音楽ナタリー Power Push - BIGMAMA
絵本作家の顔を持つミュージシャンと芸人の対話
買ったら好きになる
──そもそも西野さんはなぜ絵本を描くことにしたんでしょうか?
西野 タモリさんに「お前は絵を描け」って言われたんですよ。絵よりも僕は物語のほうが好きだから、じゃあ絵本を作ったら、絵本をきっかけに物語を読んでもらえるかなと思って。
──西野さんは2010年には小説「グッド・コマーシャル」、2016年にはビジネス書「魔法のコンパス 道なき道の歩き方」を出版されていますよね。
西野 絵本って子供向けだと思われがちで、親御さんによく「これ子供向けですか?」みたいなことを聞かれるんですよ。でもそれってずいぶんひどい言葉だなと思っていて。つまり「私よりも能力が劣ってるこの子でも理解できますか?」っていうずいぶん偏見とか差別をはらんだ言葉だなと思うんです。
金井 僕も絵本を作るときに、ただふりがなを振るだけにしました。「子供だったらこういう表現がいいかな」とか、そういうのは考えなかった。
西野 そもそも絵本は絵だけを見てもいい作品ですしね。ましてや絵に対象年齢なんてないんですよ。東京タワーや富士山にないように。音楽もそうっすよね。別にロックが好きな幼稚園児だっているし。
金井 たまにそういう話題がバンドの中で挙がるんですよね。僕らは幅広い年代に音楽を届けたい。特に僕は自分が音楽にのめり込んでいた17、8歳くらいの子に届けたいと思ってるんです。そこでやっちゃいけないことは、“その子たちにわかりやすくなるように”って音楽的な偏差値を下げること。僕が17、8のときにしてほしかったのは敷居を下げるというかそういうことじゃなかったから。簡単にすることじゃなくて、ちゃんと見つけてもらえるように努力することだけでいいんですよ。これは10年やってやっと気付いたんですけどね。
西野 それいい言葉ですね。「偏差値を下げんじゃねえ」っていうの。
金井 やっぱり難しい問題が解けたほうがうれしい、高い山を登ったほうが気持ちいいみたいなことはあるじゃないですか。だからちゃんと価値のあるものを用意することだけに専念してればよかったなって。
西野 僕がBLANKEY JET CITYを聴き始めたのは僕らよりちょっと上の世代のお兄さん方が「かっけえ」って言っていたからなんです。最初聴いたときは「え、なんか変な声」と思いましたけど(笑)、これをちゃんと知ったら絶対面白くなるんだって聴いていたらどんどん好きになって。BLANKEY JET CITYはね、中学生の僕になんか全然合わせてくれなかった。
──好きになるきっかけさえあればあとはみんな自発的に調べてたどっていきますもんね。
西野 子供の頃ってなんか、“好きになろうとする”ことがよくあったんですよね。僕ね、アルバムなんてほぼそうでしたよ。学生時代はそんなにお金に余裕がなかったんですけど、やっぱり好きなアーティストのアルバムを買うじゃないですか。で、あんまり気に入った曲がなかったとしても、もう買っちゃってるから、聴き流しちゃうと買った自分を否定することになると思って、なんとか好きになろうとする。気付いたら気持ちが逆転してて好きになるんです。買ったときにそういうバイアスがかかるときがあるんですよね。作品を買うっていいですよね。
金井 その瞬間に自分のものになりますからね。ちゃんと自分でそのお金を稼ぐまでにストーリーがあって、そのお金を使って買ったことで付加価値があるというか。
──昨今はCDが売れないとよく言われますが、それについてはどうお考えですか?
金井 それについてはなんとなく結論が出ていると思っていて。音楽だけ欲しい人はデータで買って、物質として残したい人がCDを買う。だからこれから先CDは売れなくなっていくと思いますけど、そこはもう別に悲観もしてないんです。
──それでもCDを売りたいから特典を付けるわけですよね。
金井 でも僕も、この街の設定を説明した歌詞カードだって特典みたいな気持ちで作ってますからね。自分にとって「特典です」と言えるものが僕の場合は曲をより楽しむためのアイデアだったっていうだけで、それが握手の人もいるしサインの人もいる。それは別にそれでいいと思ってて。たぶん僕はロックミュージシャンでありながら、“アーティスト”と呼んでもらいたくて、「自分にしか出せないアイデアがある」って言い張っていたいんだと思います。今回の歌詞カードも僕なりの特典だし、買ってくれた人への愛情表現だし、サービスだから。一番大切なのは買ってくれた人と自分たちの気持ちのやりとりだと思っています。
親父に教わった「人を不幸にしないこと」
──BIGMAMAはこのアルバムをリリース後、ツアーで全国を回って、10月15日には初の日本武道館ライブを行いますね。
西野 わあ! すごい! 武道館かあ。
金井 ここまでの道のりは長かったけど、この舞台でこれまでで一番いいものを見せなきゃなっていう思いがありますね。
西野 すげえなあ。興奮しますね。
金井 これ、僕がバンドで食べていくことを選んだときのエピソードなんですけど、僕は親父にずっと「弁護士になります」って嘘を付いていて。大学3年までそういう学部でそういう勉強してて、4年のときに「大学院いきます」ってさらに嘘を付いて、大学に籍を残したままCDをリリースして全国ツアーをやってたんですよ(笑)。事務所に入ることが決まって、親も薄々感付いてたとは思うんですけど……それでちゃんと言わなきゃなと思って、吉祥寺の飯屋で親父とおかんと3人でごはんを食べながら「すみません。ミュージシャンになります」って伝えて。そしたら親父はもうしゃべってくれなくなっちゃって。
西野 えっ!
金井 次の日の朝、親父は玄関で僕の名前を呼んで、「お前が巻き込んだ人を絶対に不幸にするなよ」って言ったんです。僕は父親をライブに呼べたことがないんですけど、どうやら親父は周りに「武道館ぐらいやるようになったら観に行ってやるよ」って言ってるらしいんですね。それで今年の正月に親父に「武道館決まったからその日は空けといてください」って言ったら、親父は「まあ生きてたらな」とか言ってきて(笑)。僕は、親父が言う“巻き込んだ人”っていうのはメンバーだと思ってたんですけど、10年活動する中で違うなと気付いたんですよ。事務所の人もそうだし、スタッフもそう、ここに来てくれるお客さん1人ひとりがそうだなと思っていて。だから日本武道館でのライブは、自分が巻き込んだ人たちを絶対に不幸にしないっていうことをその場で誓う日だなと。親父を前にして。
西野 うわー、すごい日じゃないですか。
金井 っていうのをね、こっそり僕だけ思ってるんですよ。バンドには関係ないんです(笑)。「幸せにしろ」って言わないところが親父の好きなところなんですよ。だって来てくれたお客さんを全員幸せにするっていうと嘘になるから。幸せになるのはたぶん、その人本人にしかできないこと。ただ「不幸を遠ざけることはできるよ」っていうのが、僕が親父から教わった自分なりの音楽と音楽を好きでいてくれる人の関係性の答えなんですよね。
西野 絶対うまくいってほしい! 僕も行けたらいいなあ。
金井 西野さんが「MUTOPIA」で歌いに来たらどうしようかなとソワソワしてますよ(笑)。ぜひ空けておいてください。
- BIGMAMA ニューアルバム「Fabula Fibula」 / 2017年3月22日発売 / RX-RECORDS / UK.PROJECT
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 5184円 / RX-127
- 通常盤 [CD] / 3024円 / RX-128
CD収録曲
- ファビュラ・フィビュラ
- MUTOPIA
- ヒーローインタビュー
- Make Up Your Mind
- BLINKSTONEの真実を
- Merry-Go-Round
- Weekend Magic
- Heartbreak Holiday
- 737 3rd Ave, RT 10017
- レインコートになれたなら
- ALL RIGHT
- SPOON DIVING
- SPECIALS(FFver)
- 愛はハリネズミのように
初回限定盤DVD収録内容
「THE BEGINNING 2007.02.10」
- look at me
- Weekend Magic
- CPX
- #DIV/0!
- Swan Song
- Neverland
- little cloud
- Merry-Go-Round
- ワンダーラスト
- 神様も言う通りに
- CHAIN
- Do you remember?
- 春は風のように
- A KITE
- 君想う、故に我在り
- Make Up Your Mind
- 秘密
- SPECIALS
- 荒狂曲“シンセカイ”
- ファビュラ・フィビュラ
- Sweet Dreams
- MUTOPIA
- until the blouse is buttoned up
BIGMAMA「ファビュラ旅行記 2017」
- 2017年5月14日(日)東京都 Zepp Tokyo
- 2017年5月27日(土)福岡県 DRUM Be-1
- 2017年6月11日(日)宮城県 Rensa
- 2017年6月17日(土)香川県 高松MONSTER
- 2017年6月18日(日)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2017年6月24日(土)大阪府 大阪なんばHatch
- 2017年6月25日(日)愛知県 Zepp Nagoya
- 2017年7月1日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2017年7月8日(土)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2017年7月9日(日)新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
BIGMAMA in BUDOKAN
- 2017年10月15日(日)東京都 日本武道館
BIGMAMA(ビッグママ)
金井政人(Vo, G)、リアド偉武(Dr)、柿沼広也(G, Vo)、安井英人(B)、東出真緒(Violin)からなる5人組バンド。2002年に東京・八王子で結成され、メンバーチェンジを経て現在の編成に。2006年7月にミニアルバム「short films」をUK.PROJECT傘下のレーベル・RX-RECORDSから発表し、2010年10月には“ロック×クラシック”をテーマにしたコンセプトアルバム「Roclassick」を発売した。その後も彼らはコンスタントにリリースやライブツアーを重ね、2015年2月に6枚目のオリジナルアルバム「The Vanishing Bride」を発表。同年4月から10月にかけてキャリア最長のワンマンツアー「The Vanishing Bride Tour 2015 ~消えた花嫁を探せ!~」を開催した。デビュー10周年の2016年、現体制になって10周年の2017年は「BIGMAMAnniversary 2016~2017」と題したアニバーサリー期間とし、これまで以上に精力的に活動を行っていくことを発表。2017年3月に7thアルバム「Fabula Fibula」をリリースし、これに伴う全国ツアーを5月より行う。さらに10月にはキャリア初の東京・日本武道館での単独公演「BIGMAMA in BUDOKAN」を控えている。
西野亮廣(ニシノアキヒロ)
兵庫県川西市出身のお笑い芸人。1999年に梶原雄太とお笑いコンビ・キングコングを結成した。絵本作家や小説家としての顔も持ち、これまでに小説、エッセイ、ビジネス書を1冊ずつ、絵本は5冊出版している。クラウドファンディングを利用し、2016年10月に刊行した絵本「えんとつ町のプペル」は、発行部数27万部を超える大ヒット作となった。