわかって、そのギャップにもグッときましたね。あの格好はコント収録だと思ってたから(笑)。

今この歌を歌えることが幸せ

──もう1つの表題曲「KiND PEOPLE」についても聞かせてください。

松隈 この曲は「涙色のカニ」って仮タイトルでしたね。切ない気持ちになったカニです。僕の子供が2歳になって、子供向けのテレビばっかり観るんです、今。「さるかに合戦」を観ていたら、カニが泡吹いて倒れるんですよ。そのカニが悲しそうに思えてこの曲を作りました。「涙色のカニだけを探せ」って仮の歌詞で。

アイナ ははは(笑)。めっちゃ面白い。

松隈 この曲はアイナが今隣にいるから言うわけじゃないけど、曲を作ってるときから珍しくアイナの声が頭の中で流れてきたのよ。普段の曲作りではBiSHの声は聞こえてこないんですけど、今回はサビなんて特にアイナが歌ってる感じがイメージとしてありましたね。

左からアイナ・ジ・エンド、松隈ケンタ。

アイナ うれしいです。

──アイナさんは「KiND PEOPLE」にどんな印象を持ちましたか?

アイナ BiSH活動5年目にして、「いつからこうなった」で始まるのがここに来て唐突にネガティブな感じがしました。でもそういうちょっと弱い部分もこのサウンドで歌えて、表現できている今って幸せなんだなと思える、素直な表現が詰まった曲だなと思います。あとみんなで練習していて思うんですけど、サビの「だから今優しい人を」のリフレインで歌割りが細かく変わるんですよ。ここの歌い方がメンバーによって違うから“優しい人”も2種類くらいいるのかなとか、妄想が膨らみますね。歌っていて新しい発見が多い曲です。

松隈 暗いというか、終末思考というか。渡辺くんの真骨頂ですよ。暗い歌詞を書かせたら超一流だからね。

アイナ ふふふ(笑)。

松隈 僕が仮で作った歌詞を生かす場合と、まったく変えてくる場合と2パターンあって、今回は珍しく後者のほうだよね。だから渡辺くんの思いがしっかり込められた歌詞なんだなと。僕は渡辺くんと歌詞についてしゃべらないんでどういう意図かはわからないですけど、アイナが今言った部分もそうだし、この歌もかなり歌割りで悩んだんですよ。「だから今優しい人を」のメロディ的には同じ人が続けて歌うほうがいいかなと思ってたんだけど、歌詞を見て歌割りを変えました。1人ずつ探している人が違って、6人で同じ人を探してるわけじゃないだろうなと思ったので。だから珍しかったわけでしょ?

アイナ はい。そういうことだと思います。

松隈 今までの作り方なら1人で一気に歌わせてただろうから。歌詞が「だから今優しい人を」のあとが仮に「そんな私に優しい人を」だったら1人で歌い切っていいけど、探してる人がそれぞれ違うだろうと感じたからこの歌割りになってるんですよね。

やっと6人で歌うのが楽しくなってきた

──アイナさんはライブで歌を歌うとき、どういう気持ちでいるんですか?

アイナ・ジ・エンド

アイナ ライブでは次の歌割りの人にバトンをリレーするみたいな感覚でいつも6人で歌っています。なので受け渡し方が悪いと次の子が歌いにくそうにしてることがあったり、自分でも前の子がうまく渡してくれなかったら「うわ、入りにくい!」と思ったりすることが昔はけっこう多かったんです。最近はそう思うことがほとんどなくなってきていて、例えば誰かがしくじってもブレスの位置を変えればうまいこと入れるし、それが新しい表現になることもあって。そういう発見も面白いし、6人で歌うのが楽しくなってきた実感はあります。

松隈 アイナの手前がリンリンだったとして、リンリンが想像以上のテンションでガーッと来ることとかあるでしょ?

アイナ ありますね。

松隈 そのテンションに自分を乗せられるようになってきたってこと?

アイナ 最近それがやっとできるようになってきたんです。

松隈 なるほど。ライブならではのことってあるよね。

アイナ 最近は生バンドでやる機会が多いですけど、バンドさんもそういうこと多いはずですよね。リハと違ってかなり激しい演奏を入れてくるとか。

松隈 あるね。

アイナ そういう感覚でBiSHの6人でも楽しめるようになってきたんですよ。昔はいちいちどうしようってなっちゃってたんですけど。