音楽が持つ情報量

──金井さんが2月に発売した「眠らぬ街のメリーゴーランド」は「Merry-Go-Round」という曲をもとに作られた絵本ですが、西野さんの「えんとつ町のプペル」にはストーリーをもとにした曲があるんですよね。

西野　はい、そうなんです。知り合いに頼んで作ってもらいました。僕、音楽ってすごい情報量を詰め込んだ芸術だなと思っていて。一昨年やった個展で、100人くらいのスタッフさんを動かさなきゃいけない立場だったんですね。そのときに自分が「あれせえ、これせえ」って逐一言っちゃうと、なんかスタッフさんの仕事がホントにロボットみたいになっちゃって。だからといって「好き勝手やってください」って言っちゃうとてんでバラバラなものが上がってくるので、どうしたらいいかなって考えたときに、音楽でイメージを伝えたらいいんだと閃いて。「この曲に合うように美術セットを、この曲に合うように照明を」ってやったらだいたいイメージから外れなかったんです。チームを動かすときに音楽を目印にすると、みんなが同じ方向を向けるというのは発見でしたね。

金井　僕はこの曲には関与してないけど、音楽をそういうふうに思ってくれる人がいるのであれば、改めてミュージシャンっていう仕事はすごくいい仕事なんだなと思いますね。

西野　共通認識みたいなものがあるんでしょうね、音楽には。僕ね、劇作家してる友達に「なんでミュージカルはセリフじゃなくてわざわざ歌を歌うのか」って質問をしたんですよ。そしたら「いや違うんだよ、西野。歌にしなかったらこのミュージカルはもっと長くなっちゃってる」って言われたんです。つまり歌にしたから2時間で済んだけれど、歌にしてなかったら5、6時間かかっちゃうみたいな話を聞いたときに音楽ってすっごい情報が濃縮されてるんだと思ったんですよね。あー、やっぱ音楽っていいっすよね。音楽は芸術に絶対必要なものだと思います。

西野にあってプロの絵本作家になかったのもの

金井　西野さんは「えんとつ町のプペル」の構想から出版までに4年半かかったんですよね。1つのものに4年半も執着するってすごいことだと思います。

西野　ははは（笑）。すげえ時間かかりましたね。

金井　この1冊から、ホントにすごい熱量を感じるんですよ。

西野　僕、芸人なんかもやっておりますんで、制作に時間を費やせば費やすほど、テレビでの露出も当然減りますからね。ずっと作業部屋にいるわけですから、その焦りは多少ありましたよ。でもなんか、絵本を描くなら時間をかけないと大逆転はないぞって思ったんです。一応ウォルト・ディズニーを倒すって宣言しちゃってるんですけど、普通にやってもウォルト・ディズニーを倒せない。だから4年半かけてがんばりましたね。

金井　音楽業界にいる僕らはやっぱり1年に1枚は作品を作らなきゃいけないんじゃないかって思っちゃうんですけど、もっと違うやり方があってもいいんだろうなって、西野さんが4年半かけてこの本を出したことから勝手に教わりました。

西野　僕は絵本を作るなら、まずは絵本作家さんに勝とうと思ったんです。そうじゃないと「なんで芸人のくせに絵本描いてんねん」って言われたときに返す言葉がないから。自分が絵本作家さんに勝てるところってどこだろうって考えたときに、画力では負けてるし、出版のノウハウもツテも何もない。だけど1つの作品を作るのにかける時間なら勝てるなと思ったんですよ。絵本作家を生業にされてる方っていうのはやっぱりそれが収入の柱ですから、短いスパンで作品を出していかなきゃいけないんですけど、僕は絵本を世間に求められてるわけでもなかったし、絵本の売り上げで生計を立ててる人間でもないので、極端な話1つの作品を作るのに10年かけることだってできるなと思って。時間さえかけてしまえばプロの人との差別化を図れるわけだから、物理的にプロの人が作ることができないものにした。最初はそういう打算的なところもあったんですけど、今は違いますよ。時間をかけて絵を描いているうちにそういうのがやっぱり好きになっちゃったんです。時間をかければええもんができるのかってまたそれは違うかもしれないですけどね。

一瞬じゃなくて長く愛される作品を作りたい

──西野さんがWebサイトで「えんとつ町のプペル」を無料で公開したことは大きな話題を集めましたね（参照：キングコング 西野 公式ブログ - お金の奴隷解放宣言。）。

西野　絵本の場合はWeb上に出してるデータの絵本と紙の絵本の価値が確実にイコールではないっていうのがわかってましたからね。絵本の場合、読み聞かせみたいな親子のコミュニケーションツールとして機能すると思ったんです。読み聞かせをしようと思う親御さんは、紙のほうを買われると思ったから。だから別にWeb上に無料公開しても絶対売り上げは落ちないと思ったんですよね。

──そういうアイデアを考えてるのが作家本人っていうのがすごいですよね。

西野　売りたいだけなんですよ。ホント。

金井　だって普通に考えて4年半もかけて作ったものが気にも留めてもらえなかったら……。

西野　もう絶望っすよね！

金井　でもそれって僕らの活動でも重なるところがあるなと思っていて。CDを一生懸命作ってもCDショップの目立つところに並べてもらえる期間って限られてるんですよ。で、そのときになんか「これでよかったんだろうか」とか「このアルバムの評価はもう決まったのか」って考えるんです。

西野　なるほど。

金井　音楽のアルバムは毎週のようにリリースされるからどうしてもサイクルの速さには抗えないというか。いかにこのスパイラルに入らないところまでいけるかどうかだなって、ずっと自分の中で課題としてあって。こんなに苦労して作ったものなのに、1カ月後にはよっぽど何かが突出してない限り、展開コーナーがちっちゃくなっているんです。そういうのを見ると本当に悲しい気持ちになりますね。でもそれってみんなが思ってることだから、スパイラルからはみ出すための方法、尖っていく方法みたいなものをアルバムごとに自分なりに考えています。

西野　なるほどね。作品によって、瞬間的にバッて売れるやつもあれば、10年かけて売れるやつだってあるのに、それが一緒くたにされて「2週間以内に結果出してください」みたいな、そのルールに作品が閉じ込められるのはちょっと窮屈でかわいそうですよね。

金井　だからなんと言われても長く愛されるほうになろうと、自分は考え方を変えました。もうずーっと悲しい思いをしてきてたから。